哿の暗殺教室   作:翠色の風

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85弾 仇の時間

~凛香side~

 

茅野の連絡を受けた翌日、私達は冬休みに入った学校へと向かっていた。

ホントなら昨日のうちにキンジに会いたかったんだけど、茅野に言うとあんまりにも憔悴していてその日に会うのは勧められないと断られたのだ。

 

「茅野、本当に教室にいるのね?」

「うん、そこが良いってキンジ君が」

 

皆も心配しているからか心なしか歩調が早くなる。

 

「なあ、あれって」

 

誰かが不意に言った言葉に顔を上げてみると遠くの空から何かが猛スピードでこちらへ迫ってくるのが見えた。

あんなのは私達が知る中で一人の教師しか該当しない。

 

「キンジ君は⁉」

 

その言葉と共に殺せんせーが土煙を纏いながら裏山に着地した。

 

「キンジなら教室で待っているって……殺せんせー何があったんだよボロボロじゃねーか⁉」

 

杉野の言う通り、殺せんせーは今まで見たことが無いほどボロボロだった。

服はボロボロに、触手なんて数本が切られたままだ。

いったい殺せんせーの身に何が……

 

「先生の事は良いんです!それよりもまずはキンジ君を」

 

いつも以上に焦って旧校舎へ向かう殺せんせー。

私達もその焦燥に当てられ、それ以上は何も言わずに殺せんせーの後ろを走る形で追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「キンジ君!」

 

旧校舎にたどり着くと、真っ先に私達が使っている教室へ向かい殺せんせーを先頭に入っていく。

 

そこには机に座って、外を見るキンジがいた。

殺せんせーの言葉にも反応せず、どこか上の空のようだが見た感じはケガなどもしていない。

そのため私の口からはまずは安堵のため息がでた。

 

「キンジ、皆心配してたのよ。昨日はどこにいってたのよ!」

 

そう言って私はキンジの傍へと近づくとこちらに気づいたのかキンジが顔を向ける。

だが顔を向けても、無表情でそれ以上の反応を示さない。

その異常な反応に私は足を止める。

 

「キンジ、アンタ大丈夫なの?」

「なあ、殺せんせー。アンタに何点か聞きたいことがある」

 

その瞳に何も移さないまま、まるで機械のようにキンジは私を無視して喋りだす。

 

「アンタ、一昨日は横須賀で何をしていた」

「……先生は食事に「アンベリール号でか?」ッ⁉」

「兄さんは強かっただろう?その再生できない触手がその証拠だもんな」

「キンジ君……君はこの触手の正体を知ったのですか?」

「質問してるのはこっちだぜ。まあいい、アンタの反応で確信を持てたよ。この写真は本物だったんだな」

 

待って。どういうことなの?

まるでキンジはいちにぃが殺せんせーに殺されたような口ぶりではないか。

そしてキンジの手から写真が捨てられる。

そこにはボロボロの殺せんせーと血まみれで倒れているいちにぃ。

でもこれって……

 

「キンジ君、君は勘違いしている。先生の話を聞いてください」

「人殺しの話を素直に信じるほど善人じゃねーよ、俺は。……そうだ凛香」

 

私が写真に違和感を抱いていると、不意にキンジが私に声をかけてきた。

 

「俺武偵やめるわ」

「え」

 

キンジのその言葉に私どころか全員が呆気にとられた次の瞬間。

緋色の残光がよぎる。

 

――ドゴッ‼

 

私達の後ろに突然旧校舎の壁に穴が開き、殺せんせーが視界から消え失せた。

何が起きたのか分からない。

その何かの原因を見るためにも後ろを振り返ると

 

「チッ殺し損ねたか」

 

さっきまで目の前にいたキンジが足を振り抜いた状態で立っている。

 

「体育倉庫に蹴り飛ばした。約束通り後はお前に譲ってやるよ茅野」

「なんで……」

 

その言葉は誰とも知れずに漏れる。

 

「ふふっ詰めが甘いねキンジ君も」

 

茅野とキンジの首からそれぞれ翠と緋の触手が生えていたのだ。

全員が呆然としている間に茅野は空いた穴から出て行く。

 

「アイツの作戦もすぐに終わるだろう。外に行った方が見物だぞ」

「ッ‼キンジ‼ なんでアンタがそれを……それに武偵をやめるって」

 

キンジの言葉に我に返った私が聞くとキンジの顔は険しくなる。

 

「凛香も俺を探したなら見たんじゃねーのか?兄さんに罵詈雑言を浴びせる奴らを、俺は兄さんたちみたいなバカな役目をやるなんて御免なんだよ。触手は確実にあのタコを殺すためだ」

 

その言葉と共に――ドゴォォン‼と地響きが鳴り響く。

 

「チッ、失敗してんじゃねーか」

 

そう言って外へと出て行ったキンジを追いかけると、屋根には茅野が、その茅野を見上げるように息を切らしている殺せんせーがたっていた。

そして一足飛びで屋根に飛び移り、茅野の隣に立つキンジ。

 

「思わず防御(まも)っちゃった。殺せんせーが生徒を殺すはずないのに」

「おいおい詰めが甘いぞ。人の事言えねーじゃねーか」

 

まるでテストでケアレスミスしたかのように話す2人。

それを見て殺せんせーが口を開く。

 

「なぜ茅野さんまで」

「ごめんね。茅野かえでは偽名なの。『雪村あぐりの妹』そう言ったら、私がキンジ君の横にいるのが分かるでしょ?」

 

雪村あぐり……

ここにいる生徒ならほぼ全員が知っている。

なんでここでE組の前任の担任の名が……

 

「二人とも失敗したし切り替えなきゃ。明日の0時に今度は2人で殺るわ殺せんせー。場所は直前にメールするから」

 

そう言って立ち去ろうとする茅野にキンジは「少し待て」と呼び止めた。

 

「お前ら、ただ俺達が殺せんせーと殺し合っているのを見るだけじゃヒマだろ。もし俺達を止めたいなら同じ時間にお前らも来いよ」

「……はぁキンジ君」

「いいじゃねーか茅野。本命を殺す前の準備運動だ。それに俺一人で相手する、その間だけお前にタコは譲ってやるからよ」

 

それは今まで見たことがない笑みだった。

そうまるで肉食獣のような、()()()()()()()()なそんな獰猛な笑みだった。

 

「まあそれで君が良いならいいわ。なら皆にも直前に殺せんせー同様に場所をメールするから来たい人は勝手に来なさい」

 

それだけ言って二人は触手で枝を掴み、山を下りて行った。

私もさっさと準備をするために山を降りなければ。

 

「ちょっと速水さん。どこに行くつもりなの⁉」

「不破、決まっているじゃない。武器を取りに行くの」

「それってまさか」

「言って止まらないなら、あとは力づくでしょ」

 

それだけ言って山を下りようとすると、複数の足音が両隣からする。

 

「そうだね。それに聞きたい事もあるし、あとで凛香ちゃんの違和感も教えて」

「じゃあ私も社長に秘密兵器を受け取った後に合流しますね」

 

分かっていたが、その足音は有希子と律だった。

 

「待てよ。作戦を決めるなら俺たちも入れろ」

「触手ならシロから少し聞いている。実体験も含めて話す」

 

そして意外にも寺坂やイトナもついてきた。

 

「あんたが率先として動くとは思わなかったわ」

「うるせぇ。……最初は年上で気にくわない奴だったがよ。アイツも茅野も含めて俺達E組だろ。なら仲間が道を踏み外すんなら殺す気でそれを留めるもんだろ。それにアイツには何度も助けられてるしな、借りを返すだけだ」

「寺坂のデレなんて、誰も求めてないぞ」

「うるせぇイトナ!おい、お前らも笑うんじゃねーよ!」

 

顔を真っ赤にさせて怒鳴る寺坂。

そして最初は数人だった、足音は自然と増え気づけば全員が山を下りている。

 

「寺坂に言う通りだ。仲間を止めに行かないなんて選択肢ないよ」

「うん、僕達で止めよう。キンジ君も茅野も」

 

 

 

――指定の時間まで残り14:00――

 

 

 

 

~キンジside~

 

指定した時間まで1時間を切った。

指定した場所は椚ヶ丘公園の奥にあるすすき野原だ。

俺と茅野はそこまで触手で5分とかからない場所にある高台で街を見下ろしていた。

 

「ふむまさか、彼も適合するなんて驚きだね」

 

そんな人気のない場所に二人の影が現れた。

1人は白装束の男、シロだ。

 

「何?今更忠告したのにとかでもいいに来たの?」

「いいや。君が私の言葉に従うとは思わないからね。ただ彼女(スポンサー)に君達を見せに来ただけだ」

 

シロの隣に立っていたのは10歳未満に見える少女だった。

 

「ふむ。彼には緋色ではなく瑠色が適しているはずだが、先祖ゆえにそちらも適したか。そしてその少女も面白い。結果的にとはいえ感情を殺して適合するなんてな」

 

この少女から感じるのはなんだ。

何かが嚙み合うようなそんな奇妙な感覚をこの少女から感じる。

俺を見て茅野を見た少女が再び俺を見る。

 

「だがあの方どころか私が片手間に行った一手でこれとは少し期待ハズレだな。招くのは今後次第か。今後があればの話だがな」

 

それだけ言って、その少女は再び闇に消えていった。

 

「その触手、緋緋と璃璃に辛うじて適合した君達には少しは期待しているよ」

 

そしてそれに続くようにシロも消えていった。

……まあ、あの少女もシロもどうでもいいか。

今はもうすぐやってくる奴らとの殺し合いのほうが優先だからな。

 

――指定した時間まで残り00:45――

 

 

 

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