ある日の放課後、俺、律、凛香、有希子のいつものメンバーであるモノを買うために隣町まで出かけていた。
「なあ、ホントにこんなに必用なのか?」
「当たり前じゃない」
「そうだよキンジ君。これでも少ない方なんだから」
マジかよ……
思わず荷物持ちとして持たされた大量の服を見てしまう。
そう、今俺達は律がヒューマノイドとして活動できるように服などの生活用品を買いにきてたのだ。
さらに不幸な事にこの荷物は全て俺の家へと持って帰らなければならない。
ホント、なんでこうなったんだよ……
「ねぇ、『萌え箱』ってこれからどこに住むの?」
律を改めて皆に紹介したあの日、片岡の何気ない疑問からこの問題は始まった。
「それはもちろん『人間卒業』さんの家ですが問題ありますか?」
「「問題大アリよ(だよ)!」」
律、俺の家に来るつもりだったのかよ……
例えロボットでも今の見た目は女の子だ。そんな状態で一緒に住むなんて、それこそヒステリアモード的によろしくない。
俺ももちろん反対なのだが、なんで俺より先に凛香と有希子が叫ぶんだ?
お前らも普段俺の家に入り浸って、やってることが変わりないのに。
「『萌え箱』、その姿なんだから『人間卒業』と一緒に住むのはマズイわ」
「『ツンデレソルジャー』の言う通りだよ! もしもの事があるかもしれないし……」
有希子の後半の言葉が声が小さくて聞こえなかったが、俺の平穏が無くなるのはマズイ。
「『萌え箱』、俺も反対だ」
「『人間卒業』さんもですか?」
「ああ、俺がヤバイ」
律が悲しそうな顔で見てくるが関係ない、俺のこれからの生活がかかってるのだ。
それにヒステリアモードのトリガーを知ってるんだ、こう言えば律にも俺が嫌がる理由が伝わるだろう。
「今聞いたか?」
「ああ、『人間卒業』のヤツ『萌え箱』にも手を出す気だぞ……」
「『神崎名人』と『ツンデレソルジャー』だけじゃ足りないってか……殺してぇ」
「クソッ、なんで『人間卒業』ばっかなんだよぉぉぉ」
なんでお前らが反応すんだよ、特に変な事言ってないだろ!
ここで俺が反応すると余計に騒ぎだすのは経験済みの為、男どもを無言で睨んでいると凛香が気づけば横にいて構えていた。
「あの、なんでそんなところにいるんですか『ツンデレソルジャー』さん?」
「もちろん、こんなところで堂々と言う変態な『人間卒業』を躾けるためよ」
なんで伝わってないんだよ!
凛香、お前俺の体質知ってるだろ⁉
助けを呼ぼうと周りを見渡すも有希子以外全員が俺から視線をそらした。
唯一視線をそらさなかった有希子に助けを求めようとしたが冷徹な笑顔を浮かべていた。
どう考えても
――――ゴスッッ‼
問答無用の秋水によって俺は後ろの壁を壊しながら外まで吹っ飛んだ。
校舎が木造だった為、いつもより軽症ですんだが……
この壁の修理代、俺に請求がこなければいいなぁ。
頭から飛んで行った為、若干ふらつきながら穴が開いた壁から教室に戻ると烏間先生も戻ってきており何やら皆に説明しているとこだった。
「では今説明した通り『萌え箱』は『人間卒業』の家に住むことになった。納得してくれるか?」
「…………はい」
若干すねたように凛香が頷いてるがちょっと待ってくれ
「何がどうなって俺の家に住むことになってんだ⁉」
思わず俺は烏間先生に詰め寄ると、烏間先生は他に聞こえないよう小声で
「先ほど部下が開発者と会ったが本人と間違いないと判断した。だがその開発者は遠山君と住ませてAIの進化を促せるように上に進言したんだ。俺個人としてはどうもこの状況がきな臭い、念のため監視もかねて律君の事を頼む」
確かに開発者は最初律がやって来た時に俺のデータ採集もかねて襲うよう律に命令していた。
その点から考えたら理には適っているが……先ほども思ったが日常生活で暗殺に役立つデータが手に入るのだろうか?
……よくよく考えたら、今までの暗殺方法は日常生活からひらめいたものが多々あったな、一概に役に立たないとは言えない。
それに平賀さんが大半を作っている為欠陥云々のほうが心配だ、すぐに連絡できるものがいた方がいいだろう。
そう思った俺が烏間先生のお願いを了承した。
その後、律が着ている物以外用意されていないことが分かり、女子が必要なモノが分からない俺はクラスでも頼りやすい2人に頼んだ結果、服などを買うために隣町まで出かける事になったのだ。
「あ、キンジさんあそこの喫茶店ハニートーストが絶品って噂なんですよ、行きませんか?」
律に服を引っ張られ意識が回想からそちらに向く、ヒューマノイドになってから律は五感を感じとれるようになったのだ。
そのため最近の律は今まで感じたことがない感覚が嬉しく、特に味覚を楽しんでいる節がある。
今回もそのハニートーストの味が知りたいのだろう。
前に食べたものがどうなるか聞いたら、原理は理解できなかったがどうやら分解されて律のエネルギーに変換されているらしい。
平賀さん、ヒューマノイドって言うよりも人間を作ったのではないのだろうか……
「わかったから服を引っ張んな律、2人も良いか?」
「キンジさんありがとうございます!」
「キンジの奢りならいいわよ」
「私も良いよ」
奢りって、まぁつい数日前に今月分の金も国から振り込まれたし良いか。
「分かったよ、ただし1つだけだ」
「ケチ」
「文句あんなら、奢んねーぞ」
凛香と軽口を言いながら、俺達は律が言っていた喫茶店に入った。
「いらっしゃいませー。って、なんだキンジ達も来たのか?」
「磯貝⁉ お前なんで?」
店の人が来店の挨拶をしたと思いきや、その人物は磯貝だった。
……中学生ってバイトできたのだろうか?
「母親が倒れて知り合いに無理言って働かせてもらってんだ、他のヤツも来てるしその近くに座ってくれ」
親の為か……相変わらずのイケメンだな。
磯貝が指さした方を見ると前原、岡島、渚、片岡、茅野がいた。
取りあえず俺達は磯貝に律がハニートースト、凛香と有希子がシフォンケーキ、腹が減った俺はサンドイッチを頼んで皆の席の隣に座る。
「ようキンジ、わざわざ隣町まで何しに来たんだ?」
「俺達は律の服とかを買いにな、前原達こそなんでココに?」
「磯貝が働いてるの知ってるから冷やかしだ」
「邪魔してやんなよ」
「分かってるって、ちゃんと注文もしたぜ」
そう言って磯貝を見ていると、俺達が注文したものを持ってこちらにやってきた。
「注文って紅茶1杯だろ。キンジ、これ注文な」
「いいだろ、バイトしてんの黙ってやってんだから」
「はいはい、ゆすられてやりますよ」
「なあ、磯貝。俺紅茶なんて頼んでないぞ?」
来たのは、注文したハニートーストとサンドイッチ、それにシフォンケーキ2個と紅茶が3つとコーヒーだった。
「せっかく来てくれたんだ、サービスだよ。あ、店長には内緒な」
そう言って、俺達より前に来ていた奴にもオマケだと言って紅茶を入れると磯貝は他の客に呼ばれそちらに行ってしまった。
「「「イケメンだ……」」」
アイツは友達には優しいし、目上の人には礼儀正しい。
そして地味な仕事も率先して行い、気配りもできる。あそこまで人格が良い奴なんて他にいないだろうな。
「アイツの欠点なんて貧乏くらいだけどさ それすらイケメンに変えちゃうのよ。私服は激安店のを安く見せず清潔に着こなすしよ」
「「「イケメンだ」」」
「キンジと大違い」
「おい凛香なんで俺が出てくる」
「こっちが用意しないと武偵高の制服着てくるし」
「「「確かに」」」
夏にも言ったが、俺だって普通の服ぐらいある。
ただ制服の方が楽で防弾性だから、着る機会が無いだけだ。
「そう言えば、アイツがトイレ使った後紙がキレイにたたんであったな」
これ以上俺に飛び火してはたまらない為、話題を磯貝に戻すと
「「「イケメンだ……」」」
「あ、紙なら俺もたたんでるぜ。三角に」
「「「汚らわしい」」」
律以外の女子が全員、汚物を見る目で岡島を見ていた。
岡島が言うとこうも印象が変わるとはな……
それからも磯貝のイケメンエピソードが続く。
「見ろよ、あのマダムキラーぷり」
「「「イケメンだ」」」
「あ、僕もよく近所のおばちゃんにおもちゃにされる」
渚はもっとシャンとしろ。
「未だに本校舎の女子からラブレターを貰ってるしよ」
「「「イケメンだ」」」
「あ……私もまだもらうなぁ」
「「「イケない恋だ」」」
武偵高にも時々そっち系のヤツがいるが……知り合いに出てこない事を祈りたい。
「イケメンにしか似合わない事だってあるんです。磯貝君や先生にしか……」
「「「イケメ……何だ貴様⁉」」」
声がすぐそばから聞こえて、全員がそこに視線を向けると殺せんせーが律と共にハニートーストを食べていた。
国家機密がこんなところに来ていていいのか⁉
「殺せんせー、コレ美味しいですね」
「そうですね律さん。このおいしさは磯貝君のバイトを目を瞑る価値が十分にあります」
見る見るうちにハニートーストが皿から消えていく。
律、おかわりはやめてくれよ。意外にコレ高いんだから。
「先ほどまでのやりとりは見てました。皆さん磯貝君がイケメンでもさほど腹は立たないでしょ、それは何故?」
何故って……なんでそんな事を聞くんだ?
その答えは至極単純なものだ。
「そんなの磯貝が良いヤツだからだよ」
俺の言葉に全員が頷き、それを見た殺せんせーは嬉しそうな顔をしていた。
「おやおや、情報通りバイトをしている生徒がいるぞ」
「いーけないんだぁ~磯貝君」
そんな言葉と共に喫茶店に入ってくる5人組。
アレは確か始業式で見た5英傑だったか?
「これで二度目の重大校則違反。見損なったよ磯貝君」
アレが例の理事長の息子か。
取りあえず、店の中では他の客に迷惑ということで俺達は外に出る。
「浅野、この事は黙っててくれないかな。今月いっぱいで必要な金は稼げるからさ」
「………そうだな、僕もできればチャンスを上げたいが。君たちのクラスはどうも良くない噂が流れているからな」
そう言って浅野は俺や律を見てくる。
もしかしてコイツE組の秘密に感づいたか?
警戒をしつつ、何か企みを考えてそうな浅野を見ていると
「そうだ、今回の事を見逃す代わりにある物を見せてもらおうかな」
「ある物?」
「闘志さ。椚ヶ丘の校風は社会に出て闘える志を持つ者を尊ぶからね。丁度よくもうすぐ体育祭もあるし、そこで今回の行為を帳消しにできるほどの尊敬を得られる闘志を見せてもらうよ」
磯貝と浅野のやり取りを見ていると、他の5英傑たちが俺の方にやってきた。
「遠山キンジ、俺達と今回の体育祭で勝負をしようぜ」
「はぁ? なんでだよ?」
「前の侮辱忘れたとは言わせないぞ!」
確か瀬尾だったか? 怒鳴ってくるが侮辱って何か俺したか?
「キンジ君、始業式の事だよ」
有希子に小声で言われ思い出す。
まだ、アレ引きずってんのかよコイツ等……
「ニ人三脚、借りもの競争、そして棒倒し、これで勝負だ。俺達が勝ったらその場で土下座して謝罪してもらうぞ」
なんか気づいたら勝手に勝負する流れになってんだが……めんどくさいな。
それになんで一々コイツ等は上から目線で言ってくるんだよ。
「遠山キンジ、さっきから黙ってるがもしかしてビビって声も出ねーのか?」
「はぁ、お前ら「その勝負受けるわ」凛香⁉」
適当にあしらおうとするとその前に凛香の口が開いた。
「アンタたち程度が勝負を挑んだこと、後悔させてあげる」
「決まりだな、遠山キンジ体育祭楽しみにしとけよ」
とんとん拍子に話が進み、気づけば俺は5英傑と勝負するはめに。
「…………凛香」
「見ていてムカついた」
「ムカついたって、勝負するの俺なんだぞ」
「キンジなら勝てるでしょ?」
言外で「必ず勝て」と言ってくる凛香に、俺は思わずため息をついてしまった。
どうやら今回も他人事ではすみそうになさそうだ……
次回、体育祭開幕!