世の無常に涙する。
だがその魂は諦めなかった。
世の理不尽に立ち向かう。
その魂を見守る黄金の存在。
黄金は信じるーー未熟な魂の熱き想いを
「ウフフ、わたくしを落胆させたら玉を一つ潰しますわよ」
それはいつもの特訓後に起きた出来事だった。
その日の特訓がひと段落して、柴崎さんが入れてくれた紅茶を片手に休憩がてらの雑談をしていたんだ。
学校の話題になったときに、最近は早朝特訓のおかげで授業中は気持ちよく熟睡してる。などと、当時の僕は何を思ったのか分からないけど、堂々とそんなことを口にしてしまった。
それまでは、微笑を浮かべて静かに話を聞いてくれていたかりんさんから表情が無くなった。
柴崎さんは僕にだけ聞こえる小声で「ご愁傷様です」なんてことを言ってきた。
「つくし、今のは庶民の間で流行っているという冗談というものだったのかしら?」
かりんさんは、僕にとって敬愛する師匠だ。
厳しい言葉を発するし、威圧感も半端ないものがある。だけど彼女が僕の事を考えてくれている事は間違いがない。
決して、こんな氷のような声を出す人じゃないはずだ。
「つくし、わたくしの言葉が聞こえなかったようね」
僕はそばに立つ柴崎さんに目で助けを求めた。
逸らされたっ!?
そして、かりんさんは無表情のまま、氷のような声をさらに絶対零度までに下げて再び口を開く。
「つくし、もう一度だけ確認します。先ほどの言葉は冗談ということでよろしいですわね」
「もちろんだよっ!!僕はこう見えて真面目で通っているんだよ!!それにかりんさんの弟子として恥ずかしい真似が出来るわけないよっ!!」
僕の魂の叫びは果たしてかりんさんに届くのだろうか?
かりんさんはいつの間のか俯いていたためその表情は分からない。
ゆっくりと時間が流れていく。
僕の喉が緊張のあまりゴクリとなった。
そして、かりんさんの顔がゆっくりと上げられていく。
「うふふ、つくしってば、あまり驚かせないで下さいませ。わたくしは冗談には免疫がありませんのよ」
セーーーーーーフッ!!!!
どうやら僕は窮地を脱したようだ!!
“ゆーういん”だねっ!!
かりんさんは雰囲気を一変させて機嫌良く微笑みながら話しかけてくる。
「つくしは真面目ですものね。学業も優秀に決まっていますわよね」
「う、うんそうだね。それなりに自信があるよ」
これは嘘ではない。僕の母ちゃんは教育ママではないけど、半端なことは許さない人だ。成績が平均を下回ったらゲーム禁止を宣言されている。逆を言えば、平均以上ならどんなにゲームに熱中していても何も言わない人なのだ!
ひゃっほうだぜ、母ちゃん!!
「うふふ、流石ですね。ですが、わたくしは少し心配ですわ」
かりんさんが浮かべていた微笑を突然消して、憂いを帯びた顔になる。
「どうしたのかりんさん、何が心配なの?」
普段から傲岸不そ…ゲフンゲフン自信に溢れたかりんさんが弱気になるなんて何があるんだ?
「わたくしとの特訓の事ですわ。わたくしが忙しいため放課後ではなく、このような早朝からつくしを疲れさせてしまい、学業に影響が出ないか心配しますわ」
かりんさんは本当に申し訳なさそうな顔で僕を見つめている。
さっき僕が口を滑ら…ゲフンゲフンなんだか今日は喉の調子が悪いなあ、えっと、さっきの僕の冗談を気にしてしまったようだ。
「大丈夫だよ。僕はちゃんと勉強してるからさ、心配しないでよ」
かりんさんを心配させないように僕は笑顔でそう答える。
「つくし・・・うふふ、どうやらわたくしが心配性すぎたようですわね。でもあまり無理をしては駄目ですわよ」
「うん、そうだね。確かに授業中は疲れて眠くなる時もあるからね」
僕の答えに安心してくれたみたいで、かりんさんは笑ってくれた。
だけど、それでも僕を心配した言葉を口にする。
そんなかりんさんに、僕は思わず軽口を叩いて場を明るくしようした。
その瞬間、キラーンとかりんさんの目が光った気がしたけど気のせいだよね?
「それはいけませんわ!そういえば庶民の学校では、個人の才能や資質それに事情などを考慮せずに画一的な授業を一方的に押し付ける風潮がありますわね。確かにそれは庶民を養成する事を主眼に考えれば、あながち間違った方策であるとは断言できません。ですが貴方の場合、一般の庶民とは既に立ち位置すら異なっています。何故ならば貴方は…つくしは、この神月かりんの唯一の弟子なのですよ。次期神月財閥総帥であるこの神月かりんの唯一の弟子として、つくしにはそれに相応しい教育を受ける権利が…いえ、義務があるのですわ。あえて語るなら、つくしはわたくしの唯一の弟子となった天に選ばれし『特別な庶民』なのですわ」
「えっと、つまり僕はどうしたらいいの?」
かりんさんのマシンガントークに圧倒されてしまった僕は混乱してしまった。
「うふふ、全てはこの神月かりんにお任せなさい。つくしの為にわたくしが出来る限りの事をして差し上げますわ」
優しく笑うかりんさんに混乱中の僕は素直に頷くしかなかった。
「う、うん、かりんさんに任せるね」
「おーほほほほっ、任されましたわ!」
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この後、僕の小学校に特別クラスが設立された。特別講師として国内外の優秀な人物達が招聘された。
講師達は驚くほどの熱意を持って教鞭をとり指導した。
その熱意は己の命が懸かっているんじゃないかと思えるほどだったと、後に同僚となった教師達は語る。
そして、その特別クラスに編入となった生徒名簿に“つくし”という名前があった事は語るまでもないだろう。
「なんでこうなったんだ!?」
「ご愁傷様です。つくし様」
さくら「ど、どんまい!」
つくし「うう、スパルタ教育反対…」
さくら「で、でも考えようによっては最高の環境だよね!」
つくし「目が血走った講師とマンツーマンでスパルタ教育…最高?」
さくら「マンツーマンなのっ!?」
つくし「特別クラス…僕一人」
さくら「うーん、神月さんも悪意が無いどころか、完璧な善意だもんね。文句も言いにくいよね」
つくし「監視カメラもあるから手も抜けないよ」
さくら「監視カメラっ!?やり過ぎだよ!そこまでつくしを管理しようだなんてっ、文句言ってきてあげるよ!!」
つくし「かりんさんは『うふふ、監視カメラで講師を見張っていますから遠慮なく質問責めにされても構いませんわよ』って、優しい笑顔で言ってた」
さくら「…文句、言えないよね」