哿の暗殺教室   作:翠色の風

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およそ1ヶ月ぶりの投稿。
なんだかんだと投稿できず、申し訳ないです



56弾 体育祭の時間 4限目

「なあ有希子そろそろ……」

「ダーメ。これはキンジ君への罰なんだもん」

 

体育祭のプログラムも折り返しになったところで昼休みになり、今は何故か有希子が俺の膝を枕にして横になっていた。

 

「キンジ君がところかまわず女の子に手を出すのが悪いんだよ。手をあげないだけマシだと思うんだけどなー」

 

有希子はあのまま俺を本校舎裏の芝生まで連れていくと、棒倒しに響くから殴らないが代わりにここに座れと言われこうなったのだ。

凛香や白雪のように問答無用で攻撃や暴走をしない分、有希子はマシなのだろうが代わりにヒス持ちの俺にとって精神的に辛い事を時たまやってくることがある。

幸いな事に今回は1度ヒスったおかげで血流が大人しい為、素直に従ったがもう昼休みも半ばを過ぎたぞ。

 

「なあ有希子、いつまでコレやっているつもりなんだ?」

「ん~……昼休みが終わるまでやってくれたら許してあげる」

「昼休みが終わるまでって……そしたら昼飯は?」

「ふふっ。武偵高の教師に同じ事言ったら、キンジ君怒られるよ『戦闘中にご飯を食べるのはイタリア軍だけだ』って。この後の棒倒しは戦闘なんだから、それが終わってから私が作ったお弁当を一緒に食べよ♪」

 

有希子、ここも武偵高も軍の養成学校じゃないからさすがにそれはないだろ。

まあ暗殺の訓練受けたり、教師は軍の教官に引けを取らない人達が務めたりしてはいるが……

非難を込めた目で有希子を見るも、どこ吹く風のように有希子は涼しい顔をしている。

その顔を見て言ってることが、冗談じゃないと分かり思わずため息をついてしまった。

 

「……有希子、そろそろマジでやめてくれ。こんなの凛香に見つかったら「私に見つかったら何か悪いのキンジ?」……」

 

秋水を打ってくると言いかけた所で校舎の影から声がした。

声がした方向を見るために顔を上げると、そこには先ほどの借り物競争以上に怒っている凛香が……

 

「あれ速水さん、片岡さんはもう大丈夫なの?」

「片岡はもう正気に戻したわ。それよりも神崎、なんでアンタキンジの膝で寝てんのよ!」

「だって速水さん、キンジ君と二人三脚した上に頭撫でてもらってたじゃない。いくら『()()()』をやっていたからって不公平だと私は思うんだけどな」

 

俺1人が理不尽な暴力が来ることに身構えている中、のんきに有希子が凛香とそんな会話をする。

だが、そこで無視できない言葉が有希子の口から出てきた。

 

「……待ってくれ、なんで有希子が『鷹の目』の事を知ってんだ⁉」

 

確かに俺はA組が本校舎の体育館で練習すると言うことを聞き、凛香に『鷹の目』を頼んだ。

しかしその事は、漏洩防止もかねて一緒に作戦を考えた磯貝と殺せんせー、後は頼んだ凛香しか教えていない。

 

「ちょっと考えたらわかるよ。A組が助っ人を呼んで浅野君がそれ頼みで行くわけないから連携を合わすためにも練習するはずでしょ?

そうなったら監視して陣形とかの把握するほうが作戦を立てやすい、それには狙撃手の優れた視力でバレないように監視する『鷹の目』が最適でしょ。

『鷹の目』が長時間できるのはうちのクラスだと生粋の狙撃手の千葉君か狙撃の才能もある速水さんの2人だけ。監視が連日する可能性もあるから、棒倒しの練習する必要がある千葉君は除外。なら出来るのは速水さんだけじゃない」

「「…………」」

 

余りにも考えていたことが筒抜けだった為、俺と凛香は声を失ってしまった。

そんな状態の俺達を気にせず有希子は

 

「私だって何もしてないわけじゃない。私は速水さんほどの戦いの才能はないのは自覚してる。それでも目指している場所は速水さんと一緒だし、それを諦めたわけじゃないよ。だから私は私なりに速水さんに負けない才能や知識を蓄える。殺せんせー風に言うなら、第2第3のナイフを磨いて狙ってるんだから」

 

と普段の有希子だと絶対に見ない、そう宿敵(ライバル)に向けるような挑発的な笑みを浮かべていた。

有希子のそんな笑みを見た凛香はさっきまでの怒気はどこにいったのやら

 

「……今回は引くわ。けど神崎、私は絶対に負けないから」

 

と一言言うなり、そのままグラウンドの方に戻っていった。

話にいまいちついていけない中、凛香の後ろ姿を見つつ俺は有希子に聞きたかったを聞く。

 

「なあ、『目指したい場所』って夏休みに言っていた『目標』と関係あんのか?」

「え? う~ん、関係あるって言われたらあるかな」

「そうか、その場所も目標も叶うといいな」

「今のままならかなり先になりそうだけどね」

「ん? 何か言ったか?」

「何でもないよ、キンジ君♪ 今はキンジ君の膝を堪能しようかなって思っただけだから」

 

結局、有希子は宣言通り昼休みが終わるまで膝から動く事はなく、午後の部が始まり磯貝たちの所に戻る頃には俺の膝はジンジンとしびれていた。

 

 

 

 

 

「やっと解放された……」

「キンジ、いろいろ大変そうだったな」

「そう思うなら2人を止めてくれ磯貝」

「それは俺には厳しいかな」

 

E組の待機場所に戻ると磯貝が声をかけてきた為、軽く不満を言いながら俺はその隣に座る。

受け答えする磯貝の顔を見ると顔は笑っているが緊張の色が隠せておらず、作戦表を持っている手も震えていた。

 

(浅野の戦略もそうだが、本当の目的が俺達を痛めつけることだから仕方ないのか?)

 

それにしてもE組の暗殺訓練などは国家機密な為、まずバレない。

それなのに浅野は各国で騒がれるほどの中学生を呼んでいる。

その点からアイツが本気で俺達をつぶす気で来たことが分かる、あんなスーパ-中学生を4人も呼ぶなんて余りにも過剰戦力すぎないか?

 

「……殺せんせー」

「どうしました磯貝君」

「俺にはあんな外国人の助っ人を呼べるほどの語学力も伝手もない。俺の力はとても浅野には及ばないんじゃ……」

「そうですねぇ……率直に言えばその通りです。浅野君は一言で言えば『傑物』です。彼ほど完成度の高い子は高校生も含め手の平で数えれるほどしかいないでしょうね。

君がいくら万能でも、社会に出れば彼のように君より上がいるのは当たり前です」

「どうしよう……俺のせいで皆が痛めつけられたら」

 

ハァ、磯貝のヤツ1人で背負いすぎだな。

 

「磯貝、武偵憲章1条を覚えているか?」

「へ? ああ『仲間を信じ、仲間を助けよ』だろ、キンジ?」

「そうだ。武偵とか関係なく1人の力なんてたかがしれてる、お前のピンチくらいサクッと全員で助けてやるから、俺達を信じろ」

「キンジ君の言う通りです。磯貝君、君は仲間を率いて戦う力、その点は浅野君をも上回れます。そしてそれは君の人徳がなせる業です。先生も浅野君よりも君の担任になれた事が嬉しいです」

 

殺せんせーの言葉で磯貝の顔に緊張の色は見えなくなった。

 

『間も無くA組対E組の棒倒しが始まります。各組所定の位置についてください』

 

ちょうど良く放送も鳴ったな。

「磯貝、相手の陣形とそれに対するこっちの陣形、頭に入ってるよな?」

「ああ、もちろん。皆‼ いつも通り殺る気で行くぞ‼」

「「「おお‼」」」

 

 

 

 

棒倒しのルールは一般的なルールと変わらず、勝敗は相手の棒を先に倒すだけだ。

そして武偵中や武偵高と違い殴る蹴るや武器は禁止。

いや武偵高は都教委が監視しているから今は無くなったんだったな。

まあ武偵高の事は置いといて、椚ヶ丘の特別ルールはチームの区別の為、A組のみ長袖と帽子の着用なところだ。

 

「なあ岡島、ヘッドギアは帽子に含まれるのか?」

「キンジ気にするだけ仕方ねえよ。ようはあっちだけ防具有りなんだろ」

 

分かっていたとはいえ、この差別はひどいな……

 

「最初の相手の布陣は予定通りだ。皆『完全防御形態』だ!」

 

磯貝の指示のもと俺達は棒を囲むように布陣を組む。

 

『E組がA組に挑戦状を叩きつけたこの棒倒し‼ 日頃の不満を力ずくで晴らしたいのはわかりますが、戦力差にビビってガチガチの全員守備の陣形だー!』

 

周りから俺達に向け笑い声が聞こえてくるが、それを無視し相手の出方を伺う。

 

「……攻撃部隊、指令(コマンド)F」

 

浅野の一言にケヴィン率いる部隊がこっちに向かってきた。

 

『な、なぁケヴィンはん、昼飯と一緒に怪しげな薬飲んではったな。アレもしかしてヤバイ薬どすえ?』

『……さあな、そんな事よりお前は英語の訛りを今すぐ直せ』

 

瀬尾とケヴィンの会話を読唇してみたが、ケヴィンのやつドーピングまでやってんのかよ。

そこまで棒倒しに勝ちたいのか?

 

余りにも相手がなりふり構ってない状況の為、思わず顔を引きつらせているとケヴィンがグラウンド真ん中あたりで止まった。

 

『遠山キンジ! お前が喋れる状態の今、聞きたいことがある!』

 

俺に? さっき俺を見て驚いていたことと関係あるのか?

 

『俺が遠山金次だが、なんだ?』

『お前に1つ年上の兄はいるか?』

 

1つ年上? いやアイツは俺の事を中学3年と思っているから実際は同い年か……

俺の兄弟は金一兄さん1人だけで年も少し離れている。それに俺は双子でもないため同い年の弟もいない。

 

『兄はいるがもっと年が離れている』

『他人の空似か……残念だ、兄弟ならもう一度会えるかと思ったんだがな』

『もういいか』

『ああ、これで何の気兼ねもなくお前たちを吹っ飛ばせる』

 

そう言うとケヴィンはグッと腰を落とし助走をつけて迫って来た。

 

「クソが……」「無抵抗でやられっかよ!」

「吉田! 村松!」

 

我慢できず、吉田と村松が磯貝の言葉を無視して予定通りにケヴィンに向けて走り始めた。

 

――ドゥッ

 

ケヴィンのタックルによって、まるで大型動物の突進を食らったかのように吉田と村松は軽く10mは吹っ飛び客席に飛び込んでいった。

 

(パッと見だが受け身はしっかりと取れていたがあそこまで威力が高いなんて)

 

予想以上の威力に全員がゾッとしていると、タックルを放った本人はまた悠々と歩いて近づいてくる。

 

『亀みたいに守ってないで攻めてきたらどうだ? 抵抗してこないヤツをやるのは嫌いなんだがな』

『安心しなよ。あいつらは俺達の中でも最弱だし、今度は『不死身の遠山』が君の相手をしてくれるよ』

『へえ、それは楽しみだな。まるで俺が知っているスーパースターみたいだな』

 

おい、カルマ。俺はそんな化け物じみてないぞ。

それに似ているアメリカのスーパースター様は人間じゃないと言いたいな。

と言いたい事は沢山あるが、そんな事はここでは言えない。

何故なら、作戦としては俺への攻撃がこの後の行動に最終的に棒倒しの勝利に繋がっているのだ。

ため息のつきたくなる状況だが、表には出さず真剣な表情で布陣から1歩前に出る。

 

『赤髪が言った言葉、期待させてもらうぞ』

『ゴチャゴチャ言ってねーで、かかって来いよ』

 

俺の言葉を皮切りにケヴィン率いる偵察組が突っ込んできた。

 

(この技はタイミングが重要だ。ギリギリまで引き付けて…………)

「今だ! 『触手』だ、跳べ‼」

 

突っ込んでくるケヴィン達に対し、俺はその場に伏せるように体を沈めながら走る。

何故低い姿勢を取るかと言うと、父さんに散々体に刻み込まれた遠山家の技『潜林』を出すためだ。

この技は本来、相手の足と足の間を蛇のように潜り抜けついでに敵のアキレス腱を切る技だ。

ヒステリアモードならアキレス腱を切る代わりに合気道の要領で相手を好きなように操れるが、今はそのヒステリアモードではない。

だが、一般人やスポーツという枠に収まっている相手ぐらいなら今の状態でも地面に転がすことはできる。

俺がケヴィン達とすれ違う頃には、

 

『は?……ぐふっ‼』

 

ケヴィン達からしたら気づいたら地面に倒れた上に、磯貝たちの下敷きになっているという状況ができあがる。

 

『A組はどうしたんだ⁉ 自ら倒れてE組に上から抑えられているぞ⁉ しかもE組はおきて破りの自軍の棒を倒し、瞬く間にA組5人をがんじがらめだ!』

 

凛香の監視でわかった陣形から、ケヴィン率いる斥候隊が最初に出ることは分かっていた。

そこで考えたのが(触椀)が囮となって誘導し、(触手)で抑え込む『触手』作戦。

これによって、低リスクで斥候隊を抑える。

念の為、両翼が来た時も考えていたが磯貝の予想どうりに動いてくれた。

その後の行動を見るため、浅野を見ていると「両翼遊撃部隊 指令Kだ」と唇の動きから相手の次の動きを知る。

 

「磯貝、指令Kだ!」

「了解キンジ! 攻撃部隊『粘液』で行くぞ‼」

「「「了解‼」」」

 

磯貝の指示によって、カルマ、前原、木村、杉野、岡島そして磯貝本人と俺で両端から攻めてきた敵を無視し中央突破を図る。

 

『E組ここで中央突破を図るも、攻めに入ったA組がE組を追って防御に戻る!』

 

放送席の言葉を聞くまでもなく分かっていた行動だ、あくまでA組は俺達をつぶすために行動しているんだからな。

攻めていた両翼がこちらにきたことにより、ジョゼとカミーユ率いる格闘チームも加わりA組は包囲網を作ってきた。

 

「作戦通りジョゼとカミーユ以外は任せるぞ」

 

俺の言葉にカルマ以外が頷き、客席の方向に散開した。

 

『なんとE組客席まで逃げ始めた‼ それを追うA組で会場はパニックに‼』

「カルマ今更だがいけるよな?」

「何言ってんのキンジ君。そんなの当たり前じゃん、ついでにさっき覚えたヤツも試したいしね」

 

カルマと最後の確認を取ったところで、俺とカルマは他の生徒を避けながらジョゼとカミーユの正面に立つ。

 

『きなよ。せっかく遠いところからきたんだ、遊び相手ぐらいにはなってよね』

『『上等だ』』

 

カルマがジョゼとカミーユ二人の母国の言葉で何か話している。

2人の表情からして挑発したのが容易にわかり、怒りの表情のまま突っ込んできた。

 

「おいカルマ……あんまりっ挑発するなよなっ!」

「そっちのほうが、色々楽だと思ったんだけどっね!」

 

俺とカルマは会話しながら、ジョゼとカミーユの攻撃を受け流す。

烏間先生の技術を盗んだカルマと武偵として叩き込まれた戦闘技術をもつ俺からしたら、格闘と言っても所詮スポーツという枠内の技術の2人の動きを捌くのは簡単だった。

それ以上に驚いたのは、カルマの動きだ。

俺が一度しか、しかも直前に見せた潜林をコイツは使って捌いている。

しかも、最初はぎこちなかったのに使うたびに洗練された物になっていき20を超えた頃には完璧に自分の技のように使ってた。

 

(もしかしたらカルマのヤツ、秋水や桜花も使えるんじゃないのか?)

 

そんな事を思いながら、周りを見渡すと戦場は客席を含めグラウンド全域に広がっていたが1つだけ言いたい。

 

「グラウンドでいちゃついたヤツだ潰せ!」

「リア充は消えろ!」

 

なんで俺だけ他のヤツより狙われるんだ!

 

『ジョゼ、カミーユ他のヤツを抑えろ!』「橋爪、田中、横河は守備に戻れ! 混戦の中から飛び出す奴に気を付けろ!」

「キンジ君」

「ああ、そろそろだな」

 

ジョゼやカミーユ以外のヤツも含め何十回か捌くと浅野がこちらに気をしはじめ指示を出し始めた。

それを見たカルマが声をかけてきて俺は小さい声で答えるように呟く。

 

「磯貝、木村は要注意だ! 遠山、赤羽は一人で行くな、最低でも4人で攻めろ! ッ⁉なんだと‼」

 

大声で指示を出していた浅野が、驚いた声を上げた。

 

『な⁉ どこから湧いた⁉ いつの間にかE組の2人がA組の棒に‼』

 

最初に吹っ飛んだ吉田と村松には客席に隠れるように外側から、A組の棒に回ってもらった。

A組からしたら負傷退場したように思えるが、俺達からしたらアレぐらいの威力は日常茶飯事だ。

この2人を合図にE組の攻撃が始まる。

 

「逃げるのは終わりだ‼ 全員『音速』‼」

「「「おう‼」」」

 

今まで客席で逃げまったり、攻撃を捌いていた俺達は全員A組の棒に飛びかかる。

 

『なんとこれを機に客席などに散らばった7人が追手を振り切り、一斉に懐に入ったー!』

 

俺達は自軍を守っていたA組を踏み台に棒に体重をかける。

 

「どうよ浅野、どんだけ人数差があってもここに登っちまえば関係ないだろ」

「ちっ」

 

前原の言葉に反論できず浅野は舌打ちをする。

 

『フンガー、降りろチビ!』

 

守りとして攻めてこなかったサンヒョクが杉野を振り落とそうと躍起になるが、一緒に棒も揺れる。

浅野も韓国語でやめるように言っているが、何故だ。なんでコイツはE組に負けそうなのに冷静なんだ⁉

浅野の冷静さに嫌な予感を感じていると、浅野は韓国語から日本語に変え俺達に向けこう言った。

 

「コイツら全員、僕一人で片付けれるから支えるのに集中しろって言ったんだ」

 

――ブワッ

――バキッ‼

そう言うなり浅野は合気道の要領で吉田を投げ落とすと、棒を中心に遠心力を利用して岡島を蹴り飛ばした。

 

『なんと浅野君、一瞬で2人落とした!』

 

コイツ、本当にただの中学生なのか?

今の動きだけでも、わざわざ呼んだ4人を軽く凌駕したうえ本当の意味での武術の動きだった。

少なくとも沖縄の時のカルマと同様に強襲科Bランクぐらいなら素手でのタイマンで圧勝できるぞ。

 

「君たちごときが僕と同じステージに立とうなんて烏滸がましいんだ。 蹴り落とされる覚悟はできてるんだろうね?」

 

一般人という括りから外れた浅野に警戒していると、浅野はまるで踊ってるかのように上から蹴りを繰り広げる。

 

――ドゴッ、ドガッ、バキッ

 

1人、また1人と棒から落ちていく。

気づけば、A組の棒にしがみついているのは俺とカルマ、そして杉野だけだった。

 

「存外、しぶといのもいるみたいだね」

「あいにく幼馴染の拳の方がお前の蹴りより重いんだよ。これぐらい何百発くらっても落ちる気しないな」

「なら落ちるまで蹴るまでさ」

 

浅野の言葉に皮肉を込めて答えると、より一層蹴りは激しくなる。

 

「浅野、これだけは言っといてやるよ。『仲間を信じ、仲間を助けよ』個人の力なんて、たかがしれてんぞ」

「なに⁉」

 

俺の忠告の後、浅野は本日二度目の驚愕の声を上げる。

 

『E組さらに増援ーーーーッ‼』

 

そう今まで守備に回っていた他のメンバーが攻めてきたからだ。

これは敵のE組の潰すという目的を逆手に取った行動、なんせ浅野1人を指示できない行動にすればコイツらは何もできないんだからな。

 

「慌てるな‼ 支えながら1人ずつ引き離せ!」

 

小山が慌てて指示するがもう遅い。

 

「来い、イトナ‼」

 

磯貝の最後の指示が終わったからだ。

 

「ヌルフフフ、秘密兵器は最後まで取っておくものです」

 

どこからか聞こえてくる殺せんせーの声ともにイトナが跳ぶ。

トドメとばかりに浅野のズボンを掴み、イトナの勢いに合わせて棒を押し倒す。

最後に見た浅野の顔は驚愕と疑問を混ぜ合わせ、トドメに苦虫を噛み潰させたような顔をしていた。

 

『大番狂わせーーーッ‼ まさか……まさかの人数的に不利だったE組の勝利だーーー!』

「「「ワァァァァァァ‼」」」

 

E組最後の種目である棒倒しは、今まで侮蔑の目で見ていた他のクラスすら俺達の勝利を祝うほど盛り上がる結果となった。

 

 

 

 

体育祭の全種目が終わり、イスなどを片付けていると巨体の人物が1人こちらにやってきた。

 

『遠山キンジ、さっきの戦いは完敗だった。俺が知るスーパースター見たいだったんだが、ホントに兄弟じゃないのか?』

『ケヴィンか、俺の兄弟は年が離れた兄だけだ。それに完敗って言ってもこっちは搦め手で攻めただけだぞ』

『それでもだ、こっちも全力でやってあそこまで完璧に負けたんだ。いい経験を積ませてもらったさ』

『いい経験?』

『ああ、例えば情報戦の大事さとかな。もし次やるならば、この敗北を糧にしてキンジに勝ってやるさ』

 

敗北からの経験か……ケヴィンはこのまま真っすぐ育てば良い選手に育ちそうだな。

 

『それは楽しみだな。次会う時はアメリカについて色々話しを聞かせてくれよ』

『ああ、機会があれば俺が気に入ってる場所なんかも案内してやるさ』

 

棒倒しをやっている時とは違い、気さくに接してくるケヴィンと握手する。

その後、ついでにとアドレスを交換するとケヴィンは他の助っ人メンバーと共に本校舎に戻っていった。

 

「キンジ、何話してたんだ?」

「ん? まあ、世間話みたいな話だよ」

 

俺とケヴィンが話していることに気づいた前原が聞いてくるため、ざっくりと説明していると浅野が他の生徒に指示を出しているのを見かける。

 

「おい浅野‼ 二言はないだろうな? 磯貝のバイトの事は黙っているって」

「………僕はウソはつかない。君達とは違って姑息な手段は使わないからな」

 

……外人の助っ人は姑息な手段に入らないのだろうか。まあ、それを言ったら凛香に頼んだ鷹の目も姑息と言われそうだけどな。

前原と共に何とも言えない表情をしていると、

 

「それにしても瀬尾たちはどこにいったんだ……」

 

と言いながら、再び本校舎へと消えていった。

 

「そういえば有希子や凛香、それに律もいないな……」

 

浅野の呟きにE組側も見当たらないメンバーがいるため探していると、件の見当たらないメンバーの声が本校舎裏から聞こえてきた。

 

「いったい何やってんだよ……」

 

そう言ったところで俺の動きは止まる。

 

「それでコイツ等なんて言い訳してたっけ神崎?」

「『俺達が負けた時の条件なんて言ってないから、E組、ましてやバカにしてきた遠山キンジに下げる頭なんかない』だよ、速水さん」

「速水さん、神崎さん、この常識外れな4人には脳の矯正が必要と思いますが、どうでしょうか?」

「「そうね(だね)、律」」

「「「「ヒ、ヒィィィィィ」」」」

 

そこには3人の女子に囲まれ、腰を抜かして泣いている浅野以外の5英傑が……

こちら側からは見えない女子の顔だが、その表情が容易に想像できる。

その現場を見た俺の行動はと言うと、

 

「触らぬ神に祟りなしだな……」

 

その場をそっと立ち去る以外の選択肢はなかった。

その後、囲まれた5英傑がどうなったかは俺は知らない。

本校舎では、女遊びをやりすぎて復讐にあった5英傑が女性恐怖症になったと同時期からしばらくの間噂が流れるのだった。

 

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