「…………」
「…………」
12月24日、世間で言うクリスマスイブ。
そこで私とキンジはアクアシティお台場の中を少しの間隔をあけ歩いている。
目線をチラッとキンジに向けると、タイミングよくキンジも私を見てすぐに2人して視線を逸らす。
自分のことながら何を恥ずかしがってんの!
ここまで来たのよ、鈍感なキンジをリードしなきゃいけないのに。
そうこれはチャンスなのだ。
いつもいる二人、有希子は親に呼び出されており、律は律の体を作った社長にクリスマスパーティーに誘われてそちらに行っているのだ。
しかもこんなデートをやると必ず湧いて登場する殺せんせーは、「先生、24日は横須賀に行ってきます。ヌルフフフ豪華な食事が先生を待っているのです」と言っていないのだ。
「なあ凛香? ホントにこんなところまで行く必要があったのか?」
「そ、そうよ!桃太郎で必要な小道具でここにしか売っていないのよ!」
クリスマスイブのせいか、まわりにいるいつも以上にいちゃつくカップルたちを見てキンジが聞いてくる。
キンジには明日やる演劇発表会で必要なモノを買うという理由でついてきてもらった。
だってキンジ、デートだなんて本人に言ったら、梃子でも家から出てこなさそうだもん。
でも改めてデートってどこに行けばいいの?
今までのデートの経験など、私の誕生日だったあの日だけだ。
前は矢田のアドバイスどおりに映画と服を買いに行ったけど、また同じところってのも味気ないし……
こんな事なら、誰かに相談すればよかった。
カナねぇになったいちにぃなんてとても頼もしいのに……
~~♪
「凛香、スマホ鳴っているぞ」
「え?あ、ホントだ」
考えすぎて、スマホの音にも気づかなかった。
キンジに指摘され、スマホの着信相手を確認するとそこには『遠山 金一』と表示されている。
なんでキンジじゃなくて私なんだろう?
そう思いつつ、通話に出ると
「もしもし、凛香ちゃん?」
なんていうベストタイミングなんだろう。
通話相手はいちにぃが
「どうしたのカナねぇ?」
「凛香ちゃんは明日25日だけど、空いているかしら?」
明日に関しては終業式兼演劇発表で1日が潰れることになっている。
「夜なら空いているわ」
「なら良かったわ。キンジと一緒に夜に巣鴨の家に来てくれる?二人に渡したいものがあるの」
カナねぇの言うことだから私達が喜ぶものなんだろうけど、カナねぇになっているってことは仕事中なんじゃなにの?
「それは分かったけど、カナねぇ仕事は大丈夫なの?」
「ええ、これから仕事だけど今日だけだし、アンベリール号も浦賀沖周辺を遊覧するだけだから大丈夫よ」
アンベリール号と言えば、ここ最近ニュースなどで取り上げられている最高級の豪華客船だ。
たぶんカナねぇはそれの護衛に任務に任命されたんだと思う。
「なら安心ね。クリスマス楽しみにしてるから。それはそうとカナねぇ相談なんだけど……」
そこでチラッとキンジを見ると、キンジはいちゃつくカップルを見ないようにそこら辺の雑貨を覗いていた。
それを確認した私は、カナねぇに今の状況とキンジがどこに行けば楽しめるのか相談してみる。
「フフッあのキンジをイブに二人っきりで連れ出すなんて義姉さん嬉しいわ。そうね、凛香ちゃんの好きな所でいいんじゃないかしら?」
「私の好きな場所でいいの?」
「ええ、あの子は鈍いけど鋭いから大丈夫よ。……後悔しないように頑張りなさい」
そう言ってカナねぇとの通話が切れる。
最後の言葉は少し気になったけど、それよりもアドバイスの説得が矛盾していて結局どこに行けば良いのよ⁉
他の人にもアドバイスを貰いたいところだけど、これ以上キンジを待たせるのも悪いし……
そう思った私は諦めてキンジの元へと向かう。
「ん?凛香、兄さんとの電話はもういいのか?」
「うん。いちにぃがアンベリール号での仕事が今日だけだから、明日巣鴨の実家に二人とも帰って来いって」
「兄さん、凛香じゃなくて俺に電話すればいいだろ……」
そう言ってため息をつくキンジ。
きっとカナねぇの事だから、キンジにプレゼントの事を秘密にしたくて私に電話したと思う。
だからその事は黙っておく。
後はカナねえのアドバイス通りなら私の行きたいところか……
あそこは外せないとして……あとはせっかくだからあそこね。
「ねえキンジ、ガンショップによらない?」
「どうしたんだ急に、新しい銃に変えるのか?」
「そうじゃないわ。せっかくお台場まできたんだから、見ておきたかったのよ」
このアクアシティお台場は武偵高が近いおかげか椚ヶ丘と違ってガンショップがある。
店がある事は知っていてもどんなものが置いているかは知らないため、一度機会があれば行ってみたかったのだ。
「まあ俺もまだ店を覗いたことはなかったし、ちょうど良いか」
「なら決まりね」
私の提案で数階上にあるガンショップ『GUNS N`GUNS』に入ってみると、店内は防弾ガラス製のショーケースや壁にかけられた銃等。そしてたくさんのパーツが棚やカゴに入れられ並べられていた。
見た目は6月ごろに千葉の案内で行ったエアガンの専門店を彷彿させる。
まだあれから半年ほどしかたってないのにずいぶん昔のことのように感じるわね。
「へえ、なかなかいいじゃねーか」
これは予想外だったのか称賛の声を漏らしながらキンジも店に陳列している銃を見たり、店員に言って渡して貰った銃を構えたりしている。
そういえばキンジの愛銃を選んだ理由って何なんだろう?
わざわざ改造までして使ってるんだし、何かしら思い入れでもあるのかしら?
「ねえ、キンジ。キンジはなんで今の銃を選んだの?」
「値段だな。ちょうど米軍の払い下げで格安だったんだよ」
…………おい。
なによ、その理由。
せめてウソでもいいから、もうちょっと何かなかったの?
金なの、結局金が全てなの⁉
同じ銃を使う私まで悲しくなる理由よ、それ‼
展示品を見る幼馴染に憐みにも似た呆れを思わず向けてしまう。
まあこの幼馴染に限っては銃よりも自身の体でどうにかしたほうが安全な為、そこまでこだわる必要がないのだろう。
それでも私的にはもう少し夢を見させてほしかったわ……
キンジの言葉にため息をつきつつ、私も銃のパーツを覗いてみる。
パーツは様々なものがあり、その中でも私はグリップの部分が入れられている籠に注目する。
ここにあるのは戦闘用というよりも、絵柄が刻まれたりしている所謂ちょっとしたオシャレをするためのパーツのみを集めたモノだった。
「あ、これ良いわね」
目についたそれは表面が木製で桜の花びらと盃が彫られたグリップだった。
遠山家と酒飲みの母さんを彷彿させるし、それになかなか渋いデザインね。
「おいおい凛香、銃にそれはないだろ?」
むぅ……そこら辺にあるドクロや鷹のデザインよりよっぽどいいと思うのに。
「じゃあキンジならどんなモノ選ぶのよ」
「俺か?別に銃に装飾は要らないと思うが……睨むなよ凛香、分かった選べばいいんだろ。俺ならこれだな」
適当にはぐらさそうとするキンジを睨むと、ため息をつきつつ選んだソレを私に見せる。
それは三日月の模様が描かれたグリップだった。
「三日月って殺せんせーを彷彿させるだろ。だからE組みたいだなって思ったんだ。それにこれならベレッタにも使えるしな」
私が良いと思ったのはリボルバー系のグリップだったからもちろん使えない。
てかキンジってあれよね。こういうときだけセンス良いわよね。
「…………」
「なんでそこでふくれっ面になるかわかんねえけど、もう昼だからここを出て飯でも食うぞ。俺は欲しいパーツがあったから会計してくるし、先に店出ていろ」
言われた通り、外に出て待つがなかなかキンジが出てこない。
ただ待つのもあれだったので、先にどんな店があるか案内板を見に行く。
(フードコートは5階ね。あれ?あの黒髪は……)
案内板を見ていると、こちらに歩いてくる二人組が目に入る。
そのうちの片方はよく知る顔、どこからどうみても有希子だった。
なんで有希子がここにいるの⁉
キンジと来ているのがバレたって感じではないけど、ここで見つかったらいろいろ言われそうね。
そう思って私は建物の陰に移動し、有希子が立ち去るのを待ってみる。
「ゆきこ!その桃みたいなものって何?」
「ももまんですか? 甘い食べ物なんですけど食べてみます?」
「ええ…………ッ⁉なによこれ!すっっごくおいしいわ!」
たぶん親に呼ばれた理由ってあの子の案内ね。
有希子の横ではあまり見ないピンクブロンドのツインテールの、おそらく間宮くらいの年齢の子が少し前にブームになったももまんを食べて歓喜に震えている。
ももまんが気に入ったのだろう、ツインテールの先がブンブンと激しく揺れていた。
そう、例えるなら大好物を前にしてブンブンと尻尾を振る犬だ。
そう思うと行動が可愛く見えてきて、クスッと笑ってしまう。
そうしているうちに有希子たちがその場からいなくなり、ちょうど良いタイミングでキンジがやってきたた。
「おい凛香、勝手に行くんじゃねーよ。探したぞ」
「ごめんキンジ、可愛い犬がいたのよ。さあ行きましょ」
「犬?こんなところにか?」
私は首を傾げるキンジを引っ張ってフードコートへと向かったのだった。
そこからはあっという間だった。
キンジのおススメだという新都城という中華料理屋はお手頃価格な値段なのに味がおいしく、それを食べた後は階を降りつつ服や雑貨などを見たり買ったりしていった。
キンジの両手に荷物があるくらいには買い物を済ませたところで、私達は今1階のある店の前にいる。
「ああぁ~可愛い~」
「なあ凛香……聞こえてないか。はぁ、やっぱりこうなったか」
キンジが何か言ってる気がするけど、そんなの目の前の子に比べたら些細なことだ。
「にゃあ」
ああ、やっぱり子猫は可愛いわ。
つぶらな瞳によちよちと短い脚で私の方にくる愛くるしい姿。
ガラス越しではあるが指をつけてみると、子猫の前脚が私の手に重なる。
ダメ、可愛すぎて死にそう。
これが竹林が言ってた『萌え殺す』ってやつね。
こんなの殺せんせーでも死ぬわ、ええ確実に。
「お客様、子猫がお好きなんですね。よければ抱っこしてみますか?」
「ええ、ぜひ!」
店員さんが声をかけてきて、キンジと私がお店の中に入るとそこは楽園だった。
スコティッシュフォールドにマンチカン、ロシアンブルーにペルシャにアメリカンショートヘアなど様々な品種の子猫が大きくて真ん丸な目をこちらに向ける。
そして店員さんに渡されたのはアメリカンショートヘアの子猫。
脇のしたから持ち上げるとアイスブルーの瞳が反射して私を映す。
今の私の顔は思いっきりにやけていた。
こんな姿誰かに見られたらスゴイ恥ずかしいけど、今はキンジだけだしそんな事は気にせずに子猫をほおずりする。
ああ、フワフワでプニプニで可愛すぎる。
時折、肉球で私の頬を押してくるがそれもプニプニしていて私の中の理性が無くなる。
ハッキリ言って、お持ち帰りしたい。
「凛香、お前相変わらずの猫好きだな。店員がひいてんぞ」
「いいのよ。今はこの子を堪能で来たらそれで良いわ」
「ニヤけてるせいでしまらねえぞ」
そう言ってキンジが私が抱きしめていた子猫に……顔が近い!
なんでいつもならこういう状況を避けるアンタが率先としてやってんの⁉
猫を抱いているため、急に動くこともできず心の中だけがこの状況にアタフタしている。
そんな私の心情を察知しないキンジは子猫を軽くつついて、にゃあと鳴くとほほ笑むように柔らかい笑みを浮かべる。
それに伴って私の心臓が一段と高鳴り、顔も熱を帯びるのが分かった。
カッコいいのは分かってたけど笑み一つでこれって、我ながらチョロすぎないかしら。
「凛香、お前のことだからまだしばらく子猫と戯れるんだろ? 先に出てるからゆっくり戯れとけよ」
そんな私を見て何か勘違いをしたのか少し焦るようにキンジが店から出て行った。
何をキンジは思ったのかしら?
さっきの状況でキンジも私の事を意識してくれたのかな?
そう思うと一段と顔が真っ赤になりそうな気がしたため、私は今の顔を人に見られたくない為子猫に顔を埋めるように抱きしめた。
それから5分ほどで店員に引きはがされてしまったため、私は泣く泣く外に出てみると空は赤く染まりクリスマスツリーが色鮮やかにライトアップされていた。
(……綺麗ね)
そしてその下にはキンジがいた。
キンジの背中しか見えなかったが方向的には私同様にツリーを見ているのだろう。
そろそろ良い時間だし、今日の晩御飯のリクエストを聞きながら帰ろうかと思いキンジの方に向かう。
「ねえ、キンジ。今日の晩御飯は何が「……なあ凛香」え、な、何?」
近くまで来るとキンジが私の肩を掴み、真剣そのものな目でこちらを見てくる。
つい先ほどの事もあって、私の頬が瞬時にまた夕焼け空と同じ色へと染まる。
ただ、そんな浮ついた感情は次の言葉で消えた。
「兄さんの仕事場の船の名前を教えてくれ」
「へ?アンベリール号で警備の任務だけど」
「ッ‼……荷物は凛香が持って帰ってくれ。あと律には言っておくから、今日はお前んちに泊めてくれ」
「キンジ? ちょっとどこに行くの⁉」
私がそう声を出すも、キンジは止まらずすぐに人込みに紛れて消えてしまった。
いったいどうしたのよ、キンジは。
そこで私は気づいた。
カップルや通行人、この場にいる人たち全員がツリーの方を見ている。
いくらイルミネーションが綺麗でもこれは異常だ。
そう思い私はもう一度ツリーのほうを見ると、
「…………うそ」
ドサッとキンジに渡された荷物が地面に落ちる。
それも気にせず私は目に入った情報に呆然としてしまう。
皆が見てたのはツリーではなく、その奥の大きなモニターだったのだ。
そこに写っていたものは、
『アンベリール号で2度目の爆発です!現在、燃えているのをここからでもはっきりと確認できます。また死傷者の数は不明なままです‼』
いちにぃが乗っているはずの船が炎上している映像だった。