この後の12月のストーリーを書きたいのに時間が足りない……
本校舎に入ってまず感じたのは殺気だった。
「E組殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
言わずもがな、殺気を向けてるのは3-Aの教室にいるヤツラだった。
その目は焦点は合わず、呪詛のように殺すを連呼している。
(殺気だってるが、見た目からして理事長が何かしたんだな)
殺気を受け、武偵のサガなのか冷静に相手を観察する。
A組の状態は球技大会で見た進藤の状態に近いものだった。
俺はそいつらを一瞥して英語の単語帳に目を再び落とす。
「ねえ有希子、ホントにキンジなの?」
「シーッ‼思っても言ったらダメだよ凛香ちゃん!」
おい、凛香、有希子。
お前ら、確かに普段はそこまで勉強しないがそんな誰?みたいな目で見るなよ。
ヒソヒソと喋るが、近くにいる俺にその会話は筒抜けである。
全部聞こえているぞという意味も込めて非難めいた視線を二人に送り、苦笑を返されていると
「さすがキンジさんダス。私達が頑張る必要があるって気づいているダスね」
まさかのにせ律からの援護だった。
てかいつの間にいたんだよ、コイツ。
確かに律から身体を得ても中身はAIだからテストには参加できないから、にせ律が来ることを聞いていたがいつの間にいたんだよ。
「律さんが言ってたダス。目標達成には成績下位組の頑張りがかかってるんダス」
「にせ律の言う通りだ。さっさと教室行くぞ」
そう言って俺と同様に単語帳の暗記の確認に取り掛かるにせ律。
2人もその事が分かっていたのか、それ以上は茶化さず自分の苦手分野の確認を始めた。
「それまで!今から回答用紙を回収する。筆記用具に手を触れるなよ!」
最初に待っていたのは英語のテストだったが、今までと次元が違った。
問題の難易度は高くなり、それに比例するかのように問題量も増えていた。
ヒアリングに関しても、ボキャブラリーが多すぎて正しく聞き取れたか怪しい。
周りを見渡せば、まだ1教科しか受けていないのに俺も含めグッタリとしているヤツが何人か見える。
ホントにこれが中学生の問題なのかと聞きたくなるレベルだ。
こんな問題武偵高でやってみろよ、0点が続出するぞ。
「……凛香手ごたえはどうだった」
「ないわ。まず時間が足りなかった。これは最初にペース配分を決めないとダメね」
「だな」
休憩時間中にやってきた凛香とそう話すも、その後の国語、理科の手ごたえもやはり良くなかった。
そして続く社会。
期末ということもあるのか社会問題だけではなく、歴史の配分も多い。
それでも今日の為に社会問題は磯貝から、歴史は岡島に教わっている。
(よし、後は歴史の問題数問だけだ。残り時間は5分、時間はないがこれは岡島の言うことを思い出しながらやれば十分間に合うはず)
岡島いわく歴史は身近な人物で想像すれば覚えやすいと叩き込まれている。
そして問題の内容は『今昔物語集にも載っている、安珍・清姫伝説だがそこで登場した鐘が安置されている寺の名称を答えよ』だ。
正直、マイナー過ぎるしどちらかと言えば国語の問題だろと言いたくなるが、実際殺せんせーは社会の時に話していた気がする。
まずはこの安珍・清姫伝説を岡島に叩き込まれたように思い出してみよう。
教えてもらった時の配役は安珍は男の為俺自身を、清姫は貴族、金持ちということで白雪の配役にした。
遠山家の技で封印された『猾経』もそうなのだが、人はあらゆる物事を記憶しそれを思い出すのには鍵が必要なのだ。猾経はその鍵を意図的に作り出す術にあたるのだ。今回はご先祖の言いつけ通り、猾経は使ってない為順を追って思い出せば自然と答えが出るはずだ。
そう思い俺は先ほど思い浮かべた配役で、今昔物語集の安珍・清姫伝説を思い出していく。
まず白雪……清姫についての説明だったな。
清姫は紀州、現在の和歌山のとある豪族、いわゆる貴族の一人娘だ。
その家はよく修行僧に宿を貸している家で、ある晩にこの物語が始まった。
「すまん、熊野詣をしている者だが今夜泊まらせてもらえないだろうか」
「もちろん良いです!むしろ一泊じゃなくて何泊でもしてください‼」
「あ、ああ。ありがとう。俺の名前は安珍。お前の名は?」
「しらゆ……清姫です!さあさあキンちゃん様……じゃなかった、安珍様お部屋へご案内します」
確か岡島が言うにはこの時清姫の年齢は12歳だったな。
俺の想像の中の白雪を幼くさせて、話を思い出していく。
それでその日の晩に白雪が動くんだよな確か。
「キンちゃん様、夜分遅くすいません。でもキンちゃん様は明日ここからいなくなるんですよね。それならどうか……どうかこの白雪にご寵愛をいただけませんか」
『キンジ、大和撫子が夜這いだぞ!白雪さんで想像してみろよ。ゆっくりと下にズレる着物。うなじ、鎖骨、肩、胸、へそとどんどん見えてくるんだぞ。それも肌は透き通るかのように白い肌。なによりこの時代の灯りは蠟燭で淡い光なんだぞ。蝋燭で淡く照らされた一糸纏わぬ姿を想像してみろ!ものすごい煽情的でそそられるだ『ゴスッッ‼』ぶべらっ‼』
岡島の言葉が一字一句思い出される。
もちろん凛香に秋水を叩き込まれたところまでだ。
岡島の言葉を思い出していくうちに、より鮮明に魅力的な白雪が想像でき、問題の答えにたどり着くまでに気づけばドクン、ドクンと血流が真芯へと集まっていた。
まるで白昼夢をみるかのようにヒステリアモードになっている。
かかり方が緩やかだったため大丈夫かと思ったがダメだったな。
まあでもヒステリアモードになったおかげで、答えは既に出ている『妙満寺』だ。
それ以外の問題もすぐに答えが出て、スラスラと書きさらには間違えていた箇所を訂正したところでチャイムが鳴った。
社会は自己採点では完璧だ。短い休み時間中にそれまでのテストの答えと模範解答を照らし合わせると、数学を高得点で取らないと50位以内は厳しい事が分かる。
感覚的にこのヒステリアモードはいつもより切れるのが早い。
恐らく数学のテストが始まって5分も経たずに切れるだろう。
それなら、最初から配転が多い難関の問題をやるべきだな。
―キーンコーンカーンコーン―
そこまで考えたところで予鈴がなり、テストが配られる。
「時間は50分だ。はじめッ‼」
その声に合わせ、配られた問題用紙を裏から表にする。
配点は最後の問題が20点と高得点で、それ以外は配点は低いが量が多い。
俺は迷わず、配点が高い場所の問題を読む。
『右の図のように、1辺aに立方体が周期的に並び、その各頂点と中心に原子が位置する結晶構造を体心立法格子構造という。NaやKなど、アルカリ金属の多くは体心立方格子構造をとる。体心立法格子構造において、ある原子A0に着目したとき、空間内の全ての点のうち、他のどの原子よりもA0に近い点の集合が作る領域をD0とする。この時のD0の体積を求めよ』
簡単に言えば、『箱の中での自分の領域の体積を求めよ』ってとこか。
それぞれの角8点の体積を求め、残った体積が自身の領分なのだがどう考えても計算量が多く他の問題に裂ける時間が少なくなってしまう。
(解けきれないのが分かっていてこの問題を出したのか?それなら、ヒステリアモードが解けた後を考えて配分を考えないとまずいな……この問題に何分裂けるんだ?)
そう考え今まで机に向けていた顔を時計を見るために上げるとふと周りが視界に入る。
等間隔に並べられた机。
そしてテストを解く仲間の姿を。
(ああ、そうか。この問題は教室で、点は仲間なんだな)
問題は原子の結晶だ。すなわち俺が見ている領域の外も同じ空間が続いている事になる。
武偵憲章一条
『仲間を信じ仲間を助けよ。』
助けることができるのは一人当たり8分の1だ。
そして領域内にいるのは俺と8人すなわち1人分。
俺が守れる部分を全力で守れば、他の全員で俺の背中を守ってくれる。
すなわち俺が守るのは立方体の半分って事になるな。
『a³/2』
まさかここに来て武偵憲章が答えに導くなんてね。
苦笑交じりの笑みを浮かべつつ、答えを記入したところで丁度ヒステリアモードが切れる。
さあ、あともうひと踏ん張りだ。
最終問題
遠山金次
20/20
やれるだけのことをやった翌日、朝のHRでは封筒をもった殺せんせーが教台に立っていた。
「さて皆さん、集大成の答案を返却します。君たちの2本目の刃は標的に届いたでしょうかね?」
そう殺せんせーが言うと同時に目の前に5枚の答案用紙が舞う。
もちろん俺の答案用紙だった。
得点の高い順で言えば、群を抜いて社会が高く続いて数学、国語、英語、理科という結果になった。
「細かい点数はこの際何も言いません。今回の焦点は、総合で全員50位以内に入れたかどうかです‼。では本校舎でも総合順位が張り出されてるでしょうから、こっちも順位を先に発表します!」
そう言って、順位が書かれた模造紙を黒板に貼る殺せんせー。
頼む。あれだけ頑張ったんだ、入ってくれ!。
順位を上から見ていく。
7位 神崎有希子
13位 速水 凛香
30位 自 律
普段から一緒にいる面々の名前は出るが俺の名前はまだだ。
ドンドン下の順位を見ていくと……
35位 遠山 金次
あった。俺の名前だ。
それにE組の名前を数えていくと、最後に書かれている寺坂で29人だった。
「今回のE組のビリって寺坂だよな?」
「うん、遠山君が35位だからそうなるわね。それでその寺坂君が47位ってことは……」
吉田、原の会話によって、徐々に現実感が湧いてくる。
少しの間、静かだった教室はこの瞬間
「「「ウオぉぉぉぉ‼‼」」」
歓声に包まれたのだった。
なんせこの目標は、俺が来る前からの全員の悲願だ。
改めて総合順位が書かれた紙に書かれた俺の名前を見る。
最初は個別授業が必要なほど戦力外だった俺がここまでできたのだ。
例え周りが1つ下だったとしても、自身の成長を実感でき思わず顔がほころんでしまう。
「ヌルフフフ。どうですかカルマ君?高レベルの戦場で狙って1位を取った気分は?」
殺せんせーがカルマに声をかけているのを見て、改めて模造紙の左上『1位』の場所を見てみる。
赤羽 業 500
カルマのヤツ5教科全部満点かよ。
「完璧を誇った浅野君との勝敗は数学の最終問題でした。ちなみにこの問題を満点で解いたのはカルマ君とキンジ君の二人だけでした」
殺せんせーがそう言うと皆の視線がカルマだけでなくこっちにも向く。
「ああ、あれね。なんかよく分からないけど皆と過ごしたから解けた気がするよ。キンジ君はどうなの?」
こっちに振るなよ。不可抗力とはいえヒスって解いたとか言えねーぞ。
若干の後ろめたさを感じつつもあの時思った事を正直に言う。
「武偵憲章の偉大さをテストで教えられるとは思わなかったな」
俺の言葉に何人かが首を傾げる。
てか凛香の目がすごい怪しんでるんだが……
これは後で問い詰められそうだな。
「さて、皆さん。晴れて全員ここを抜ける資格を得ましたが、ここを抜けたい人はまだいますか?」
この後の事を考え憂鬱になっていると、ペチペチと触手を叩いて殺せんせーが全員に向かって聞いてきた。
俺自身は依頼でここにいるため、抜ける意味なんてない。
それにその言葉は今更だろう。
「いるわけないだろう」
「2本目の刃を持ったんだし、ここからが本番でしょ?」
ほらな。
前原や三村の言葉に合わせ、各々が武器を構える。
「ヌルフフフ。茨の道を選ぶんですね。では今回の褒美に先生の弱点を教え『――ドッ‼ガッシャーン‼‼』ニュヤッ⁉」
突然、鈍い音と共に教室が揺れる。
何が起きた⁉
音からガラスの破砕音、木材が折れる音とは分かったが外で何が起きてんだよ!
「え、ちょっと何で?」
少しして揺れがおさまった後、誰よりも速く外の様子を見た片岡が驚きの声を上げる。
それに釣られ、俺も含めてほぼ全員が窓から身を乗り出して様子を見ると、そこには複数の重機によって半分崩壊している旧校舎とそれを無表情で見る理事長の姿が目に入り思わず俺は大声で叫んでしまった。
「壊すなら、壁代請求してんじゃねーよ!!!!」