哿の暗殺教室   作:翠色の風

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更新が遅くなって申し訳ございません


55弾 体育祭の時間 3限目

借りもの競争の放送が鳴った為、参加者の待機場所に行くと俺以外にもE組からはイトナが待機していた。

 

「ようイトナ」

「キンジか、さっき他の組のヤツ等が遠山殺すって血走った目で言ってたぞ。何かしたのか?」

「5英傑か?」

「いやA組以外も言っていたぞ」

 

A組の5英傑ならともかく、なんで関わった事がない他のクラスまで恨まれてんだ?

 

「そんな事言われる覚えがないんだが。 そもそもここの学校ではE組以外で知り合いなんていないし」

「…………可哀想なヤツ」

「お前もたいして変わんねーだろ!」

 

イトナの毒舌に思わず反論しつつ、隣に座り小声で作戦の確認をする。

 

「それよりもイトナ、分かってるよな?」

「ああ、本気でやらない。俺は棒倒しの秘密兵器なんだろ?」

「そうだ。くれぐれも頼むぞ」

 

イトナは触手に耐えられるように肉体改造をされていたらしく、その身体能力は触手が無くなった今も常人を凌駕している。

俺のヒステリアモードも棒倒しまではもたないから、アイツらに対抗するには恐らくイトナがジョーカー(切り札)になるはず。

それとなくA組の待機場所を確認すると、そこには見るからに中学生に見えない4人が浅野と喋っているのが見えた。

アイツらは浅野がわざわざ棒倒しの為に海外から呼んだみたいで、律が調べた経歴によるとそれぞれレスリングジムの次代のエースや世界的格闘家の息子など各国で騒がれている中学生たちだった。

 

(浅野のヤツ、ホントに一般人なのか? どうやってあんな奴らと知り合ったんだよ……)

 

それとなく見ていると、4人のうち一人と目が合ってしまった。

隠す必要もないためそのまま見ていると、怪訝な顔をしたかと思うと次に驚いた顔をして浅野に問い詰めるように何か聞いている。

アイツは……たしか律が言うには全米アメフトのジュニア代表の奴だったか? 何を浅野に聞いているんだ?

読唇しようと二人の口の動きに集中していると横からイトナが肩を叩いてきた。

 

「なんだイトナ? 急用じゃないなら後にしてくれないか」

「用は俺じゃない、お前の前にいる奴だ」

 

俺の前にいる奴?

読唇することを諦め、顔の向きを前に戻すとそこには体を震わせる瀬尾が立っていた。

 

「なんだ瀬尾だったのか。俺に何か用か?」

「………後悔させてやる」

「は?」

「遠山キンジ! 1度ならず2度も俺に恥をかかせたな! 借りもの競争で恥かかせてその場で土下座させてやる!」

 

瀬尾は怒鳴るだけ怒鳴るとそのままどこかへ行ってしまった。

恥かいたって、俺は何もしてないんだが……

 

「なあイトナ、俺はあいつに何をやったんだ?」

「アイツがドヤ顔で『逃げずに来たか遠山キンジ。今すぐ土下座したら恥をかかずにすむぞ』って大声で言ったのをお前が無視して、それを見ていた下級生の女子に笑われていた」

 

……それアイツが勝手に自爆しただけじゃないのか?

なんとも言えない空気が漂いつつあったが、借りもの競争はそんな空気とは関係なしに始まる。

俺やイトナは人数の割合が他の組より多い為、同様に男子が多いA組と最後に走る事になった。

列に並ぶと、そこにはやはりと言うか先ほど怒鳴っていた瀬尾が睨みながら荒木とともに隣に並んでいた。

睨んでくる瀬尾を気にせずレースを見ていると、借りている物はE組も含めボールやらメガネなど比較的簡単に借りれるモノばかりだった。

E組を嵌めてこない事に安堵しつつ、そのままレースを見る。

待ってる間に瀬尾あたりが絡んでくるかと思ったがただ睨むだけで、その状態のまま俺達の番が回ってきた。

 

『位置について……よーい』

 

静かにトラック上で待っていると、合図の人の声だけがグラウンドに響き渡る。

 

――パァン

 

ピストルの引き金が引かれると共に俺とイトナは駆けだした。

お題はトラック上にある箱から引いて選ぶことになっている。

さてお題は何だろうな……

適当に掴んだ紙を引き抜き、紙を広げるとそこに書いてあったお題は、

 

『王子様』

 

…………は?

おかしい、およそ日本ではまず見ることがないようなお題が書かれていた気がする。

俺は思わず目をこすって、もう一度手にした紙を見る。

 

『王子様』

 

やはり見間違いではなかった、なんで王子様なんだ!

 

「おい! このお題めちゃくちゃだろ!」

「キンジ、お前もなのか?」

 

イトナもどうやら無理難題の紙を引き当てたようでお互いのお題を確認する。

イトナの方は『賞味期限が近いもの』と書かれていた。

誰がそんな物を学校に持ってくると思ったんだよ……

 

「どうした遠山キンジ、まさかお題を持ってこれませんとかないだろうな?」

 

イトナとどうするべきか悩んでいると、少し遅れてやってきた瀬尾がニヤニヤと厭味ったらしく言ってくる。

周りを見渡せば係のヤツっぽいのもニヤニヤと笑っているのが見えた。

恐らくグルなんだろうな、まさか最後の最後でこんなお題を仕込んでくるとは。

 

「イトナどうする、このお題」

「俺は宛がある。お前のお題は…………安心しろ、屍ぐらいは拾ってやる」

「あっさり見捨てんじゃねーよ」

「だがお前の課題なんてマンガみたいな学校じゃないとムリだぞ」

 

マンガみたいな学校……そういえばこの前、有希子が俺の家で読んでいたマンガにも学園モノで王子様扱いされている男が出てきていたな。確かイケメンで女子にモテモテなヤツが……

そこまで考えた所で俺の頭に一人の人物が出てきた。

文武両道で面倒見が良く、聞いた話では未だに女子からラブレターを貰うらしい。

さらに水泳部の女子達には、その凛々しさから『貴公子(プリンス)』のあだ名で呼ばれていることも。

 

「俺の課題に当てはまる人が1人だけいた」

「なら急ぐぞキンジ、A組のヤツもまだ借りてない。急げば間に合う」

 

イトナの言葉に無言で頷いた後、俺達は迷うそぶりも見せず真っすぐE組の待機場所に向かって走る。

 

「メグ! 俺と一緒に来てくれ!」

「へ? 私? 遠山君、いったいお題って何なのッ⁉ キャア‼」

 

返答を待っている暇がない為、俺は素早くメグをお姫様抱っこしてゴールに向かって走る。

一瞬、何人かから殺気を感じたが気にしてる時間なんてない。

幸いE組の待機場所はゴールに一番近く、瀬尾たちより早く判定係の場所まで着くことが出来た。

 

(まあ。問題はここからなんだよな)

 

メグは男子より女子のほうが人気だ。なら判定も女子にしてもらう方が良いな。

見渡せば、何人かいる判定係のなかで下級生だろう磯貝のようにピョコンと髪の毛が一部だけ跳ねているセミロングの女の子を見つけた為、そこに向かう。

 

「お疲れ様です先輩。早速お題を確認させていただきますね」

「ああ頼む」

「え、『王子様』? こんなお題入れたかな?」

恐らく瀬尾と一部のヤツの独断の動きなんだろう、女の子は覚えのないお題に不思議がっている。

 

「おい、お前。早く俺のお題を確認しろ!」

 

ヤバいな、女の子が俺のお題に不思議がっている間に瀬尾たちが判定係の所まで来てしまった。

女の子はまだ入れた覚えがないお題に首を傾げているため、一度メグを降ろしこちらに気づくよう女の子の頬に片手を添えこの子が驚かないようになるべく甘い声で声をかける。

 

「ねぇ君、俺は『王子様』のお題でメグを連れてきたんだけど大丈夫だったかい?」

「ふぇ? あ、は、はい! 片岡先輩の『貴公子』のあだ名は本校舎の方でも有名ですので、だ、大丈夫です!」

「そうなんだ、ありがとう」

 

判定係の子にOKを貰った俺はメグをもう一度抱きそのままゴールに向かう。

その結果、瀬尾とは僅差だったがなんとか1位になることができた。

 

「クソ、クソ、クソ‼ 遠山、これで勝ったからっていい気になんなよ! 最後の棒倒しでぜってぇ勝つからな!」

 

2位の瀬尾はゴール直後にキレ気味にそう言ってくるが、最後ってどういうことだ?

 

「瀬尾、俺とお前たちの勝負は3本勝負だから、2勝した俺の勝ちだろ?」

「俺達は二人三脚、借りもの競争、棒倒しの3種目で勝負だとしか言ってねーよ。それぐらいバカな頭でも覚えとけ!」

 

そう言われあの時のやり取りを思い出すと確かに3本勝負と言ってなかったな。

これならもう少しルールを決めとけば良かったが仕方ないか。

 

「そうだったか、なら棒倒しも俺達E組が勝たせてもらおうかな」

「ケッ、いつまでも余裕でいられると思うなよ」

 

瀬尾はそう言うと3位でゴールした荒木を連れ、早々にその場を立ち去っていった。

 

「このクソガキ! 誰が賞味期限が近いっていうのよ!」

「女子に比べて肌のハリとかないだろ」

「だまらっしゃい!」

 

瀬尾たちが立ち去ったもその場に残っていると、最後にイトナがイリーナ先生を連れてゴールするのが見えた。

 

「ちょっとトオヤマ聞いてよ。このガキが私の事を賞味期限切れの女って言ってくるのよ」

「事実だろ」

「だからアンタは黙ってなさい! う~トーヤマー」

 

半泣きのイリーナ先生が片腕に抱きついてくる。

どうやらイトナの宛はイリーナ先生だったみたいだが、それは流石に女性に失礼じゃないかな?

 

「イリーナ先生、気にしないで大丈夫ですよ。女性に賞味期限なんてありません、むしろ俺はイリーナ先生みたいな大人な女性が素敵だと思ってますよ」

 

半泣きのイリーナ先生を囁くようにあやしていると、目の前のイトナが俺の後ろを指さした。

心なしか先ほどまで涙目のイリーナ先生も顔が青く見える。

 

「「ねえ、キンジ(くん)?」」

「…………」

 

底冷えする聞きなれた声が聞こえてきた。

ゆっくりと声のする方向に顔を向けると、そこには視線だけで人を殺せそうな形相の凛香と笑顔だが瞳には一切の光がない有希子が立っていた。

 

「ねえキンジ君。いつまで片岡さんをお姫様抱っこしてるつもりなの?」

 

有希子に言われ、まだゴールしてから降ろしていなかったことに気づいた俺は慌ててメグを降ろす。

 

「すまないメグ、後ありがとうな」

「憧れだったお姫様だっこが……じゃあ遠山君が私の王子様になるのかな……」

「め、メグ?」

 

俺が再度呼びかけるもメグはうわの空でブツブツとつぶやくのみでマトモな反応が返ってこない。

 

「神崎、私は片岡を正気に戻すから私の分もお願い」

「うん、速水さん」

 

どうすればと考えているうちに、凛香は上の空のメグをおぶってE組の待機場所にさっさと戻っていった。

それと同時に俺の体操服の首元を誰かが掴む。

 

「キンジ君、さすがにさっきの借り物競争は私も速水さんも許せないかな。ちょっと校舎裏でオハナシしない?」

「待ってくれ有希子、この後磯貝たちと作戦会議が待ってるんだ。その後ゆっくりと2人っきりで話すのは無理かな?」

「大丈夫だよ。磯貝君には少し遅れるって話してあるから、今すぐ二人でオハナシできるよ」

 

切れつつあるヒステリアモードでどうにかお話を先延ばしにできないか聞くが、あっさりと先に手を打たれて為す術がなかった。

そのまま有希子はどこにそんな力があるのか、ニコニコと笑顔で俺をズルズルと校舎裏に向けて引きずっていく。

グラウンドが遠くなっていくなか、逃げる事を諦めた俺の瞳に写ったのはこちらに向かって敬礼するイトナと胸の前で十字を切って祈るビッチ先生の姿だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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