解き放たれた若き狼は自由に野を駆ける。
そして若き狼は黄金の少女と運命の出逢いをする。
交差する魂は互いを求め合う。
若き狼はその強き黄金の光に惹かれ
黄金の少女は未熟なれど純粋な想いに惹かれ
これは戦いの荒野に生まれた奇跡の絆の物語
早朝の河川敷で僕は空手の型を繰り返していた。もちろん師匠のかりんさんの指導を受けながらだ。
「もう少し腰を落としなさい。それと肩に力が入りすぎていますわよ」
かりんさんは僕の型を見ながら事細かく修正をしてくれる。
たまに姉ちゃんと特訓をするときは組手ばかりのせいか、なんだか新鮮に感じる。
「そうですわね。確かにさくらさんの場合は、組手重視の鍛錬方法が向いていると思いますわ」
僕が姉ちゃんとの特訓のことを話すと、かりんさんは丁寧に説明してくれた。
姉ちゃんの場合は、天性の運動能力と動物的勘を養うために実戦さながらの鍛錬の方が効率がいいそうだ。
何よりも姉ちゃんの格闘スタイルは既に確立されているから、後は磨いていくだけとのことだった。
「つくしの場合は、残念ながらさくらさん程の才能はありませんわ。強くなるためには基礎を養うことが必要不可欠です」
姉ちゃんと違い、僕には天性の才能はないらしい。これは別に格闘家として向いていないという意味ではなく、自分流ともいえる格闘スタイルを生み出す才能のことだ。
「つくしは、先ずはきちんとした型を身につけて、正しい動きを学ばなければなりません。さくらさんのように組手重視では悪い癖がついてしまい成長の妨げになりかねませんわ」
「でも、型を繰り返しただけで強くなれるんですか?」
「型を繰り返すいうことは、体を動かす訓練をしているという事ですわ。もちろん型だけでは勝負の機微を学ぶ事は出来ませんが、体を自分の思い通りに動かす事が出来るようになります。さらに段階が進めば頭で考える前に体が動くようになりますわ。今は強くなるための準備期間だと思いなさい」
かりんさんいわく、僕は姉ちゃんのような実戦の中で強くなっていくタイプではなく、地道に努力を積み上げていって強くなるタイプだそうだ。
「なんだか姉ちゃんのタイプの方が得だよね」
「うふふ、確かにさくらさんは戦えば戦うほどに強くなっていくのですから手に負えませんわね」
どうやらかりんさんも僕と同意見のようだった。だけどかりんさんは“ですが”と言葉を続ける。
「つくしは、わたくしと同じく積み上げて強くなるタイプですわよ。わたくしと同じでは御不満なのかしら?」
そう言って、イタズラっぽく笑うかりんさんへの返事は決まっていた。
「かりんさんと同じタイプなら嬉しいな。だって、かりんさんがすっごく強いことは誰よりも僕が知ってるもん」
このあと、急に上機嫌になったかりんさんに目が回るほど頭を撫でられた。
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かりんさんとの特訓を終えた僕は友達の家に向かった。今日は新しいゲームを借りる約束をしている。
そして何故かかりんさんも付いてきた。
「庶民の暮らしを観察するのも支配者としての嗜みですわ」
支配者って…かりんさんは時々、訳のわからないこと言うから反応に困る。
「えっと、かりんさんはテレビゲームとかするんですか?」
「テレビゲームは嗜んだ事はありませんわね」
「へぇ、今時珍しいよね。でも女の子ならそんなものなのかな、うちの姉ちゃんもテレビゲームは苦手だから」
「あら、さくらさんはテレビゲームが苦手なのですね。ウフフ、それは良い情報を聞きましたわ」
ニヤリと笑みを浮かべたかりんさんは、懐から携帯電話を取り出すと何処かに連絡をする。
「柴崎、急ぎ現在販売されているテレビゲームを全て用意しなさい」
かりんさんがとんでも無い事を言ってるけど、冗談だよね?
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友達の山田くんの家は、けっこうデカい三階建てだった。両親揃って大企業に勤めてるとかで中々のお金持ちだ。
「おう、よく来たな。早く家にはい…誰だ、後ろの金髪ネーちゃんは?」
「この人は、僕の格闘技の師匠をしてくれてる神月かりんさんだよ。さっきまで特訓をしてて、そのまま付き合ってもらっているんだ」
この言い方だと僕が頼んで付いてきてもらってるみたいだけど、まさか勝手について来たなんて言えないよね。
「なんだぁ、それってお前ら付き合ってるって事か?」
「はぁっ!?何でそうなるんだよっ、かりんさんは凄い人なんだから変な事言わないでくれよ!」
山田くんの突然の発言に僕は焦ってしまう。もしもかりんさんが気分を害したりしたら、山田くんは一瞬でボロ雑巾のようにされてしまうだろう。
もっとも、かりんさんが小学生男子の軽口に本気で怒るとも思えないから、ありえるのは、この事をネタにして僕をからかう事だけど、こっちの方が僕は嫌だ。
「あらあら、つくしはわたくしをそういう対象として見ていらっしゃったのね。今まで気付かないでごめんなさいね」
嫌な予想通り、かりんさんはニヤニヤと嬉しそうに笑いながら僕をからかってくる。
「もしかして、わたくしを連れてきたのはお友達に見せびらかす為だったのかしら?うふふ、こうやって既成事実を積み重ねていく事でわたくしを手に入れようと画策しているのね」
いやいや、かりんさんは僕が連れて来たんじゃなくて勝手に付いて来たんだよね。そう言いたいところだけど、山田くんへの説明と食い違ってしまうから言えない。
「つくし…お前って、凄え奴だったんだなぁ」
山田くんは、僕達に(かりんさんが悪ノリして僕に腕を絡ませている)に驚愕の眼差しを向けながら呻くように呟いた。
「うふふ、わたくしと付き合うためには、もっと死に物狂いに努力をして下さらないとダメですわよ」
かりんさんの冗談に何故か寒気がしたけど、きっと気のせいだろう。
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着流しの男は腰に差した刀に手を掛けたまま微動だにしない。
その男の正面に立つ男は野獣のような雰囲気を放つ男だった。
結果的には、対峙する二人の男達の決着は一瞬で決まる事になる。
最初は野獣の男が恐ろしい程の跳躍力で目の前の着流しの男に襲いかかった。
振りかざした手には武器は握られていなかったが、その代わりに人間とは思えないほどの鋭い爪が伸びていた。
それは人の身体など容易く切り裂けると一目で感じさせる。
だが、己を切り裂かんと迫り来る爪を前にしても着流しの男は動じなかった。
冷静に互いに間合いを見極め、絶妙のタイミングで抜刀すると野獣の男を斬り裂く。そしてその剣撃は一撃では終わらずに連続で繰り出されていく。
その隙のない連撃に野獣の男は全くなす術なく、体力の全てを奪われた。
“YOU LOSE”
僕の目の前の画面に無情に浮かぶ文字。
それは僕の敗北を意味していた。
そして、僕の傍らには勝利の微笑みを浮かべたかりんさんがいた。
「かりんさんゲームをするの初めてだよね!?どうして僕より強いの!!」
「つくしとそこの庶民の対戦を見て学びましたわ。案外と簡単ですわね」
「いやいや対戦を見たって言っても2、3回だけだし、実際にかりんさんが操作したのは初めてだったよね!?」
「我が家の家訓は『万事において常に勝利者であるべし』なのですよ。そのわたくしが遊戯とあろうとも、弟子であるつくしに負けるわけがありませんわ」
「まぁあああったく、ゲームと関係ない話だよねっ!?」
「うふふ、つくしは負けず嫌いですわね。負ける事によって初めて見えるものもあるのですよ。それをわたくしはさくらさん…つくしのお姉さんに教えてもらいました」
そういえば、かりんさんは姉ちゃんに負けた事があるらしい。姉ちゃんは確かに強いけど、かりんさんが負ける場面は想像できない。まあ、姉ちゃんが負けるとこも想像できないけどね。でも、
「うがー!!テレビゲームで初心者に負けても悔しいだけだよっ!!」
「おーほほほ!そこに気がつくとは、つくしも成長したようで嬉しく思いますわ」
かりんさんにいいようにからかわれる僕を見ていた山田くんが呟いた。
「つくしは尻にしかれるタイプだな」
幸いなことに、かりんさんに弄られていた僕にその言葉は聞こえなかった。
つくし「前書きの意味が分かんないだけど!?」
さくら「あたしの出番がないよー?」
つくし「いや、僕が主人公だもん」
さくら「つくしが主人公で神月さんがヒロインなわけ?」
つくし「ヒロイン?かりんさんは僕の師匠だよ」
さくら「うーん、つくしは小学生だから恋愛要素はなしなのかなぁ?」
つくし「僕より強い奴に会いに行く!!」
さくら「そこら中にいるよ?」
つくし「がーん!?」