悪を名乗りし者   作:モモンガ隊長

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クロスオーバーのキャラクターが登場します。
名前は少しだけ変えてますので悪しからず。


12話 自称・天才科学者?

 海上レストラン『バラティエ』は今日も繁盛していた。

 コック達は慌ただしく働き、壊れた船の修復も順調に進んでいる。

 クリーク海賊団との戦いの爪痕は随分薄まってきていた。

 

 新たな客を捻り鉢巻をした板前風のコックであるパティが迎え出る。

 ウェイターが全員逃げ出してしまった為、コックが代理で交替制の当番で務めているのだ。

 手をもみもみしながら、パティは飛びきりのスマイルで客を迎えるが、客の顔を見て一変する。

 

「いらっしゃいませ、イカ野……て、てめェ! また来やがったのかッ!」

「クックック……この店の虜になりましてねェ、お金は払ってるんだし……上客でしょ?」

「毎日、毎日、朝から晩まで居座りやがって……今日で五日目じゃねェか!」

「えっ!? そんなになるっけ?」

「ふざけやがって……クソヤロー、空いてる席に勝手に座りやがれ!」

 

 パティはメニュー表をケアノスに投げつけると、踵を返し厨房へと消えていった。

 客に対する態度ではないが、バラティエでは珍しくない光景でもある。

 ケアノスも気にした様子はなく、キョロキョロと空いている席を探す。

 

(いやァ、もう五日もココに滞在してたのか……バラティエ恐るべし! うま過ぎるんだよなァ、すっかり餌付けされちゃってたよ……元々何しようと思ってたんだっけ? まぁ、飯食ってから考えよっと)

 

 一つだけ空いていた席にケアノスは腰を下ろし、メニュー表を眺める。

 この五日間でほとんどの料理をコンプリートしている為、何を食べようか少し迷っていた。

 すると、水を持ってきたコックが尋ねてくる。

 

「おい、注文は決まったのかよ?」

 

 今度出てきたのは丸いサングラスをかけたカルネというコックだった。

 パティとはチンピラ時代からの相棒であり、コック仲間からは『極道コンビ』と呼ばれている強面の男である。

 ケアノスはメニュー表から顔を出すと、ニンマリして口を開いた。

 

「今日は料理長オススメの極上フルコースをお願いします。お腹減ってるので2人前ずつ超特急で宜しく」

「……チッ、まいどあり」

 

 パティ同様カルネも不機嫌さを隠そうともせずに、ケアノスを接客していた。

 ケアノス自体は「うまい、うまい」と大量の料理を注文してくれる有り難い客なのだが、クリークの一件が緒を引いており、コック達は殺気立っている。

 しかも、売り言葉に買い言葉でケアノスも言い返す為、ますます火に油を注ぐ結果となっていたのだった。

 料理を褒める時「流石オーナー・ゼフの店」と語るケアノスは、少しの粗相があった時も「ククク……流石、オーナー・ゼフの店」と嘲笑するのである。

 自分達が責められるならまだしも、尊敬するオーナーが笑われるのはコック達にとって我慢ならないのだった。

 ケアノスはそういうコック達の心の機微を敏感に察知し、ピンポイントで攻め立てていた。

 毎回もう二度と来るなと帰しても、次の日には朝から現れて夜まで居座るケアノスに、コック達は心底ウンザリしているのだ。

 海賊よりも性質の悪い客というのが、ケアノスであった。

 

 そんな事情を知ってか知らずか、ケアノスはフフーンと鼻歌交じりに料理を待つ。

 

(相変わらず繁盛してるみたいだなァ……今日もほぼ満席だし、一昨日はまた海賊の襲撃があったけど……コック達だけで撃退してたのは大したもんだよ。ボクも少し手伝ってお宝だけ頂戴したのはバレてるのかなァ? ゼフは気付いてるかもねェ。クヒヒヒヒ……毎日何かしらの騒動があるのは、飽きなくてイイねェ)

 

 ケアノスが思い出し笑いをしていると、仏頂面のパティが料理を運んできた。

 

「おらよ。サッサと食ってとっとと帰りやがれ!」

 

 乱暴にテーブルに料理を載せると、捨て台詞を残して戻って行く。

 まるで1秒でも長くココにはいたくないと表しているかのようである。

 

「おおー、今日も美味そうだ! いただきまーす!」

 

 手を合わせて料理への感謝を示すと、ケアノスはオードブルから口に運び始めた。

 

「うまい、ウマイ! あのコック顔は残念で性格も悪くて人相も悪いけど……腕はイイみたいだねェ、顔は残念だけど」

 

 テーブルに並べられた料理を次から次へと胃袋に詰め込むケアノス。

 その食べっぷりは一部の客はから感心の声が上がる程である。

 

「チッ……相変わらず大した食いっぷりだぜ。そこだけは評価してやるよ」

 

 今度はカルネが肉料理を運んで来た。

 ケアノスはナイフとフォークを器用に使って、ヒレ肉を口へと運ぶ。

 

「ココの料理がボクにそうさせるんだよォ、クックック……!」

「言ってろ」

「あっ、スープとサラダおかわりお願いします。それと……この肉料理バカうまなんで、あと3人前追加で!」

「……とんでもねェ胃袋してやがるな」

 

 カルネは呆れながらオーダーを受け取り、厨房に戻って行く。

 そのカルネと入れ替わりにパティがやって来た。

 手に料理は持っておらず、面倒臭さが前面に押し出された顔をしている。

 

「なんでおれがウェイター当番の日に限って……おい、クソヤロー。新しく客が来たんだが、満席でどこも席が空いてねェ。黙って相席を承諾しやがれ!」

 

 人にモノを頼む態度には見えないが、パティは踏ん反り返っている。

 ケアノスは頬張っていた肉を胃に流し込む。

 

「ボクは構いませんよ。盛況でイイよねェ」

「ふん」

 

 ケアノスが了承したのを確認したパティは入り口へと移動した。

 そして、待っていた客に応対する。

 

「ヘボイモお待たせしました。相席となりますが、ご容赦下さい。こちらへどうぞ、イカ野郎!」

「ああ、ウチは構へんで~」

 

 若い女性の声が響いた。

 その声はケアノスの耳にも届く。

 

(……おやァ、この方言どこかで……?)

 

 ケアノスは以前いた世界の島国で聞いた事のある方言を思い出す。

 関西弁の少女はパティに案内されて、ケアノスのテーブルまでやって来た。

 

「邪魔するで」

「クックック……構いませんよ。ボクも女性と一緒の方が食事を楽しめるから」

「さよか。ほな遠慮のぅ」

 

 ケアノスは改めて少女を見る。

 紫色の髪の毛を二箇所で結い、髑髏のリボンでとめており、首にはゴーグルがかけられていた。

 はちきれんばかりの巨乳は黄色と黒の縞模様のブラで覆われているだけである。

 腰には分厚いベルトが巻いてあり、その下には極ミニのホットパンツを穿いていた。

 露出度だけで言えば、ナミに匹敵するだろう。

 

「うげッ……こ、こないに高いんか……!?」

 

 カエルが踏み潰されたような悲鳴を上げる少女。

 少女は暗い表情で海鮮サラダだけを頼んでいた。

 

(少食……と言うワケでもなさそうだ。クックック……視線をビンビン感じますよ)

 

 ケアノスが感じた通り、少女はケアノスが食べている肉料理を凝視している。

 肉が焼き切れるのではないかと思わんばかりの集中っぷりである。

 口内に溢れる唾液に我慢出来なくなり、堪らず少女は口を開いた。

 

「な……なぁ、兄さん。その肉……うまいんか?」

「バカうま。ボクが今まで食べてきた肉は何だったんだ!? って、思える程の激ヤバな美味さだよ!」

「そ……そないに美味いんか!? うぅ……ジャンク屋で無駄遣いせんかったら良かった……」

「うめェ~、うますぎィ! クヒヒヒヒ……!」

 

 少女はギュルルルと鳴るお腹を懸命に押さえている。

 

(クックック……これは面白い、どれどれ)

 

 ケアノスのフォークが上下すると、少女の視線も上下していた。

 ケアノスが調子に乗って肉を突き刺したフォークを縦横無尽に動かすと、少女の目もそれに釣られてキョロキョロと動き、まるでカメレオンのようであった。

 

(アハハハハハ……。完全にお肉をロックオンかァ、おちょくり甲斐があるねェ)

 

 お肉を追従するレーダーのように反応する少女の目であったが、ケアノスの口にそのお肉が放り込まれると一気に落胆の表情に変わる。

 

「プクククク……良かったら、食べますかァ?」

「……えっ? エエのんか!?」

「構いませんよ。面白いモノが見れたので……」

「おおきに! ほな、お言葉に甘えて貰とくわ!」

 

 そう言うや、少女はケアノスから皿ごと奪い取って貪り始めた。

 

(おお、全く遠慮が無いとは……嫌いじゃないよ。クックック……)

「……うまッ! うま過ぎるやないか!」

 

 高らかに叫び、モグモグと肉を平らげていく。

 

(クヒヒヒヒ……イイ食べっぷりだねェ、周囲を気にせず一心不乱に肉に挑むとは……実に痛快。いやァ、可愛らしいねェ……実に可愛らしい、まるで――豚みたいだ)

 

 ケアノスの食べっぷりに感心していた周りの客は、今度は少女のあまりにガッツク姿に少し引いている。

 そこにカルネが海鮮サラダとケアノスの魚料理を運んで来た。

 

「なんだ、嬢ちゃんにも分けてやったのか? てめェにそんな甲斐性があるとはな……」

「心外だねェ、こう見えてもボクはフェミニストなの。ああ、肉料理をあと2人前お願いします。食べれるよねェ?」

 

 ケアノスに声をかけられ、キョトンとする少女。

 しかし、何が言いたいのかを理解すると慌て出す。

 

「……そ、そない仰山ご馳走になってもエエんか? ウチら初対面やで?」

「構いませんよ。お金には不自由してませんから、クックック……」

「兄さん、太っ腹やなァ! ほな遠慮のうご馳走になったるで!」

「……というワケなので、宜しくお願いします」

「あいよ。肉料理2人前オーダー入りやす」

 

 すでに肉料理を食べ終えた少女は、自分で頼んだ海鮮サラダにパクついていた。

 ケアノスはそれを面白そうに見ながら、魚料理を口にしている。

 食べ終えた女性は水で口をゆすぐと、ケアノスを直視した。

 

「自己紹介がまだやったな。ウチの名前はマオっちゅうねん。東の海で一番の天才発明家にして孤高の船大工なんや!」

「ほほぅ、それはそれは……ボクはケアノス・オーレウス。用心棒や賞金稼ぎを生業にしてます」

「兄さん、ウチと変わらん程小柄やのに賞金稼ぎとは大したモンやなァ。ツレはおらへんのけ?」

「以前はおりましたが……今は一人、かなァ」

「さよか。ウチも今は一人で旅しとってな……各地のジャンク屋巡ったりして、眠っとるお宝探ししとるんよ。いづれはこの手で最高の船を造ったるねん……ほんで、その船で世界一周するんがウチの夢やねん!」

 

 マオは握り拳を突き上げて宣言した。

 

「それはそれは……とても素晴らしい夢だねェ。ところで……一人で旅をされていると言う事は、航海術や医療スキルなんかも持ってるの?」

「フッフッフ……ウチを誰や思とるんや。当然持っとるで! ウチみたいな天才美少女に出来ひん事なんぞあれへんのや! ……料理以外は、な」

 

 胸を張るマオだったが、最後にボソッと弱点を晒す。

 

(クックック……やはりボクは強運だ、いや……もはや強運で済ませて良いレベルじゃないかもしれないなァ)

 

 探していた人材が向こうから飛び込んで来る幸運に、ケアノスは笑みを浮かべる。

 しかし、すぐさま表情を改めて真面目に話す。

 

「ところで、マオさんはグランドラインに興味はありますかァ?」

「やめやめ……今更他人行儀やし、マオでエエよ。ウチも好きに呼ばせて貰うさかい。グランドラインやろ? そら興味あれへん言うたら嘘になるけど、今のウチには縁の無い場所やで」

「おや、どうしてでしょう?」

「グランドライン言うたら魔境の海や。いくら天才で美少女なウチでも、一人ではよう行けんわ」

 

 追加された肉料理を食べながら、マオはそうこぼした。

 それを聞いたケアノスの口元はニタリと歪む。

 

「ほう……では、一人でなければ行ってみたいと?」

「そら充分な戦力と備えが整えてあったら、すぐにでも行ってみたいで……とくに、ウォーターセブンちゅうとこに!」

「クックック……なら、ボクと組まない?」

 

 ケアノスからの突然の提案にマオは警戒心を強めた。

 

「アンタと? な……なんで急にそないな話……はっ! ウチの体が目当てとちゃうやろな!?」

 

 サッと巨乳を隠すマオ。

 ケアノスは無言。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……うん、堪忍や。ウチが悪かったさかい、話続けて。あと……そないな目で見んといて」

 

 嘲笑を帯びたケアノスの冷たい視線に耐え切れず、マオが折れる。

 ケアノスは何事もなかったかのように説明を続けた。

 

「ボクも最低限の航海術や調理スキルは持っているンだけど、船のメンテナンスはサッパリでね……戦闘に関しては少し自信があるから、どうかなァ?」

「……即答は出来ひんな。アンタの腕見たワケやないし、判断材料が少な過ぎるで」

「仰る通り。では……少しの間、一緒に航海して様子を見ると言うのはどう? そこでお互いの力量を確認して、最終的なジャッジを下すのは……?」

「…………」

 

 マオは目を瞑って考え込んでいる。

 

(少し性急過ぎたかなァ……突然舞い込んだ吉報に、少し浮かれていたのかも。ククク……ボクもまだまだ)

 

 しばらくして、考え終えたマオは目を開いた。

 

「よっしゃ! ええやろ、その案に乗ったるわ! こんだけ飯ご馳走になった恩もあるしな!」

「クックック……そうと決まれば、乾杯しましょう」

 

 ケアノスはマオのグラスにも赤ワインを注ぐ。

 

(ナミさんと物別れになって、航海士をどうしようかと思ってた矢先に……渡りに船とはよく言ったモノだ。クヒヒヒヒ……マオはナミさん以上の拾い物かもしれませんよ)

 

 マオがグラスを持ち上げると、ケアノスもそれに呼応する。

 

「ほな、2人の船出に……乾杯!」

「クックック……乾杯」

 

 チンッと杯を交わすと、2人は一気にワインを飲み干した。

 

 

 

 

 

 食事を終え、ケアノスが会計を済ませる。

 マオはそのあまりの金額に目を見開いていた。

 ケアノスはそんなマオの表情の変化を見て笑う。

 

「プクククク……どうしました? そんな驚いた顔して」

「どないしたも、こないしたも……あないに高いもんなんか!?」

「最高の食材で、一流のコックが作ってるからねェ。妥当な金額だと思うよ」

「そ、そんなモンやろか……ホンマに奢ってもろて良かったんか?」

「クックック……ご心配なく、資金はさっきの百倍以上残ってますから」

「ひゃ!? そらそら……人は見かけによらんモンやな」

 

 呆気に取られるマオを余所に、ケアノスは船の外を見て嬉々となる。

 

「本当に……本当に、ボクは強運だ。クヒヒヒヒ……絶好のカモがやってきた」

「ん? なんや? どこ見……げっ、海賊やんけッ!?」

 

 ケアノスの視線の先を辿ったマオが悲鳴を上げた。

 

「賞金首がいるかは分からないけど、潰してお宝を頂くとしましょう!」

「はっ? ウチら2人でかッ!? そらナンボ何でも無謀ちゃうか?」

「いえいえ、ヤルのはボク一人で十分。コンビを組む相棒の実力を見せるイイ機会だし、ククククク!」

「ほ、ホンマに一人でやるんかいな?」

「はい、マオはそこで観戦しててね……イイですよねェ、オーナー・ゼフ?」

「へ? 誰?」

 

 ケアノスがバラティエ2階のテラスに向かって声をかける。

 マオが視線を移すと、そこにはファンキーな口髭を生やしたゼフの姿があった。

 

「ふん、好きにしろ……ただし、この船に被害出しやがったら承知しねェぞ!」

「クックック……了解」

「な、なんや……あの、けったいな爺さんは?」

「フフフ、このレストランのオーナーだよ。では……行ってきます」

「あ、ああ……気ィつけてな」

 

 ケアノスは笑いながら片手を上げて軽快に歩を進める。

 マオはまだ心配そうに眺めていた。

 

「ホンマに大丈夫なんやろか……?」

「嬢ちゃん、あの小僧の知り合いか?」

「知り合いっちゅうか……今日初めて会うた、これからコンビ組むかもしれへん関係や」

「そうか……心配するこたァねェよ、あの小僧が“この海”の海賊に遅れを取る事は有り得ねェ」

 

 そう語るゼフの目付きはいつになく真剣であった。

 

 

 

 

 

 




2013.11.21
主人公の口調を少しフランクにしました。

2014.9.7
サブタイトル追加

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