哿の暗殺教室   作:翠色の風

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46弾 凛香の時間

『立烏帽子』瑠美さんは確かにそう言った。殺せんせーの授業でチラッと出たがその名が示す人物は一人しかいない、そう『()鹿()()()』しか。

天女や鬼、盗賊と所説あるが共通しているのは坂上田村麻呂と2人で数多の鬼を退治した3本の妖刀を使う神通力使いだ。

 

「なあ凛香、俺のご先祖様よりよっぽどそっちのほうが人外じゃないか?」

「……言わないで、大岡家と親戚だけでも十分なのに……頭痛くなってくる」

 

凛香と軽口を言いながらも、対峙する瑠美さんから視線をそらさない。

かつて0課すら相手にしたくないと言われていただけあって、瑠美さんには隙が全く無かった。

それに加え、

 

(エアガンがこんなに軽いなんてな)

 

今の俺の装備はいつもと違い、エアガンに対殺せんせーナイフのみ。

いつも感じられる重みがないだけでこうも不安に感じてしまうものなのか……

横にいる凛香も隙を探しつつ、レッグホルスターに入れている2丁のエアガンに手を添えている。

 

「なんだいアンタら、手を出さないと始まりさえしないよ。最初は譲ってやるからかかってきな」

「「ッ‼」」

――――パパパパンッ!

 

無造作に歩き出した瑠美さんに反応し、俺達は手持ちのエアガンの引き金を引いた。

2人だけの為決して濃いとは言えないが弾幕が瑠美さんに迫る、しかし瑠美さんは避けるそぶりが一切なかった。

 

ビュオオーー

 

しかし、瑠美さんに当たる直前に強風が向かい風で吹いて全ての弾が瑠美さんに当たるどころか、あらぬ方向に飛んでいく。

 

「しまった、エアガンだから風はマズかったねぇ」

 

瑠美さんが頭をかきながらボヤいたが、その口ぶりではまるで風を操ったと言っているみたいだ。

 

「瑠美さん、今何をした?」

「キンジ見て分からないかい?」

 

やはり信じたくはないが、瑠美さんは白雪と同じで超能力を使うみたいだな。

 

「……それが大通連の力なのね」

「凛香どういうことだ?」

「殺せんせーの授業でチラッと言ってたでしょ。『黄金の太刀、大通連は数多のモノに変化させ竜巻になったり、豪雨をおこした』って。そこからの推測だけど、たぶん大通連は天候を操るんだと思う。そうでしょ母さん?」

「ほー、立烏帽子なんてマイナーな人物は知らないと思ったんだけどねぇ。その通りさ、大通連は天候を操る。そして代々の立烏帽子は神通力を使って操った天候をこう使うのさ」

 

正解だと言った瑠美さんは、今度は大通連を刀の腹の部分を見せるように横倒しにして頭上に構える。

すると、フワッ――と刀身を中心に風が集まっていく。

風と共に砂利や木の葉も一緒に纏わせ、大通連がまるで柄の先に刀身の代わりに小さな台風をつけたような姿になっていた。

 

「さあ、どうすんだい?」

「良いのか瑠美さん、そんなに自分の能力をベラベラ喋って?」

「ここは学校だろ? なら、これはアタシなりの授業兼試験さ。存分に学びな」

 

ニヤッと笑う瑠美さんと喋る事によって時間稼ぎをするがどうする。

エアガンはあの風じゃ意味がない、かと言って近接をしようものなら大通連の餌食だ。

 

「っと、このままじゃ遊べないねぇ」

 

そう言うと瑠美さんは纏わせていた風をやめたのだろう、刀に纏わせた風が徐々にだが弱まっていく。

 

「なんでやめたんだ、瑠美さん?」

「これは殺し合いじゃないからね、それにまず()()()()があるからさ」

「やること?」

「ああ、これだよ!」

 

そういうと、瑠美さんはかすかに刀身に残ってた風と共にブンッ――と横なぎに短刀を払う。

その風は見た目以上に強く俺と凛香は後方に吹き飛ぶ。

 

「うおっ!」「きゃあ!」

 

横からも突風が吹き、吹き飛んでいる途中で凛香ともつれるようにぶつかって、そのまま5、6mほど転がった。

このままでは追撃をくらうと慌てて起きようとするも身動きが取れない。

なぜなら俺の上にちょうどよく凛香が乗っているからだ、しかも運悪く俺の胸あたりを両足で挟み、俺の頭あたりに凛香の胸がくる位置で。

 

「凛香、はやくどいてくれ!」

「つぅ……あんな強風だったなんて」

 

俺の声に反応した凛香が起き上がろうとすると、

 

「そら、どんどん行くよ!」

――――バガァァァァァァン!

「ッ⁉」

 

短刀から発したと思えない音と共に、何かが飛んできて俺達はさらに後方に飛ばされる。

さっきと違うのは上に乗っていた凛香が俺の頭を胸に抱きしめるように抱えたことだ。

 

――フニュン

抱きしめられているため、凛香のジャスミンのような匂いと共に凛香の胸の感触が地面にぶつかる度に顔に伝わってくる。

……ああ、これはアウトだ。

 

――――ドクンッ‼

 

血流が体の中央に集まってくる。

まさか、瑠美さんも知っていたとはね。

その証拠に先ほどの瑠美さんが短刀から繰り出した衝撃波はもうやってこない。

 

「やっと準備運動は終わりかい?」

 

俺達が起き上がると同時に瑠美さんがそう言う。

瑠美さんがヒステリアモードについて知っていたのは確定だね。

 

「ええ、お待たせしました。ここからは本気で行かせてもらいますね」

「アンタが敬語って、なんかむずがゆいねぇ」

 

そう言う瑠美さんだが、先ほど以上に警戒していることがわかる。

瑠美さんに仕掛けるまえに、故意ではないとはいえ凛香にも一言謝らないとな。

 

「凛香」

「キンジ、謝らくていい。母さんが原因なのはわかってるから。今のキンジなら一人のほうが戦えることは分かってる、けどお願い私に合わせて」

 

凛香はそう言うが、その答えなんて最初から決まっている。

 

「当たり前だろ凛香。凛香と俺はパートナーだろ?」

「キンジ……ありがとう。私に考えがあるから、キンジ牽制をお願いできる?」

「ああ、まかせろ」

 

そう言うと凛香はエアガンをレッグホルスターに収め、対殺せんせーナイフを構える。

 

「作戦会議は終わったかい? なら、楽しい戦いの再開といこうじゃないか!」

 

その言葉を皮切りに、凛香は駆け出し俺は牽制の為エアガンによる『不可視の銃弾』を何発も撃つ。

 

――ブン!

 

瑠美さん目がけて飛んでいく複数の対殺せんせー弾は瑠美さんの一振りで全て違う方向に飛ばされていく。

だがそれは計算済みだ。

 

――――『銃弾撃ち(ビリヤード)』!

 

あらぬ方向に飛んでいく対殺せんせー弾に向けて撃ち、再度瑠美さんに向け飛ばす。

 

――ブン!――パパパパンッ!

 

瑠美さんが弾を飛ばし、俺が弾き返す。それを繰り返し徐々に弾幕は濃くなり凛香も9m、7mと徐々に瑠美さんに迫っていく。

 

「ああもう! うっとしいねぇ!」

 

瑠美さんが濃くなった弾幕を上に飛ばすと、目前に迫った凛香が攻撃を仕掛けた。

 

「今!」

「甘いよ!」

 

瑠美さんの回し蹴りが先に決まり、攻撃を仕掛けようとした凛香は後方の俺の所まで吹き飛ばされる。

 

「凛香!」

 

吹き飛んできた凛香を慌てて受け止めると凛香はナイフの代わりにあるモノを手にしていた。

 

「凛香……アンタそんな技も持ってたのかい?」

「まあね、無駄に遠山家に通ってなかったてことよ」

 

そう言う凛香が持っていたのは短刀、瑠美さんが戦う前に見せたわずかに短い方の短刀だった。

そして遠山家で相手に持ち物を奪う技といえば、『ヰ筒取り(いつつどり)』しかない。

遠山家の奥義である『秋水』を教えてもらっているのだから、他の技も習っているとは思ったが……いったいじいちゃん、ばあちゃんは凛香にどんだけ技を教えたのだろうか……

 

「母さん、私の予想通りならこの勝負恐らくこの宝刀が勝負の決め手になると思う」

 

そう言うと凛香は手にした宝刀を抜く。

 

「これなるは菩薩が鍛えし『小通連』。抜かば智慧は文殊が如く」

 

凛香は初めて触ったはずなのに、それが何か知っていたかのように言葉を紡いでいく。

 

「我、新たな立烏帽子が宣言する。盟友との契りにしたがい現れし鬼を、神を切り伏せん」

 

凛香の言葉が終わると秋に吹く風とは思えない、まるで新しい立烏帽子を祝福しているような暖かな風が吹いた。

 

「……キンジ合わせて。母さん、行くよ!」

「ククッ、まさかアイツに認められるなんてね。来なキンジ、凛香!」

 

少し雰囲気が変わった凛香と共に瑠美さんに迫り近接戦を仕掛ける。

 

――――キンッ!

 

凛香と瑠美さんの短刀がつばぜり合いになる。

 

――――ドゴンッ!

 

瑠美さんの蹴りを俺が防ぐ。

 

「キンジ、ナイフ!」

 

凛香の声と共に握っていたナイフを空中に放る。

 

「ふっ!」

 

それを逆手に掴んだ凛香はそのまま瑠美さんに切りかかるが、

 

「これぐらいで殺れると思うな!」

 

カウンター気味に短刀を振るう。

マズイ、瑠美さんのほうがリーチが長い分このままでは凛香より先に当たってしまう!

俺が割り込もうとしたが凛香の目が俺と合う。

 

『私を信じて』

 

その目はそう語っていた。

凛香を信じ俺は割り込むのをやめて、凛香の攻撃に合わせるように動く。

短刀が迫るが凛香は来ることが分かっていたかのように短刀の下をくぐって避ける。

そう、まるでヒステリアモード時の俺のようにスーパースローの世界の中で目で見てから動いたかのように。

そのまま短刀を避けた凛香のナイフが瑠美さんの首筋を、俺の拳が顎をそれぞれ捉え直前で止める。

 

「「チェックメイト」」

「……合格だ、凛香の武偵高進学は認めるよ」

 

ウオオオォォォー!

 

そう瑠美さんが言うと、見守っていた皆の歓声が響く。

 

「すげぇ、なんだよさっきの! 最後なんて殺せんせーと烏間先生以外見えてなかったぞ」

「超能力とか刀って、まるでジャ〇プの中にいるみたいだったわ……」

 

前原や不破を皮切りにさっきの瑠美さんとの攻防を皆が興奮気味に話している。

 

「キンジ君!」

 

終わった実感が感じられずそれらの様子を見ていると、有希子がこちらに駆け出し抱き着いてきた。

 

「有希子⁉」

「ケガはしてない?」

「ああ、大丈夫だ。なんともないよ」

「良かった、見ていてハラハラしたんだよ」

「スマン」

 

抱き着いてきた有希子と話していると横から不穏な空気を感じる。

 

「キンジ……神崎といい加減離れて!」

 

凛香のパンチを有希子と離れることによってなんとか避けたが今度は凛香がこちらにドサッと倒れてきた。

 

「「凛香(速水さん)!」」

「……」

 

受け止めて様子を確認すると、どうやら凛香は気を失っている様だった。

 

「やっぱり、倒れたみたいだねぇ」

「瑠美さん、凛香が倒れた原因が分かるんですか?」

「簡単な事さ、小通連を使ったからさ」

 

小通連の使い過ぎ?

いったいどういうことだ?

俺の疑問に答えたのは瑠美さんではなく、意外にも律だった。

 

「キンジさん、たぶんですが凛香さんは脳の使い過ぎなのだと思います」

「脳?」

「はい、先ほどの動きはキンジさんに酷似したものでした。加えて凛香さんが小通連を抜いた直後に言った言葉『抜かば智慧は文殊が如く』、この言葉から考えると小通連は脳のリミッターを意図的に外し処理能力を上げていると思われます」

 

ヒステリアモードと酷似しているな。

脳は極限状態になると使用率があがる。世界がスローモーションになったり、火事場のバカ力がそれにあたるのだがまさか刀を持つだけでその状態になるなんてな……

 

「まさか小通連の能力までバレるとはねぇ。なかなか面白い子達がいるもんだ」

 

そう笑いながら言う瑠美さん曰く、凛香は一晩寝れば大丈夫と言うことでひとまず俺は安堵のため息をつくことが出来た。

 

「キンジ、このあと私は用事がある。凛香を一晩アンタの家に泊めてやってくれ」

「はぁ⁉ ちょっと瑠美さん!」

 

まるで拒否権がないように小通連を回収した瑠美さんは、俺の言葉を無視して烏間先生の所に行ってしまった。

 

「烏間、今日は飲むぞ! 今すぐ獅堂とセアラも呼んできな!」

「速水さん、俺はまだ仕事が」

「仕事なんて明日にまわせるだろう、いいから行くよ!」

「速水さんのお母さん、私も行って良いですか?」

「なんだい殺せんせー、アンタもいけるクチかい? 酒は大勢で呑む方が楽しいってもんさ、いい店知ってるから一緒に行くよ」

「いい店ですか?」

「ああ、おかみさんが別嬪な店だよ」

 

そんな会話を殺せんせーとしつつ、烏間先生を引きずりながら瑠美さんは山を下りてった。

用事って呑みかよ! それなら、行く前に凛香を自宅に連れてってくれ……

凛香を抱えたまま横を見ると、有希子と律は背筋が凍るほどの笑顔を浮かべ

 

「私も今日泊まってもいいよねキンジ君?」

「キンジさん、今日はしっかり監視させてもらいます」

 

俺にとっての安息の時間はいつ訪れるんだよ……




次回からはしばらく原作の話が続きます。
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