哿の暗殺教室   作:翠色の風

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今回でイトナ回を終らせようとしたら、過去最長の結果に




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文章の変更、追加等を行いました


49弾 イトナの時間

殺せんせーを閉じ込めたシーツの上空にいた人物、アレは……

 

「イトナか⁉」

 

イトナは3mほどまで上に伸びたシーツ中に入り、続けて何かを弾く音や土をえぐる音がここにいても聞こえはじめた。

俺達は急いで殺せんせーの下に駆けつけようと茂みを出たが、目の前にシロが立ちはだかる。

 

「おっと君達、それ以上近づいたら殺すよ」

『ッ‼』

 

シロの表情は分からないが、シロから発する殺気に俺達は思わず足を止めてしまった。

 

(ホントに何者なんだコイツ、瑠美さんや烏間先生程じゃないがこの殺気タダモンじゃないぞ?)

 

シロの実力は分からない、だが今の俺達がどうこうできる相手じゃないのだけは確かだ。

相手の実力が計り切れないが、どう動いても対処できるようにベレッタに手をかけ警戒だけは怠らないようにする。

 

「そう警戒しないでくれ、そこから動きさえいなければ何もしないさ。そうだ! 中の状況が分からないのも不安だろう? 私の戦術を細かく説明してあげようじゃないか」

 

そうシロは言うが、殺気を緩めるつもりはないのだろう。フレンドリーな口調で殺気を放ったまま喋りだした。

 

「まず、シーツに見せて囲ったのは対先生繊維の強化布だ。これは丈夫でねぇ、戦車の突進でも破れない。難点は独特の臭いだったが、それも洗剤臭でごましている」

 

シロの説明が続くが、布一枚越しに繰り広げられている戦闘は激しくなっている。

その証拠に、布は破けはしないものの触手がぶつかることによって歪な形に四方八方膨らみ始めた。

 

「イトナには刃先が対先生物質でできた触手用グローブを装着させている。高速戦闘用に手を加えせいで、君達が使うナイフより威力が落ちるがぶつかる度に一方的にジワジワとダメージを与える」

 

今の俺達にこの状況をどうにかできる手段なんてなかった。

クソッ! このまま黙ってみてるしか方法はないのかよ!

 

「皆さん、先生は大丈夫です! いや、手を出さないでください!」

「だが、殺せんせー……」

「イトナ君も私の生徒だ! ならこれは先生が止めてあげないといけない!」

 

俺達に向かって殺せんせーが叫ぶ。

 

「なら望みどおりやってあげなさい、イトナ」

「これで、俺の勝ちだ!」

 

イトナの高らかな勝利宣言が聞こえた。

俺達も思わず殺せんせーが刺し貫かれた姿を想像してしまったが、何かを貫いた音は一向に聞こえてこないな。

それどころか、何故かシーツの隙間、上空あちこちから光が射し始めている。

 

「中で何が起きてんだ⁉」

「これもシロの作戦なの?」

 

中の状況が分からない俺達は、思わずシロを見てみると

 

「なんだ……なんなんだ、このパワーは⁉」

 

シロも知らないだと?

じゃあ、この光は……もしかして殺せんせーなのか?

 

――――パアッ……――――

 

光がさらに強くなったかと思うと、次の瞬間暴風が吹き荒れた。

合宿所の窓ガラスは割れ、戦車の突進にも耐えると言っていた強化布も散り散りに破け辺りに飛散する。

強化布が無くなった事により中の様子が見えたが、見えたのは光を発した本人であろう殺せんせーと上空で光に飲み込まれるイトナだった。

 

余りの光に思わず閉じた目を開けると、どうやらイトナは殺せんせーが受け止めたようでケガらしいケガは一切してなかった。

 

「シロさん、この手の奇襲は私にはもう通用しません。彼をE組に預けて大人しく去りなさい。あと私が下着ドロじゃないという正しい情報を流しなさい!」

『……』

 

最後の一言が最初の目的だったのはわかっている、けど今言うのかよ……

最後の最後で残念な担任になんとも言えない顔をしていると、

 

「わ、私の胸も正しくはBだから!」

 

いや茅野お前も何便乗してんだ!

 

「どう見てもお前、エ「何か言いたい事あるの、寺坂君?」い、イヤ何でもねー」

「やっぱり寺坂はバカだね」

「寺坂君……」

 

茅野の形相に若干怯える寺坂をカルマは笑い、他全員が憐みの目で見ていると急にイトナが苦しみ始めた。

 

『イトナ(君)⁉』

「触手が精神を蝕み始めたか……これだけの私の戦術が活かせないようでは、ここらがこの子の限界かな」

「シロ、どういうことだ」

「ここらで見切りをつけるって意味だよ遠山君。これだけやって結果が出せないと組織も金を出さない。彼に情が無い訳ではないけど、次の素体を運用するためだ。イトナ、あとは1人でやりなさい」

 

おい、マジで見捨てる気なのかコイツ。

俺達武偵も時には仲間を見捨てないといけない場面はある。だがコイツの場合、口では情があると言ってたがイトナの事を使い捨ての道具みたいな扱いで今言いやがったぞ。

 

「待ちなさい、それでも保護者なのですか!」

「……私はお前を許さない。お前の存在そのものをね。その為ならどんな犠牲も払ってやる」

 

底冷えするような声と共にシロは一足飛びで壁を乗り越え、暗闇に消えていった。

 

「う、がぁぁァァッ‼」

「イトナ君!」

 

叫ぶ声の方向を見ると、息も絶え絶えだったはずのイトナがシロとは別の方向に跳びだし姿が見えなくなった。

 

「なあ、殺せんせー。アンタ、なんでシロにあそこまで恨まれてるんだ?」

「……先生は地球を破壊する超生物です。先生に覚えがなくても恨まれるのは当たり前です。それよりもイトナ君を探しましょう、あのままではマズイ」

「わかった……」

 

殺せんせーははぐらかしたが、あのシロの言い方どう考えても地球を破壊する超生物だからって意味じゃない。

 

(前に言ったみたいに暗殺で聞けってことかよ……)

 

結局その日は、防衛省の人も加えイトナの捜索をしたが手がかりひとつ見つけることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

次の日、イトナの捜索を遅くまでやっていた為、少々寝不足気味のままいつものメンバーで学校に来ると昨日同様に皆が教卓近くに集まってるのが見えた。

昨日と違って、中心には雑誌ではなく口を尖らせた殺せんせーがいるな。

 

「悪かったってば、殺せんせー」

「俺らもシロに騙されて疑っちゃってさ」

「どーせ、体も心もいやらしい生物ですよ、先生は!」

 

真犯人については昨日の時点で皆に連絡を入れるように律に頼んでいる。

矢田や三村がケーキや肩もみしてるのを見たところ、殺せんせーはまだ機嫌が直ってないみたいだな。

 

「殺せんせー、いい加減機嫌直してくれよ」

「別に先生の機嫌は悪くありませんよ」

⦅めっちゃ口を尖らせて言われても……⦆

 

もう放置でいいんじゃないか?

めんどくさい担任を見ていると、律の本体の画面からニュースが流れはじめた。

 

「皆さん、これを見てください」

 

ニュースの内容は今日の朝から立て続けにケータイショップが破壊されたというモノだった。

店内はかなり損傷が激しい、ニュースでは複数人の犯行って言ってるが恐らく……

 

「なあ殺せんせー、これイトナのヤツだよな」

「ええ、この破壊の仕方は触手でないとまず出来ない。彼の容態も心配だ、急いで止めなくては」

「放っといた方が賢明だと思うけどねぇ」

 

カルマはそう言うが、俺と殺せんせーの意見は変わることはない。

律に次に襲われそうな場所を計算してもらい、殺せんせーと共にどう止めるかを考えていると岡島たちが困ったような顔をして近づいてきた。

 

「なあキンジ、殺せんせー。つい最近まで商売敵みたいなヤツをなんでそこまでして助けようとするんだ? 助ける義理なんてないだろ?」

「岡島君、至極単純な理由ですよ。先生は彼の担任だからです。それに先生は先生になるときに『どんな時でも自分の生徒から触手を離さない』って誓ったんです」

「……俺が憧れた人は敵すら救う人なんだ、だから俺も敵だったとしてもそれを理由に助けないって選択はしたくない」

 

律の計算も終わり、殺せんせーと共に街に出ようとすると誰かに肩を掴まれた。

振り向くとそこには

 

「磯貝?」

「イトナはクラスメイトだろ? なら皆で止めようぜ」

 

磯貝の言葉に皆も首を縦に振っている。

なんだかんだ言うが仲間思いでホントいいクラスだな、ここは。

 

「ヌルフフフ、では皆さんでクラスメイトを向かえに行きましょう」

 

 

 

律の計算によって、もっとも狙われる確率が高い店に行くと一歩遅かったようで店内はニュースで映った店同様にめちゃくちゃになっていた。

けが人がいないか慌てて中の様子を見に近付くと

 

「キレイ事も……遠回りもいらない。負け惜しみの強さなんて反吐が出る……」

 

恐らく朝のニュースで警護してたんだろう倒れている警察官複数人とイトナがいた。

 

「勝ちたい…………勝てる強さが……欲しい」

「やっと人間らしい顔が見れましたよイトナ君」

 

殺せんせーがまずイトナの説得をする算段になっている。

俺は先に倒れている人たちの様子を確認する。

 

「良かった、取りあえずは大きなケガはなさそうだな」

「キンジ君、こっちの人の応急処置は終わったよ」

 

もう一人はどうやら有希子が見てくれたようだが、応急処置だと?

有希子が診た警察官を見ると、どこから取りだしたのかピンセット、消毒液、ガーゼを使いってホントに応急処置を済ませていた。

 

「有希子そんなものいつの間に?」

「律が言ってた店がガラス張りのお店って知ってたんだ。応急処置の方法は前から少しずつ勉強してたの」

 

どうやらこうなる事を有希子は想定して、事前に準備していたみたいだ。

見た限り問題が無かったため、俺が見た方も有希子に応急処置してもらうよう頼んで俺は殺せんせーのほうに合流する。

 

「警察官はどっちも大丈夫そうだ」

「そうですか、それは良かった。 イトナ君、全てが終わったら空き地でバーベキューをしながら、皆で先生の殺し方を勉強しましょう」

「……」

 

イトナの反応を伺うが、返事はないが殺せんせーの出した肉に目が釘づけだった。

 

「そのタコしつこいよ~、ひとたび担任になったら地獄の果てまで教えにくるから」

「当然ですカルマ君、目の前に生徒がいる……なら教えたくなるのが先生の本能です」

 

イトナが暴れる様子もなく、このまま説得できると思いきや外からピンッと手榴弾のピンを抜く音が聞こえた。

 

「ッ‼ 皆、逃げろ!」

 

全員に聞こえるよう大声を出すも一足遅く、店内は煙に包まれる。

 

(なんだこれは?)

「ううっ⁉」

 

煙幕とも違う何かに警戒してなるべく息を吸わないようにしていると、近くにいたイトナの触手が解けている。

ならこれは対殺せんせー用の粉爆弾か‼

 

そう気づき見えない中、店外の方向に視線を向けると今度はエアガンの銃声が聞こえてきた。

恐らく殺せんせーに向けて発砲しているはず。

こんな手を使うやつなんて一人しかいない、シロのヤローだ!

 

「コレが第二の矢だ、イトナを泳がせたのも予定のうちさ。そしてイトナ、最後のご奉公の時間だ」

 

シロが合図を出したのだろう、一際大きい音が聞こえたと思うと続いて何か引きずるような音が聞こえてくる。

煙で何も見えないため、俺は何が起きたか確認する為にも銃声が止むと同時に店外にでる。

そこには軽トラの荷台につけられたネットランチャーによって捕獲されたイトナが引きずられているのが見えた。

 

「皆さん大丈夫ですか⁉」

「たぶん、全員なんとか……」

 

よかった、皆咳き込んだりはしているが無事なようだ。

 

「では先生はイトナ君を助けてきます」

 

煙が薄れてゆく中、殺せんせーが全員の無事を確認すると急いでイトナの後を追いかけるために跳びだしていった。

 

「皆、俺達も行くぞ。シロの事だ、まだ何か仕掛けるはずだ」

「当たり前だキンジ! あんの白野郎~……とことん駒にしてくれやがって……」

 

寺坂を筆頭に、全員の目に怒気が宿ってた。

もちろん俺もさっきのシロのやり方に腹を据えかねてる。

シロ、俺達E組を怒らせたらどうなるか目に物見せてやるよ。

 

全員で殺せんせーの後を追いかけようとしたが、有希子はイトナにやられた警察官が心配だから残ると言って、それを聞いた茅野、奥田と共に救急車の連絡などをしてもらうように頼んだ。

その際、有希子から

 

「絶対シロさんを1発殴ってね、キンジ君」

 

笑顔でそんな事を言ってたが、目だけは笑っていない。

……有希子だけは絶対に怒らしてはいけないな。

心の底からそう思い、残りのメンバー全員で殺せんせーの後を追いかけるため飛んでいった方向に走り出した。

 

 

 

殺せんせー達はかなり遠い所まで行ったようで、なかなか姿が見えず日も暮れ始めた。

ヤバいな、はやく追いつかないといけないのに……

 

「キンジさん、キンジさん」

 

焦りから走るスピードを上げていると、殺せんせーの場所を探すように頼んだ律がケータイの画面に映る。

 

「どうした、殺せんせーに何かあったのか?」

「いえ、殺せんせー達の位置は変化ありません。ただ……」

「ただ?」

「心配なんです。シロさんがキンジさん達に何をしてくるか……私にも予想がつきません。そんなところにキンジさんが行くのが……」

 

なんだ、律の声色や息遣いがいつもと違う。

聞く度に頭の中がドンドンマヒしていき、気づけば頭の中は律の声でいっぱいになっていた。

 

「だから約束してくださいキンジさん……無事に戻ってくることを……そしたら私、キンジさんのやりたいことを、ずっとやってあげますから……」

 

律の切なげな、それでいてどこか甘く柔らかな声色に頭がマヒしていた俺は、高ぶり始めた血流を抑えるなんてことはできなかった。

――――ドクンッ!

 

「律……これを狙ったんだね。悪い子だ、帰ったらお仕置きだよ」

「バレちゃったってことは、()()()んですねキンジさん?」

 

律は以前、俺のこの体質でサポートを変えると言ってたがこういうサポートもあるのか……

それにさっきの声色と息遣い、恐らく遠山家に伝わる女性を声で操る催眠術『呼蕩(ことう)』と同質のものだったのだろう。

まさか、使う立場じゃなくて使われる立場になるなんてね。

 

「ああ、律のおかげでね」

「キンジさん、先ほどシロさんはどんな手を使ってくるか分からないと言いましたが、おそらく対殺せんせー特化のみです。どうかお気をつけください」

「ありがとう律。約束通り、全員無事に戻ってくるよ」

 

律のサポートを受け、そのまま走り続けると……いた、殺せんせー達だ!

どうやら、イトナを救出しようとしてるが周りからの射撃で思うようにできないようだ。

 

「皆、たぶん敵が着てるのは対先生仕様の服だ。俺達で殺るぞ」

『おう!』

 

俺の指示で体術が得意な者が気配を消して上から敵を落とし、他の者が落とした敵を捕縛していく。

 

「凛香、軽トラに乗ってるヤツ等は俺達で殺るぞ」

「うん!」

 

俺が駆け出し、小通連を抜いた凛香がその後に続く。

 

「クソッ! こんなガキ共に!」

 

――――パパパパパパン!

 

俺達に向け、エアガンを撃ってくるが遅い。

俺と凛香はこんな弾全部弾くぞ!

俺は、ナイフを凛香は小通連を使い当たりそうな弾を全て切り伏せる。

 

「なっ⁉」

「「遅い!」」

 

――――ゴスッ!

 

一足飛びに荷台に飛び乗ったあと、2人同時に敵に向かい秋水を放ち一撃で気絶させる。

皆を見ると、木の上にいたヤツを全員捕縛し終わったようで立っているのはシロだけだった。

 

「どうするシロ、あとはお前だけだぞ」

「……」

「お前ら……なんで……」

「イトナ、勘違いしないでよね。シロにムカついただけでアンタなんて殺せんせーが行かなかったら放ってたんだから」

 

凛香は素直じゃないな。例え殺せんせーが行かなくても、俺と一緒に救出に行く気満々だったくせに。

 

「何キンジ、その目は」

「いや、何でもないよ凛香」

「……」

 

黙ったまま軽く頬を膨らます凛香の頭をポンポンと撫でながらも、黙ったままのシロからは視線を外さないようにする。

 

「去りなさいシロさん。イトナ君はこちらで引き取ります」

「いい加減、アンタが立てる計画に俺達を巻き込んだら邪魔をすることに気づけよ」

「チッ、怪物に群がる小蠅達がいるクラスか。大層ウザったいね。まあ、計画に根本的な見直しがあるのだけは認めよう。イトナはくれてやる。せいぜい2~3日の命、皆で仲良く過ごすんだね」

 

そう捨て台詞を吐いたシロは捕縛した部下を荷台に積み、そのままどこかへ消えていった。

 

「とりあえず、最初の難問は突破か。後は……」

 

残った問題はイトナの触手だ。これを解決しない限り、一件落着とは言えない。

今はシロが使っていた対先生ネットをバンダナにリメイクし、イトナの触手を抑えているがそれも所詮気休めだ。

さらに困ったことに、こんな時に頼りになるヒステリアモードは掛かりが甘かったようでもう解けてしまっている。

 

「殺せんせー、この触手なんとか切り離せないの?

「触手は意志の強さで動かすものです。イトナ君がコレに執着がある限り切り離せません。まずはそうなった原因を知らなければ……」

 

片岡の質問に答える殺せんせーだが、イトナが触手を求めてたのは今までの発言から恐らく『強くなりたい』で間違いないはず。

だが、何がきっかけでそう思うようになったのだけは分からないな……

 

「ねぇ、皆」

 

全員がどうすればと考えていると、ケータイで何かを見ながら不破が口を開いた。

 

「イトナ君がケータイショップばかり狙ってたのが気になってたんだよね。それで律と一緒に彼に繋がるものを調べたらコレが出たんだ」

 

そう言うと、全員のケータイにある会社の情報が出てくる。

 

「この堀部電子製作所の息子が『堀部イトナ』って名前なの。この会社、スマホの部品を世界的に提供していた町工場だったんだけど、一昨年に負債を抱えて倒産。社長夫婦は息子を残して雲隠れしたんだって……」

『……』

 

不破の言葉を聞き、なんとなくだがイトナが力や勝利を欲していた理由が分かった。

恐らくだが、その町工場は大きな企業か何かに人を取られたりしたんじゃないだろうか……圧倒的な財力などを使われて。

 

「くだらねぇ、それでグレたってだけじゃねーか。悩みなんざ重い軽い合っても皆あんだろ」

 

誰もがイトナの過去に口をつぐんでいる中、寺坂がイトナに近付きながらめんどくさそうに喋りはじめた。

 

「けどな、そんな悩みなんざわりとどーでもよくなったりすんだわ。俺らにこいつの面倒見させろ」

 

そう言うなり、寺坂、吉田、村松、狭間はイトナを連れどこかへ行ってしまった。

 

「おい、寺坂勝手に……」

 

寺坂の勝手な行動を止めようとするとカルマが俺を止めてきた。

 

「カルマ、なんで止めんだよ!」

「まぁ見てなってキンジ君、案外こういうのってアイツみたいなのが適任かもよ」

 

 

 

 

 

カルマはそう言ったが、イトナの様子が心配な俺達は寺坂達の後をつけることにした。

 

『寺坂君、どうやってイトナ君の心を開ける気なんだろう?』

『分からねぇ、少なくとも何か考えはあるんじゃねーか?』

 

最近、烏間先生が皆にもマバタキ信号(ウインキング)を教えた為、それで渚と話しながら寺坂達の様子を見ていると

 

「さて、おめーら…………どーすっべこれから?」

『……』

⦅これダメかもしれない……⦆

 

寺坂……せめてなにか考えてから行動してくれよ。

しかも寺坂が無計画だったせいで、村松と吉田の3人で言い合い始めたぞ……ホントに任せて良かったんだろうか?

徐々に不安になっていく中、唯一言い合いに参加してなかった狭間が村松の家が経営しているラーメン屋に行くのはどうかと提案し、寺坂達はそこへ向かうようだ。

 

 

俺達も少し遅れて着き様子を見ると、ここに来て初めてイトナが何か喋っているのが見えた。

 

「キンジ、読唇頼む」

「分かった……『手抜きの鳥ガラを化学調味料でごまかしている。トッピングには中心に自慢げに置かれたナルト。4世代前の昭和ラーメンだな』ってラーメンの解説かよ‼」

 

前原に頼まれ読唇したが、全く意味のない会話しかしていない。

てっきり重要な事話してると思ったんだが……

 

「おい、また移動したぞ」

「マジか岡島、皆追うぞ」

 

ラーメンを食べていたと思いきや、また直ぐ行動する寺坂達の後を追う。

今度は吉田の家のバイク屋だった。

今は、イトナを後ろに乗せバイクで走り回っている。

 

「なあ、どうみても計画あるように見えないんだが……」

「キンジ、アイツらただ遊んでるだけよ」

 

横にいる凛香もため息をつきつつ、任せようといったカルマをジト目で見ている。

吉田がターンをした勢いで飛んで行くイトナを見つつカルマは

 

「ま、アイツら基本バカだから仕方ないよ」

 

おい、カルマ! 分かってたなら、なんで任せたんだよ。

こんなんでホントに大丈夫なのか?

 

「狭間さんなら頭いいから何か作戦考えてるかも」

 

渚のつぶやきが聞こえ、頼みの綱となりつつある狭間を見てみると、

 

「名作復讐小説『巌窟王』よ。これ読んで暗い感情を増幅しなさい。」

 

狭間も同類だった……

 

「ちょっと……イトナの様子おかしくない?」

 

狭間もダメだったことに落胆していると、中村が不安そうな声を上げた為イトナを見る。

視界に写ったのは、対先生バンダナが破れ今にも暴れそうなイトナの姿だった。

 

「俺は適当にやっているお前たちと違う! 今すぐアイツ殺して勝利を……」

 

吉田達が逃げる中、寺坂だけはイトナの目の前から動かない。

 

「あのバカ、なんで動かないんだ。」

 

俺は急いで寺坂の下に向かおうとしたが、そこでまたカルマが俺の腕を掴み止めてきた。

 

「カルマ、いい加減にしろ! 止めないと寺坂が危ないんだぞ!」

「キンジ君、もうしばらく我慢してみな。面白いもんが見れるはずだからさ」

 

クソ、カルマのヤツなんてバカ力なんだよ。

カルマによって動くことが出来ない俺は寺坂達の様子を見ることしか出来なかった。

寺坂は逃げるどころか、イトナに近付いていく。

 

「おうイトナ。俺もあんなタコ今日にでも殺してーよ。でもな、テメーにゃ今すぐ殺すなんざ無理なんだよ。無理のあるビジョンなんざ捨てちまいな、楽になるぜ」

 

寺坂のヤツ、なんでそこでイトナを挑発すんだ。そんな事をすれば……

 

「うるさい!」

 

――バチッィ‼

 

その言葉と共に放たれた触手だったが、予想と違い寺坂は触手を肘と足で受け止めていた。

 

「キンジがやってきたのに比べれば屁でもねーぜ。まあ吐きそうなぐらいに痛いのは変わらねーけどな」

 

何故か俺に非難の目が向けられる。あの時は寺坂の守るためにも仕方なかったんだよ!

 

「なぁイトナ、一度や二度負けたぐらいでグレてんじゃねーよ。いつか勝てりゃいーじゃねーか!」

 

そう言って寺坂はイトナを殴るが、イトナは避けるそぶりも見せずに殴られている。

 

「100回失敗したっていい、3月までにたった1回殺せば俺達の勝ちなんだ」

「耐えられない……次の勝利のビジョンが見えるまで俺は何をしたらいいんだ」

「んなもん、今日みてーにバカやれって過ごすんだよ。そのためにE組がいるんだろうーが」

 

寺坂の言葉を聞き、イトナの目から執着の色が消えていた。

 

「ほら見なよキンジ君。あのバカ適当な事を平気で言うけどさ、こーいう時力を抜くのはバカの一言なのさ」

「カルマの言う通りだったな……」

 

皆で見守る中、殺せんせーがイトナ達に近付いた。

 

「イトナ君、今なら君を苦しめる触手細胞を取り除けます。大きな力を失いますが、代わりにたくさんの仲間が得られます。明日から殺しに来てくれますか?」

「……勝手にしろ。もう触手も兄弟設定も飽きた」

 

 

 

 

 

 

翌日、何事なかったように学校は始まる。

ただ1つ変わったとすれば……

 

「おはようございます。イトナ君、調子はどうですか?」

「最悪だ。だが弱くなった気はしない、最後は必ず殺すぞ……殺せんせー」

 

そう、イトナが改めてこのクラスに加わった。

新たに加わって29人となった3年E組の始業のベルはいつも通り今日も鳴るのだった。

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