まだまだ稚拙な文章とは思いますが、良ければ一読下さい。
1話 ケアノス・オーレウス
ある世界に、その世界自体から拒絶された青年がいた。
青年は幼くして拳法を学び、功夫を修め、武術を習熟し、やがて気功へと至ったのである。体格に恵まれなかったが特異な体質であった青年にとって、氣の道は奥が深く、探究に値する分野であったと言えるだろう。10代半ばにして氣を極めつつあった青年を、世間は『天才』と称して囃し立てた。
しかし、青年はある日を境に歪んでしまった。そして「氣の深淵をこの目で見て、自由を謳歌したい」と言い残し、表社会から姿を消したのである。
それからの青年は裏社会で暗躍し続けた。これまで修得した武芸の全てを殺人という行為に使用したのである。なぜそうなったかは青年のみぞ知るところではあるが、青年は狂ったように殺し続けた。それは快楽であり、自己の成長の為でもあった。殺して、殺して、殺し続けた結果、世間は青年を『天災』と呼ぶようになる。
そんな青年をその世界は許容しなかった。それどころか強制的に排除してしまったのである。
不可解な力に押し出された先は、ひとつなぎの大秘宝“ワンピース”が眠る架空世界であった。
しかし、青年は知る由もない。
なぜなら青年は気付かぬまま飛ばされたのだから――。
よく晴れた空に真っ白な雲が泳いでおり、カモメが数羽気持ち良さそうに宙を舞っていた。その真下では、比較的穏やかな波がたたずむ大海原が広がっている。そんな穏やかな波にタプタプと揺られ、流されるままに浮かんでいる一人の青年がいた。
件の青年『ケアノス・オーレウス』その人である。
燦燦と降り注ぐ太陽の光にケアノスは目を覚ました。海面にプカプカと浮かんでおり、たまに来る波が顔を拭っていく。状況を理解しないままケアノスは大声を上げる。
「…………しょっぱッ!?」
記念すべき異世界での第一声は、あろうことか海水の感想であった。
ケアノスはしばらく仰向けに浮かんだまま空を眺めていた。そして、おもむろに上体を起こし周囲を確認する。
「……どこだァ、此処?」
言葉を発せども返答は無かった。現在分かっているのは海に浮いているという事と、此処に至った記憶がポッカリ無いという事だけである。
辺り一面、海、海、海であった為、ケアノスはカモメが飛んで行く方角に陸地があると信じて泳ぎ始めた。
どれほど泳いだであろうか。あれほど高くに輝いていた太陽はもうじき沈もうとしていた。すると、ケアノスの目指す先に青々と茂った草木が見えて来たのである。
「疲れたァ……やっとか」
ケアノスは溜め息を吐き、肩で息をしながら海岸の岩場に上陸したのだった。そして、そのまま手頃な大きなの岩に腰を掛ける。
「ふゥ……ベタベタするなァ、熱いシャワーを浴びたいところだけど……」
ケアノスは着ている上着をビタビタさせながら、後ろを振り返った。そこには樹木の生い茂った森が広がっていたのである。
「これじゃ期待薄だな……おのれカモメめ、見付けたら目にモノ魅せてくれる!」
カモメは何も悪くないのだが、八つ当たりのターゲットを定めたケアノスは立ち上がって再度森を見る。その後、空を見るがカモメはとっくの昔に見えなくなっていた。ケアノスは着衣のポケットを確認する。
「カードもない……電話もない……アレすらない……裸じゃないのが、せめてもの救いかァ」
現在着ているケアノスの服装は、前の世界で仕事着としてきた太極服である。しかし、仕込んでいた暗器もキャッシュカードも無くなっていたのだ。
「スられたのかな? ハハハ……全く記憶にないとは、お見事なスリも居たもんだねェ」
ケアノスは他人事のように笑っていた。そしてキリッと表情を改める。
「とりあえず……カモメは許さん!」
八つ当たりの項目が更に増えた瞬間であった。すると、ケアノスの腹がグ~っと鳴ったのである。
「腹が減っては何とやら……か、とりあえず食料確保だなァ」
そんな事を呟いて森へと歩を進める。この時、ケアノスは自分の周囲に氣を張り巡らせていた。どんな危険な生物が潜んでいるか分かったものではない為、警戒しているのである。氣をある程度まで修めた者であれば、その氣によって周囲の環境を把握出来るのだ。それは目視と同等以上であり、実際に触るよりも正確なのである。達人ともなればより遠くまで、より精密に把握出来るようになるのだ。
日も落ちて薄暗い森の中を躊躇無く進めるのは、この氣の恩恵によるものだった。歩きながらケアノスは愚痴る。
「一体全体なんでこうなったんだっけ? ゲテモノよりは肉を喰いたいなァ……ってか、ベタベタして気持ち悪い」
純粋な疑問と純粋な欲望さらには純粋な感想が交錯するケアノスであった。先程から氣によって近くに生物が居るのは分かっていたが、ケアノスは敢えて無視をしている。
「チキンがイイけど……まぁ、カモメでもいっか」
あくまでもカモメは仕留める予定のケアノスだったが、発見出来たのはヘビやカエルといった爬虫類と、クモやムカデといった節足動物達であった。願望は儚く消えたのである。
現実逃避から帰還したケアノスはそれらゲテモノを捕獲し、石を敷き詰め、小枝をくべて火を熾した。万能ナイフなど持ち合わせていないケアノスは、力任せに皮を剥いで全て丸焼きの刑に処したのである。味には期待していなかったケアノスだったが、一口かぶり付くと――。
「…………クソっ、不味くないじゃないか! 詐欺だ、カモメめェ!!」
空腹という調味料はゲテモノを絶品グルメに換えていた。何だかかんだ文句を言いつつも全て完食したケアノスは、食事中に乾かしておいた太極服を再び纏い、寝床となる大樹によじ登る。太い枝に腰掛て幹に背中を預けると、そのまま寝入ってしまったのだった。
ここがどこで、どうしてこうなったのか、疑問は尽きる事がないハズなのに、ケアノスには気にした様子が見られなかった。それはケアノスの思考や性格に起因している。彼はいつも楽しいかそうでないか、面倒かそうでないかで行動していた。つまり原因を考えるが面倒になった為、それ止めて眠りについたのである。
至極単純だが、実際にできる人間はそうはいない。これはケアノスがまだ『天才』と呼ばれていた頃から変わっていない性質であった。
翌朝、目の覚めたケアノスは開口一番叫んだのである。
「あっ、カモメだ!!」
森の中にそびえ立つ一際高い大樹の更に高みに登ったケアノスは、夜には分からなかった風景を見渡せていた。辿り着いていた陸地はどうやら然程大きくない無人島のようであり、遠目にカモメの群れがハシャいでいるのが見えたのである。
「アッハッハ……イイ度胸だな、カモメ共!」
ケアノスはそう叫ぶと、枝から飛び降り、カモメが見えた方向へと走り出した。木々を避け、森を駆け抜けると、カモメがいる更に向こうに船が見えたのである。それを見たケアノスが呟く。
「ありゃ、珍しいなァ……今時、髑髏マークの帆なんてないと思ってたけどなァ」
ケアノスが発見したのは海賊船であった。かなり離れているが、ケアノスの目にはハッキリと模様が見えている。
「砂時計で髑髏をサンドイッチするなんて……き、嫌いじゃないぞ! なかなかセンスあるじゃないか……ってか、何隻あんだよ!?」
50隻はあろうかという船団を発見したケアノスは嬉々としていた。思い立ったが吉日とばかりに決意を表明するケアノス。
「よし、アレに乗っけて貰うか。密航でもイイけどサクッとヤッて旅券奪う方が楽かなァ」
すると、ケアノスがある事に気付き大声を上げる。
「うげッ! また濡れるじゃんかァ……もう、カモメめェ!!」
100m程の短い距離であれば水面でも走れるケアノスであるが、此処から船団までの距離はその10倍近くあったのだ。ガックシするケアノスは諦めたように呟く。
「仕方ないかァ、船に乗ったらまた乾かそう。あとは……飯だな!」
出来るだけ濡れたくないケアノスは、無意味と知りつつも100mだけ海面をダッシュするのであった。
読んで下さり有り難う御座います。
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2014.9.7
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