とぶ、変わる、世界。   作:漆川

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ショッキングアメリカin長野

「ここ、大事だからちゃんとノートにとっとけよー」

 

 国語教師がそんなことを言う。

今は授業中。朝は走ったおかげで何とか授業には間に合った。

 

 今日の朝は特段疲れた。朝からあんなに走ることになるなんてあながち占いが当たってるんじゃないかなんて思ってしまうほどに疲れた。

そのせいなのか、今新しい情報が書かれていっている黒板を眺めているといささか眠くなってくる。

 眠気を飛ばすために周りを少し、先生にばれない程度に見まわしてみる。2時間目にもかかわらず寝ている奴、寝そうな奴は数名。

隣の僕の眠気の原因の奴は寝ている。気持ちよさそうに口を開けて。

 こんな状態にもかかわらず注意せず授業を続ける先生はじつに立派で無責任だ。まあ、義務教育ではないのでいろいろということではないと思うけど。

 ちなみに、僕の席は後ろから2列目の窓側だ。今の季節は日の光が当たると暖かくて気持ちがいい。

やばい、本当に寝てしまいそうだ。黒板の文字をひたすらノートに写す単純作業は今の僕には天敵だ。

あ、やばいもう無理――

 

 prrrrrrr prrrrrrr prrrrrrr

 

僕の意識が落ちそうになった瞬間、めざまし、ではなくスマートフォンが教室内に鳴り響いた。

教室内にあるすべての視線が僕のへ向く。どうやら今鳴っているのは僕のスマホらしい。どうやら朝のことのせいでマナーモードにするのを忘れていたらしい。

 

 僕は慌ててスマホの着信を切る。

 

「おおーい。冴木ぃ。授業前に電源切っとくのが校則だろ。ちゃんと切っとけよ。」

 

「は、はい。すいませんでした」

 

 恥ずかしい。超恥ずかしい。今日は厄日か。

 

「それともあれか?みんなのための目覚まし時計かぁ~? 」

 

先生がにやにやしながら僕に言う。正直うざい。

 

「す、すいませんでした。」

 

苦笑いしながらそう返す僕もどうかと思うけど。

 

「授業再開す――

 

 キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン

 

と先生が言おうとした瞬間チャイムが鳴った。

 

「るぞと思ったけどもう終わりか。当番、終わりのあいさつー。」

 

よかった、授業が終わる。あの空気のはいやだし、助かった!  

 

「きりーつ、きおつけ、礼」「「「ありがとうございましたー」」」

 

やる気のない挨拶も早々にこの空間から脱走しようとすると同時に、にやけずらの友人がこちらを向く。

これは助かったと思ったら落とされるパターンのやつだ。本で読んだ。

 

「こっうっちゃーん! めざましありがと~う♪ 」

 

「うっさい。にやけるな。その顔やめろ」

 

「え~、にやけてなんかないよ~♪ 」

 

にやけてるだろ! なぜこんなことに……

 

「でも、珍しいね。いっちゃんのスマホに電話がかかってくるなんて」

 

「その普段、僕のスマホには電話がかかってこないみたいな言い方やめて」

 

かかってくるよ! 母さんと篠塚ぐらいだけど…… 

 

「本当のことじゃーん。で、誰からだったの? 電話」

 

 そうだ、電話確認しないと。

 

「別に誰からでもいいだろ」

 

そういいながら僕はカバンの中からさっきの恥の原因を取り出す。

色はダークグリーンで画面の上にはZONYとメーカーの名前が書いてある。割とお気に入りだ。

 

「ええと、これは、母さん? 」

 

 珍しいな。この時間は仕事中だからめったなことがないとかけてこないんだけど。なにかあったのか?

 

「お母さん?珍しいね」

 

「ああ、うん。どうしよう、かけたほうがいいかな? 」

 

「そのほうがいいと思うよー。もし事故とかだったら大変だし」

 

「そうだね、じゃあちょっとかけてくるよ」

 

「行ってらっしゃ~い」

 

 そんな、篠塚の声を背に僕は教室を出る。

廊下を歩きつつ電話をかける。足は動かして静かな場所へ。

 

『はーい、もしもしー。お母さんですよー! 』

 

 出た。やっぱり何かあったのか? でもこの感じだと事故とかではないのだろう。良かった。

 

「ああ、母さん。さっき電話でれなくてごめん。何かあった? 」

 

『うん、そうそう。あったのよ~』

 

 やっぱり。

 

「で、何があったの?」

 

ふと、ここで僕は朝の篠塚の言葉を思い出した。

 

『実はねー、母さん転勤することになったの! 海外に!! 』

 

――『今年最大の不幸が貴方の身に訪れるかも!』――

 

「はっ? 転勤? 海外? 」

 

『そうそう、海外です♪ 』

 

 海外に転勤。母さんはそう言った。

頭の中が混乱する。なんでそんな急に転勤の話が出るのか。なぜ海外なのか。あまりに突然のことにうまく言葉が呑み込めない。

こんなに頭が混乱しているのは、父さんが不倫相手とラブの付くピンクの素敵なホテルから出てくるところを見てしまった時以来だっただろう。

 

「転勤って、しかも海外って急すぎるでない!? 」

 

僕は思わず叫ぶ。言葉が変になった。

 

『いやー、上から急に言われちゃって~。てへっ♪ 』

 

「てへっ♪ じゃないよっ!? 」

 

本当にこの人は……本当に……

 

「そ、それで海外ってどこなの? 」

 

『えーとね、アメリカだよ! アメリカのロサンゼルス! ふぅぅぅ~!↑↑ 』

 

「アメリカ!? ロサンゼルス!? 遠っ!? 」

 

ふぅぅぅ~! じゃないよ! 遠いよ! すごく遠いよ! アメリカは遠すぎる! というか母さんが行くということは僕も行かなきゃいけないっていうことだよね!? 英語できないよ!?

 

「えーと、母さん? それは僕も転校するっていう? 」

 

『うん。そうだよ~転校だよ~』

 

 やっぱりかぁぁぁ!? でも、アメリカで生活なんてなんか憧れ――ないよ! うまくやれる気がしないよ! ただでさえ友達少ないしできないのにアメリカなんか行ったらもっといなくなるしできないし!

 

「母さん、僕、英語できないよ……」

 

『え? 樹はアメリカいかないわよ? 』

 

ぽかんとした声で母さんが言った。

 

「へ? 」

 

 へ?

 

「じゃ、じゃあ僕は東京で一人暮らし? いや、転校って言ったし……え? 」

 

どういうことですか?

 

『樹は長野のおばあちゃんの家にレッツGO! です! 』

 

…………

 

「……長野? 」

 

『うん、長野』

 

 コメントのしようがない。

確かにおばあちゃんの家はあるけど確かお母さんと仲が悪かったんじゃ……

 

『もう先生のほうには電話しといたからねー。お母さん有能♪ 』

 

「早いよっ!? 行動が早いよ母さん!? あと別に有能じゃないから!? 」

 

『え~、樹のいじわる~。そんなこ『おおーい、冴木君。まだ電話終わらないのー? 』はーい、いまおわります~! じゃあ、上司に呼ばれちゃったから詳しい話は家に帰ってきてからね! バイバイ‼ 』

 

「え、ちょ、母さん!? 」

 

 ツゥー ツゥー ツゥー

 

「切れた……」

 

黒くなった画面を見ながら呆然とつぶやく。

 

「これは、いつも通りじゃないな」軽く空を仰ぐ。

 

 これからどうなるんだろうか……

 そう思いながら時計を見るととっくに始業時間が過ぎていた。

 

「これからは占い、信じようかなぁ……」

 

 そんな言葉がため息とともに僕の口からもれた。

 

 

 

 

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