目の前に広がる無限の海原へ躊躇なく飛び込む少女。
その少女の後ろ姿を見送るしかない平凡な少年。
少年は非力なる己に涙する。
己が積み重ねてきたものの薄っぺらさに怒りすら感じてしまう。
「うがー!!ゲームなら勝てると思ったのにっ!!」
姉ちゃんの両手の間から光が溢れる。
「はぁあああああっ!!」
離れて見ていた僕の肌を震わせるほどの気合いを発しながら、前方に押し出した姉ちゃんの両手から光の塊が放たれた。
その幻想的な光景を見た僕の心に浮かんだこと。それは…
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「かりんさんっ、僕も必殺技を覚えたいです!」
「はぁ、さくらさんも困った事をしてくれましたね」
姉ちゃんの必殺技を見せてもらった僕は、是非とも自分も覚えたくて、その場で姉ちゃんに教えてくれとねだった。だけど、
「ねえ、ねえ、かりんさん、僕に必殺技を教えてよ!姉ちゃんに聞いても『やるぞ!って気持ちを込めたらいいんだよ!』なんて訳のわかんない説明しかしてくれないんだよ!」
「それは、まあ、さくらさんらしいといえばらしいですわね」
姉ちゃんの大雑把な説明にかりんさんも呆れたような顔になりながらも納得していた。
「かりんさんなら姉ちゃんの必殺技も教えられるんじゃないかと思ったんだ」
「うふふ、つくしはわたくしの事を随分と高く評価をして下さっているのね。でも、今までにわたくしがそのような技を使った事はありませんよね。何故、教えられると思うのかしら?」
「かりんさんは色々な武術を合わせて神月流格闘術を作ったんだよね。その中に姉ちゃんの必殺技もあると思うんだ。だって、姉ちゃんの必殺技はあの全米格闘王のケン・マスターズの技だよ。それをかりんさんが学んでないわけないよね!」
「なるほど、確かにその推測は正しいですわ。わたくしはケン・マスターズの技を随分と研究しましたわ」
かりんさんの言葉に僕は興奮する。これで僕にもあの必殺技を使えるかもしれない。
「それなら僕にも教えてよ!」
「つくし、話は最後までお聞きなさい。わたくしは研究をしたと言ったのですよ。練習したとも身につけたとも言っておりませんわ」
「えっ、それって、かりんさんはケン・マスターズの技を使えないってこと?」
「わたくしの気の性質では、あのような放出系の技は向いていません。鍛錬を積めば多少は真似事のような技は使えるでしょうけど、本家には遠く及ばないレベルでしか使えないでしょうね」
「かりんさんでも使えないって、そんなにあの必殺技は難しいんだ」
僕の小さな呟きに、ピクリと反応したかりんさんが、にっこりと満面の笑みを浮かべながら迫ってきた。
「つ・く・しっ、わたくしは難しくて“覚えられない”と言ったのではありませんよ。気の性質上、向いていないので“覚えない”と言ったのですよ。そこの所をちゃんと理解しなさいね」
あれ、笑顔なのに何だか怖い?
「う、うん。分かった、かりんさんは向いてないから無駄な努力はしないってことだね」
「そうですわ。分かればよろしいですわ。全く、このわたくしに対して失礼な口を利くだなんて、つくしでなければ始末するところですわよ」
かりんさんは何だか怖いことを口にしたあと、思い出したかのように言った。
「ああ、つくしもあの技は向いていませんから諦めなさい」
「えぇえええええっ!?」
驚いて叫んだ僕に、今度は怖くない笑顔を浮かべたかりんさんが説明してくれる。
「つくしの気の性質もわたくしと同じですわ。外に向かうものではなく、内に向かうものですから仕方ありませんわね」
「そんなぁ、僕には必殺技は使えないなんて…」
ガックリとうな垂れる僕に、かりんさんは凄く嬉しそうな顔になる。
「うふふ、つくしも嬉しいでしょう。わたくしと同じタイプなのですから」
絶対にさっきの僕の発言に怒っているのだろう。
でも、この程度で許してもらえるのなら安いものだ。
「では、本日の鍛錬を始めましょう。今日はわたくしの得意技をお見せしますわ」
「かりんさんの必殺技を見せてくれるの!?」
「うふふ、必殺技というほどではなくてよ。わたくしが得意とする関節技をたっぷりと味わわせて上げますわね」
にっこりとかりんさんは笑った。どうやら許してはもらえていなかったようだ。
結論として、かりんさんを怒らせてはいけないと学んだ一日だった。
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授業を受けながら僕は昨日、鍛錬が終わった後にしてくれたかりんさんの話を思い返していた。
「遠距離攻撃の手段が欲しいのでしたら、方法はありますわよ」
かりんさんは、あまりオススメは出来ないと断ってから説明してくれた。
「気を用いた技は論外ですから省きますね。その他の物理的手段としては、高速の動きによる真空波、空気を伝達材に利用した打撃、声の振動を利用した衝撃波、色々とありますが、体得する難易度と時間を考慮すれば、指弾や投げナイフ等を練習する方がよっぽど合理的ですわ」
かりんさんとしては遠距離攻撃は諦めてほしそうだった。
遠距離攻撃をマスターするための時間を他の鍛錬に費やしたいのだろう。
「もしもつくしが試合ではなくて、暴漢などの日常の不測の事態に備えて、遠距離攻撃を欲しているのでしたら、これを差し上げますわよ」
かりんさんは懐から鈍く光る金属の塊を出そうとしたから慌てて止める。
「ううんっ、要らないから大丈夫だよ!」
「あら、遠慮はいりませんわよ?」
「それをもらっても練習しなきゃ使えないし、そんな時間があれば、かりんさんとの鍛錬をしたいよ!」
「うふふ、そうなのですね。分かりましたわ。今まで以上に鍛錬に力を入れましょう」
さくらさんの必殺技を無効化する技も練習しましょうね。と、かりんさんは楽しそうに笑ってくれた。
「かりんさんはさらりと言ってたけど、姉ちゃんの必殺技を無効化する技って、どんなんだろう?」
どうやら僕が想像していたよりもずっと神月流格闘術は奥が深そうだ。
「関節技だけでもすごい種類があったよなぁ」
昨日、かりんさんには一時間ほど関節技を掛けられたけど、すべて違う技だった。
それでも半分も使ってないそうだ。
「わたくしは打撃技を好んで使っていますが、神月流格闘術は“投・極・打”を複合的に使用します。あらゆる敵、あらゆる局面にも対応できる無敵の格闘術ですわ」
神月流格闘術に必殺技は存在しない。もちろん一撃で相手を倒せる威力のある技が存在しないという意味じゃなくて、一つの技だけを決め技として扱う戦い方が存在しないということだ。
かりんさんの場合は、単に本人の趣味で打撃技を主体にしているだけだ。
「必殺技の存在しない無敵の格闘術。うんっ、それも格好いいよね!」
僕は神月流格闘術に今まで以上に興味が湧いた。
「まずは姉ちゃんの必殺技を破ってみせるぞ!!」
さくら「だから“やるぞ!”って、気持ちを一点に集中するんだよ」
つくし「この脳筋がどうしてかりんさんに勝てたんだろう?」
さくら「ひどっ!?姉に対して言う言葉なの!それにね、原作だと神月さんの方があたしより脳筋度は上なんだからね!!」
つくし「原作?」
ペラペラ
さくら「どう、わかった?」
つくし「コンピューターに囲まれてて、なんだか黒幕っぽくて格好いいな!!」
さくら「2巻じゃなくて1巻を読んでよっ!!」