つくしがんばる!   作:銀の鈴

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第六話「ヨーロッパへ」

神月財閥が所有するプライベートジェット機の豪華な客室内で僕とかりんさんは対峙していた。

 

「うふふ、このわたくしに勝てると思っているのかしら」

 

「いつまでも自分の方が強いと思い込んでいたら足元をすくわれるよ」

 

僕たちの間で見えない火花が飛び散る。

かりんさんの鋭い眼光に晒されながらも僕は一歩も退く気がなかった。

そう、今の僕はこの間までの僕ではない。

 

“男子三日会わざれば刮目して見よ”

 

この言葉が示すように、今ここに立つ僕はかりんさんに負けた時の僕とは違う。

 

潜り抜けたきた数多の鉄火場が僕を鍛えてくれた。

死力を尽くし合った強敵(とも)達が僕を強くした。

たとえ、かりんさん相手だろうと絶対に負けはしない。

揺るぎない自信と決意に支えられて、僕はここに立っている。

 

そんな僕に何かを感じ取ったのだろう。かりんさんはその鋭い眼光を緩める。

 

「いつの間にか男の顔をするようになったのですね・・・つくし」

 

まるで子供の成長を喜びながらもどこか寂しげな母のような雰囲気を纏いながら、かりんさんは呟く。

 

「貴女の背を追いかけるだけでは決して貴女を追い抜けない事に気付いただけですよ」

 

かりんさんに勝つために費やしてきたもの、そのために積み上げてきたもの、それらの思いを胸に僕はかりんさんに宣戦布告をする。

 

「今の僕は世田谷区ゲームチャンプの名を背負っているんだっ!!この名にかけて貴女に勝つっ!!」

 

実はこのあいだ行われた東京ゲーム大会の地区予選で、僕は世田谷区優勝を果たした。

そこで繰り広げられた数々の熱い戦いのことは機会あれば語ろうと思う。

 

・・・ちなみに本戦は一回戦で負けた。

 

「あら、わたくしは先日の世界大会で優勝しましたわよ」

 

「何やってんのっ、かりんさん!?」

 

多忙を極めるはずの神月財閥の次期総帥がゲーム世界大会に出場するなんて、しかも優勝って、どんだけやり込んでいるんだよ。

 

「我が神月には「万事において常に勝利者であるべし」という家訓があります。ゲームといっても例外ではありませんわ」

 

ふふん、といった得意げな表情で胸を張るかりんさん。

 

「いや、大財閥のお嬢様がドヤ顔で言うセリフじゃないと思うんだけど」

 

「オーホホホホ、この世界ゲームチャンプのわたくしが世界の壁の高さというものを教えて差し上げますわ。世田谷区ゲームチャンプさん、覚悟を決めてかかって来なさいな」

 

まるでやんちゃな子供のグルグルパンチを歯牙にも掛けない父親のような大きな存在感を放ちながら、かりんさんは高笑いをする。

 

ウググ…い、いや、大丈夫だ。肩書きなんか関係ないっ、自分のゲーム歴を思い出すんだ!僕のゲーム歴はかりんさんとは比較にならない程に長いんだ。既にベテランの域に入っているといっても過言じゃないぞ!よしっ、ベテランの底力をかりんさんに教えてやる!

 

「それじゃ、対戦ゲームは僕が決めてもいいかな?」

 

「うふふ、せめてものハンデです。つくしの得意なゲームで良いですわよ」

 

かかった!

かりんさんは有名どころの格闘ゲームは全て押さえているかもだけど、僕は対戦ゲームとしか言っていない。

そうっ!!

ゲーム歴の浅いかりんさんにとって、対戦ゲームといえば格闘ゲームの事だと思い込んでいるはずだ!

だがしかしっ、僕が選ぶのはこれだっ!!

 

「“金太郎電鉄”で勝負だっ!!」

 

そう、かつて一世を風靡した双六ゲームだ。複数人プレイで日本一周を競い合う双六ゲームだから、反射神経も知識も必要のないただの運ゲーだ。だからこそ僕の勝ち目も当然ある!!

(ちなみに制限タイムになると熊に乗った金太郎がマサカリを振り回しながらプレイヤーを追いかけてくるという恐ろしいイベントがある。そして金太郎に追いつかれると凄まじく恐ろしい阿鼻叫喚のムービーが流れる。そのインパクトは全国の小学生達を恐怖のドン底に突き落としたという曰く付きのゲームだ)

 

「さあっ、金太郎電鉄で勝負だ!!」

 

気合を入れて声を上げる僕だけど、かりんさんは困ったような表情で首をかしげる。

 

「そのようなゲームは持っていませんわ」

 

「しまったぁあああっ!!格闘ゲームしかプレイしないかりんさんが双六ゲームなんか持ってるわけないじゃないかぁあああっ!!」

 

こんな事なら自分のゲームソフトを持ってくればよかったと頭を抱えて後悔する。

 

「あら、格闘ゲーム以外も持っていますわよ」

 

「えっ、本当に!?何があるの?」

 

僕はかりんさんの言葉に一縷の望みをかける。

 

「シューティングゲームですわ」

 

反射神経や攻略パターンの知識がいるやつだ。

つまり、かりんさんが得意なジャンルだった。

 

「はぁ、でも仕方ないか。それで、シューティングの場合は獲得点数を競うの?」

 

僕が対戦ルールを確認すると、かりんさんは少し考えた後、首を横に振る。

 

「せっかくですから、勝負は気にせずに協力プレイでゲームを楽しみましょう」

 

そして、僕とかりんさんはヨーロッパに到着するまでの間、二人で楽しくゲームを楽しんだ。

 

 

ちなみに姉ちゃんは、ジェット機が動き出した時点で固まったまま動かないから放置している。

かりんさんも最初は姉ちゃんをからかう気満々だったけど、真っ青な顔でピクリとも動かない姉ちゃんを見て流石に気の毒になったみたいで、武士の情けですわ。と言いながらスルーした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「流石はヨーロッパだね!まるで中世の世界に紛れ込んだみたい!」

 

古いレンガ造りの街並みに姉ちゃんは感激したみたいだ。

 

「姉ちゃんは子供みたいにはしゃいで恥ずかしいな」

 

「何言ってんのよ!あんただって神月さんの手を引っ張って、あっちこっちのお店に入ってるじゃない!」

 

「それは色んな珍しいお店があるんだから入りたくなるだろ!」

 

「そこはあたしも分かるわよ。あたしは、どうして神月さんと手を繋いでんのかを聞きたいのよ!それこそ子供みたいで恥ずかしいっての!」

 

僕たちはヨーロッパに到着後、直ぐにホテル(凄い高級そうな所だった)に移動したけど、まだ日が高かったから街に散策に行く事になった。

 

そして街は当然、外国人ばかりで僕は言葉が分からなかった。

 

こんな言葉も分からない異国の地で迷子になったりしたら大変だから、かりんさんと手を繋いでおく事にした。(かりんさんは外国語が話せる)

こうしておけば周囲に気を取られても迷子になる心配がないからね。

 

「僕はまだ小学生だから子供だもん」

 

「もうっ、調子のいい時だけそんなこと言って!だいたいあんたはいつの間に神月さんとそんなに仲良くなってんのよ」

 

「姉ちゃんが飛行機の中で金縛りにあってる間にだよ。一緒にゲームをして仲良くなったんだ」

 

「あうっ!?えっとその、あれは違うのよ?そ、そう!あれは居眠りをしていただけよ!」

 

危ない危ない、かりんさんとは初対面だという設定をつい忘れてしまっていた。

でも、姉ちゃんの意識がない間に二人でゲームをして仲良くなったという話を素直に信じてくれた。

チョロいぞ、姉ちゃん。

 

「ゴメンね、神月さん。弟の面倒をみさせちゃって」

 

「あら、構いませんわよ。わたくしには兄弟がいませんから、弟が出来たみたいで楽しいですわ」

 

「僕も姉ちゃんよりかりんさんの方が優しいから一緒にいて楽しいよ」

 

「ウググ、こいつは・・・はぁ、神月さん、こんな小憎たらしい弟で本当にゴメンね。生意気なことを言ったら遠慮なく引っぱたいていいよ」

 

「うふふ、男の子は少しぐらい生意気なぐらいが可愛いですわ」

 

かりんさんはそう言って僕の頭を撫でる。

これは今回の旅行前にかりんさんと決めておいた作戦だ。

僕達は初対面から徐々に仲良くなっていき、自然と格闘技を習う関係になったと姉ちゃんに思わせる為だ。

旅行から帰った後も姉ちゃんを交えて遊ぶ計画だってあったりする。

でも面倒くさい話だよね。

女の人が考えることはよく分かんないや。

 

「かりんさん、男にとって可愛いは褒め言葉じゃないよ。ここは格好良いが正解だよ」

 

「あら、確かにそうね。ごめんさない、Mr.つくし」

 

「うそぉおおおおおっ!?」

 

「姉ちゃん、うるさいぞ」

 

「だ、だって!あの神月さんが謝るだなんて異常事態だよっ!!」

 

姉ちゃんが本気で驚いてるみたいだけど、どういう事だろう?

かりんさんは別に絶対に謝らないキャラじゃないと思うけど。

僕との組手中に力加減を間違えて締め落ちした時は直ぐに謝ってくれるしね。

学校だと違うのかな?

 

「姉ちゃん、かりんさんって学校じゃどんな感じなの?」

 

「そりゃあ、もちろん!」

 

「もちろん?」

 

「っ!?」

 

突然、姉ちゃんの顔色が変わった。

青い顔して僕の背後を見ているけど後ろにはかりんさんがいるだけで何もないはずだけど。

気になって振り向いてみても、やっぱりニコニコと笑っているかりんさんがいるだけだ。

変な姉ちゃんだな。いや、変なのは元からか。

 

「姉ちゃん?」

 

「が、学校での神月さんは感じのいいお嬢様だったり?」

 

「なんで疑問系なんだよ。でも、感じのいいお嬢様か。確かにかりんさんは最初こそ傍若無人な雰囲気で取っつきにくいけど、親しくなったら優しいとこや気遣ってくれるとこが分かってくるもんね」

 

よかった。かりんさんは僕が言うのもあれだけど、クセが強いから学校で上手くやってるか少し心配だったんだ。

 

「つくし…あんた、大物だね」

 

なぜか姉ちゃんが呆然とした顔をしている。

 

「うふふふ、そのように言われては照れてしまいますわ。子供がお世辞を言うものじゃありませんわよ」

 

かりんさんの方は少し顔を赤くしながら僕の頭を嬉しそうに撫でていた。(撫でられすぎてハゲないか少し心配だ)

でもお世辞じゃないんだけど。

かりんさんは毎朝格闘技の指導をしてくれるし、時間があれば放課後や休日も相手をしてくれる。

それに格闘技以外のことでも面倒をみてくれる優しい人だ。

…特別クラスは止めてほしいけど。

 

「かりんさん、次は向こうのお店に行こうよ」

 

僕はさっきから気になっていたお店を指差して、かりんさんを引っ張っていく。

 

「あまり急いだら転びますわよ」

 

「あっ、待ってよ!あたしも行くよ!」

 

僕たち三人は日が暮れるまでヨーロッパの街を遊び歩いた。

 

 

 




つくし「僕がゲームチャンプのつくしだ!」
さくら「世田谷区チャンプだなんて凄いよ!流石はあたしの弟だね!」
つくし「目を閉じれば蘇る死闘の数々…次回はゲーム大会編だ!」
さくら「それはカットとして、今回はいつもの変な前書きがなかったね」
つくし「書くのに飽きたんだと思うよ。そんなことよりゲーム大会編を…」
さくら「次回はヨーロッパでのあたしの活躍編だね!」
つくし「だから僕が主役だってば!」
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