つくしがんばる!   作:銀の鈴

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プロローグ

僕は、春日野つくし12歳。

ごく普通の小学6年生だ。

もっとも、あることをのぞけばだけどね。

そう、僕はストリートファイターを目指している。

 

「よしっ、今日も特訓だ!」

 

今朝も僕は学生服に着替えると、早朝修行のために階段を降りて玄関に向かう。そしてその途中で姉ちゃんと出くわした。

 

「おはよう、つくし。今日も早いね」

 

「姉ちゃんこそ毎朝早いよね」

 

僕の姉ちゃんは、僕と同じくストリートファイターを目指している。だけどそれは僕達二人だけの秘密だった。

ストリートファイターを目指しているなんてことが親にバレたら余計な心配をかけてしまうからね。

 

「つくしも特訓に行くなら、あたしと行こうよ」

 

姉ちゃんは、よく僕を自分の特訓に誘ってくれる。でも僕は毎回その誘いを断っている。

 

「ごめん、姉ちゃん。誘ってくれて嬉しいけど、僕は自分のペースでやりたいから」

 

「やっぱりダメかぁ、残念だけど仕方ないよね」

 

僕の答えに姉ちゃんは寂しそうな顔になるけど、僕は心を鬼にして姉ちゃんと別れる。

 

「それじゃ、僕は先に行くね」

 

「うん、頑張ってね!」

 

僕の言葉に姉ちゃんは、寂しそうな顔から元気いっぱいな顔に変えて僕を送り出してくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ジョギングをしながら僕は、姉ちゃんのことを考えていた。

 

「本当は姉ちゃんと特訓したいんだけどなぁ」

 

一人で特訓をするより二人で特訓をした方が当然効率がいいけど、僕には姉ちゃんに秘密にしている事があるから一緒に特訓が出来なかった。

 

僕の秘密。

 

それは…

 

「つくし、遅いですわよ。わたくしを待たせるだなんて100万年早いですわ」

 

鋭い目付きをした彼女は、金髪ロールを風にたなびかせながら僕を出迎えてくれた。

 

「ごめん、かりんさん。出掛けにちょっとあってね」

 

「ふうん。さしずめさくらさんにちょっかいをかけられた、という所かしら?」

 

彼女の名前は『神月かりん』大財閥のお嬢様にして、数多の武術をマスターした武術家でもある。

そして、僕の姉ちゃんのライバルでもあった。

 

「流石はかりんさん。僕の行動はお見通しみたいだね」

 

「うふふ、つくしは我がライバルであるさくらさんの弟にして、わたくしの愛弟子でもあるのですよ。そのぐらい予測出来ましてよ」

 

かりんさんは機嫌よく答えてくれた。

 

僕の秘密…

 

それは姉ちゃんのライバルであるかりんさんが、僕の師匠だという事だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

彼女との出会いは突然だった。

 

それは、急ブレーキの音と共に始まった。

黒塗りの高級車は、急ブレーキを響かせながら僕の目の前で横転した。

そしてその後を追いかけるように装甲車が突っ込んできた。

 

「はぁあああああっ!!」

 

横転した高級車の扉を吹き飛ばしながら中から現れたのが、彼女だった。

 

「ウフフ、このわたくしを狙うとは随分と死に急ぐ方達ですわね」

 

言葉は丁寧だったけど、その身から放つ殺気は隠しようもなく苛烈なものだった。

装甲車から降りてきた男達は覆面をしていたけど、彼女の殺気に少なからず気圧されたように感じた。

 

「…怪我をしたくなければ大人しく我々に従ってもらおう」

 

男達は気を取り直すように頭を振ると、彼女に脅すような言葉をかける。

 

「わたくしに対してその様な言葉を発した勇気は評価しましょう」

 

彼女は覆面の男達に不用心に近付いていく。

 

「けれどその勇気が蛮勇だということを…」

 

「危ないっ!!」

 

不用心に近付く彼女に男達が襲いかかる仕草をみせた瞬間、僕は男達に飛びかかっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

僕は傷付きながらも男達を制圧した…と言いたい所だけど、あっさりと一撃で吹っ飛ばされた所を逆に彼女に助けられた。

 

「はぁ、全く余計な事をしてくれましたわね」

 

彼女は呆れたように溜め息をつきながらも、僕を介抱してくれる。

 

「実力差も分からずに突っ込むのは勇気ではありませんわよ」

 

「これも蛮勇ってヤツかな?」

 

僕は彼女が先ほど口にした言葉を思い出しながら言った。

 

「…そうですわ。と言いたい所ですが、わたくしより年下の君が、身を挺して助けようとしてくれたことには感謝すべきですね」

 

彼女は僕を膝枕しながら優しく頭を撫でてくれた。

 

「うーん。これでもストリートファイターを目指して特訓をしているのに自信なくすなぁ」

 

複数の大人相手に勝てるだなんて思っていなかったけど、時間稼ぎすら出来なかったのはショックだった。

 

「ストリートファイター?君はストリートファイターを目指しているのかしら?」

 

彼女は僕の頭を撫で続けながら聞き返してくる。

 

「うんそうだよ。僕はストリートファイターになるんだ!」

 

まるで姉ちゃんに膝枕されてるような錯覚を覚えながら、僕は彼女に自分の夢を熱く語る。

大きくなったらストリートファイターになって、実力を磨いたらプロの世界で力を試したいこと。

世界中を巡って、まだ見ぬ強敵達と腕を競い合いたいこと。

 

僕は覆面をした男達が倒れているど真ん中で、綺麗なお姉さんに膝枕をされているという非日常的な状況に当てられて、冷静じゃなかったんだと思う。

今まで姉ちゃんにしか言わなかった事を口にしていた。

そして、今まで姉ちゃんにすら言わなかった事を口にした。

 

「僕は強くなって、僕の大事な人を守るヒーローになりたいんだ!」

 

自分のことながら子供っぽい夢を語る僕の事を、彼女は呆れもせずに優しい眼差しのまま聞いてくれていた。

 

「そう、君には大きな夢があるのね。でも、その夢を叶えるにはもの凄い努力が必要ですわよ」

 

彼女の言葉に僕は応える。

 

「勿論だよっ!僕の夢が簡単に叶うだなんて思ってないよ。こう見えても毎日特訓しているんだからね!」

 

「うふふ、そうね。君の身体は年齢のわりに鍛えられている。その努力がわたくしには伝わってきますわ」

 

彼女は優しく笑いながら、僕に提案してきた。

 

「そうだわ。今回のお礼にわたくしが君に武術を教えて差し上げますわ」

 

何故か、提案ではなく決定事項だったけど、彼女の実力は目の当たりにしたばかりだから異存はなかった。

 

「そういえば、わたくしの名前を言っていなかったですわね。わたくしの名前は…」

 

これが僕と彼女ーー“神月かりん”との出会いだった。

 

 

 

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