哿の暗殺教室   作:翠色の風

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おかしい。
まだ3月なのに、もう入社予定の会社で働いてるぞ?
私の最後の春休みはどこにいったんだ……








77弾 価値の時間

「ドングリ麺3つ」

「ありがとうございます。少々お待ちください」

 

学園祭が開催した。

 

(またか……これで20人だぞ)

 

俺自身も含め、ほとんどの生徒全員がぎこちない営業スマイルを浮かべ接客などを行っている。

それは磯貝や倉橋など接客が上手そうな者も含め手だ。

客の人数は予想してたより多く、現時点で席の7割を埋めている。

そこに関しては喜ぶべきなのだが、俺達がぎこちなくなっている原因は客本人だ。

ほとんどがスーツなど、学園祭に来るような服装に見えず懐には銃を装備したときに見られる特有のふくらみや重心の取り方をしている。

大人以外にも未成年っぽいのもいる。年下にみえる学生服にテンガロンハットみたい帽子をかぶっているヤツ、それに髪型をツインテールにした中華服を着ているヤツ、年上っぽいシスター服を着ているヤツもいるのだが、どう見ても学園祭が目的で来てるようには見えなかった。

 

「ブロッコリーはないの?」

「ドングリ麺まだアルか!はやくスルネ!」

「お酒があればよかったんですけどねー」

 

いや、ただの迷惑な客なだけかもしれない。

つか最後のシスター! 中学の模擬店で酒類が出るわけねーだろ!

まあ、未成年は置いといてだ。大人達に関してはどうみてもここにいるべき存在ではない。

所作から実力の程が全く悟れず、それでも全員でかかっても制圧されそうな雰囲気を醸し出している。

入学した直後にみた武偵高の3年を見てその実力の隠し方に戦慄したのを覚えているが、これを見た今アレでもまだまだ未熟なのを自覚させられる。

 

「あら、遠山君はお店側だったのね」

 

そんな客への対応を冷汗をかきつつ、次々としていると後ろから見知った声がかけてきた。

後ろの席にいたのは、高天原先生や綴、それに南郷や救護科の矢常呂先生。初めてみたが、CVRの結城ルリ先生もいてって……ほぼ全ての科から1人以上いるじゃねーかよ!!

しかもその中でも個々の能力が高い教師ばかり集められている。

こんなのここで戦争をおっぱじめるぞって言われても今なら信じられるぞ。

 

「高天原先生、いったいここで何が起きるんですか?」

「あら、蘭豹先生に聞かなかったんですか?」

「聞けませんでした。なんせ蘭豹先生は、ここに着いてからアレですから」

 

そう言って俺は、校舎付近の席を指さす。

そこには客はほとんど集まっておらず、いるのは……

 

「烏間先生、この訓練の事なんですが」

「ねえカラスマ、そんな事よりガキ共がこんな作戦考えてたわよ」

「すまない情報本部長が来たから少し席を外す、2人の話は後で詳しく聞こう」

 

烏間先生がいる間はおそらく10人中9人は振り返るほどの美人教師を演じている。

だがひとたび烏間先生がいなくなると……

 

「……こんのビッチ、ウチと烏間の邪魔すんなや。いてまうぞ」

「あら、怖い怖い。化けの皮が剥がれてるわよ、ランヒョウ先生。いや違うわね、日本ではあなたみたいな人『猫を被ってる』って言うみたいだし、ランビョウちゃんのほうが正しかったわね」

「ああん?ハニトラでしか殺せない二流が嘗めてんのか?」

「アンタこそ、女の武器すら使えない癖にハニトラをバカにすんじゃないわよ、武偵崩れ!」

「「グルルルル」」

 

正直、蘭豹が手を出していないのが奇跡な状態なのだ。

ほんと、よくあの蘭豹相手にあんな挑発できるよなビッチ先生。

一度あそこに何が起こるのか聞きに行ったが、やれどっちの味方だの、良い事してやるからこっちに協力しろだのと言う板挟み状態になる始末。

何も聞きだせないどころか、銃やらハニトラで接客よりヤバイ状況だったのだ。

 

「あらあら蘭豹先生も青春してますねぇ」

「見繕ったかいがあったわ。それに目的の子もいたわね、私は行くわね」

「ワカイワネー」

 

吞気に応援する高天原先生にウンウンと頷き席を外した結城先生。

チャン・ウーは渚がいるから来てると思っていたが、相変わらず声しか聞こえない。

いったいどこに潜んでんだよ。

そしてさっきから蘭豹と一番仲のいい綴が何故か静かだったため、何をしてるのかとそっちを見てみると

 

「アンタ、なかなか面白いね。名前は?」

「赤羽カルマ。ここまで俺と気が合う人なかなかいないよ」

「くはっ、気に入った。気分が良いしアンタが気に入りそうな尋問術教えてやんよ」

 

綴ぃ⁉

カルマにそれは最悪の組み合わせだぞ⁉

何てもん教えてんだよ!

 

「ドングリ麺お待ちしました~。キンジ君?疲れた顔してるけど大丈夫?」

「有希子か……この周りを見てみろよ、疲れないほうがおかしいだろ……」

「あー、うん。それはノーコメントで」

 

フッと視線を横に逸らす有希子。

それ、どう見てもそうですって言ってるのと同じだからな。

 

「あ、神崎さん。ちょうどよかったわ、あなたに渡しておくものがあるの」

 

そう言って高天原先生が一枚の紙を取りだし、有希子に渡す。

その紙にはでかでかとこう書かれていた。

 

『推薦書』と

 

「私達からスカウトすることはあっても貴方みたいに自分を売り込んでくる人は初めてだったわ。あなたの希望通り、探偵科と救護科の兼科の推薦書です。これでこの高校からは渚君、速水さんに続いて3人目ね」

「え?」

 

推薦書?

しかも探偵科と救護科両方?

俺はギギギと壊れたロボのように推薦書と有希子を交互に見る。

有希子はこちらを見て、ニコリとほほ笑むと

 

「来年もよろしくね。キンジ先輩♪」

 

律もそうだったが有希子後輩さんも行動力ありすぎじゃないですか?

聞けば俺が入院中に武偵高へ行ってきたらしい。

てか凛香もいつのまに推薦なんてもらってたんだよ。

せめて俺にも教えてくれよ。

 

「それで高天原先生、私もこれから何があるのか気になるんですが」

「そうですね~。遠山君は武偵で神崎さんは来年から探偵科になるんですし、せっかくですしヒントをあげるので貴方達で推理してみてください。まずはヒント1です。今ここには殺し屋と、裏表問わず大きな組織に所属している人がほとんどです」

 

殺し屋はきっと殺せんせーを殺せなかった奴だろう。見れば殺せんせーが変装した校舎の屋根に取り付けたシャチホコを睨んでいるのがチラホラと見える。

おそらく殺せんせーが招待したはず、あの先生ならやりかねん。

たぶんそれ以外の口元を隠し読唇されないように話している奴らが大きな組織の人間だと思うが、ここに来る理由が分からない。

それにそれなら未成年がいるのもおかしいだろ。

 

「なあ高天原先生、どうみても俺たちより年下、見た目が小学生の人物もいますがアイツも組織の人間なんて言わないですよね?」

 

俺が指差すのは銀髪ツインテールの無表情の少女。

どことなくレキを彷彿させるその少女を見て、高天原先生は

 

「ええ、そうですよ遠山君。あの子は京菱キリコさん。小学生ながら京菱イノベーティブの社長ですよ」

 

京菱イノベーティブっていえば、死神の策略で平賀さんと協力して社長が直々に律の体を作った会社だよな?

ってことは、あの子が平賀さんと協力して律の体を作ったってことなのか?

 

「あ、社長!来てくれたんですね」

「この会合は銃を烏間に売る契約を取ってるためキリコには不要。でもキリコは感情を手に入れた律を観察する必要がある。だから律に会いに来た」

「そうなんですか、とっても嬉しいです‼」

 

マジで社長だったよ……

それにしても今の律との会話で『会合』って言葉が出てきたな……

 

「ああ、そういうことなんですね」

「有希子もうわかったのかよ⁉」

「うん、キンジ君。そして最後のピースは『来年におけるE組の生徒の()()』だよ」

 

来年のE組の価値?

誰か個人を指すわけじゃなくクラス全体か……

そもそも来年なんて殺せんせーを暗殺できたらの話だろ?

待てよ。仮定の話……ああ、そういうことか。

来年があるということはそれは暗殺が成功したことになる。

それを成功させる確率が高いのは、現段階では一番接している俺たちだ。

仮に俺達が暗殺したなら、『殺せんせーを殺せるだけの実力を持つ学生』がなんの所属もせずに高校に進学することになる。

そんな少し鍛えればすぐに現場に出せるようなヤツがいることを知っていてほっとくわけないよな。

 

「目的はスカウトってわけか」

「はい、正解です遠山君、神崎さん。敵になるにしろ味方に引き入れるにしろ、国が手を焼く存在を殺す訓練を受けた生徒は無視できないものなんです。この国家機密を知っている組織でその価値に気づいた人達はあなた達を勧誘しようとなったのですが、お互いに牽制して膠着状態にありました。そこである人の提案で学園祭1日目だけ生徒に手を出さないという制約の元でこうやって集まったのです。あ、ちなみに武偵高はこの件に関わってませんよ。ただこの会合を知って、便乗しただけです」

 

なんてとんでもないことをのほほんと言う高天原先生。

てか、こんなの開いて変な組織に目を付けられないか心配なんだが……

誰だよ、こんな会合開いたヤツ‼

はた迷惑なヤツがいるもんだな」

 

「悪かったね。はた迷惑なヤツで」

「え?」

 

聞き覚えのある声に思わず、本日何回目かの呆けた声が俺の口から出ると――ガシッ‼と頭を鷲掴みにされ持ち上げられる。

 

「膠着状態が続いてアンタたちを強硬的に勧誘とか誘拐する奴を出さないために、わざわざ実家やアンタんとこ家に頼ってまで開いたコレが迷惑だっていうのかい、キンジ?」

「る、瑠美さん。取りあえず下ろして貰えたら……いたッ‼、ちょマジでヤバイ‼物理的に頭が割れる!」

 

マジで頭からメキメキ鳴ってるんですけどぉ‼

ジタバタと空中でもがいていると、ため息とともに瑠美さんが手を離し俺は地面に尻から落ちた。

瑠美さん、なんてバカ力なんだよ。マジで頭がトマトみたいに潰れるかと思ったぞ……

 

「キンジ、お前はいったい何をやってるんだ?」

 

痛む頭を押さえていると、3年ぶりに聞いた懐かしい声に思わずガバッと顔を上げる。

そこには黒い防弾コートに身を包んだ俺の兄さん、遠山金一がいたのだ。

 

「兄さん、なんでここに⁉」

「瑠美さんの言葉を聞かなかったのか? 頼まれたんだよ。この場の抑止力としてな」

 

そう言って兄さんは顎で俺の後ろを指すと、そこにはいつの間に座っていたのかじいちゃんやばあちゃんが席に座っており律や京菱イノベーティブの社長と話していた。

さらにそれ以外の今まで読唇されないようにしていた大きな組織の奴らも、じいちゃんたちの登場に驚いた顔をして各自の母国語だろうか、英語などで

 

「『怪異殺し(ネイバー・キラー)』だけじゃなく『殺し難し(ダイ・ハード)』や『鬼の子(オーガ)』まで来ただと……」

 

と読み取る事が出来た。

たぶん『怪異殺し』は前に凛香が言ってたことが確かなら瑠美さんだろう。

じゃあ『鬼の子』は兄さんってことか、父さんの息子だからか?

それにしても、3人が来ただけでこのざわめき。

ホントすごいな、この人たちは。

 

「キンジ、瑠美さんからお前の任務は聞いているぞ。あの死神とも一戦したんだってな、すごいじゃないか」

「ちょ、兄さん!急に何すんだよ、恥ずかしいだろ!」

 

唐突に頭をガシガシと撫でてくる兄さんの手を払いのけようとやっかみになっていると、俺達達を見つけたのか調理を担当していた凛香も校舎から出てきた。

 

「あれ、いちにぃ? 来るの2日目じゃなかったの?」

「ああ凛香か、久しぶりだな。ちょっと野暮用で1日目になったんだ」

「そうだったんだ。いちにぃ、今年もまたすぐ海外にとんぼ返りなの?」

「いや、クリスマス近くにこっちで仕事があるからしばらく日本だな」

 

昔から凛香は幼いころから俺と一緒に面倒を見てもらっていた兄さんを『いちにぃ』と呼んでいたのだ。

しばらく凛香と兄さんが一緒の時を見たことがなかったが、まだその呼び方をしてたんだな。

今年は兄さん日本にいるのか、それなら俺も今年の年末は巣鴨のほうに帰ろうかな。

兄さんの言葉に年末のことを考えながら、凛香の言葉の中で気になった部分を聞く。

 

「凛香、今年もってことは去年とかに兄さんと会ったのか?」

「何言ってんの、去年も一昨年もいちにぃとおじいちゃん、おばあちゃんはここの文化祭に来てくれたわよ。誰かさんと違ってね」

 

誰かさんと凛香は強調して言ってくるが、文化祭が何日なのかも教えてもらってないのにどう察しろと言うんだよ。

 

「アンタ、キンジにメールで日にち教えようとして、どう送ればいいか迷って結局去年も一昨年も送らなかったんじゃないかい?」

「か、母さん!急に何言ってんの‼」

 

顔を真っ赤にして瑠美さんに怒る凛香。

俺以外に教えてんだったら、そのまま同じ文章送ればいいだけじゃねーのか?

良く分からん行動をしてたんだな。

 

「キンジ、母さんのは特に意味なんてないから!勘違いしないでよ!」

「何を勘違いするんだよ、ったくじいちゃんとかも来てるから会いに行くぞ」

「えっと……凛香ちゃんのお母さんは知ってるけど、そちらの方は誰なのかなキンジ君?」

 

あ、つい凛香と話して有希子に紹介するのを忘れていたな。

 

「すまん、有希子。俺の兄さんだよ、武偵庁に所属していて海外の医師免許を持ってるんだ。兄さん、俺の任務先の生徒の神崎有希子。来年武偵高に進学が決まっていて、救護科と探偵科の兼科予定なんだ」

「ご紹介にあずかりました。キンジ君と一緒に任務を受けている神崎有希子です」

「キンジの兄の遠山金一だ。もしかして君は神崎弁護士のご子女かな?」

「父を知ってるんですか?」

「ああ、部下の連城氏と共にやり手の弁護士だって聞いてるよ」

「そうなんですか? よろしければ私この後休憩なんで、医術についてのお話し聞かせてもらえませんか?」

「ああ、俺で良ければ」

「いちにぃ、来たんだからちゃんと注文もしてよ」

「わかってる、ちゃんと頼むさ凛香」

 

そう言って、有希子や凛香に囲まれていた兄さんは休憩に入った有希子と校舎付近の座席へと歩いて行った。

ただその姿を見ていた俺は、なぜか面白くなかった。

なんでこんなモヤモヤっとした気持ちが胸にうずくんだ?

久々に会った兄さんに話したかったのに凛香達に先を越されたせいか?

それとも兄さんと話していた凛香達の笑みを見たからか?

 

「…………」

「どうしたのキンジ?面白くなさそうな顔して」

「なんでもねえよ。じいちゃんに挨拶に行くぞ凛香」

「ちょっと待ちなさいよ。ねえキンジ、待ちなさいったら!」

 

胸中にあった気持ちはわからず、それらをいったん隅においやって速足で俺はじいちゃんたちの元へと向かった。

 

「おお、キンジ久しいな。凛香ちゃんは相変わらずジャスミンのいい匂いをさせておるのぉ」

 

そう言ってドングリ麺をすする着流しに半纏といった純和そうな服装で来ているじいちゃん。

ばあちゃんはと言うと

 

――ゴスッッッ‼‼

 

「ほら律ちゃん、キリコちゃん。タマゴタケがきましたよ」

「ありがとうございます、おばあちゃん!」

 

とじいちゃんに秋水を決めつつ、律たちと食事をしていた。

もう何もいうまい。

じいちゃんは森に向かって地面と平行に吹っ飛んでいったが恐らく平気だろう。

律に限っては朝から結末は見えていた。

 

「おや、キンジ、凛香ちゃん久しぶりだねぇ。さあさあここにお座り」

「ああ」

「お久しぶりです、おばあちゃん」

 

勧められるままに俺と凛香が席に座り、凛香がばあちゃんと話しているとじいちゃんも戻って来た。

 

「いやー、まだ孫娘はしばらくできないと思ったが、これは予想してなかったわい」

「父さんも母さんも死んでるのに何言ってんだよじいちゃん。それに律だけど」

「カラクリじゃろ。それぐらいは一目で分かるわい。それも含めて何も言わんでええ、無垢な可愛い子が甘えてきて昔のキンジや凛香ちゃんを思い出すわい」

 

そんな訳ありだと見抜きつつもカラカラと笑うじいちゃん。

ばあちゃんにかいがいしく世話してもらっている律を見て、俺も昔はあんなのだったのだろうか。

幼かった時の記憶を思い返す。

母さんがいなくなって泣き続けた俺をあやすために兄さんが女装し、凛香と出会い、父さんも亡くなって、小学生最後の夏休みには

 

『ん?君、あそこを見てごらん』

『すげえ2色の綺麗な石だ!かくれんぼで良い場所教えてくれたうえに、こんなのまで見つけるなんてスゴイな爺さん‼』

『ああ、なんせ私は教授だからね。それと私がここにいたことは内緒にしてくれるかい?』

『分かった!爺さん、良いヤツだし約束を守るよ』

『ああ、ありがとう。……これで計算通りに孫が引っ掻き回してくれる』

 

あの時、かくれんぼの途中で出くわした爺さんが教えてくれた洞穴で凛香にあげた石を見つけたんだよな。

あの爺さんは何者だったんだろうな。

 

「アンタら、今日はアタシの呼びかけに集まってくれて感謝するよ」

 

過去の回想にふけっていると、突然瑠美さんの声が旧校舎中に響き反射的に声の方を向く。

そこには瑠美さんとその後ろに烏間先生、それにあと数人この中でも特に別格だとわかるやつらがいた。

 

「今日この日までこの子らを手に入れようと躍起になってたのは把握済みさね。だから今日この日だけ、この場で大岡の名のもとにスカウトすることを許可するよ」

 

そこまで言ったところで、今まで席に座っていた大人たちが立ち上がる。

だがそれも瑠美さんの「ただし」という声で動きが止まった。

 

「選択権は子供らにあるんだ。断られたら素直に引くんだよ。……ここには監視に雇ったヤツやアンタらが相手したくないのも呼んだ、無理やりスカウトや引き抜きをしようものなら分かってるね?」

 

親指で首を掻っ切るようなしぐさをした後、瑠美さんがじいちゃんたちの所まで戻っていった。

それを皮切りに大人たちは

 

「蘭幇に興味はないアルか?」

「イタリアのものですけど、少しお話し良いですか?」

「ぜひ、うちの所に来てくれ!」

 

もはや学園祭どころではなかった。

全員、ひっきりなしにいろんな人に声をかけられていく。

これでもまだ一日目が始まったばかりだ。

どうやら今日はひたすら断わらないといけないんだろうな。

 

~凛香side~

 

「やあ、少しいいかい?」

 

何人ものスカウトを断っていると、ひときわハッキリと聞こえる声で呼び止められた。

その人物は、ひょろ長い、痩せた身体が特徴的な人物。

顔は鹿撃ち帽で良く分からなかったけど、アンティーク調のパイプに左手にステッキを持っていた。

まるでシャーロックホームズみたな恰好してるわね。

こんな場が開かれたから私達が気になるように着てきたのかしら。

それにしては妙に彼の周りに人がいないわね。

 

「どうしたの、シャーロックホームズさん?」

「ほう……なかなかの推理力だね。氷による屈折も看破できているようだし君が立烏帽子だね」

 

推理って……

見た目のまま言っただけなのに、この人は何を言ってるんだろう?

 

「それはどうも。先に行っとくけど、もし勧誘なら武偵高に行くからお断りよ」

「いやもう断られているから勧誘じゃないよ。今回は君が面白いものを持ってるから、つい声をかけてしまったんだよ。どうしたんだい、その緋色の欠片(スカーレットカラット)と璃璃は?」

「緋色の欠片と璃璃? ああ、この2色の石ですか。昔貰ったんです」

「そうなのかい。これを『全なる一』と間違えたのか。よっぽど焦ってたようだけど、それほど君たちが気に入ったってことなのかな?」

 

ここにいるからには殺せんせーのことを知っているはずだけど、他と違ってずいぶん親しそうに話すわね。

 

「あなたは、殺せんせーと知り合いなの?」

「僕は有名だからね。もしかしたら彼も知ってるかもしれないけど、今は僕が一方的に知ってるだけさ。おや、そろそろ彼も気づきそうだ。また会おう、お代はここに置いとくよ」

「ありがとうございました~……変な人」

 

殺せんせーとの関係は良く分からなかったけど、いったいどこの組織の人だったのだろうか?

 

「君が立烏帽子だね。私は居凰高の教師なんだが、少しいいかい?」

 

立ち去った人の事を考える間も無く、またもや勧誘の声をかけられる。

それらに対応する中、彼の『また会おう』という言葉がまるで確信を持って近々会うことになる。

そんなふうに言ったように聞こえ、しばらく私の頭からその言葉が離れることはなかった。




教授に鹿撃ち帽の人物……いったい誰なんだ⁉(棒)
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