少年は恋い焦がれる。
いつか見た温かき光を。
少女は否定する。
少女は孤高を貫く。
全てを手にするために。
少年と少女の魂が交差するその時。
新たな可能性の芽がその姿を現した。
山田くんが不良にゲームソフトを取られた。不良は借りるだけだと言っていたらしいけど、そんなことは到底信じられるわけがなかった。
「僕が必ず取り返して来てやるよ」
山田くんは驚いたような顔になると僕を引き留めようとする。
「気持ちは嬉しいけど無茶だ。相手はあの代沢工業の不良なんだぜ」
代沢工業は毎年の補導者が全校生徒数を上回ると言われる悪名高い高校だった。
別名“世田谷メトロシティ”
小学生が立ち向かうには悪すぎる相手だった。たとえここで僕が逃げ出しても誰も責めはしないだろう。
でも、
だけどっ、
「僕は戦う!もしここで逃げ出したら、きっと僕は自分を許せなくなる!!」
僕の熱い心が伝わったのか、山田くんも何かを悟ったかのような顔になる。
「そうか、そこまでの決心をしているならもう俺は止めねえぜ。行ってこいよ、お前の骨は俺が拾ってやるよ」
「はは、骨は拾わせる気はないけどね。でも…」
「ああ、分かってる。ゲームソフトを取り返してくれたら・・・お前に貸してやるよ」
「よしっ!約束だからねっ、絶対に取り返してくるからそしたら僕に貸してよねっ!!」
今期一番の話題作!!
予約殺到で僕は手に入れられなかったゲームソフトを発売日初日に借りれる!!
「僕の友情パワーを見せてやるっ!!」
僕の正義の心が今までになく熱く燃え盛る。
僕は拳を握り締めると友情のために走り出した。
走り去る僕の後ろ姿に山田くんが呟いた。
「いや、友情じゃなくて物欲だろ…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここが悪の根城か」
僕の前にはなんとゲームショップがそびえ立っていた。
「ゲームショップ店員が売った客からカツアゲするなんて、この世も末だよ」
僕は大きく息を吸い込むと大声で正義を叫んだ。
「出てこいっ!!子供のゲームを奪い、金を儲けようとする悪党めっ!!僕が正義の鉄槌を下してやるぞ!!」
「ああ〜ん、なんだぁ?商売の邪魔をする気かぁ?」
のそりと店の扉から現れたのは、扉より大きいんじゃないかと思うほどの巨漢だった。
「で、デカい!?」
「チビガキ、邪魔をするなら排除するぞぉ」
「なっ!?」
巨漢はその巨体に似合わない素早い動きで近付いてくると殴りかかってきた。
ギリギリ躱すことが出来たけど、躱した拳は僕の後ろにあった電柱を一撃でへし折った。
「なんて威力だよ!?こんなの喰らったらタダじゃ済まないよ!!」
僕が拳を避けたことで巨漢は本気になったようだった。拳を顎のところで構えると体重を感じさせないリズミカルな動きで近付いてくる。そして素早いけど体重の乗った素早いパンチを連打してきた。
その姿はテレビで見たボクサーのようだった。
「ぐあっ!?」
このパンチはボクサーにとって、牽制用のジャブのはずなのに、一発もらっただけで僕の体力が半分以上削られたことが分かった。
朦朧とする意識の中、土下座すれば許してくれるかなぁと、考えていた僕の視界の隅に彼女が見えた気がした。
黄金の髪を風になびかせて彼女は優しく笑っていた。
ふと、彼女の唇が動いた気がした。
“負けたら玉を一つ潰しますわよ”
僕の正義の心が燃え上がる!!
「うぉおおおおおおおっ!!!!」
朦朧とする頭を自分で殴って覚醒させる。
心臓はかつてないほどの速さで鼓動を刻む。
体が熱を帯びてくる。だけど逆に心は氷を突っ込んだようにクールだ。
突然雄叫びをあげた僕に巨漢は驚いた様子で、一瞬だけその動きを止める。
今しかない!!
僕は残っている全ての力を振り絞って巨漢に立ち向かう。
「うおっ!?このクソガキがっ!!」
懐に飛び込んだ僕に巨漢は苛立った声と共に拳を振り下ろす。
だけどその動きは力任せで先ほどまでの洗練されたボクサーの動きではなかった。
「そんなもの喰らうかぁあああっ!!」
襲いかかってくる拳を紙一重で躱すと共にその腕を掴む。
拳の勢いに弾かれそうになるけど、僕はその勢いをも利用して巨漢を投げ飛ばす。
「ぐわああああっ!?」
アスファルトの地面に叩きつけられた巨漢は自分の勢いと体重で重いダメージを受けたみたいだった。
「ぐぐ、ま、まだだぁ。まだ戦える…ぞぉ」
仰向けで呻いている巨漢だけど、まだ戦意は残していた。
僕は黙って仰向けで倒れている巨漢に近付くと優しく笑った。
「もう勝負はついたよ」
「お、お前…?」
僕の微笑みに何かを感じとったような巨漢は呆然とした顔になったあとゆっくりと目を閉じた。
「そうかぁ…勝負はついたかぁ」
「うん、僕の勝ちだよ!」
「ぐわぁあああっ!?……ガクッ」
“YOU WIN”
僕は巨漢の顔面に踵を落としてKOした。
「正義は勝つ!!」
僕は初めての実戦を勝利で飾ることが出来た。
ちなみに、この後かりんさんの姿は見当たらなかった。きっと朦朧とする意識がみせた幻覚だったのだろう。よかった、よかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「かりんお嬢様。良かったのですか、決着をお見届けになられなくて」
「うふふ、可愛い弟子につい発破をかけましたが、わたくしの弟子はあの様な雑魚に負けるほど情けなくはありませんよ」
遠ざかる高級車の中でその様な会話がされていたことに僕が気付くことはなかった。
さくら「もし、つくしが負けてたらどうしてたの?」
かりん「もちろん潰していましたわよ」
さくら「よかった!つくしが勝って良かったよ!」
かりん「何を安心していらっしゃるのか理解出来ませんわ」
さくら「弟のアレが潰されたら嫌だよっ!?」
かりん「つくしがあの様な雑魚に負けるなどあり得ませんわよ」
さくら「神月さんはつくしを信じているんだね」
かりん「それにもしも本当につくしが負けることがあれば、全てを始末して勝負自体を無かった事にしてみせますわ」
さくら「怖っ!?」