哿の暗殺教室   作:翠色の風

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肝試しまでいくつもりだったのに……


38弾 信用の時間

渚のヤツ、とんでもないことをやったな。

鷹岡に1歩近付くたびに気配を変えやがった、あんな技そこらの武偵でもできねーぞ。

もしもあの技が鷹岡にではなく俺に使われ、2本目の獲物がスタンガンの代わりにナイフだったらと考えるとゾッとする。

ヘリポートから降りてくる渚を見るが、先ほどの恐ろしい技を出した人物と同一とは感じられないどこにでもいる中学生にしか見えない。

 

これでよかったんだろうか……

 

殺し屋の才覚に目覚めつつある渚に、俺は一抹の不安を感じるのだった。

 

 

 

 

 

「よくやってくれました渚君。ケガも軽そうで安心です」

「殺せんせー……けど薬が……」

 

鷹岡を倒したことによって手に入れた薬は3本、これでは感染した者全員には行き渡らない。

 

「烏間先生、寺坂を運ぶ為にもヘリをお願いします。まだ予備があるかもしれないですし、俺が毒使いを連れてきます」

「いや俺がいこ「その必用はないぜ、お前たちに薬は必要ないからな」っ!、拘束を解いたか」

 

声が聞こえた方を見ると、下で拘束していたはずの殺し屋たちが屋上の入り口付近に立っていた。

 

「ガキ共、このまま生きて帰れるとでも思ったか?」

 

殺気を出しながら問われたため、俺たちはほぼ反射的に迎撃するため構える。

 

「お前たちの雇い主はすでに倒した。俺は充分回復したし生徒も強い。こちらもこれ以上被害は出したくない、やめにしないか?」

 

烏間先生が念のため警告を殺し屋に言い渡した。

 

「ん、いーよ」

「やけに素直だな、何を企んでいる」

 

余りにも殺し屋たちが大人しい、従ったフリをして襲ってくるつもりか?

そう思い俺が銃口を殺し屋たちに向けつつ聞くと

 

「何も企んでねーよ、それに『ボスの敵討ち』は契約外だ」

「さっきの薬が必要ないってどういうことだ?」

「お前らに盛ったのは食中毒を改良したやつだ、命に関わるようなヤツじゃない」

 

俺のこの問には毒使いの男が手のひらに収まるサイズの瓶を見せながら説明し、続けて試験管を見せて

 

「ボスが使えと言ったのはこっちだ。これを使えばマジでお前らヤバかったな」

『……』

「使う直前で話し合ったぬ。交渉期限は1時間、だったら殺すウィルスじゃなくともできるぬと」

「でもそれって鷹岡の命令を逆らったってことだよね、金もらっているのにいいの?」

 

確かにひなたの言う通りだ、内容がアレだが契約違反になる。

 

「そういや武偵のガキがいたんだな。『依頼人との契約は絶対守れ』武偵でも殺し屋でもそれは当てはまる、守れなかったら信用を落とすからな。だが今回の依頼、最初からボスは薬を渡すつもりはなかった。大量にカタギの中学生を殺した実行犯と命令違反、どっちが今後の仕事に影響するか考えただけだけよ」

 

つまり今後の仕事に影響がでるから殺さなかったってことか。

銃をくわえた男の説明に納得がいった俺が銃をしまうと毒使いの男が何かを投げてくる。

これは……栄養剤?

 

「ソレを患者に飲ませて寝かしてやんな。『倒れる前より元気になった』って感謝の手紙が届くほどだ」

『アフターケアも万全だ!』

「信用するかの判断は生徒が回復してからだ、事情も効くためしばらく拘束させてもらうぞ」

「来週に仕事があるから、それ以内に解放しろよ」

 

烏間先生が呼んだヘリがちょうど到着し、鷹岡やその部下が拘束され乗せられていく。

 

「おい」

 

ヒステリアモードも解け、することがなかった俺はその様子を眺めていると先ほどの銃をくわえた男が話しかけてきた。

 

「なんだ、銃食い男」

「俺の名はガストロだ。お前の名を教えろ、曲芸師」

「曲芸師じゃなくて武偵だ。……遠山金次だ」

「そうか、遠山か。覚えとくぜ、お前の名。お前に暗殺の依頼が来たら真っ先に殺ってやるよ」

「俺に暗殺依頼とか来るほど偉くならねーよ、それに来たとしても逆に捕まえてやる」

「ハハッ、それは楽しみだ」

 

ガストロはひとしきり笑うとヘリに乗るためにそちらに向かった。

 

「中坊共、本気で来てほしかったら偉くなれよ! その時はプロの本気を見せてやる!」

 

ヘリが飛び立つ寸前に銃弾をばらまきながら、ガストロが皆にそう言って殺し屋たちは去っていった。

 

「あの3人に勝ったのに勝った気しないね」

「まあ、実際殺す気はなかったんだ、手加減されてたんだろ。それより凛香手伝ってくれ」

「何するのキンジ?」

「ガストロがばらまいた銃弾を拾う。弾代が浮くからな」

『はぁ……』

 

なんで全員ため息つく、弾代だってバカになんねー額なんだぞ

 

「戦闘中はかっこよかったのに……」

 

そう言って凛香は再度ため息をついた。

 

結局、銃弾は拾えずに俺達はホテル側に気づかれずにヘリで脱出。

E組史上初の大規模任務はこうして幕を閉じた。

 

 

ホテルに着き、感染した皆に薬を渡し終えた俺達は任務の疲れやヒステリアモード後ということもあり強烈な眠気に襲われた。

 

「キンジさん起きてください」

「……律?」

 

律に起こされ、携帯の時刻を確認すると今は次の日の昼過ぎだった。

他の皆はまだ寝ている。

 

「どうしたんだ律、俺だけを起こして」

「キンジさんに伝えたいことがあったので起こしました」

「わかった、着替えて外に行こう」

 

俺は着替えが乾いてなかった為、学校のジャージに着替え外に出る。

真っ先に見えたのは巨大なコンクリートの塊だった。

 

「アレはなんだ?」

「烏間先生がダメ元で作った元の姿に戻る殺せんせー対策です」

「まさかここに戻ってからか?」

「はい、不眠不休でやってましたよ」

 

不眠不休ってあの人ホント疲れ知らずだな……

 

「それで律、俺に伝えたいことってアレのことか?」

「違います、私が言いたいことはキンジさんの超人的な強さの秘密が分かったことです」

「ッ⁉……なんのことだ?」

 

まさか、ヒステリアモードの事がバレたのか?

 

「AIの私にとぼけても無駄ですよ。あの超人的な強さとそのトリガー、色々と調べていましたがある研究機関のハッキングでようやく分かりました。キンジさんの能力、それは『H()S()S()』ですね」

「……」

 

HSSと言えばヒステリアモードの正式名称ヒステリア・サヴァン・シンドロームの略称だ。

 

「HSSはβエンドルフィンが一定以上の量を分泌されると常人の約30倍の神経伝達物質を媒介して、大脳・小脳・精髄といった中枢神経系の活動を劇的に亢進させ、思考力・判断力・反射神経などが飛躍する遺伝体質。そしてβエンドルフィンのトリガーは性的興奮。変化後の口調や銃弾を切ったりしたのを含めコレの体質が該当しました」

 

律の解答は満点と言えるほど正確なものだ。

とうとう凛香や武偵中以外のヤツにバレてしまった。

そう自覚すると、心臓の音がうるさく感じられるほど大きくなっていき視界も暗くなる。

 

「……もし俺がその体質だったらどうする気だ?」

 

カラカラに乾いたノドを震わせ律に問う。

思い出すは武偵中の日々。

この能力がバレた後、俺は事あるごとに独善的な正義の味方として使役されたのだ。

アレがまた始まるのか。

そう落ち込んで律の言葉の続きを待つと

 

「どうもしません。ただ、キンジさんのサポートの仕方に関わるので報告しただけですよ」

「へ?」

「むしろ、何を言われると思ってたんですか?」

「いや、気持ち悪いとか、この能力を便利屋扱いで使おうとか……」

 

武偵中のヤツに言われたような事を言うと、律にしては珍しく呆れた顔をして

 

「便利屋なんて私の本体でどうにでもなりますし必用ないです。私は感情と言うものを完璧に理解できてませんが、キンジさんの事を気持ち悪いなんて思っていないことだけは確かです。」

「これを他の人には言うのか?」

「キンジさんが許可しない限り言いませんよ」

「ウソじゃないよな?」

「私がウソをつくメリットはありません」

 

俺は律の言葉を信じヒステリアモードの事を認め、凛香も知っていることを話した。

 

「そうだキンジさん、私にも目標ができました」

「目標?」

「はい! HSSになるってことはキンジさんに一人の女として意識してもらえるってことですよね? 平賀さんに作ってもらっている体ができたらキンジさんに意識してもらえるように頑張りますね」

「勘弁してくれ、それになんでそれが目標なんだ?」

「私は殺せんせーに『生徒たちと協調するためのプログラム』で協調性を身につけました。だから今度は恋愛感情について知りたいんです、誰しもが1度は持つ感情これを知ればもっと皆さんと仲良くなれそうな気がします!」

 

だからって俺で試さないでくれ

 

「そうだ律、1つ聞いて良いか?」

「なんですか?」

 

俺はかつて幼馴染にバレたときに聞いた質問を律にする。

 

「いまの俺とあっちの俺、どっちの俺がいいんだ?」

「変な質問をしますね、どっちもキンジさんですから答えとしたら私はどちらのキンジさんも好きですよ」

 

律の答えに昔答えてくれた幼馴染の言葉を思い出す。

 

『どっちのキンジもキンジには変わらないわ、だからどっちが良いなんてない。それに、その体質で私はキンジの事嫌いにならないから安心しなさい』

 

「キンジさん、なんで泣いているんですか?」

 

律に言われ気づいたが、俺は泣いていた。

理由とすれば、安心と凛香以外にもホントの意味で俺という人物を見てもらえたような嬉しさだろう。

 

「なんでもねーよ、目にゴミが入っただけだ。……律、こんな体質を持っている俺だが改めてこれからもよろしくな」

「はい! よろしくお願いしますキンジさん」

 

その時の律の笑顔が俺には太陽のように温かく、そしてまばゆく感じられたのだった。

 

 




律のハッキング先、どこですかねぇ(棒)
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