「なんでここに泥棒猫がいるの!」
「それはこっちのセリフよ!アンタ武偵高で寮生活しているはずでしょ!」
「私はただキンちゃんにお夕飯届けにきただけです~!」
「なら、さっさと渡して帰りなさいよ!」
2人の幼馴染は玄関で俺を挟んでケンカをしている。
ケンカをするなら、せめて俺を挟んでしないでくれ……
あとでお隣さんに怒られるの俺なんだぞ。
俺1人では止めることが難しいため、ケンカに参加していない律に助けを求めようと携帯を覗く。
『貸し1つで止めてあげますがどうしますか?』
と文字が表示され、その下にはYes/Noと書かれていた。
俺は被害にあってからでは遅いため、迷わずYesの文字を押す。
「お二人共、ここではキンジさんの迷惑になりますので部屋に入りませんか?」
押した途端、律が凛香の持っていた携帯に映り2人の仲裁に入る。
「律……そうね一度部屋に戻りましょう」
「え……キンちゃんそれ何?」
2人とも律の言葉で冷静になったようだ。
「そのことも含めて部屋で話しますのでどうぞ部屋に入ってください。星伽白雪さん」
「は、はい」
律に促され皆で部屋に戻る。
その傍ら律にお礼を言うと
「この貸しは私との
この言葉を聞き、俺は早すぎた決断を後悔したのは言うまでもなかった。
俺達は一度席につき、改めて律の紹介をする。
「白雪、紹介するAIの律だ」
「律です。よろしくお願いしますね、白雪さん」
「よろしくね律ちゃん。キンちゃんとこれからも仲良くしてあげてね」
お前は俺の母親かよ。
「はい!これからもおはようからおやすみまでしっかりキンジさんをサポートしますね」
その瞬間ここだけ時間が止まった。
凛香も初めて知ったような顔をして、白雪と共に顔が真顔になっていた。
「「……律(ちゃん)、どういうこと?」」
「どういうことと言われましても朝に耳元で呼びかけて起こしたり、キンジさんの予定の確認、あとは夜の勉強とか見ていますね」
律が普段の行動を言うたびに、幼馴染2人は体を震わせている。
時々小声で「まさか律も……」とか「2人っきりで夜の勉強なんてうらやま、じゃない、ハレンチな」などが聞こえてくる。
夜に勉強することがいかがわしい理由は分からないが、2人の様子はまるで噴火寸前の火山のようだった。
「そういえば、こんな感じでお世話する人って妻とかが該当するんですよね?」
「律⁉」
「キンちゃんが泥棒猫にたぶらかされている……悪い虫はここで排除しなきゃいけないよね?」
そう言いながら立ち上がった白雪、更にゆっくりと持っていたイロカネアヤメを鞘から抜いた。
「お、おい、白雪やめろ!」
「止めないでキンちゃん! ここで泥棒猫は排除しないといけないの!」
白雪の奴、怒りで我を失って言うことを聞きそうにないぞ。
携帯を壊されてはたまらないため、白雪を力づくで止めようとすると後頭部に銃口を誰かに当てられた。
……まさか?
「あの凛香さん、何をしているんですか?」
「律までたぶらかして……本格的に1度躾けないといけないのかしら?」
凛香が怒っていることが分かり、背中から嫌な汗が出てくる。
凛香の方に振り向きゆっくりと下がりながら落ち着かせようと試みてみる。
「凛香落ち着け、さっきのは律が勝手に言っただけだろ?」
「けど、律が言った内容は本当の事でしょう?」
「……」
確かに律にはいろいろ世話になっているし先ほどの妻以外の発言は合っていた。
「私に手を出してこないと思ったら、律に出していたのね……」
「え? 凛香何か勘違いしてないか」
なんでそんな話になるんだ?
「うるさい、死ねバカ!」
そう言って、凛香はエアガンの引き金を引いてきた為しゃがんで弾を避けた。
避けた弾はそのまま白雪の方に飛んでいき、刀で弾かれた。
「何するの、あなたも邪魔するつもり?」
「私は彼氏を躾けているだけよ。あんたこそ邪魔しないで」
「彼氏?アハハ、律ちゃんの前にそんな妄想を言うアナタから消さないといけないのかしら?」
「妄想じゃないわよ、キンジから枯れた白いバラを貰ったもの」
どうだと言わんばかりに白雪に自慢する凛香。
「嘘だよね? そうよ、ここでこの泥棒猫を消して、私が先に既成事実を作ればいいのよ」
白雪はショックを受けてよろめいたと思いきや、瞳孔が開いた目でブツブツと何かコワイ事を言いはじめた。
凛香も白雪の言葉を聞き、いつの間にか持っていた包丁とバタフライナイフを構えている。
「じゃあ、まずはこの泥棒猫を消さなくちゃね」
「やれるものなら、やってみなさいよ」
このケンカの元凶である律を放っておいて2人の殺気が周囲に満ち、いつ始まってもおかしくない状況になる。
「天誅ぅ――――――ッ‼」
「躾けてあげるわ‼」
2人のケンカが始まった。
基本的に白雪が切りかかり、それを凛香が最小限で避け隙を見てナイフや包丁で白雪に突きを狙う。
烏間先生にしっかりと教えられているため、狙う場所はノド、胸、腹と的確に人体の急所だ。
それを白雪は刀と鞘で器用に防ぎ、一進一退の攻防が続いた。
「修学旅行の時も思ったけど、凛香ちゃんホントにただの中学生なの?」
「ただの中学生よ。先生たちがちょっと変わってるクラスのね」
まるで俺をマネたような言い方をした凛香は、刀をナイフと包丁で受け止めると秋水を蹴りで放つ。
白雪は吹っ飛ぶのかと思われたが、刀を離して蹴りを避けた。
「その動き……遠山家の技ね」
「なんだ、アンタも知ってたんだ」
「そっちがその気ならこっちも本気でやるよ」
そう言って、白雪は羽子板と羽を取りだす。
……白雪が本気を出すと言って、見た目が武器に見えない物を出した。
ウソだろ? アレはまさか……
「おい!待て白雪、ここでやるな!」
「
「⁉」
羽子板で打った羽が炎に包まれるのを見て凛香は驚く。
突然の発火……白雪は所謂超能力を使えるのだ。
余談になるが、そんな超能力を使える武偵を『超偵』と呼び、白雪は武偵高で超偵を育てる
それよりも、超能力云々より出した物と場所が悪い。
白雪のヤツ炎なんか部屋で出して火事でも起こす気かよ⁉
凛香も避けるのはマズいと思ったのかナイフで迎撃に入った。
いや、弾いても意味ないぞ!
だが想像とは違い、凛香が羽を
「え?」
「なんだ不発だったのかよ、脅かしやがって」
「今日は璃璃粒子は薄いはずなのに……」
俺が安心からのため息をついていると白雪は不発の原因が分からないようでよく分からない単語を口にしていた。
凛香達はまだ続けるようで、お互い刀とナイフを構えている。
そこで一度俺は部屋を見渡した。
部屋はテーブルやテレビは切られ、壁や床にはいたるところに刺し傷が残っている。
これ以上続けば巻き込まれるな。
そう判断した俺は、奇跡的に無傷だった段ボールと勉強道具を持ちベランダに出る。
「キンジさん、もう2人の戦いを見ないのですか?」
「律か……これ以上やればこっちに被害が出かねないからな。ベランダで勉強してくる」
防弾物置はないが刃物のみだ。
防弾ガラスまで破壊されないだろう。
「そうだ律、このケンカの元凶はお前なんだから責任とって止めとけよ」
「分かりました、頑張ってみますね!」
元凶に全てを押し付けた後、俺はベランダで段ボールを机代わりにして勉強を始める。
なんで自分の家なのに、ここで勉強しなければいけないのだろうか……
ベチャッ!
「何が起きた⁉」
剣戟が聞こえなくなると突然液体が付く音が聞こえた為、窓を見ると血が付いていた。
2人の内どちらかがケガをしたのかと思い、急いで部屋に入るとそこには……
恍惚な笑顔で倒れている2人がいた。
窓に付いていた血はどうやら白雪の鼻血みたいだ。
2人して俺の名前をうわ言のように呟いているし、ホントに何が起きたんだ⁉
「キンジさん言われた通り、2人を止めましたよ」
2人のそばにいた律が報告してくる。
「律、何をどうしたらこんな状況になるんだ」
「私の秘蔵のコレクションを見せただけですが?」
どんなコレクションだよ!
2人がケンカをやめて、なおかつ戦闘不能にするものなんてあるのか⁉
「どんなのを見せたんだ?」
「これはキンジさんにはヒミツです」
ウインクしながら言ってきた律に、コレクションが嫌な予感しかしなかった俺は聞くのをやめた。
「はぁ、取りあえずこの状況をどうにかしないとな……」
血まみれで傷だらけの部屋を見てため息をついた俺は、まず白雪の付き人である蒔絵田さんに連絡するように律に言って血まみれになった床の掃除を始める。
すぐ近くで待機していたみたいで蒔絵田さんは連絡を入れてから30分くらいでやってきた。
白雪の回収ついでに凛香を家まで送ってもらうように頼んだ後、掃除を終えた俺はベッドに倒れるように入った。
「今回の被害の諸々は星伽家が全て払ってくれるそうですよ」
良かった、ただでさえ旧校舎の修繕費で借金しているのにこれ以上の出費はマジで生活できなくなるからな。
律の報告を受けたあと色々な意味で疲れてしまったため、勉強の続きもせずにそのまま寝てしまった。
後日、白雪から「妾は2人までしか許しません」という謎のメールがくるのだった。