「っ!?い、痛っ!?」
目覚めると共に飛び起きた僕は、全身を貫く激痛に呼吸すら満足に出来なくなる。
「つくしっ!?目を覚ましたんだな!!」
「キャ、キャミィ?よ、良かった、無事だったんだね」
僕が寝かされているベッドの横に置かれた椅子にキャミィが心配そうな顔で腰掛けていた。
「あまり喋るな、まだ痛むはずだ」
キャミィは優しく僕の身体を支えてベッドに寝かせてくれる。
「ありがとう、キャミィ」
「いや、礼は私に言わせてくれ。つくし、ありがとう。私を守ってくれて」
キャミィの瞳が涙で滲んでいた。
「全部聞いた。つくしがどれほど無茶な事をしたのか…つくしがどれほど無謀な事をしたのか…」
そこまで言うとキャミィは僕に覆い被さるように抱き締めてきた。
そして耳元で聞こえてくる声は嗚咽交じりだった。
「そしてつくしがどれほど頑張ってくれたのかを…私は、全部聞いた!!」
最後には泣きじゃくるキャミィの頭を僕は黙って撫でる事しか出来なかった。
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「あら、目が覚めたようですわね」
キャミィが落ち着いた頃にかりんさんが病室に訪れた。
「あ、かりんさん」
「『あ、かりんさん』ではありません。まったく無茶をするにも程がありますわ」
かりんさんは、わたくし怒ってますわよ。という感じで人差し指を立ててメッとしてきたが、その表情は優しかった。
「ですが、つくしは見事に彼女を救ってみせました。その行為は賞賛に値します」
「…ううん、違う。結局僕も助けられただけで…そ、そうだっ!!僕を助けてくれたあの人は何処に!?」
今頃になって思い出した!
僕を助けてくれたあの人にお礼を言わなくちゃ!!
「つくしを救ってくれた方はもう母国に出立されましたわ。その彼から貴方が目覚めたら伝えて欲しいと伝言を預かっております」
そうか、あの人はもういないのか。
僕は助けられたお礼も言えなかった。
でも僕に伝言を残してくれた。
「あの人の伝言…」
「つくし、心してお聞きなさい。かの偉大なる英雄の言葉を」
かりんさんは居住まいを正すと彼が残してくれた言葉を口にする。
『少年よ、お前はきっとオレに助けられたと思っているだろう』
その通りだ。散々格好つけた挙句、僕は貴方に助けられただけの…運が良いだけの、馬鹿な子供だ。
そう思い僕はこうべを垂れるしかなかった。
『ふざけるなっ!!』
突然かりんさんが吠えた。
たぶんこれはあの人が言った言葉そのままなのだろうけど、かりんさんも真剣な瞳をしている。
『お前は助けられたのではない!!お前は守ったのだ!!お前の前にいる彼女が無事なのは間違いなくお前が守ったからだ!!オレはその僅かばかりの手助けをしたにすぎん!!』
…きっと彼は僕が落ち込むだろうと予測してこんな言葉を残してくれたんだろう。本当に凄い人だ。
『…と言ったところでお前は素直に認めんだろう。お前はそういう阿呆だとお前の師が言っておった』
か、かりんさん…?
『確かにオレが馬鹿者共を倒した。だがその前にだ。お前が戦ったからこそオレが間に合ったのだ!!お前が彼女を守り抜いたからこそオレが間に合ったのだ!!それを忘れるな!!』
その言葉に僕は慰められる。
卑小な力しか持たない僕でも彼女を助ける為の役に少しだけでも立ったんだから。
『オレはここまでの言えばオレの真意が伝わると思ったが、お前の師がこれだけでは物凄い阿呆のお前には伝わりきらんと言うから補足しよう』
かりんさんっ!?
あれ、僕の訴える視線は無視して澄まし顔のままで続けるの!?
『少年よ、彼女を…キャミィを見つめてみろ』
え…?
よく分からないけど、僕は言われるままキャミィを見た。
キャミィは柔らかい笑みを浮かべていた。
初めて会ったときの硬い表情はいつの間にか無くなっていた。
『100歩譲って、オレがお前達を助けたとしよう』
いや間違いなく貴方が助けてくれましたよ。
『だがオレではキャミィを笑顔には出来んかった』
その言葉に僕はかりんさんを振り返る。
かりんさんはいつもより優しい顔で僕を見つめていた。
『きっとお前の前にいるキャミィはお前に笑顔を見せているだろう。それはお前だから成し遂げる事が出来たのだ。お前は純粋に喜ぶだけでいい。笑顔を失った少女が再び笑顔を取り戻した事を。そしてオレはそんなお前の事をこう思うだけだ』
かりんさんは思いっきり息を吸い込む。
『少年よっ!!見事だぁあああっ!!!!』
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僕を助けてくれたのはロシアの英雄と呼ばれるあの有名なザンギエフさんだった。
彼はロシアに来る事があれば是非訪ねてくれと言ってくれていたそうだ。
“赤きサイクロン”彼の二つ名の通りの熱い人だった。いつかロシアに行き成長した姿を見せるために僕はさらなる特訓を重ねよう。
今回の事のお礼はその時に改めてしようと思う。
キャミィの事はかりんさんが全面的に請け負ってくれた。
色々とヤバい事情があるけどそんな事は気にするなと言ってくれた。
「わたくしの愛弟子がその誇りにかけて救った少女です。この“神月かりん”が、この名に懸けて立派な嫁候補に磨き上げて差し上げますわ・・・あくまでも“候補”ですわよ」
ちょっと勘違いがあるみたいだけど、まあ、かりんさんに任せておけば安心だと思う。
ところで黒服達はどうなったんだろう?
かりんさんに聞いても「つくしにはまだこういう話は早いですわ」と言って教えてくれなかった。
そうそう、姉ちゃんは今回の事は何も知らない。
僕が迷子になっている間に食べたものに当たって食中毒で緊急入院したらしい。
実は僕が入院した病院に姉ちゃんも入院していた。
身体が動くようになってからお見舞いに行ったら来るのが遅いと怒られた。
そして、キャミィは
「キャミィは姉ちゃん達と同い年みたいだね」
遺伝子検査とかでだいだいの年齢が分かったそうだ。
「そうか、私としてはつくしと同じ方が良かったな」
そう言って僕を見るキャミィの視線の高さは、姉ちゃんやかりんさんと殆ど変わらないから僕と同じ年とは最初から考えてなかった。
そういえば、最初から僕がフレンドリーに接する事が出来たのもキャミィの雰囲気がかりんさんに似ていたからだし、年齢も姉ちゃん達と一緒ぐらいかなと思って、同じ感覚で喋れたからだった。
そう言ったらキャミィも「年上で良かった」と言っていた。
「それで、キャミィは本当に行っちゃうの?」
「ああ、このままつくし達と一緒に居るわけにはいかないからな」
「そう、だね」
キャミィがいた怪しい組織は神月財閥の力を持ってしても簡単な相手ではないみたいだ。
かりんさんからもキャミィに会うのは暫くは無理になると言われていた。
「そんな顔をするな。二度と会えないわけじゃないんだ。すぐに私は戻ってくる」
「うん」
本当はキャミィを励ますべきなのに僕はキャミィと会えなくなると思うと暗くなってしまった。
そんな僕を見て、何故かキャミィは嬉しそうに笑った。
「ふふ、すまない。だけど嬉しいんだ」
「嬉しい…?」
「つくしが私と会えない事を寂しがってくれる事がーー理由は分からないけど私は凄く嬉しいんだ!」
キャミィの満面の笑みは凄く可愛くて、それを見た僕の胸はドキドキしていた。
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「キャミィに関するシャドルー内の情報デリートの工作は兎も角として、彼女に一般常識を教え込むには苦労しそうですわね。柴崎、頼みましたわよ」
「彼女のメンタルテストの結果ですが『町で肩がぶつかった場合は顔を覚えられた可能性がある為、速やかに処分する』この様な回答ばかりです。この様な常識を持たれた方をどの様に教育すれば良いのか・・・かりんお嬢様、この不甲斐ない柴崎めにご教授を…あっ、お逃げにならないで下さい!!」
さくら「もしかしたら、つくしが処分されていた可能性も…?」
かりん「その様なことはありえませんわ」
さくら「そうなの?」
かりん「迷子になって泣きべそをかいている年下の男の子を見つけた孤独な少女」
さくら「拾うしかないよね!」
かりん「誘拐される可能性は有ったかもですわね」
さくら「危機一髪だったね!」