夜の繁華街で僕はその男と出会った。
その日、ゲームセンターの対戦ゲームで無双しまくった僕は、意気揚々と自宅へと凱旋していた。
その途中で男のストリートファイトの現場に出くわした。
男は目にも鮮やかなピンクの道着に身を包み、次々と対戦相手を倒していった。
だけど最後の対戦相手として出てきた相手は男よりもふた回りは身体が大きく、身のこなしも只者ではない事を感じさせるジーンズ姿の男だった。
そして始まったファイトはまさに死闘と呼ぶに相応しいものだった。
その一進一退の攻防に観客達は沸き立ち、その大歓声に僕の身体も震えるほどだった。
そしてファイトの終盤、体力が残り少なくなったジーンズ男が、最後の力を振り絞って放った一撃を男は大きく下に沈み込みことで躱した。
次の瞬間、男の全身が光に包まれた。
「喰らえいっ!!真・晃龍拳!!」
輝きながら放ったその一撃は、ジーンズ男の顎を見事に撃ち抜いた。
吹き飛ぶジーンズ男に背を向けて男は観客達を見渡した後、親指を立てて声も高らかに宣言する。
「余裕っす!」
なんて凄い漢なのだろう。
余裕などあるはずもない程にボロボロになりながらも、強気を崩さずに意地を張り通すその姿に僕は“漢”というものを強く意識させられた。
「もうっ、何が余裕っすなのよ!ボロボロじゃない!ほら、手当てするからこっちに来てよ」
そんな漢に近付くボーイッシュな女の子。どこかで見たことがあるような?
「うっせーな、このぐらい俺様にとっちゃ大したことねえんだよ」
「ダメだよ、火引さん。手当てはちゃんとしなくちゃ身体を壊すからね」
「チッ、さくらは俺の母ちゃんかよ」
「はいはい、文句は後で聞くから先に手当てをしちゃいますね」
なるほど、見覚えがあるはずだ。
あの女の子は僕の姉ちゃんだ。
・・・・・・あれ、姉ちゃん?
あの胡散臭いピンクの道着を着たヘボいストリートファイターのオッサンに親しげに接している女の子が僕の姉ちゃん?
「ほら、動かないでよ」
「イテテ、もう少し優しくしてくれよ。さくらぁ」
「あはは、火引さんにとってはこれくらい大したことないんでしょう」
「うぐぐ、口だけは達者になりやがって」
「火引さんだけには言われたくないなあ」
「・・・・・・おいっ!?それだと俺様が口先だけの男に聞こえるぞ!!」
「気付くのが遅いね、火引さん」
「なんだとおっ!やんのかコラッ!!」
「少し染みるよ」
「ウグッ!?もっと優しくしてくれよ!」
「はいはい、じゃ、大人しくして下さいね」
「チッ、仕方ねえなあ」
「あはは、出来るだけ優しくするから我慢して下さいね」
姉ちゃんとむさ苦しいオッサンはなんだか仲よさげな雰囲気だった。
今まで男っ気とは無縁だった姉ちゃんなのに・・・
僕はポケットから携帯電話を取り出して電話をかけた。
「もしもし、柴崎さん。スナイパーライフルを貸して欲しいんですけど。はい、インストラクターもお願いします」
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「柴崎っ!!何をしているのですかっ!!」
大事な用事があるからと早朝特訓を休んで、僕達がスナイパーライフルの練習をしていた時にかりんさんが飛び込んできた。
「つくし様のご要望に応えて、スナイパーライフルのご教授を行っておりました」
そう、僕は柴崎さんに直接スナイパーライフルの使い方を習っていた。
ライフルを使いこなす執事ーー格好いいね!!
「そんな事は見れば分かりますわ!わたくしは何故、つくしにそのような事を教える必要があるのかを問うているのですよ!」
かりんさんは気が立っているみたいだ。こんな時は速やかに退避しよう。
「つくし様、お一人でお逃げになるのはおズルいと思うのですが」
僕が逃げ出そうとした瞬間、まさかの柴崎さんに制止されてしまった。
柴崎さんに目で『僕は怒ったかりんさんが苦手なんだよ!』と訴えてみる。
柴崎さんも目で『私も怒ったお嬢様が苦手なのですよ!』と言い返してくる。
僕は目で『柴崎さんはかりんさんと長年一緒にいるんだから慣れているじゃん!!』と反撃する。
柴崎さんが目で『慣れるのと平気なのは別物ですよ!私だって相手はしたくありません!!』と逆襲してくる。
その後も僕たちは激しく目でやり合うが決着がつかない。
こうなったら直接攻撃だ!!
「柴崎さんは大人なんだから『ここは私に任せて先に行けっ!!』って、言うところだよね!!」
「いえいえ、私はつくし様を男と認めております。ここはつくし様が『かりんさんは僕が引き受けるから柴崎さんは行って下さい』と、仰るべきかと愚考致します」
ウググと、いがみ合いながらも互いに一歩も退かない僕たちはジリジリと出口に向かって移動していく。
あと少しで逃げ出せると思った瞬間、
「そのような猿芝居で、わたくしから逃げられると本気で思っていらっしゃるなら逆にショックですわ」
かりんさんの呆れたような声が聞こえてきた。
『よしっ、怒りは静まったみたいだ!結果オーライだね!』僕は柴崎さんに目で喜びを伝えた。
柴崎さんも目で『あとで祝杯を準備致しますね』と伝えてきて喜びを共有してくれた。
「はぁ、その怪しいアイコンタクトはお止めになって下さらないかしら」
かりんさんの本気で呆れた声が聞こえてきた。
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「なるほど、さくらさんを誑かしている男を抹殺するためにライフルが必要だったのですね」
「うん、悔しいけど今の僕では勝てない相手だし、それにストリートファイトで勝ちたいわけじゃないから・・・排除したいだけだよ」
かりんさんに問い詰められた僕は、正直に姉ちゃんのピンチを救うためだと告げた。
かりんさんも姉ちゃんの友達だからきっと僕の気持ちを分かってくれるはずだ。
「よく分かりましたわ」
流石はかりんさん!やっぱり分かってくれた!!
「つくしがシスコンだという事がよく分かりましたわ」
・・・・・・シスコン?
「な、なにを言ってんのっ!?僕はシスコンじゃないし!!純粋に弟として心配してるだけだし!!」
かりんさんのトンデモない勘違いには断固として抗議させてもらう!!
僕の名誉に関わることだから絶対に退かないぞ!!
「(お嬢様、シスコンという言葉は女兄弟を持つ男には禁句でございます。このままでは話が進まないと思われますので、シスコンについては流された方が賢明だと推察いたします)」
「(そうね、先ほどのつくしの反応だと下手に触れない方が良さそうだわ)」
かりんさんと柴崎さんがゴニョゴニョと話し合っている。何の話だろう?
いや、そんな事よりもシスコン疑惑を解く方が先だ!!
「かりんさん、僕は「冗談はここまでにしておきますわ」え、冗談?」
「ええ、先ほどはからかってしまってごめんなさいね」
なんだ、僕のシスコン疑惑はただの冗談だったのか。
うんっ、そうだよね!僕がシスコンなわけないもんね!!
「さくらさんとご一緒されていた男性は、わたくしも存じております。つくしが思われているような方ではありませんから安心なさい」
かりんさん曰く、あのオッサンはサイキョー流の師範で、姉ちゃんにとっては師というほどではないが、技のコツなどを教わっている関係らしい。
ストリートファイトにも一緒に出向いて手ほどきを受けたそうだ。
「わたくしも一時的に師事した事がある方ですわ。少々、コミカルな部分がありますが決して悪い方ではありませんよ」
かりんさんの言葉に衝撃を受ける。
「か、かりんさんがあいつに師事…?」
「はい、わたくし達は、彼ーー火引さんには大変お世話になっておりますわ」
僕の姉ちゃんがあいつに世話になっていて、僕のかりんさんもあいつの世話になっている・・・だとっ!?
「お嬢様っ、その言い方では逆効果だと思われます!!」
「はい?」
僕はユラリと立ち上がると、柴崎さんにギロリと視線を向ける。
「ひぃっ!?」
「ロリコン死すべき…だよね、柴崎さん」
「こ、個人的には反論はございません」
この日、僕は討つべき真の敵を見つけた。
さくら「つくしのヤキモチには困っちゃうけど、ちょっと嬉しくもあるよね」
かりん「うふふ、わたくし達を取られると心配するなんて可愛いですわね」
さくら「でも相手が火引さんだなんてね」
かりん「天地がひっくり返ってもありえませんわ」
さくら「そこまで言ったら少し可哀想だよ」
かりん「あら、さくらさんは少しはその気があるのかしら?」
さくら「ううん、全然ない」