キンジのコードネーム、まだまだ募集しています。
「クソッ、竹林のヤツなんでだよ」
始業式が終わり旧校舎に戻った俺は竹林のスピーチを思いだす。
『E組の環境は一言で言うなら地獄でした。やる気のないクラスメイト達に先生は匙をなげ怠けた代償を思い知った僕は、生活態度を改めもう一度本校舎に戻りたいという一心で死ぬ気で勉強しました。こうして戻って来られた事を心底嬉しく思うとともに二度とE組に堕ちることのないよう頑張ります』
竹林のヤツ、抜けるにしても何か一言あってもいいだろう……
「あいつはここよりも本校舎が良いってことなんだろ!」
前原は竹林の行動にイラついたのか黒板を八つ当たり気味に叩いてる。
「しかもここの事地獄とか言いやがった‼」
「成績が上がったのは殺せんせーに教えられたからだと思う。それさえ忘れたなら私は軽蔑するな」
木村、片岡と口々に竹林に対しての怒りが口に出ていた。
理事長の考えからするならば言わされた線が濃厚だが、まだ憶測の域から出ていない。
何より俺は竹林が……E組にいたヤツがそう思ってたと信じたくなかった。
「みんな落ち着け。スピーチは言わされたかもしれないだろ、なんで抜けたかは本人に聞いてみよう」
「磯貝の言う通りだ。放課後にでも本校舎前で待ちぶせするぞ」
磯貝と俺の提案によって放課後、竹林にE組を抜けた真意を聞くため待ち伏せすることが決まった。
放課後、いつもよりはやめに山を下り全員で校門付近で竹林が来るのを待つ。
待ち伏せから10分ぐらいたったころだろう、本校舎のほうから竹林が帰宅するためにやってきた。
「おい、竹林」
「‼ 皆か……」
前原が声をかけ、竹林がこちらに気づき少し驚いたような顔をしていた。
「竹林、説明してくれ。なんでE組を抜けたんだ?」
「事情があったんですよね? 沖縄でも竹林君のおかげで助かったし、普段も一緒に楽しく過ごしていたじゃないですか!」
俺に続けて、奥田が竹林に抜けた理由を聞いている。
奥田の言う通り、竹林は楽しく過ごしていたはずだ。
思い出せるのは、俺たちにメイドの描き方を講義する姿や律にメイドさせている姿、噂では寺坂と共にメイド喫茶にも行ったらしい。
……おかしい、メイド関連しか竹林の事が思い出せないな。
皆も思い出せたのが同じなのだろう若干困ったような顔をしている。
「賞金100億、やりようによったらもっと上乗せされるらしいよ。分け前いらないんだ、無欲だねー」
ここにきて黙っていたカルマが挑発するように竹林に尋ねた。
「……10億」
10憶? いったい何を指してるんだ竹林。
「集団で殺したとして、僕の力から考えると担える役割ではせいぜい分け前が10億がいいところだ。そんな額うちの家族なら働いて稼げる」
『……』
「『出来て当たり前』の家なんだ。できない僕は家族として扱われない。昨日初めて親にE組から抜ける事を言ってなんて言われたと思う? 『頑張ったじゃないか、首の皮一枚繋がって』だったよ、その一言の為にどれだけの思いで勉強したか」
竹林は体を震わせ言葉を続ける。
その姿に俺達は一言も声が出なかった。
「僕にとって、地球の終わりより……100億より……なにより家族に認められるほうが大事なんだ」
竹林の顔は見ているこちらも辛くなるほど悲痛な顔になっている。
「裏切りも恩知らずなのも分かっている。君達が暗殺を成功できる事を祈っているよ」
竹林が帰ろうとしたが、このままではマズイと思った俺が引き留めようとしたところで有希子に腕を掴まれ行動を起こす前に止められた。
「キンジ君、私も経験したから竹林君の気持ちが分かるの。親の鎖ってすごく痛い場所を巻き付いて離れないからさ、無理に引っ張ってあげないで」
「有希子……」
竹林の苦痛がこの中で一番分かっているだろう有希子の顔は誰よりも悲しげだった。
それを見た俺達はただただ竹林の後ろ姿を見ることしか出来ず、誰も口を開くことがないまま解散となった。
『きょう未明に起きた武偵を狙った殺人事件ですが、警察の調べでは最近多発している連続殺人事件と同じ手口だということが判明しました。警察は同一犯による犯行とみて捜査を続けています』
『ただでさえ海外では最近凶器不明の殺人事件が何故か急激に増えているのに……物騒な世の中になりましたねぇ』
「武偵を狙った殺人事件……キンジ君も狙われないか心配だね」
「キンジならなんとかなるんじゃない?」
「それもそうですね」
「……有希子、凛香、色々言いたいが、なんで俺の家で普通に晩飯食ってんだよ」
2人とも当たり前のように俺と共に家に入り、ニュースを見ながら晩御飯を食べている。
余りにも違和感なさ過ぎてスルーしてしまったじゃねーか。
「キンジはどうせコンビニ弁当だろうし、仕方ないから作ってあげようかなって」
「親には連絡入れているから大丈夫だよ」
悪かったな、どうせ1人だとコンビニ弁当ばっかだよ!
あと有希子、俺が問題にしてるのはそこじゃねー。
「だから「キンジ、ご飯冷めるから早く食べなさい」……すいません、凛香さん」
凛香に叱られ、批判1つ言えなかった俺は大人しく晩飯を食べた。
ちなみに晩御飯は肉じゃがとほうれん草のお浸し、味噌汁、ご飯だ。
相変わらず凛香の作る和食はどこか懐かしさを感じさせる味で旨かった。
「竹林のヤツ、A組でやっていけると思うか?」
晩飯も終わり、有希子が夏祭りに手に入れたゲーム機で4人対戦の某大乱闘ゲームで遊びながら、竹林の事について他の皆にも聞いてみた。
「確かにちょっと心配だよね」
有希子は憂い顔で竹林を心配している。
だがその顔とは裏腹にゲームでは俺のキャラに対して容赦ない攻撃が続いて、なすすべもなく場外に吹き飛ばされた。
有希子、少しは手加減してくれ……
「竹林さん、大丈夫ですかね……」
こちらも凛香を容赦のないラッシュで吹き飛ばしながら、携帯ゲーム機の画面に映る律は心配そうな顔をしていた。
「2人ともせめて顔とやってること合わせなよ……竹林がそんなに心配なら明日様子を見に行けば?」
「そうだな。殺せんせーもこのまま放っとかないだろうし、明日見に行ってみるか」
呆れたような顔の凛香による提案に全員が賛成し、その後は有希子と律による大会顔負けの戦いを眺めるのだった。
翌日、予鈴ギリギリに来た俺たちだったが教室に入ると昨日の竹林の件だろう全員が暗い顔で席についていた。
「おはようございます、キンジ君達も早く席についてください」
後ろから殺せんせーに注意され、反射的に振り返るとそこには沖縄で見た真っ黒なタコがいた。
「なんで日焼けしてんだよ殺せんせー?」
「竹林君のアフターケアの為ですよ、その為に先生わざわざアフリカに行きました。ついでにですがマサイ族とドライブしてメアド交換もやりましたよ」
『ローテクなのかハイテクなのかハッキリさせろよ!』
そういえばレキのヤツ、視力がマサイ族並にスゴイって噂だ。
レキの出身は知らないが、案外マサイ族みたいなどこかの部族出身なのかもな。
「日焼けする必要性も聞きたいけど、そもそも竹林のアフターケアってどういうこと?」
殺せんせーの発言からどうでもいい事を考えていると岡野がアフターケアについて尋ねていた。
「彼は自分でここを出て行きました。先生はそこについてはどうすることもできませんが、新しい環境になじめているか見守る義務があります。もちろんこれは先生の仕事なんで皆さんはいつも通りに過ごして下さい」
なんだかんだ殺せんせーも竹林の事が心配なんだな。
席に座っている皆を見ると、言葉にしなくても俺と同じ事を思っていることが分かった。
「俺と凛香と有希子は放課後に行くがどうする?」
「キンジが行くんだ、俺等も様子見に行ってやっか」
「なんだかんだ同じ相手を殺しに行ってた仲間だしな」
前原や杉野が仕方ないとため息交じりに言ってるが、それが照れ隠しなのは誰が見ても分かる。
心配なら素直に言えば良いのにな。
「抜けるのはしょうがないけど竹ちゃんが洗脳されて嫌なヤツになったらいやだなー」
「倉橋、シャレになってないから」
凛香の言う通り理事長ならやりかねん、なんせ球技大会に勝つために洗脳を使ってたからなあの人。
「ウンウン、殺意が結ぶ絆ですねぇ」
殺せんせー……たぶんほほ笑んでるのは言葉的に分かるが日焼けのせいで全く表情が見えんぞ。
さっさと沖縄の時みたく脱皮してくれよ。
放課後、俺たちは殺せんせーの計らいによりいつもより早くSHRを終らせ全員で竹林の様子を見に行った。
今は烏間先生に教わったカモフラージュも使い茂みから様子を見ている。
「……ねえ、これ竹林君にばれてない?」
「確かに今、目が合った気がするな」
「気のせいです渚君キンジ君、忍者のように変装した先生がいるからにはバレる要素が一切ありません」
『いや、先生がこの中で一番目立ってるから!』
「にゅや⁉」
むしろその黒さで真昼間から隠れることができるって本気で思ってたのか?
「殺せんせーの事は置いといて竹林のメガネの色つやも良さそうだし大丈夫そうだな」
「そうだな磯貝、むしろ竹林のヤツ普段より愛想よくないか?」
「前原君、その前に磯貝君のメガネが本体みたいな発言についてツッコもうよ⁉」
まあ、こちらのことはともかく竹林はどうやらA組になじめている様だ。
そう判断し、解散しようとしたところで理事長の息子が竹林に近付くのが見えた。
「なんだ浅野のヤツ、竹林に何言ってんだ?」
「岡島どうやら竹林のヤツ理事長に呼ばれたみたいだ、あの息子が言うには『逆境に勝ったヒーローの君が必要としている』らしいぞ」
「は? キンジ、浅野の声が聞こえたのか?」
「いや、殺せんせーに読唇術を叩き込まれた。探偵なら必須だって理由で……」
「探偵なら読唇術のひとつもできないとダメですからね」
岡島に読唇術を習得した経緯について説明していると、殺せんせーが何やら自慢げに良い始めた。
その発言は酷い偏見の為に被害にあった俺に対して、皆の同情した目を見てから発言してほしい。
岡島なんて生暖かい目で見ながら、俺の肩を叩いてきた。
「やめろ岡島、それが一番傷つく。取りあえず理事長室に先回りするぞ」
しかし先回りしたものの理事長室はカーテンのせいで中の様子が見えず、どんな会話がおこなわれていたのかが全く分からなかった。
理事長のヤツ、竹林に変な事を吹き込んでなければいいんだが……
その晩、今日は用事があるとのことで家に有希子と凛香が来なかった為俺は久しぶりに近所のコンビニにハンバーグ弁当を買いに出かけた。
「あ、前から来る人竹林さんじゃないですか?」
律の言葉に前方をよく見ると確かにあの髪型とメガネは竹林だった。
「よう、竹林」
「竹林さん、こんばんわ!」
「遠山と律か……そうだ、君達なんで放課後に本校舎に来てたんだい?」
やっぱりバレてたか……
「君たちにとって僕はもう必要ないだろう? そんな役立たずな上、A組に行った僕からこれ以上何を知りたいんだい?」
「何訳が分からない事を言ってんだ、そんなの竹林が仲間だから以外に理由がないだろう?」
「ッ⁉ だが僕は皆を裏切ったんだぞ!」
「確かに始業式のはびっくりしたが、もうそこに関しては全員気にしてない」
ブニョン、ブニョン
それに武偵なんて、依頼次第で昨日の友が今日の敵だったってこともあるしな。
「竹林さんはA組に行っても私達の仲間だと言うことには変わりないです」
「律……」
「武偵憲章4条『武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用のこと。』だな。 俺たちは竹林が選んだ選択を否定しない。まあ何かあったら相談ぐらいにはのってやるよ。たぶんE組の全員が同じ事言うと思うぞ」
「……」
ブニョン、ブニョン
「……遠山、そろそろ後ろの壁パンしている存在に触れるべきじゃないか?」
「俺には見えない、てか関わりたくない」
なんせ、めんどくさいことだけは目に見えているからな。
「キンジ君に先を越された……先生の仕事なのに……」 ブニョンブニョン
別に殺せんせーの仕事を奪ったつもりはないんだが……あと触手がブニョンブニョンうるさい近所迷惑だぞ。
これ以上めんどくさい事に関わりたくないため、俺と律は竹林に一言言って自宅に戻った。
殺せんせーはどうしたって? いた理由は竹林なんだし、無視したに決まってるだろ。
翌日、創立記念日で何故か集会をやるらしく俺達は今体育館に来ている。
「創立記念日なら普通休日にするもんだろ……」
「うちは進学校だから、仕方ないよキンジ君」
有希子に愚痴を言っていると集会が始まった。
いつも通り校長が壇上に出てE組に中傷混じりの話が始まると思いきや、壇上に出てきたのは竹林だった。
「胸騒ぎを感じる……」
「どういうことだ千葉?」
「竹林から殺気を感じるんだ、なにか大事なモノを壊しそうって感じるくらいに……」
千葉達の会話が聞こえてきたが、俺には全くそんな気配を感じさせない。
千葉の気のせいじゃないのか?
『僕のやりたいことを聞いてください』
竹林のスピーチが始まった。
『僕のいたE組は弱い人たちの集まりで本校舎の皆さんから差別待遇を受けています』
それは始業式で聞いた言葉、たぶん理事長の考えを言わされているんだろう。
だが違うことが1つ、竹林の表情だけは始業式よりも明るい。
『でも僕はそんなE組がメイド喫茶の次ぐらいに心地良いです』
その言葉で竹林に一部は笑みを大半は驚いた表情をしていた。
『僕はウソをついていました。強くなりたくて……認められたくて。でも役立たずで裏切った僕を何度も様子を見に来てくれる級友や色々な工夫を凝らして教えてくれる先生、家族や皆さんが認めなかった僕を……そんな僕をどこに行っても仲間だと言って応援し、同じ目線で接してくれた友人達がいました』
……? 一瞬竹林と目線があったような?
『世間が認める明確な強者を目指す皆さんは正しいと思いますし尊敬もしています。でも僕はしばらくは弱者でいい。弱いことに耐え、弱いことを楽しみ、強者の首を狙う生活に戻ろうと思います』
竹林のスピーチで慌てて教師や理事長の息子が出てきたが竹林は何かを見せると全員の動きが止まる。
アレはなんなんだ?
『理事長室からくすねてきました。私立学校のベスト経営者を表彰する盾らしいです。理事長は全てにおいて合理的で強い人だ』
そう言って竹林は懐から暗殺バドミントンで使うナイフを出している。
まさか竹林のヤツ……
――――ガシャン
俺の、いや全員の予想通り竹林はそのナイフで表彰用の盾を一振りで粉々に砕いた。
『過去同じことをした生徒がいるらしく、その人物はE組に行ったらしいです。その前例から合理的に考えて僕もE組行きですね』
そう言った竹林の顔はどこか吹っ切れたような顔だった。
あの集会があった日の翌日、烏間先生が校庭にE組全員を呼んだ為集まると分厚い本を持って待っている。
「全員集まったな。集まってもらったのは2学期から新しい要素を暗殺に組み込む技術についての説明のためだ。その一つの技術が火薬だ」
爆弾などを使えば確かに今まで以上に暗殺の幅が広がるな。
「ただ、寺坂君達がやったような危険な使用は厳禁だ」
そう烏間先生が言うと寺坂達と渚が何とも言えない顔を浮かべていた。
危険な使用って、コイツら火薬をどう使ったんだよ……
「その為にも火薬の取り扱いを1人には完璧に覚えてもらう。俺の許可と遠山君ともう一人のどちらかが監督しているのが火薬を使う時の条件だ。誰か覚えてくれる者はいるか」
周りは火薬の取り扱いに関しての本の分厚さに腰が引き気味だった。
俺の時はあの量のを1週間で覚えろって言われて、できない生徒は体罰が待ってたんだよな。
過去の出来事を思い返していると、1人の生徒が烏間先生の前に出てきた。
「勉強の役に立ちそうにないですが、これもどこかで役に立つかも知れませんね」
「竹林、暗記できるか?」
「ああ
本校舎組に少し遅れてだが、本当の意味でE組の2学期が始まった。
火薬の監督が決まり教室に戻ろうとすると凛香だけ上の空で座ったままだった。
「凛香、ボーっとしてどうしたんだ?」
そう聞くと凛香は顔を真っ青にして若干涙目になりながら、
「親が明日、三者面談に来るって。母さんにココの秘密、隠しきれる気しない……」
……マジ?
次回オリジナル回挟みます。