悪を名乗りし者   作:モモンガ隊長

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13話 雇用形態は契約

<< マオ >>

 

 うーん……ウチが生きてきた17年って、何やったんやろ?

 村やとウチの事を神童や天才や言うて、持て囃されてきたんやけど……あの兄さんに比べたら恥ずかしいで。

 ……って言うか、あれってホンマに人間の動きなんか!?

 こんだけ離れて見とるのに、移動する瞬間が全然見えへんて……。

 

 ケアノスは信じられへんスピードで海賊を屠っていきよる。

 瞬間的にパッと現れては、また消えて……ほんで、また現れて……海賊は幽霊でも相手にしとるよるに翻弄されとるやんか。

 ウチかて村では大人にも負けへん位に腕っ節には自信があったんやけどなぁ……凹むで。

 

 2階甲板デッキに目ェ向けたら、バラティエのオーナーっちゅうオッサンが興味深げにケアノスの戦闘を眺めとった。

 ウチは気になっとった事を聞いてみた。

 

「なぁ、オッサン。あの兄さん……ケアノスは、一体何モンなんや?」

 

 確信があったワケやない、せやけど……オッサンは何か知っとる気ィがしたんや。

 オッサンは戦闘中のケアノスから視線を外す事のう口を開いた。

 

「……嬢ちゃん、覇気って知ってるか?」

「覇気? 知っとるで。確か……積極的な意気込みとか強い意志っちゅうやっちゃろ」

「いや、そうじゃねェ。全ての者に潜在し……しかし、選ばれた者にしか覚醒しねェ……その力を覇気と呼ぶ。ただの気合じゃねェ、技によっては攻防力を大幅に増大し、相手の心理や気配を読み取る事も可能だ。小僧は恐らく、その“覇気使い”だろうよ。海軍本部でも上のモンしか使えねぇ特別な力だ」

 

 初めて聞いた……海軍でも上のモンだけしか使えん力!?

 そないな力があったっちゅうだけでも驚きやのに、パートナー候補の兄さんはその使い手かいな。

 

「その覇気っちゅうんが使えたら、ウチもあない速う動けるんか?」

「……さぁな」

「さぁ……て、オッサンが覇気使いや言い出したんやろが!」

「覇気を使ってるのは間違いねェ。ただ……移動法に関してはさっぱりだな。最初は六式かとも思ったが、どうも違うようだしな」

「六式って何や?」

「…………」

 

 だんまりかいッ!

 

 オッサンはもうこれ以上話す事はないってな感じでウチをシカトしとる。

 しゃーないからウチもケアノスが襲っとる海賊船に視線を戻した。

 

「……ウソやんッ!?」

 

 白い煙の立ち上る海賊船からケアノスが悠然と歩いてきよるんが見えた。

 

 オッサンと話ししとったほんの少しの間に、全滅させてもたんか!?

 早けりゃエエっちゅうモンやないで……って、化けモンかいな!

 ……それとも、グランドラインっちゅうんはあの兄さん位化けモンでないと乗り切れん程の海なんか?

 

 ウチの背中に冷たいモンが流れるんを感じる。

 ケアノスは笑みを浮かべたまま、ウチのおるとこまでやってきた。

 その手には小さい風呂敷包みが握られとる。

 

「ふぅ……」

 

 ケアノスはウチの目の前まで来て、軽い溜息を吐きよった。

 

「ど、どないしたん? 疲れたんか?」

 

 

 苦戦した様子はなかったけど、あないに動き回ったらそら疲れるわな……。

 

 

「いや、疲れてはないよ。ただ……思ってたよりも小物だったみたいで、少なかったんだよねェ」

「……は?」

「これ」

 

 ケアノスはウチに風呂敷包みを差し出した。

 ウチは恐る恐る受け取って中身を覗いて見る。

 

「お宝やん!」

「時化た海賊団だよねェ。絶対100万ベリーもないよ、それ」

「い、いつの間に回収したんや!?」

「いつって……海賊倒した後だけど?」

「……早いにも程があるやろ」

 

 何でもかんでも早けりゃエエっちゅうモンやないで!

 ……セッカチな男は嫌われるて相場が決まっとるんや。

 

 ウチはお宝に視線を移す。

 

 100万ベリーもない言うてたけど……1日で、いや、数分でこの稼ぎやとボロ儲けとちゃうんか!?

 うーん……この兄さん、金銭感覚は大丈夫なんやろか?

 ウチが財布の紐を管理した方がエエんとちゃうやろか?

 意外と太っ腹やと思てたけど、感覚がズレとるだけかもしれへんしな……。

 これはやっぱりウチが何とかせんと……うん、それがエエ気ィがしてきた。

 資産数千万ベリーて聞いたけど、ウチがしっかり管理して……んっ、数千万ベリー!?

 そんなけあったら、欲しかったあの船の材料が買い放題やんか!

 しかも高騰しとるレアメタル買えたら、ウチの武器かてチューンアップ出来るやん!!

 ほんでもって、ほんでもって……。

 

 

「オーナー、あの海賊どうします? クックック……なんなら、沈めますかァ?」

 

 ウチが楽しい楽しい妄想に浸っとると、ケアノスはオーナーのオッサンに声をかけよった。

 

「んな事したら海が汚れるだろ。海軍にしょっ引かせらぁ、まだ息はあんだろ?」

「エエ、辛うじて……虫の息だけど」

「……十分だ」

 

 オーナーのオッサンはそれだけ言い残して船室に戻って行く。

 

「……オ、……マオ」

「……へっ? な、なんや?」

 

 ボーっとしてたらケアノスがウチを呼んどるのに気付いた。

 焦って返事したせいで声が変に上ずってもうた。

 

「海軍が来る前に、あの船から目ぼしい部材を頂戴しておこう」

「えっ、そんな泥棒みたいな真似してエエんか?」

「クックック、勿論。相手は海賊なんだよ、遠慮は要りません」

「せ、せやけど……」

「ああ、それと……“それ”はマオで好きに使ってイイよ。ひとまずの契約金ってことで」

 

 ケアノスは風呂敷を指差して微笑みよる。

 ウチは言われた事を理解するんに数秒かかってもた。

 

「……エエんかッ!?」

 

 理解出来た瞬間、ウチは大声を上げとった。

 ケアノスはニコリしとる。

 

「勿論だよォ。クックック……優秀な技術者には、潤沢な開発費と環境を提供したいと思ってるからねェ」

「おお、おおきに! 気張って開発するさかい期待しとってや!」

 

 エエ奴や。ウチはこの出逢いに感謝するで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




2013.11.21
主人公の口調を少しフランクにしました。

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