「それでキンジ、死神がどこにいるか分かるの?」
「ああ、死神がいる場所は恐らく……」
有希子の機転で操作室から出て行った死神を追いかけるべく、俺たちも再びある場所へと向かっていた。
死神は殺せんせー達を捕らえた檻には絶対の自信があったと有希子たちから聞いている。
そこから丁寧に爆弾を外して脱出、その上牢屋には一切破壊された形跡はない。
ヤツは仲間を道具のように扱う。
それは裏を返せば、自分以外を信用していない証拠だ。
そんなアイツがもっとも疑うのは外側からの救出しかない。
「イリーナ先生や烏間先生達の所だ」
烏間先生達と別れた立坑がある部屋へと入ると、瓦礫で塞がっていた入り口はコンクリを蹴り砕いたかのようになく破片が内側へと飛び散っていた。
ちっイリーナ先生はたしかケガをしていたはず、
「烏間先生ッ‼」
「リンカとトオヤマね。アイツ等はもうここにはいないわ。それに身構えなくても私はもう何もしないわ」
そこにいたのは左腕に添え木を当てられたビッチ先生だけだった。
「凛香イリーナ先生は大丈夫だ。小通練はまだ抜くな。レキも銃口をおろせ」
「…………そう、わかったわ」
「……ねえ裏切った私が言うのもアレだけどちょっとは疑わないの?」
何を言ってんだイリーナ先生。
そんなもん決まってんだろ。
「いつも俺が言ってんだろ『仲間を信じ仲間を助けよ』って。先生を信じられなかったら、誰を信じたらいいんだよ。なあ凛香?」
「……はぁ、そうね。言われてみればビッチ先生はこうじゃなきゃって感じだわね」
「アンタたちを殺そうと、アイツに協力してたのにアンタたちは……」
イリーナ先生はどこか呆れたような顔をして、それを見て思わず俺達は笑ってしまう。
こんな時間も悪くないのだが、それよりも先に済まさなければならないことがある。
「イリーナ先生。死神と烏間先生がもういないって言ってたけど、どこに行ったんだ?」
「あそこよ」
そう言って指さすのは大きな立坑。
ああ、そういうことか。
「あそこってビッチ先生まさか……」
「あんたの予想通りよリンカ。烏間が死神を抱えて『すっきりした場所へ行くぞ。何、人間これぐらいはやろうと思えば可能だ』とか言って立坑から飛び降りたわ」
「正気なの⁉ 確か下まで70mぐらいはあるわよ」
ビッチ先生の言葉に凛香が驚いているのを横目に、俺は立坑の下を覗くレキに聞く。
「見えるか?」
「はい。現在標的は技だけで彼と戦ってます。周りが水面なため超能力を使えば標的を捕らえるまでの時間はかかるかと」
「そうか、あとここからの狙撃は可能か?」
「もちろんです」
「なら、レキはけが人と共にここから狙撃で援護を俺達は下の戦いに加わる」
「分かりました」
これでヤツの厄介な能力は多少は封じれるはずだ。
後は下へ行く方法だな。
「凛香、俺達も烏間先生に加わるぞ」
「加わるってここから下まで時間がかかりすぎるわよ」
「いやすぐだ。さっき同じ方法で成功した人がいるしな」
「え……キンジ、あんたまさか」
さすが凛香、具体的に言わなくてもやろうとしてることがわかったな。
ここから飛び降りるために、俺は手早く凛香をお姫様抱っこし立坑の淵まで移動する。
「ねえキンジ、あんた日を追うごとに人間やめてない?」
「やめてないだろ? それに烏間先生も言ってただろ『やろうと思えばできる』って」
「……アンタたちだけニンゲンっていう別種族なんじゃないの?」
凛香だって、瑠美さんから刀をもらってからは俺と同等の事やってるんだけどな。
「そろそろおしゃべりもやめて行くか。覚悟はできたか?」
「キンジが提案したときから、とっくにね」
「さすがパートナーだ」
その言葉と共に俺は立坑の淵から一歩飛びだし、奥底へと落ちていった。
体全身で風を感じる。
下を見れば、点としか見えていなかったものがどんどん大きくなっていきハッキリとそれが見えてくる。
最初に見えたのは水だ。
そこに2つの点。
それがはっきりと見えるころには、追突まで秒読みの状態だった。
「っとそろそろだな」
――バツッ!
床に触れるか触れないかのところで橘花による減速防御で衝撃を緩和させて着地する。
その際派手な着水となったため水しぶきが空高く上がり、それが落ち切ると俺達の登場に驚く二人の姿が目に入った。
「君たち……」
「烏間先生、俺たちはまだやられた分をやり返してねーんだ。参加させてもらうぜ」
「それで顔の皮がないアンタは死神でいいのよね?」
凛香が睨みつける先にいたのはドクロに眼球と肉だけをつけたような顔の男がいた。
その近くには、見たことのあるマスクが水面に浮かんでいる。
技術を磨くからと言って、普通ここまでするものなのか?
「なぜ速水凛香がここに⁉」
「あそこから出た以外に言う必要ある?」
「……僕としたことが計算を間違えたか。だがそれでも結果を出すのが死神だ」
――パキパキパキと一部の水面が凍り、盛り上がる。
出来上がったのは道中で何度も見た死神の分身だ。
「「これが『
そういうなり死神は片方が袖から武器を、片方は巨大な氷柱を空中で作り俺たちを挟むように立つ。
必然的に俺と凛香は烏間先生と背中合わせになるように立っていた。
「遠山君、速水さん、いけるな」
「「はい」」
「ならそちらは任せたぞ!」
烏間先生に託された俺達は目の前にいる武器を手にしたほうの死神のみに集中する。
「『草子 枕を紐解けば菩薩が鍛えし小通連。抜かば智慧は文殊が如く』」
まず動いたのは凛香、初めて小通連を抜いた時に謡った詩が後ろから聞こえる喧噪と共に水路に響く。
ただあの時とは少し違った、凛香の言葉に共鳴するように凛香の胸元から淡い翠の光が明滅しているのだ。
やがて光は胸元から零れていき、周りには蛍火のように翠の光が水路を埋め尽くす。
「視認できるほどの粒子……これが立烏帽子の力か。あの人が欲しがるわけだ」
俺たちと対峙する死神がより一層忌々しい表情を浮かべ、凛香を睨みつけている。
俺には凛香が何をしたか分からないが凛香の視線から次にするべきことは分かった。
「凛香」
「キンジ」
「「背中は任せた‼」」
俺は拳を、凛香は小通連を握りしめ同時に死神へと攻撃を仕掛けた。
死神の袖から飛び出たナイフに凛香が鍔迫り合う。
――ヒュン
動きが止まった凛香目がけて反対側の袖からワイヤーが迫るが、
「同じ手は食わねーよ、死神!」
――パァン‼
俺が死神の腕を打ち上げてワイヤーを封じる。
「はっ、粒子が濃いだけで超能力が封じられたわけじゃないぞ。ガキ共‼」
その言葉に連動するように、俺や凛香を囲むように氷塊が産まれる。
だがな、お前が超能力を使うなんて
「「そんなこと分かってる(わ)」」
――バキバキバキバキ
産まれた氷塊が上空から飛んできた銃弾に全て破壊された。
あそこからはほとんど見えないはずなのに、全部撃ち落とすなんてさすがレキだな。
「お前は自分の手札を見せすぎだ。対策しないわけないだろ、お前の氷塊はレキが全て撃ち落とすぞ」
「ただの武偵風情が‼ ッ‼なんだと⁉」
――バキッ
俺たちの後方から何かが砕ける音が聞こえた。
「ちっ、こっちは分身だったか」
烏間先生、もう倒したのかよ。
まだ分散させてから5分もたってないはずなのに、あの人は例え凛香と一緒でも勝てるイメージが浮かばないな。
「……あそこに行けば最短距離で願いがかなうと思ったけど、もういい。速水凛香も含めてお前ら全員殺してやるよ」
そう言って懐へと手を忍ばせていく、今まで見ていなかったがヤツは銃を持ってるのか?
烏間先生もこちらに来て、3人でどう動かれてもいいように死神を囲む。
「君たちが死ぬ前に昔語りをしよう。まず僕は悲惨な境遇で育ったわけじゃない。あの女を引き入れるために知人の話を自分の事のように話しただけだ」
「お前……」
イリーナ先生の事は有希子から聞いていた。
それを思うと怒りで俺と凛香はギリッと歯を食いしばり、烏間先生がうなるように声を出す。
「そう唸るなよ。まあその変わりといってはなんだが、僕の親は殺し屋に殺された」
「「「な⁉」」」
余りにも軽すぎる態度からでた言葉に俺達は、わずかにだが動揺してしまう。
「そら隙が出来たぞ」
懐から出たのは大量の投げナイフだった。
それを俺達の額目がけて死神が飛ばしてくる。
「くっ」
俺たちがそれを避けたり弾いて直撃を避けていると、死神の口が再び開き始めた。
「今でもあの時の光景がありありと思い浮かべれるよ。あの両親が殺された瞬間が『なんて美しい技術なんだ』ってね。僕はその場で殺し屋になる事を決意したよ。人を殺せば殺すほど技術が身に着く、そして殺せば殺すほど自分が成長している事を実感できる」
死神の持っていた投げナイフが終わったが、囲んでいたはずの俺達は気づけば横並びに誘導されていた。
再び囲むように移動する前に、死神が再び懐から何かを出す。
「ああ、これでまた僕は成長できた」
懐から出したのは深紅のバラだった。
それを上へ投げ、俺と凛香に指を、烏間先生へ向けて口を開ける。
『……少年、君には俺から必殺技を授けよう』
ロブロさんが渚に言っていた時は分からなかったが、アレを見た今なら分かる。
『必殺技』……『必ず殺すための技』これは渚の猫だましと一緒だ。
ならこの後の行動は……
「凛香、来るぞ‼」
俺の言葉と同時に死神の指先から何か飛びだした。
スーパースローの世界でそれを確認すると、それは2.5mmほどの銃弾。
自分に迫る銃弾への対処は無理だ。どうしても間に合わない。
凛香に視線を向けるも、俺と同じようでどうすると俺に視線を返してきた。
どうすれば……その時に俺たちの胸元へ何かがくっついてきた。
ああなるほど、この技もあの人にとっては想定済みってことなのか。
――プツップツップツッ
小さな貫通音が3回なると俺達の胸から――ブシュッと赤い液体が噴出した。
「TNKなんて関係ないよ、極小の装甲貫通弾だ。超能力なんて所詮技術の1つ。『死神の鎌』、これこそ僕にとっての必殺技なんだよ」
そうやってゆっくりと近づいてくる死神へ俺は倒れるようにもたれかかった。
「もう立つ力もないんだね。さて遠山君の死に怯える顔でも眺めようかな」
髪の毛を引っ張られ、無理やり俺を立ち上がらせる死神。
俺と死神との隙間はおよそ拳一つ分ほど空いていた。
俺の桜花に対してお前は言ったよな。起点を崩したり、速度に対応すれば封じれるって。
なら、密着した状態でそれができるか?
――バシッ‼と掴まれていた死神の手を払い落とし、足を肩幅より広げ腰を落とす。
「おい死神、死ぬなよ」
「何⁉」
――バァン‼
俺と死神の間から銃撃のような音がなり、死神が二転三転と水路を転がるように飛んでいく。
以前何かの雑誌で見たが、人間は拳一つ分の隙間があれば強烈なボディブローを放てるそうだ。
それを応用して、俺は肩から指先だけで桜花1発分の速度を作り、腰のねじりも合わせてお返しとばかりに死神のアバラへと叩き込んだ。名前をつけるなら寸勁のごとくゼロ距離から放つ桜花だから『桜花零』ってところだな。
「げほっ……なぜだ⁉確かに動脈を貫通させたはずなのに」
「それはコイツのおかげだ」
俺の横に一緒に撃たれた凛香と烏間先生も平然と立って、烏間先生が胸についていたものを剥がして掲げた。
それは普段俺達がよく見ているものだった。
「触手だと⁉」
「お前は俺達を嘗めすぎだ。ヤツはお前にやられた殺し屋たちの様子から瞬時に技術の正体を見抜いていたぞ」
まさかあの牢屋から触手を伸ばすとは思わなかったけどな。
「技術に過信なほど頼って、ツメも脇も甘すぎる。本当にお前は噂に聞いていた死神なのか?」
「……死神は僕だ。僕こそが死神だ。アイツより優れている僕こそが死神なんだ!」
――ピキピキピキピキ
水路全域が凍り、俺たちは身動きが取れなくなってしまう。
まだこんな力が残ってたのか⁉
「はぁ……はぁ……残ってた力全部使ったんだ。粒子が濃いからってそうそう壊せると思うなよ。それにお前ら放水する方法がアレだけだと思うなよ。門を爆破させれば『あなたのほうから操作できるものは何もありませんよ』なっ⁉僕のタブレットをハッキングしただと⁉」
『ええ。『仲間を信じ仲間を助けよ』キンジさん達を信じていたので、私は自分だけができる事に集中できました。あなたの敗因はそんな信じられる仲間がいないことです』
自身の技術がどんどん破れていくせいなのか、タブレットから発する律の声に死神は愕然としていた。
いまなら死神にとどめを刺せるのに、この氷のせいで……
「……キンジ、烏間先生。道は私が」
そう言って、凛香が何故かこの場で使えそうにないエアガンを取り出した。
「凛香、エアガンでどうやって……」
そこからは声が出なかった。
突如凛香の胸元が翠色に光り、さらに周囲にも同じ光の球が発生しこの空間が淡い光で照らされたのだ。
「なん……だと……粒子が銃に」
さらに死神が言う通り、発生した光は吸い込まれるように凛香の持つエアガンの銃口へと集まっていく。
やがて空中にあった光全てを飲み込み……
「璃弾 滅ノ型『他化自在天』」
――ヒュン
それは翠色の銃弾だった。それが凍った水路に当たると文字通り氷はすべて消えた。
これはいったい……
いや、呆けるのは後でできる。
今は凛香が作ったチャンスをいかさないと‼
「烏間先生!」
「ッ‼ ああ!」
死神は今の状況を飲み込めず、ただただ叫んでいた。
「なんなんだよコイツラは! 僕は死神だ!僕が負けるなんてあるはずない!」
「技術ならE組に全部揃ってる」「俺の生徒と同僚に手を出したんだ、覚悟はできてるな」
――ゴスッッッッ‼
俺と烏間先生の拳が死神の顔にめり込み、床へと叩きつけると死神はそのまま動かなくなった。
「殺し屋なんてやめて職安へ行け。役立つ技術がたくさんあるぞ」
ようやく終わったな。
烏間先生の言葉に安心すると、今までの緊張等が解けたのか体から力が抜け、急に視界も暗くなる。
「おい遠山君‼」
あんなに動いていたのに体が寒いな……
烏間先生に受け止められた事を最後に認識し俺は意識を手放した。