哿の暗殺教室   作:翠色の風

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57弾 責任の時間

「ねえキンジ、相談があるんだけど」

 

体育祭も終わり中間テストまで残り2週間となったある日の放課後、律に数学で解らなかった部分を教えてもらっていると凛香が声をかけてきた。

 

「どうしたんだ凛香?」

「私達もっと暗殺の訓練したほうがいいのかなって……勉強もしないといけないのはわかってるけど……」

 

最近、凛香の様子が少しおかしかった理由はこれか。

 

「凛香、焦る気持ちもわかるが『悲観論で備え、楽観論で行動しろ』だ。()()()()()()5()()()()()()、中間が終わった後にでも烏間先生に訓練の事は相談しようぜ」

 

これは武偵高だけじゃなく、兄さんや父さんにも散々叩き込まれた事だ。

人は焦った時ほど視界は狭くなり普段なら失敗しないような事で失敗する。

だからこそ、楽観的に考えて心に余裕を持たせる必要があるのだ。

そういえば殺せんせーが暑苦しいテンションで試験勉強を教えていても、凛香だけじゃなくて皆どこか落ち着かない様子だったな。

 

凛香が納得するように説明しながら、他のヤツにも一言釘を刺しとくべきか考えていると携帯が鳴った。

着信相手は晩御飯を作るからと俺の家のカギを渡して先に帰った有希子からだ。

 

「もしもし、どうしたんだ?」

『キンジ君大変‼ 帰り道に岡島君達が屋根伝いにフリーランニングをしてるの!』

「なっ⁉」

 

烏間先生に裏山以外で使うなと言っていたのに何やってんだ⁉

 

『今追いかけているところなんだけど、心配だからキンジ君も来て!』

「わかった、すぐに行く」

 

電話を切り、カバンなども持たず俺は律や凛香を連れて外に出る。

 

「律」

「分かっています、岡島さんの携帯のGPSから予測経路及び合流までの最短ルートを検出済みです。キンジさん速水さん、私が先行しますので付いてきてください」

 

律の後ろを遅れずに俺と凛香は山道を駆け下りる。

 

「何がそんなに焦ってるのよキンジ。確かにフリーランニングは危険だけど、そこまで焦る必要はないでしょ?」

 

ついてきてはいるものの、俺達がなぜ焦っているのか分から無いようで不思議そうに凛香が聞いてきた。

 

「確かに今の岡島たちなら、大けがする可能性はほとんどないだろうな」

「なら……」

「俺達が心配してるのは被害者のほうだ」

「え?…………ッ⁉ 律もっとスピード上げて‼」

 

今ので凛香も分かったようだな。

俺達が心配しているのは、岡島たちがケガをさせる危険性だ。

裏山と違って、通っているルートに人が絶対にいないなんて確信はない。

万が一、着地地点に何も訓練をうけていない人がいたら……

俺達はさらに走る速度を上げて、岡島たちのもとへ向かう。

 

 

 

 

「キンジさん、もうすぐ合流します!」

 

あれから5分ほど走り小道へと曲がると有希子がしゃがんで倒れているじーさんを診ており、それを岡島たちが顔を青くして見ていた。

 

「クソッ、遅かったか‼」

「キンジ!? 違う……ワザとじゃないんだ、まさかこんな小道に荷物いっぱいチャリに乗せたじーさんが来るなんて思『――ゴスッ‼』グッ」

 

焦ったように言い訳する岡島を凛香が黙らせるように殴った。

 

「どんだけ言い訳してもケガさせたことには変わりないでしょ」

「…………」

「落ち着け。凛香、烏間先生にこの事を連絡してくれないか」

「……わかった」

 

黙る岡島を凛香が睨むように見ているため、落ち着かせる意味でも連絡を頼み俺は被害者の状態の確認をする。

 

「有希子」

「あ、キンジ君。たぶんだけど右大腿骨あたりが骨折しているみたい。さっき近くにいた人に救急車と添え木になるものを頼んだところだよ」

 

方向から考えて、恐らく3階建てのアパートから飛び降りた所でぶつかったんだろうな。

状況から考えて最悪な状況じゃなかったことに安堵していると、俺達が曲がってきたのと反対方向から一人の男がやってきた。

 

「救急車は呼んだよ、10分ぐらいでここに来れるみたい。後、添え木になりそうなのはこんなのしかなかったんだけど大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます」

 

有希子が男から段ボールとタオルを受け取り、俺と男性が手伝いながら応急処置をしていく。

 

「これで良し。痛みはどうですかおじいさん」

「ああ。さっきよりはマシだよ、嬢ちゃん」

「もうすぐ救急車がくるのでもう少し待っていてくださいね。キンジ君とお兄さん、手伝ってくれてありがとうございます」

 

そう言って有希子が頭を下げる為、俺も一緒に救急車の手配をしてくれた男性に頭を下げる。

 

「役にたって良かったよ、そういえば君はバラを買ってくれた子じゃないか?」

 

そう言われたところで俺は手伝ってくれた男性が、凛香の誕生日に花を勧めてくれた花屋の男性だった事に気づいた。

 

「ええ、あの時はありがとうございます。おかけで渡した子も喜んでいました」

「それは良かったよ、僕も見繕ったかいがあったってもんさ」

 

花屋の男性と話しているうちに救急車がやってきたんだろう救急車のサイレンが聞こえてきた。

 

「じゃあ僕は仕事があるから後は任せても大丈夫かい」

「はい、いろいろありがとうございます」

「これぐらい人として当然さ、できたら次に会う時は客と店員として会いたいね」

 

そう言って花屋の男は仕事に戻るために小道を出て行った。

花屋がいなくなって直ぐに救急車が到着し、じーさんが搬送される。

俺達は搬送先を隊員に聞いた後、いまだに顔を真っ青にしている皆を連れて病院へと向かった。

 

 

じーさんの搬送先である総合病院に着くと、先に着いていた烏間先生が入口で待っていた。

 

「右大腿骨の亀裂骨折だそうだ。程度は軽い為2週間程で歩けそうだが問題は君達の事だ、今は部下が口止めと示談の交渉をしている」

 

じーさんの状態を知ると、皆はさらに顔を下に向けた。

烏間先生は怒る事はせず無表情のまま俺達を見ていた。

正直説教なんてガラではないが、コレに関しては言わないといけない。

そう思い皆を視界に入れるため振り返ると、ゾクッと鳥肌がたった。

 

「……殺せんせー」

 

俺達の後ろには怒りで真っ黒な色をした殺せんせーが立っていた。

 

「悪いことをしたって自覚はあります。でも……」

「うん、私達は自分の力を磨くためにやったんだし……」

「地球を救う重圧と焦りがテメーにわかんのかよ」

 

――パァン

 

「「「ッ⁉」」」

 

俺はそれ以上言い訳をさせないためにも何もない空に向け、一発実弾を撃った。

 

「……殺せんせー、ここは俺にまかせてくれないか?」

「……そうですね、これに関しては君が一番理解している。この場は君に任せましょう、先生は先に被害者を穏便に説得してきます」

 

そう言った殺せんせーは烏間先生と共に病院に入っていった。

それを確認したあと、俺は改めて口を開く。

 

「武偵は、銃を持つ前に射撃理論、照準監査、弾道理論、分解・組み立てについて学ぶんだ」

「遠山、急に何言って……」

「黙って最後まで聞け岡野。それは()()()()()()()()()()()()からだ。必要な時に正しく使う、重い責任がな。今のお前らは無責任に銃を見せびらかす素人と一緒なんだよ。お前らはもう素人じゃないだろ。少し強くなったからって、その力に酔ってんじゃねーよ」

「「「…………」」」

「銃だけじゃない、力を持つ者は全員何かしらの責任がある。お前らは学校の勉強なんかより、責任と使い方を学び直す必要がある」

「「「…………」」」

 

俺の怒気を孕ませた言葉に誰も口を開くことはなく、俺が作った嫌な空気が辺りを漂う。

だがこれだけは俺が言わないといけないと思ったんだ。

同じ仲間としてもだが、何より武偵という力を持った者の1人として。

 

「お前ら、ちゃんと被害者に謝罪してないだろ? まずはそっちからだ、いくぞ」

 

さっきまで説教をしていたからか皆から少し距離を置かれているが、気にせずに病院の中に入る。

じーさんに謝るためにも病室に行くとそこには床一面に広がる花と変装をしていない殺せんせーが立っていた。

 

「来ましたか、まずは保育施設を経営している松方さんにしっかり謝りましょう」

 

俺達が謝ると、殺せんせーが交渉内容を説明してくれた。

その内容は至極簡単な事だ、松方のじーさんの仕事先で明日から2週間無料(ロハ)で働くだけだ。

ただ、2週間後に退院するじーさんが賠償金に見合う働きができたと納得させるという条件がつくがな。

 

「ああ、それと言い忘れましたがクラス全員テスト当日まで丁度2週間テスト勉強は禁止です。キンジ君に言われた事を学びなさい」

 

そう最後に付け加えられて、俺達は解散した。

1人で旧校舎にカバンを取りに行く傍ら、俺は夜空を見上げる。

 

「力を持つ者としての責任か……俺が言える立場じゃないだろうにな」

 

神奈川にいた頃の……独善的な『正義の味方』として使われていた頃の自分を思い出し、俺は自虐的に言葉を零すのだった。

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