悪を名乗りし者   作:モモンガ隊長

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10話 仲間(クルー)

 アーロンパークのアジト内でお宝の隠匿(いんとく)工作をしていたナミは、外で激しく言い争う声を聞いて飛び出して行った。

 そして、言い争う人物達を見て叫ぶ。

 

「ルフィ! ゾロ! それに……サンジ君?」

「ナミ! 迎えに来たぞォ」

「…………」

「ナミすわぁぁぁん! ご無事で何よりです! このクソヤローに何かされませんでしたか? ……ってか、てめェがなんでココにいやがるんだよ!?」

 

 サンジはケアノスを邪険にしていた。バラティエで会った時から気に喰わないのである。

 親の敵のように睨んでくるサンジにケアノスは失笑する。

 

「クックック……説明するのは面倒なんで、ボクの“元パートナー”であるナミさんに聞いてよ」

「な……な……なんでナミさんが、てめェの元パートナーなんだよッ!?」

「クヒヒヒヒ……昔のかなァ、昔の……ね」

「む……むむむむむむ、昔の女だとォ!? てめェ、やっぱり殺す!!」

 

 顔を真っ赤にして激昂するサンジ。

 

「やめて! サンジ君! ソイツに手を出さないで!」

 

 ナミが強引に割って入りサンジを制止する。

 

「な、ナミさん……やっぱり、そのヤローと……?」

「勘違いしないで。以前仕事で用心棒に雇ったってだけの関係よ……それ以上でも、それ以下でもないわ!」

「な~んだ、そうだったんですか。おれはてっきり……おい、クソヤロー! 誤解を招く言い方するんじゃねーよ!」

 

 サンジの怒りは静まっていないが、冷静なゾロが口を開く。

 

「それで、どういう状況だ? おれが倒した数より多い魚人が倒れてるみてェだが……」

「……ケアノスがやったのよ。アーロンも幹部も全員ね……」

「ケアノス?」

「……コイツのことよ」

 

 ナミはケアノスを指差した。

 

「どうも、初めまして。ケアノス・オーレウスと申します。職業は用心棒でしたが……解雇されたんで、今は一介の賞金稼ぎってとこかなァ」

「おれルフィ。海賊王になる男だ!」

「…………」

「…………」

 

 ケアノスの自己紹介にルフィは返したが、ゾロとサンジは警戒したまま口を開こうとしない。

 ウソップはさり気なくルフィの背後で気配を消していた。

 

「それで……皆さんは、ナミさんのご友人?」

「仲間だ。ナミはうちの航海士なんだ」

「おや? ナミさんはアーロン一味の航海士なのでは?」

「ん? そうなのか?」

「…………」

 

 ナミは一瞬黙り込む。何と答えて良いか躊躇われたからだ。

 苦悶の表情を浮かべるナミを見て、ケアノスはニヤニヤしている。

 

「クックック……沈黙は肯定とみられますよ?」

「そうよ……いえ、そうだったわ」

「だった?」

「…………」

 

 ゾロが疑問の声を上げた。

 麦わらの一味の中で一番冷静なのは重傷を負うゾロだった。

 沈黙するナミに代わって、ある男が声を上げる。

 

「ナミはもうアーロン一味じゃねェよ」

「……ウソップ」

「確かにナミはアーロンの仲間だった……いや、正確には仲間のフリをしてたんだ」

 

 ウソップはナミから聞かされた事情を他の仲間に話し始めた。

 

(……あれェ? ボクもこの話聞かなきゃダメなのかなァ? さっさとお宝貰ってアーロンの換金に行きたいんだけど……)

 

 ウソップの説明中、ケアノスはこれからどうしようかを考えていた。

 

 

 

 

「――てなワケなんだ。だからさ、勝手した事は許してやってくれよ」

「……ごめん、みんな」

「ウシシシ、気にしてねェよ。仲間だろ!」

「そうですよ、ナミさん! これからはこのおれがコックとして愛の戦士としてナミさんをお守りしますから!」

「事情は分かった……が、次はねェぞ。覚えとけ」

「……ありがとう」

 

 皆から許しや励ましを貰い、ナミは涙ぐんだ。

 しかし、その感動な瞬間に水差す人物がいた。

 ケアノスである。

 

「あのゥ、感動的な茶番劇中すみませんが……ボクのお宝を早く頂けますかァ? あと違約金も……早くしないとアーロンからアンモニア臭が漂ってきそうで。クヒヒヒヒ……!」

「くッ……分かってるわよ! ほら、アンタの取り分よ!」

 

 そう言ってナミは宝の入った袋を投げつけた。

 ケアノスは袋の中身を見て、口角を吊り上げる。

 

「クックック……たったの六百万? 桁が一桁違うのでは?」

「……宝は二千万ベリーあったわ。アンタの取り分は3割って決まってるでしょ」

 

 宝が二千万しかなかったと言うのは勿論ナミのついた嘘である。

 これまで計4度ケアノスと仕事をして、最高報酬は三百万であった。

 その感覚からいけば、倍の六百万で納得するだろうと考えたのである。

 しかし、現実は甘くなかった。

 

「いやァ、聞こえちゃった話と随分違いますねェ。村人一人当たりから月に5万ベリー徴収するとして、1村に約50人……それが20村とすると、月々5千万ベリーになりますよ? それを毎月、8年間続けてきたなら……億は下らないよねェ」

 

 ナミは青褪め、冷や汗が止まらなかった。

 小賢しい手段を取ってしまったせいで、結局自滅に進んでいる気がしたのである。

 ケアノスの一言一言が処刑判決のように聞こえていた。

 

「少なく見積もってもボクの取り分は3千万ベリーのはずですねェ。まさかとは思いますが……ボクを騙す気でしたかァ?」

「…………」

 

 ナミは答えない……否、答えれなかったのだ。

 何と答えて良いかを思考し、その答えが未だ出ないからである。

 

「六百万ありゃいいんじゃねェのか? 村の人が困ってんだろ? だったら返してやろうぜ」

 

 契約などは理解していないルフィが感じたままを発言した。

 

「クックック……そうはいきませんよ、約束は約束でしょ。約束も守れないような人間はクズでしょ、クヒャヒャヒャヒャヒャ!」

 

 自分の事は棚上げで笑うケアノス。

 

「おいクソヤロー! ナミさんが2千万だっつってんだから、2千万なんだよ! 違約金も無しだ! 男が小さい事でグダグダ言ってんじゃねェよ!」

 

 サンジはナミを護るように前へ出て、煙草に火を付けた。

 

「この場合、男や女は関係ないよ。約束は守ってナンボでしょ? むしろアナタの方が女尊男卑な考えを押し付けようとする矮小(わいしょう)な男に思えますがねェ」

「なんだと、このヤロー!」

「それに……本当に2千万ベリーしかなかったのであれば、ボクが建物内を探しても構いませんよねェ? 本当に何もなければこの六百万とアーロンの懸賞金を差し上げます。ただし……万が一、他にお宝が出てきた場合は……分かってますね?」

「…………」

「クックック……沈黙は嘘をついたと認めているようなモノですよ? その場合は、違約金を倍の2億払って貰いましょうかねェ」

 

 顔面蒼白のナミに向かって、さも楽しそうにケアノスは語る。

 

「な……ナミさん?」

「ナミ……」

「…………」

 

 サンジとルフィが声をかけても、ナミは無言のままである。

 しばらくの沈黙があった後、ナミは胸から棍棒を取り出し構えた。

 

「私が集めた1億ならアンタにあげるわ! でも……でも、ここにあるお金には手をつけないで! これは村の人達にどうしても必要なモノなのよ!」

 

 ナミは慟哭した。

 悲痛な叫びである。

 サンジだけでなくウソップも胸を痛めた程だ。

 

「その棒でどうすの? ボクを叩きのめす気? アーロンの支配から解放してあげた……この、ボクを?」

「…………」

「正当な要求をしただけにも関わらず、騙されそうになってるこのボクを?」

「…………」

「不当解雇を訴えただけの哀れなこのボクを……その棒で、殴りつけるのォ?」

「…………」

 

 棍棒を持つナミの手が震えている。

 ケアノスの放つ言葉の一つ一つが刃となって、ナミの良心を傷付けていた。

 

「クソヤロー、レディを罵るのは止めやがれ! おれが相手になってやるよ!」

「クックック……意味が分からないねェ。どうしてアナタが相手になるんだよ?」

「レディの敵はおれの敵だ! それに……お前は初めて見た時からいけ好かねェんだよ!!」

「……おや、キミ達も?」

「み……みんな……」

 

 いつの間にかナミを取り囲むのようにして、サンジ、ルフィ、ゾロ、ウソップがそれぞれに武器を構えて立っていた。

 

「ナミはおれ達の仲間だ!困ってたら助けるさ!」

「お、おれは勇敢なる海の戦士だからな!」

「……仲間が泣いている、斬る理由は他にいらねェ!」

「クソヤロー、バラティエでの決着付けてやるよ!」

 

 仲間を護る為に皆覇気が充実していた。

 ケアノスは敏感にそれを悟り、溜め息を吐く。

 

「ふぅ……穏便に話だけで済ませようと思ってたのに、野蛮な人達だなァ。クックック……嫌いじゃないけど、本当にイイの?」

 

 ケアノスの言いたい事をナミは瞬時に悟った。それでも退くワケにはいかなかった。

 アーロンから解放されただけでイイじゃないかと思う自分と、ここで退くと今後の人生において大事な場面での決断はいつも退いてしまう情けない自分を想像してしまったからである。

 仲間が窮地に陥っても退いてしまうなんて出来ない。周りの仲間達は今、自分の為に立ち上がってくれているのが嬉しかった。

 だからこそ、意地でも退けない状態になっていたのだ。

 

「……覚悟は出来たわ。みんな……私に力を貸して!」

「「「「おう!」」」」

「みんな気をつけて、コイツの強さは次元が違うわ。絶対に一人で戦わないで……お願い!」

 

 ナミの真剣な懇願に、仲間は無言で了承した。

 ゾロとウソップが散開し、ケアノスの背後に回る。

 

「くらえ、必殺“鉛星”!」

 

 先制攻撃はウソップのパチンコであった。

 撃ち放たれた鉛玉をケアノスは首を傾けるだけで避けてしまう。

 

「ふむ、狙いは悪くない」

「余所見してんじゃねーよ、首肉(コリエ)シュート!」

 

 サンジの横蹴りが炸裂する。

 ケアノスは腕に氣を集中させてガードした。

 

「ゴムゴムの……ピストルッ!!」

 

 一瞬硬直した隙を逃さずにルフィがゴムで腕を伸ばしたパンチを繰り出す。

 

「おっと……」

 

 上半身を大きく反らす事で何とか回避するが、次はゾロの剣が待っていた。

 

「一刀流……獅子歌歌(ししソンソン)!」

 

 高速の居合い抜きを繰り出すゾロ。

 

「ほう、居合いか……」

「なにっ!?」

 

 先程まで状態を崩していたハズのケアノスが一瞬で消え去り、居合いを放ったゾロの背後に移動していた。

 慌てて刀を振りゾロはケアノスから距離を取る。

 

「いつの間に……?」

「は、はぇぇえ」

 

 氣を極め、瞬動を極めたケアノスの移動術は今や“縮地”の域に到達していた。

 その昔、仙人が用いたという長距離を一瞬で移動する移動術である。

 常人をはるかに超えた移動速度は視界に残像すら残さなかった。

 

「“火薬星”!!」

 

 死角から放ったにも関わらず、またもウソップの攻撃は最小限の移動でかわされた。

 

(技の名前って……叫ばなきゃいけないのかなァ? 奇襲したいなら黙って撃てばいいのに……)

 

「こんのォー!!」

 

 ナミも棍棒を力一杯に振りかざす。

 それに合わせてサンジとゾロが両サイドからフォローに入る。

 

「ククククク……!」

 

 ニタリと笑うケアノスは、練り上げた氣を体中に留めた。

 バシッ、ガキンッ、ドガァという衝突音が響く。

 

「えっ!?」

「なにっ!?」

「バカなッ!」

 

 ケアノスは避けもせずに全ての攻撃を受け止めたのである。

 氣の応用術である硬気功を使用したのだった。

 驚く3人に掌底を叩き込む吹き飛ばす。

 

「ゴムゴムの……ガトリング!!」

 

 多数のジャブを繰り出してきたルフィにケアノスは冷静にパンチを見極め、一つのパンチに合わせてカウンターを放つ。

 地面へと叩き付けるが、ルフィは平然として立ち上がる。

 

「へへへ、効かないね。ゴムだから!」

「ほう……打撃の類いは効果無しか、ならば」

 

 ケアノスは右手の人差し指を一本立てた。

 そして、その指をクイクイと動かして挑発する。

 

「来い、この指一本で倒してやる」

「やれるもんなら……やってみろ! ゴムゴムの……」

 

 ルフィは腕を後方に伸ばし、照準をケアノスに合わせている。

 

「ピストルッ!!」

 

 ゴムの力で加速された拳がケアノスを襲う。

 ケアノスは静かに氣を集中させていた――人差し指に、である。

 打ち出されたルフィの腕を紙一重で躱すと、伸びた腕に人差し指を突き差した。

 

「一点集中……貫砕破!」

「うぎゃぁぁ」

 

 ルフィが腕を押さえて苦悶の表情をする。

 腕から出血しているようだった。

 

「ど、どうなったんだ?」

「あいつの体はゴムなんだぞ!?」

 

 ウソップとゾロが驚きの声を上げた。

 

「クックック……所詮はゴム、“刺す”“切る”“断つ”の攻撃に耐性はないもんねェ。さァて、遊びはここまでだよ」

「……遊びだと?」

「飽きてきたんでナミさん以外には死んで貰いましょう。どうせ海賊だもん、覚悟はイイよねェ?」

「へっ、面白ェ……やってみろよ!」

「イッテェ……けど、お前なんかにやられるもんか!」

 

 サンジは売り言葉に買い言葉で返し、ルフィも健在っぷりをアピールする。

 ゾロとウソップは黙ってケアノスの背後を取る事に専念していた。

 

「どうせ殺すなら私も殺しなさいよ!」

 

 棍棒を構えるナミが吠えた。

 

「クヒヒヒヒ……だって、それじゃ面白くないでしょ? 皆さんが死んだ後で、アナタがどうするかが見物なのにィ。自害するも好し、仲間を忘れて生きるも好し。クヒャヒャヒャヒャヒャ……!」

「アンタ……絶対オカシイわよ、最低な奴ね!」

「……狂ってやがる」

「完璧イカレてるぜ……」

「クックック……じゃ、準備OK?」

 

 そう言った瞬間、この日初となるケアノスの殺気が解放されたのである。

 その禍々しさに全員が一歩後方へと下がらざるを得なかった。

 肌にベットリと纏わりつくようで、それでいてビリビリとした刺激を感じる覇気にウソップとナミは呼吸するのも苦しくなり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 




2013.11.22
主人公の口調を少しフランクにしました。

2014.9.7
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