少しですけど、あの人物が再登場します。
「――さん、いい加減起きてくださーい」
いつも聞く声が聞こえてくる。
ああ、もうそんな時間なのか。
いい加減起きないと、朝めし食う時間が無くなって律がすねちまうな。
「…………今起きる」
「ホントですか⁉」
その言葉と共に俺の体に衝撃が伝わり、特にアバラに激痛が走る。
「ぐおっ⁉アバラが……」
「あ、すいません‼」
アバラから来る激痛に一気に意識が覚醒した。
まず見えたのは見慣れない真っ白な天井だった。
ああそうか、あの後俺は気を失って……
ここが病室なことに気づいた俺が改めて横に顔をむけると、涙目でオロオロする律が目に入った。
「大変です、どうしましょう!? ナースコールを押すべきなんでしょうか? うぅ、有希子さんに怒られます」
おい、律。仮にもAIなのに何でパニックになってんだよ……
「これぐらいで押すな律」
「でも…… アバラが1本は折れて2本はヒビが入ってるんですよ?」
それぐらいで済んだのか。
アバラや銃弾でてっきり内臓もやられたかと思ったが……運がよかったな。
自分の悪運の強さにおどろいている横で未だに律はオロオロしている。
いい加減に落ち着けよ律……
「俺は大丈夫だって言ってんだろ」
――ペチン
「きゃうッ、痛いですキンジさん」
丁度伸ばせば届いた律の額にデコピンを当てて、ようやく律は落ち着いた。
まあ、涙目でうーと睨まれてるのだが
「本人が平気だって言ってんだから、気に済んな。それよりもあれからどれくらいたって、俺が倒れた後どうなったのか教えてくれ」
「うー それでもデコピンはないですよ……」
律はデコピンに文句を言いつつ、あれからのことを教えてくれた。
どうやらあの後烏間先生が防衛省に連絡を入れ、死神は何事もなく拘束されたらしい。
死神は現在防衛省で管理され、明日にでも公安が引き継ぐ予定との事だ。
あの事件でのケガ人はどうやら俺だけらしく皆は今は授業中、いや時間的にもう放課後か。とりあえずいつもの日常に戻ったみたいだ。
ただ、今までと同じ日常とは言えなくなった。
あの後E組にも変化が起きたのだ。
死神の件で生徒を巻き込んだ暗殺に賞金が発生しないように交渉したらしいが、その代わりに義務付けられたことが一つ増えたのだ。
『エアガンではなく
防衛省が言うには賞金が発生しないと公言しても、それを破る殺し屋が出ても良いようにとのことらしい。
律の予想では、暗殺が終わった後の事を見据えた条件じゃないかって考えてる。
まあ、実銃と言っても銃弾に関しては俺が使っている対殺せんせー用非殺傷弾だけらしい。
ああ、それと最後に俺と一緒に潜入したレキだが、烏間先生が交渉し多額の金額で口外せず、有事に際は協力するように契約したらしい。
「んで、今日はあれから翌日で、俺は絶対安静でしばらく入院か」
「はい、それとですねキンジさん。背中の傷なんですが……」
背中?
ああ、銃弾の事か。
「当たり所が悪くて取りだせなかったか?」
「いいえ、殺せんせーのおかげで銃弾は無事に取りだせています。ただ……弾痕は殺せんせーでも治せませんでした」
「なんだ、そんな事か」
こんなの武偵になればこの先いくらでも増える。
それに俺の腕にはすでに桜花での自損傷が残ってるしな。
「そんな事って……その傷私がつけたんですよ? キンジさんに私……」
はぁ……こんなセリフはヒスった俺に言わせたいんだが仕方ない。
「律、武偵にとって傷なんて勲章みたいなもんだ」
「……キンジさんもですか?」
「ああ、なんせ家族同然のヤツを救えたんだ。この傷は俺にとって勲章だ」
ああ、なんで俺はこんな恥ずかしいセリフを言ったんだよ。
自分で言ったセリフにカーっと顔に血が昇り始め、思わず律から顔を背けて窓の方に向ける。
あ、ここって武偵病院だったのか。
「ホント、キンジさんはズルいです……」
「何がズルいんだよ」
「キンジさんには教えてあげません!」
なんだか律のヤツ、以前より感情が豊かになった気がするな。
声だけで判断してるが、それでも喜怒哀楽はハッキリと伝わって来た。
「ですが……これだけは言わせてください。ありがとうございます、
――チュッ
「え?」
熱を帯びていた頬にやわらかいモノが当たった。
思わず律の方に顔を向けると、本人は顔を真っ赤にさせている。
「……私にはこれぐらいしかできないので」
キスされたのも驚いた、ただそれよりも驚いたのは律の呼び方だ。
「なんでお兄ちゃんなんだよ⁉」
余りの驚きに血流すら集まらなかったぞ⁉
確かに普段からアレ食いたいコレ食いたいとねだってきて、腹ペコの妹がいればこんなのかと思ったときはあったが……
「え? キンジさんにとって私は家族なんですよね。なら年下の私が義妹になるのはおかしくないはずです」
「いや、おかしいだろ。なんで急にそんな回路になるんだよ」
「竹林さんが言ってました。『妹属性は最高の破壊力を持っている』って、だからキンジさんの事を今日から『お兄ちゃん』って呼びます!」
「竹林、律に何吹き込んでんだよ‼」
ここにはいない事は分かっているが、俺は思わず大声で叫んでしまった。
この後、俺の声に駆けつけた看護師に律と共に怒られたのは言うまでもない。
~凛香side~
あ~、入るタイミング見失ったか。
扉の隙間からキンジと律のやり取りを見て、思わず私はため息をついてしまった。
いつもなら問答無用で入るのだが、あの事件での律がした事、それにたいしての罪悪感を本人から聞いていた。
その事を考えると律の邪魔をためらってしまい、中に入れなかったのだ。
……まあ、今は別の意味で病室に入りたくないんだけどね。
「……はぁ、たまには良いか」
今回、今回だけは良いとしよう。
もう一回深いため息を吐いて見舞い品を買ってくる有希子と合流して帰るかと考えていると、奥の曲がり角からあまり会いたくない人物が出てきた。
「うげ、白雪さん……キンジに用なの?」
キンジの誕生日以来会ってないが、ここに来たということはきっとどこからか入院している事を聞いて急いで駆けつけたんだろう。
その証拠に修学旅行、誕生日の時に身につけていた
この人キンジの事になるとすぐに暴走するから、あまり会いたくないんだけど。
ただなぜだろう。今の白雪さんからは前のような雰囲気が感じられず、まるで鋭利な刃物を突き付けられているような気がする。
「キンちゃんも心配だけど、今日はあなたに会いに来たの凛香ちゃん。いいえ今はこう呼ぶほうが良いかな。今代の立烏帽子、暗殺の事は政府から聞いています。昨日の局地的な粒子濃度の変化に心当たりはありますか?」
政府からって……白雪さん何者なの?
「……あなたが知ってるって事実は?」
「月を破壊した超生物が椚ヶ丘中学、3年E組で教師を4月からそしてキンちゃんもこの暗殺に5月から加わっているでいいかな?」
殺せんせーどころかキンジの任務も把握済みか、どうやら本当みたいね。
それにしても粒子か……そういえばあの光を見て死神もそう言ってたわね。
「私が刀を抜いた時に翠の光が水路を埋め尽くしたわ、それを殺し屋が粒子って呼んでたわよ」
「……そう。じゃあその場に緑の髪を持つ女子、それに声が聞こえなかった?」
緑の髪……あの場だとレキさんか茅野ぐらいよね。
声はあれかな、あの私自身良く分からずに撃ったやつ。あの時に……
「確か『私を使いなさい』って……それに緑の髪の毛はあの時2人いたわ」
「2人⁉瑠巫女がそんなにも……ううん、それよりも『占』の条件はまだなはずなのに接触が早すぎる、どういうことなの?」
どういうことなのと言われても……
たぶん超能力関連なのだろうけど白雪さんが言っていた事、半分も理解できなかったんだけど……
「えっと……まだ質問あるの?」
「あ、ううん。もう大丈夫だよ、ありがとう。私はもう行かないといけないからキンちゃんに改めてお見舞いに行くねって伝えてもらえる?」
「わ、わかったわ」
ペコリと丁寧なお辞儀をされ、その場から白雪さんがいなくなっても私はしばらく白雪さんの行った方向を見続けた。
前との態度の違いにも驚いたんだけど、それよりもこの先近い未来に今以上にとてつもないことが起こりそうな……そんな不安が私の心にうずまくのだった。