毒物使いとの戦闘後、殺せんせーのお気楽発言に皆が怒っている間に寺坂にある事を聞いた。
「寺坂、体調は平気か?」
「あ? 何のことだよ」
「とぼけんな、お前もあのジュースを飲んだろ」
「ちっ……」
俺が飲むはずだったジュースを代わりに飲んでいる、その為寺坂もウィルスに感染しているはずなんだが……
「……まだ倒れるほどのもんじゃねーよ。それにさっきの事や以前のプールで迷惑かけたんだ。これ以上足は引っ張りたくねー」
潜入した今、ここで寺坂だけ置いていくほうが危険なため一緒に行動するしか選択がなかった。
「はぁ……寺坂絶対無理だけはするなよ」
「分かっている。俺は体力だけは自信があるからよ、心配するな」
「寺坂、殺せんせーをねじ込むからパンツ下ろしてケツ開いて」
「死ぬわ‼」
カルマに呼ばれた為、寺坂はそっちのほうに行った。
寺坂の為にも一刻もはやく薬を奪わないとな。
「おいおい、アイツ見るからに
5階の展望回廊まで来た俺達を待っていたのは窓ガラスにもたれかかった金髪の男性だった。
しかも相手は殺気を隠そうともせず、まるでここにいるぞと知らしめてる感じで何かを待っている。
間違いなく待っている相手は俺達だろう。
「ああ、たぶんその通りだ吉田。どうしますか烏間先生?」
「くそ、ガスさえ浴びていなければ遠山君に銃を借りて撃ち殺すんだが……」
実銃はあるがこの中で唯一殺しのライセンスを持つ烏間先生が撃てる状態ではない。
仕方ない、少々危険だが正面からやってやるか。
「そろそろ出てくるぬ。 足音でそこにいるのはわかっているぬ」
バレていたか、どのみち正面から倒すつもりだった為全員でヤツの前に立った。
「ふむ、手ごわいと思える人物が1人いるぬと思ったがまさかガキだとはぬ。てっきり0課出身の引率教師と思ったぬが、その様子ではスモッグのガスにやられたぬな」
「手ごわいって誰のことなんだ?」
「お前ぬ」
そう言ってヤツが指さしたのはなんと俺だった、てかなんで皆まで俺を指す!
「だってキンジくらいでしょ、烏間先生以外で人間やめてるの」
「凛香、俺は人間だ。そこら辺の学生と一緒だよ」
なんで皆ありえないみたいな顔をするんだ?
俺ができる事は、人間なら可能な事しかないんだぞ。
「そっちの事はどうでもいいぬ。俺はお前と戦いたいんだぬ」
そういうなり、ヤツは素手で窓にヒビを入れる。
マジかよ。あの窓、たぶん防弾ガラスだぞ。それを素手って……いやそれ以上に語尾の『ぬ』が気になるな。
「そんな事より『ぬ』多くね、おじさん?」
『言ったよカルマのヤツ! 怖くて誰も言えなかったのに』
どうやら全員同じことを思っていたみたいだ。
「『ぬ』をつけると侍っぽい口調になると聞いたぬ。カッコよさそうだから試してみたぬが変だったぬか?」
『……』
それなら『ぬ』ではなく『ござる』じゃないのか?
いや『ござる』は忍者か。
忍者の末裔との噂だった風魔陽菜が中学の後輩にいたが、確か忍者っぽいという理由で語尾に『ござる』をつけて喋っていたからな。
「その反応はどうやら変だったみたいぬな。なら
「それは……あなたの暗殺道具は素手なのですね」
「そうぬ。近づきざまに頸椎を一捻り、身体検査にも引っかからないから利点が多いぬ。だが面白いものでぬ、鍛えれば鍛えるほどコレを暗殺以外でも試してみたくなってぬ。だから手強いと感じたお前と殺し合いがしたいんだぬ」
「そうか、なら相手してやるがその間に他のヤツが先に行くぞ」
「それはマズいぬ。だがこの人数の雑魚は1人だと面倒だから仲間を呼んで皆殺しぬ」
そういってヤツは携帯を取りだすが、カルマがブンッと近くにあった観葉植物を振りかぶって窓ガラスに叩きつけ破壊した。
「ねぇおじさんぬ。キンジ君と戦いたいならさ、その前に俺と殺り合おうよ。ボスの前に雑魚と戦うのはRPGの基本でしょ?」
「おい、カルマ!無謀「ストップです、キンジ君」なんで止める殺せんせー!」
「見なさい。カルマ君のアゴが引いている」
「……⁉」
「油断なく正面から相手の姿を観察している証拠です。彼に成長するチャンスをあげてください」
「わかったよ、けど危険だと判断したらすぐに乱入するからな」
「お願いします」
「柔い、もっと良い武器を探すべきだぬ」
「必要ないね」
戦いが始まって早々にカルマが武器として持っていた観葉植物が敵に破壊され、敵のラッシュが始まる。
さっそく危険かと思ったが、カルマは無手での組手の時の凛香や烏間先生のように攻撃を避けたり捌いたりすることで敵に掴まらないようにしている。
「へえ、カルマもできるんだ。教えたんですか烏間先生?」
「いや、教えてくれと頼まれた速水君以外には誰にも教えてない。どうやら目で見て盗んだみたいだな」
見ただけであそこまで出来るのか、カルマのヤツ戦闘の才能もあるようだし訓練を積みさえすれば
「どうした、もしや攻撃したくてもできないぬか?」
「攻撃
「ふっ、良い顔だぬ少年。これならフェアな戦いが味わえそうぬな」
その言葉を皮切りに止まっていた2人がさっきより激しく動き出した。
先ほどと違うのは攻守、今度はカルマのラッシュが続く。
「クッ」
カルマの蹴りが敵のすねに当たり、今までにない隙が相手にできた。
「背中が!」
「チャンスよ、カルマ君!」
トドメを決めるためカルマが飛びかかるが、逆にガスを浴びてしまう。
「長引きそうなんでスモッグの麻酔ガスを使ってみたぬ」
「汚ぇ、そんなもん隠し持っていて何がフェアな戦いだよ」
「吉田、ここは戦場だ。ルールに則ってやるスポーツじゃない、たとえ口約束していても油断した方が悪いんだ」
「やはりお前は戦場の意味がわかっているぬな。その言葉に付け加えるなら俺は一言も
「何を勘違いしているんだ? 油断していると言ったのはアンタに対してだよ」
「なぬ⁉」
その瞬間、ヤツは至近距離からガスに包まれた。
「キンジ君、おじさんぬのびっくりした反応見たかったのに先にネタバラシはダメだよ」
「それはすまんカルマ、あまりにも油断していたから思わずな」
「ぬうう、なぜそれをお前が持っている?」
そろそろ作ったやつにクレームを入れるべきじゃないかな?
象すら気絶させるといううたい文句な麻酔ガスのはずなのに敵はまだ倒れていない。
それどころか懐からナイフを取り出して仕掛ける気だ。
「ナイフを出したな。本当は最後までカルマにやらせる気だったが、それを出したなら今度は俺が相手だ」
ハンドサインで凛香に『俺の攻撃にあわせろ』と伝え敵と対峙する。
「せめて1人ぐらいは殺る!」
「『ぬ』がぬけてるぜ、おじさん!」
ナイフで刺そうとしてくる敵にカウンター気味に桜花で殴る。
殴った際に敵は衝撃で後ろにのけ反るが、そこに凛香の回し蹴りによる秋水が腹に決まり敵は窓ガラスに吸い込まれるように吹っ飛んだ。
「なんだ、案外ガラスにヒビ入れるのなんて簡単ね」
窓には敵やカルマが作った以上にデカい蜘蛛の巣上のヒビが広がっていた。
敵の人、生きているのか?……
様子を見ると意識はなかったが敵はちゃんと息をしていたため、さっきの敵同様ガムテープで拘束する。
「ぐっ、これは⁉」
「目が覚めたか、 悪いが拘束させてもらったぞ」
「ガスで動けない今、それはかまわぬ。それよりも赤髪の少年、俺は素手しか見せてないのに何故ガス攻撃が読めていた?」
「とーぜんっしょ、素手以外の全部を警戒していたからね」
「なっ⁉」
「アンタが素手での戦いがしたかったのは本当だろうけど、プロならどんな手段を使っても俺達を止めるはず。アンタのプロ意識を信じてたから警戒したんだよ」
「カルマ君、良い感じに変わったね」
「そうだな渚、たぶん期末で敗者の気持ちが分かったからだろうな」
「その通りですキンジ君。気持ちが分かったことで相手を見くびらないようになり敵の能力や事情をちゃんと見るようになる。それは相手に敬意を持って警戒する人、そんな人を戦場では『隙がない』と言うのですよ」
『敬意を持って警戒する』これを知ったカルマを相手にするのは今まで以上に骨が折れるだろう、願わくば相手にしたくないな。
敵もカルマや殺せんせーの言葉で、さっきの疑問も解決したらしくすがすがしい顔をしている。
「大した少年ぬ。負けはしたが良い時間を過ごせたぬ」
「え、何言ってんの? 楽しい時間はこれからじゃん」
『は?』
そう言うなり、カルマはリュックから何か出した。
って、練りからしにわさびに鼻フックだと⁉……まさか
「今からおじさんぬの鼻にこれをねじ込んで塞いだ後、口にブート・ジョロキア入れて猿ぐつわするから」
聞くだけで涙が出てくるな。しかもブート・ジョロキアと言ったら世界一辛い唐辛子じゃねーか!
「さぁおじさんぬ。今こそプロの意地を見せる時だよ」
爽やかな顔でカルマは拷問を始めた。
コイツだけは
しばらく5階展望回廊には男性のくぐもった声にならない叫びが聞こえるのだった。
次回、皆さん待望のあの人が登場予定です