つくしがんばる!   作:銀の鈴

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第十話「つくしの成長」

早朝の河川敷で、僕はかりんさんと対峙していた。

 

「いきますわよ!」

 

かりんさんの拳が連続で繰り出される。その凄まじい速さに目は全く追いつかない。

そのため僕は、かりんさんの拳の動きだけではなく体全体の筋肉の動き、視線の向きや足の角度、そして気の流れを感じることで何とか対応する。

 

「うふふ、この程度なら付いてこれるようになりましたわね」

 

かりんさんは楽しそうに笑いながら攻撃速度を上げてくる。

そして拳での攻撃だけではなく蹴りも繰り出してきた。

 

上下左右からの連続攻撃に晒されながらも僕は必死に攻撃を受け流していく。

一撃でもまともに受ければ吹っ飛ばされるだろう。

 

僕の体は決して大きくはない。

かりんさんの剛の拳に対して馬鹿正直に防御すれば、それだけで体勢を崩されるし体力も削られてしまう。

それを防ぐには上手く攻撃の力を受け流すしかない。

 

「くっ、かりんさんはどんだけ体力があるんだよ!」

 

攻撃を受け流している僕よりも攻撃を続けているかりんさんの方が体力の消耗は激しいはずなのに、こちらの方が先に体力が尽きそうだ。

 

「戦場で体力を失うことは“死”を意味します。つくしはその身を持って知っているでしょう」

 

かりんさんは僕の弱音を聞くと攻撃を止めて厳しい目で見つめてきた。

 

かりんさんの言葉に僕はキャミィの一件を思い出す。

あの時、ザンギエフさんの助力を得られなければ、体力の尽きていた僕は死んでいただろう。

そしてキャミィも無事でいられたか分からない。

 

「僕は、僕は負けないっ!!」

 

ふらつく情けない体に喝をいれる。

こんな情けない姿をザンギエフさんに、そしてキャミィにも見せられやしない。

 

「ただ攻撃を受け流すだけじゃダメだ!かりんさんの攻撃を受け流すのと同時に反撃をするんだ!」

 

「うふふ、その通りですわ。守るだけでは勝てはしませんよ。ですが、わたくしの連撃の隙を突いて反撃することが出来るのかしら」

 

かりんさんは僕を挑発するような言葉を口にしながらも、その顔は僕に期待するように笑っていた。

 

かりんさんの連撃が僕に襲いかかる。連撃といっても、その一撃一撃に必殺の威力が込められている。

 

「さあっ、つくし!この程度の攻撃など鼻歌交じりに破ってみせなさい!」

 

これまでで最高の速度と威力で攻撃を放ちながらも、かりんさんは僕を信じてくれている。僕ならこの程度の窮地を乗り越えられると。

 

「その期待に応えてみせるよ!」

 

さっきまでとは比較にならないほど重い攻撃を必死に受け流しながら僕は耐える。

かりんさんの攻撃を受け流しているといっても、僕の技量だと体勢をその都度崩れてしまうから反撃ができない。

 

それならどうすればいい?

 

簡単だ。

体勢を崩されないように受け流せばいいだけの単純な話だ。

 

もちろん簡単にそんな事が出来れば誰も苦労などしない。

でもたった今、僕が閃いた方法なら体勢を崩されないはずだ。

ピンチのときにナイスなことが閃くなんて、流石は僕だぜ。ヒャッホウ!

 

だけど、その為には真っ正面からの攻撃が必要だ。

いくら僕が閃きの天才だったとしても肝心の技量はそうでもない。

単純な正面からの攻撃じゃなかったら合わせられないだろう。

辛抱強く耐えながらその時を待つしかない。

 

どれだけ耐えていただろうか、遂にその瞬間がきた。

中段から真っ直ぐに僕の胸に目掛けて拳が放たれた。

 

正面から高速で迫り来る拳をあえて体で受ける。その拳速を見極めて、同じ速さで身体を退くことで体勢を崩さずに衝撃を逃す。

 

かりんさんは攻撃を当てながらも殆ど当てた反動が無いせいで重心がほんの少し崩れた。

 

でもその程度は、かりんさんにとっては問題にならない。ほぼ同時に蹴りを放ってきた。

 

だけど、少しだけでも重心が崩れたお陰で威力が落ちている。逆に僕の体勢は万全だった。

 

顔面に向かって跳ね上がってくる蹴りに素早く手を添えると共に身体を跳ね上げて飛びつく。

 

「はぁああああっ!!!!」

 

僕はかりんさんの足を抱え込むと一気に体重をかけて地面に倒そうと身体を逸らした。

 

「うりゃああああーーあれ?」

 

地面に倒れる衝撃がこない?

 

「うふふ、わたくしに足関節をかけたことはお見事ですわ。ただ、つくしの体重が軽すぎましたわね」

 

蹴りを放った体勢のままかりんさんは笑っていた。

その真っ直ぐに伸びた片足に、僕をしがみ付かせても全く揺るがない強靭な足腰に僕は言葉を失う。

 

「えっと、かりんさんの足は引き締まってて綺麗だね」

 

えいっ、えいっと、力を込めてもビクともしなくて困ったので、とりあえず褒めてみた。

 

「あら、お褒めに預かり光栄ですわ」

 

意外と満更でもない感じのかりんさん。

 

「ところで、それ以上は力を込めてはいけませんわよ」

 

「えっ? 僕はまだ負けを認めてないよ」

 

「胸…痛むのでしょう」

 

実は僕の胸の骨は、衝撃を完全には受け流せなくて折れていた。

 

「うん、肋骨が1、2本って所かな?」

 

僕の言葉にかりんさんは呆れた顔になる。

 

「肋骨が5本ですわ。自分の怪我の状態ぐらい正確に把握しなさい」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うぅ、朝っぱらから酷い目にあったよ」

 

神月財閥が誇る医療班の人達に治療をしてもらった僕は小学校に向かっていた。

 

「もう、このぐらいの怪我じゃ休ませてくれないし、少しずつ厳しくなっている気がするよ」

 

かりんさんも最初の頃は、僕が怪我をしたら小学校を休めるように手配してくれていたけど、今じゃ「男の子ですからこの程度、平気ですわよね」と、にっこり笑って小学校に行かされてしまう。

 

カムバック、優しいかりんさん…☆

 

 

 

「つくし君、どうしたの?元気がないみたいだけど」

 

トボトボと小学校に向かっていると声をかけられた。

声の先に目を向けると、そこには姉ちゃんの友達のケイ姉ちゃん(千歳ケイ)がいた。

 

「あ、ケイ姉ちゃん、おはよう」

 

「うん、おはよう。それで何かあったの?いつも元気なつくし君が、そんなお爺さんみたいな歩き方なんかして」

 

ケイ姉ちゃんは心配そうな顔になっている。

ケイ姉ちゃんは昔からの姉ちゃんの友達で、僕も小さな頃はよく遊んでもらっていた。今でも家に来たときはゲームの相手をしてくれる第二の姉ちゃんともいえる人だ。

そんなケイ姉ちゃんに心配をかけたくないから僕は明るく答える。

 

「ううん、大丈夫だよ。肋骨が折れてるだけだから心配しなくていいよ」

 

「えぇっ!?そんなの心配するに決まってるでしょ!」

 

僕の言葉にケイ姉ちゃんは安心するどころか逆に心配してしまった。

 

「本当に大丈夫だよ、格闘技の特訓でミスっちゃっただけだから」

 

「何言ってんのよ、格闘技の特訓って事は練習で怪我をしたのよね。試合とかで不可抗力で怪我したわけじゃないのよね?」

 

「いや、格闘技の特訓だからその中で怪我するのは不可抗力だよ」

 

「そんな訳ないでしょ!練習ていうのは試合で怪我をしない為にするのよ!その練習で怪我をするなんて本末転倒もいいところよ!」

 

慌てて弁明する僕だけど、ケイ姉ちゃんはまったく聞く耳を持ってくれない。

 

「どうせ、さくらが馬鹿力で殴ったりしたんでしょ!あの馬鹿は加減ってものを知らないんだから!」

 

どうやらケイ姉ちゃんは、姉ちゃんが僕に怪我をさせたと思っているみたいだ。

かりんさんに弟子入りした事は内緒にしてるから仕方ないけど、このままだと姉ちゃんにも僕が怪我をした事がバレて怪しまれるかもしれないな。

うん、仕方ないから僕の華麗なる話術で誤魔化すとしよう。

 

「実はこの怪我は特訓中の怪我じゃないんだ。本当の事を言うとね。ついさっきの事なんだけど、子猫が急に道路に飛び出したんだよ。そしたら大型トラックが猛スピードで走ってきて、僕は咄嗟に子猫を助けようと飛び出そうとしたら、僕よりも先に飛び出した人がいたんだ。その人は子猫を抱き上げて逃げようとしたけど、間に合わずに大型トラックにぶつかりそうになったんだ。でも、ぶつかると思った瞬間にその人を包み込むように光が現れて、辺りが眩しく輝いたと思ったら、その人は消えていたんだ。僕は光に驚いて転んだせいで肋骨を痛めたんだけど、こんな事を正直に話しても信じてもらえないと思ったから嘘を吐いたんだ。だから他の人には内緒にしてほしいんだ」

 

よしっ、今時よくある異世界転移物の召喚時に運悪く出くわしたことにすれば納得してくれるよね。流石は僕だ!

 

「ええ、よく分かったわ。そういう馬鹿みたいな言い訳をしなきゃいけないくらい、さくらにボコボコにされちゃったのね。ほんとにあの馬鹿は何してんだか!」

 

誤魔化せなかった!?むしろ誤解が深まった!?

 

よし、こうなったら根本的なところを誤魔化そう。

 

「なーんちゃって、実は怪我ってのは冗談なんだ!」

 

「えいっ」

 

「ハグッ!?!!??」

 

「ほら、痛がってる。やっぱり怪我してるよね。こんなに必死に誤魔化そうとするってことは、さくらに口止めをされているのね。大丈夫だよ、心配しなくても私がさくらをとっちめてあげるからね」

 

こ、この女、怪我してるとこに突きをくれやがった。

流石は長年の間、脳筋の姉ちゃんの親友をしてるだけあるぞ。

しかも誤解がさらに深まってしまった。

 

もう誤解を解くんじゃなくて口止めをすればいいや。

 

「ケイ姉ちゃん、これは僕たちの問題だから口出しはしないで欲しいんだ。僕にだって男としての見栄ってのがあるんだ。女の子に泣きつくような真似は出来ないよ」

 

「つくし君・・・そっか、つくし君は男だもんね。いつまでも私がしゃしゃり出たらダメだよね」

 

ケイ姉ちゃんは親戚のオバチャンがよくしてる微笑ましそうな顔になると僕の話に納得してくれた。

 

予想通りの展開だ。流石は僕だぜ!!

 

「ごめん。ケイ姉ちゃんがせっかく心配してくれたのに我儘を言ったりして」

 

「ううん、私こそゴメンね。つくし君は男なのに過保護すぎたよね」

 

ケイ姉ちゃんは謝りながら頭を撫でてくれる。

うーん。これは男扱いなのかなぁ?

疑問を感じなくもないけど、せっかく納得してくれたんだから余計は事は言わないでおこう。

 

「それじゃ、さくらには私から何も言わないでおくけど、もう怪我はしちゃダメだからね」

 

「分かった。約束はできないけど善処はするよ」

 

「もう、政治家みたいなこと言わないの」

 

ケイ姉ちゃんが苦笑したその時だった。嫌な気配を感じた僕は反射的にその場を飛び退いた。

次の瞬間、僕の目の前を木刀が通り過ぎていく。

 

「え、なに!?なにが起こっているの!?」

 

荒事に無縁のケイ姉ちゃんは、突然の事態に理解が追いつけずに混乱している。

だけど僕は飛び退いたときには、戦いに意識を切り替えていた。

 

「何者だよ。あんたは?」

 

油断なく構える僕の前には、いつの間にか木刀を持った学ランの男が立っていた。

 

「クク、流石は俺の舎弟を倒しただけはあるな。不意打ちを躱されるとは思わなかったぞ」

 

男の顔には大きな傷があり、そのため隻眼となっていた。

その隻眼には隠しきれない喜びの色があった。

 

「僕があんたの舎弟を倒した?」

 

「つくし君、もしかしたらあの時の相手じゃないかしら!」

 

僕には男の言葉にピンとくるものはなかったけど、ケイ姉ちゃんの言葉で気付くことができた。

 

「あの時のアイツか!」

 

「うん、たぶんそうだと思うよ。それならこの人がいきなり攻撃をしてきた事も納得できるもの」

 

「なるほど、お前もあの件に関わっていたのか」

 

男はケイ姉ちゃんもあの件に関わっていたことが分かると、その殺気をケイ姉ちゃんにまで向けてきた。

殺気に慣れていないケイ姉ちゃんは思わず息を呑む。

 

「おい、あんたの狙いは僕なんだろう。女の子に殺気を向けるな!」

 

「おっと、悪かった。つい、な」

 

男はわざとらしく笑ってみせる。

 

「それで僕を挑発しているつもりか!」

 

「いや、そんな必要はないだろう?」

 

予想とは違い、男は意表を突かれたように顔になる。

 

「どういう意味だ?」

 

男は居住まいを正すと正々堂々と名乗りを上げる。

 

「代沢工業四天王が一人《狂える猛犬》吠児(コウジ)!!貴様にストリートファイトを申し込む!!」

 

なるほど、確かに挑発なんか必要ない。

ストリートファイターたる者、挑戦を受けて拒否する事などあり得ないのだから。

 

「ケイ姉ちゃん、少し下がっててくれる」

 

「つくし君!?君は怪我をしているのよ!ストリートファイトなんて無茶だよ!」

 

「ケイ姉ちゃんが僕を心配してくれる気持ちは嬉しいけど、ここで退いたら僕はストリートファイターじゃなくなる。それに…」

 

「それにって、何なの!?つくし君が無茶するぐらいならストリートファイトなんかやめようよ!」

 

ケイ姉ちゃんは必死な形相で僕を止めようとしてくれる。その優しい想いに僕の胸は温かくなった。

そして、だからこそ僕は退けない。

 

「それに…あいつはケイ姉ちゃんに殺気を向けた。僕は絶対にそれを許せない!!」

 

「つ、つくし君…」

 

「神月流格闘術拳士、つくし!!その申し込み受けた!!いざ尋常勝負っ!!」

 

言葉と同時に僕は間合いを詰める。

相手は木刀使いだ、刀の間合いで戦えば勝ち目はない。

 

「速い!?だが、その程度なら反応できるぞ!」

 

吠児は奇襲にも大して動じずに反撃に転じてくる。

続けざまに繰り出される剣撃に僕は近づくことが出来ない。

だが吠児も木刀を掴まれることを警戒してか、その踏み込みは浅く僕に決定打を与えるほどの威力はなかった。だけどこのままだと一方的に体力を削られるだけだ。

 

あれ? この状況って、今朝のかりんさんのときと同じだ。

 

「たしかあの時は攻撃は止めれたけど、反撃は通じなかったんだ」

 

吠児はかりんさんよりも更に身体が大きい。だぶん同じように関節を決めるのは難しいだろう。

 

その時だった。僕の脳裏に初陣の時の記憶が雷鳴のように蘇った。

 

初陣の相手は吠児すらも比較にならなかった程にデカかった。

当然、その膂力も比例して強かった。

それなのに僕の攻撃は通じた。

 

「何が違うんだ?」

 

かりんさんの時は、かりんさんの攻撃を止めてその隙をついて関節を決めようとした。

 

初陣の時は攻撃を躱してその勢いを利用して投げた。

 

「攻撃を止める事と躱す事…隙をつく事と勢いを利用する事……もしかしてっ!?」

 

こんなピンチのときにナイスなことが閃くなんて、流石は僕だぜ。ヒャッホウ!

 

「どうした吠児!そんな軟弱な剣で僕を倒せると思っているのか!」

 

「はっ!なにか企んでいるようだな。だがいいだろう。俺もチマチマと削るようなファイトは趣味じゃないからな。貴様の思惑に乗ってやろう。そう上で貴様を倒す!!」

 

吠児は今までの速さを重視した構えから一変させて大きく振りかぶった。

 

「本来の俺の剣は、二の太刀入らずの豪剣を極意をする。悪いが入院ぐらいは覚悟してもらうぞ」

 

吠児の闘気が大きく膨らんでいく。言葉通りに全力で来る気だ。

 

「こいっ、吠児!!」

 

「はぁっ!!!!」

 

凄まじい速度で迫る豪剣に怯むことなく僕は豪剣に向かい進む。

豪剣が僕の頭を打ち砕く瞬間、更に一歩前に進む。片足を進める動きで身体を横に開くと同時に僕の目の前を豪剣が通り過ぎていく。

 

「今だっ!!」

 

豪剣が通り過ぎる“前”に、僕は吠児の両手を掴み懐に潜り込む。

 

「うおぉおおおおおっ!!!!」

 

僕は豪剣の勢いと自分自身の力を合わせて、吠児を思いっきり投げとばした。

 

「がはっ!?……ガクッ」

 

吠児が誇った通り、二の太刀入らずの豪剣の勢いは凄まじく、轟音と共にアスファルトに叩きつけられた吠児は一撃で気絶した。

 

“YOU WIN”

 

「か、勝った…?」

 

「やったーっ!!つくし君の勝ちだよー!!」

 

「ケイ姉ちゃん…そっか、僕は勝ったんだ」

 

「そうだよ!つくし君の文句なしのKO勝利だよ!!」

 

「う、うんっ、僕は勝ったんだ!!」

 

ケイ姉ちゃんの喜びの歓声で僕はやっと勝ったんだと理解できた。

 

本当にギリギリの勝利だったと思う。

土壇場であの閃きがなければ勝てなかっただろう。

 

僕はどうしてかりんさんに技が決まらなかったのかを考えた。そしてどうして初陣の相手には決まったのかを。

 

気付けば簡単だった。

かりんさんの時は、攻撃を受け“止めた”後に反撃をした。

初陣の時は、攻撃を“躱しながら”反撃をした。そう“躱した”後じゃない。

 

僕はずっと思い違いをしていたんだ。

初陣の時、僕は攻撃を躱して反撃をしたと思っていた。かりんさんの時は躱す余裕がなかったから受け止めて反撃をしようと思ってしまった。

 

攻撃を受けても躱しても、戦いの流れは一旦止まってしまう。

そうなれば体格も力も技術も劣る僕が勝てるわけがなかった。

だって、流れが止まってから再開するのなら条件は僕も相手も同じだからだ。

多少は体勢的に僕の方が有利だといっても、それ以上の差があれば関係ない。

 

でも僕は気付くことが出来た。

僕が初陣の相手を投げ飛ばせたのは、相手のパンチを躱しながらその勢いを利用出来たからだ。

 

戦いの流れを止めるのではなく、戦いの流れを利用する。

それが僕が勝てた理由だ。

 

 

 

「でも傍迷惑な人だったね」

 

「そうだね、ケイ姉ちゃん」

 

ケイ姉ちゃんは不機嫌そうに倒れている吠児を睨む。

 

「まったく、ゲーム大会で負けた弟の仕返しに本当に来るなんてね」

 

そう、あれは東京ゲーム大会の地区予選での事だった。

僕はまだ小学生だから保護者としてケイ姉ちゃんが付き添ってくれた。

本当の姉ちゃんの方は、ゲームに拒否反応を起こして騒ぐから迷惑になるからだ。

 

「おうおう、女連れでゲーム大会かよ。いいご身分だな」

 

そんなセリフと共に現れたのが吠児の弟だった。

まあこの後は、お約束通りに試合で当たったから、僕の華麗なコンボでパーフェクト勝利を飾ってやった。

 

「チクショウ!!ハメ技なんか使いやがって反則だぞ!!」

 

「へへーんだ!このハメ技はまだ大会の規定に載ってないから反則じゃないもんねー!」

 

「クソッタレ!!俺の兄ちゃんは凄え強いんだぞ!!言いつけてお前なんかボコボコにしてやるからなー!!」

 

「情けねー!小学生にもなって兄ちゃん助けてーって、言う奴なんか初めて見たぞー!」

 

「うう…」

 

「どうしたどうした、泣くのか?泣くのか?」

 

「う、うえーん!!」

 

「ほら泣いたー!!」

 

そして、奴は泣きながら逃げていったが、本当に兄貴に泣きついて仕返しにくるなんて……バカな奴だ。

 

「いくら弟が可愛いからって、小学生のケンカにお兄さんが出てくるのは情けない話よね」

 

「本当だよ、例えば僕の姉ちゃんにそんな事を頼んだりしたら逆に僕が張り倒されるよ」

 

「あははは、さくらは正義感が強いからね」

 

その時、吠児がピクリと動く。

 

「ちょ、ちょっと待て。お、俺はそんなアホな理由で来たんじゃ『止めだっ!!』ホゲッ!?……ガクッ」

 

「危なかった、まだ意識があったんだ。今攻撃されていたらケイ姉ちゃんを巻き込んでいたかも…ゴメンね、ケイ姉ちゃん。まだまだ僕は甘いみたいだ」

 

「ううん、大丈夫だよ。つくし君が守ってくれたから無事だったからね。ありがとうね」

 

「う、うん。これからはもっと気をつけるよ」

 

 

 

「ところで、つくし君」

 

「なに、ケイ姉ちゃん?」

 

ケイ姉ちゃんが不自然に近付いてきた。

 

「さっき戦う前に言ってた『神月流格闘術拳士』ってのは何のことかしら?」

 

「しまったーっ!!!!」

 

ニッコリと笑いながら、ケイ姉ちゃんは僕の腕を“逃さないわよ”と言わんばかりに組んできた。

 

 

 

きっと今日は厄日なのだろう。

かりんさんへの言い訳を考えながら僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さくら「もしかして私がつくしに勝てないのってハメ技のせい!?」
つくし「姉ちゃん相手にハメ技なんか使わないよ!そんなことは世田谷区ゲームチャンプとしての誇りが許さないからね」
さくら「そっか、つくしは正々堂々とゲームをしているんだね」
つくし「そうだよ。姉ちゃん相手にハメ技使うなんて恥ずかしい真似できないよ」
さくら「うんうん、えらいよ」
つくし「(ハメ技を使わなきゃこの姉ちゃんに勝てないとか思われたらチャンプとして恥ずかしすぎるからね)」
さくら「あれ、何か言った?」
つくし「ううん、何も言ってないよ。姉ちゃん!」



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