明峰秀静(あけみねしゅうせい)、
天野宮詩帆(あまのみやしほ)、
紅月悠(こうづきはるか)、
八雲朱羽(やくもしゅう)。
各自敵と対峙したが、今後どうなっていくのか……!?
周りに響き渡るのは途徹もない金属音。
地面を蹴る音と土埃が一帯に満ちている。
そしてその中心に、秋透と朱羽は居た。
《光弓姫》フレーウェルと対峙した状態で。
「朱羽、援護頼む!!」
「はい!!」
朱羽は跳び上がり、次いで空中から蹴りを放つ。
その蹴りから赤い炎のようなモノが現れ、フレーウェルに向かって弾け飛んだ。
無論フレーウェルはそれを余裕の表情でかわす、が。
後方に跳んだフレーウェルを、秋透が追う。
「く……っ」
《光弓シェキナー》使い、《光弓姫》フレーウェル。
その異名から察するに、フレーウェルは弓を使った遠距離型のキャスター。
そしてその相手をしているのは、極東軍の精鋭。その中でも近接戦に特化した二人だ。
つまり、現在の近接状態を崩さなければ、勝機はある。
どうにかして間合いを取ろうと試みるフレーウェルだが、近接戦での連携を仕掛けてくる二人に対応するので手一杯になっている。
矢を構える間も与えず、秋透と朱羽は攻めていく。
みるみる疲弊していくフレーウェルに、秋透は止めを指そうと白刃刀を振り下ろす。
止めと言っても、命を奪うつもりはない。
「ーーっ!?」
悔しそうに表情を歪めるフレーウェルの持つ、《光弓シェキナー》を斬った。
当然、フレーウェルは驚きに目を見開く。
「……何故…わたくしを斬らなかったのですか……?」
二つに斬り裂かれた《光弓シェキナー》を目の前に、地面にへたり込むフレーウェル。
その目の前に立って、秋透は答える。
「戦闘不能にさえ出来れば、俺等の勝ちだろ?」
フレーウェルの持っていた弓は既に使用不可能な状態だ。
例え他の武器を隠し持っていたとしても、妙な動きをすればすぐに秋透の白刃刀が動くし、そもそもそんな様子はない。
《武器化》したコネクター二人と素手で戦り合うなど論外だ。
つまり、今のフレーウェルは正真正銘、無力なのだ。
「……ふっ、参りました。わたくしの完敗ですわ。本当にお強かったです、秋透様、朱羽様」
「様は止せよ。呼び捨てで良いから」
敗北を口にしているのに、フレーウェルの表情に『悔しさ』は見て取れなかった。
むしろ『尊敬』や『悦び』のような、晴れやかなモノを感じる。
何故かうっとりとした表情で秋透を見上げるフレーウェルに、もう敵意はなかった。
ーー同時刻。
秋透と朱羽が戦っていた場所から少し離れた場所で、詩帆と悠も《神器》、《ハルバート》使いのアセロフと対峙していた。
「おいおい、あんだけ言ってくれたんだ。こんなんで終わりとか言うなよ? 人間」
「…………」
挑発しつつ、アセロフは詩帆に槍先を向け、放つ。
その度に詩帆はそれをいなし、鎌を振るう。
悠は《呪符》による後方からの援護のみを行う。
まるで、機を待っているかのように。
「何だよ、俺を殺すってのは口だけか?」
「……いいえ」
「!?」
「宣言です」
詩帆が言うとほぼ同時に、詩帆の持つ鎌《閃麗》が青白く燃えた。
いや、燃えているように見えるだけで、実際は炎ではない。
「何せ一度しか使えない上、溜めるのに少々時間が必要でしたので……。お待たせしましたね、アセロフ」
「テメェ……ッ!!」
眉根を寄せて目を見開くアセロフに、詩帆は一言、
「雪辱、果たさせていただきます」
冷ややかに呟いて、鎌を左右一直線に振った。
すると鎌から吹き出ていた青白い炎、《波動》が斬り放たれ、真っ直ぐにアセロフの胴体を斬り裂く。
浅黒い血液が辺りを染め上げ、アセロフの上半身は地面に落ちる。
「ガハッ、ゴボッ、ゴホッ」
苦しそうに血を吐くアセロフ。
未だ意識があることに、詩帆も悠も内心では驚いていた。
……が、アセロフの前に立ち見下ろすと、詩帆は言った。
「あそこに居るお仲間は見逃して貰えたようですが、生憎と私は秋透のように優しくはない。これでお仕舞いです」
冷酷にそう言い放つと、詩帆はアセロフの首を斬り離した。
灰塵と成り行くアセロフを見下ろして、詩帆は黙って立ち尽くし、そしてその場に崩れ落ちた。
それを悠が抱き止め、言う。
「お疲れ様、詩帆ちゃん。……頑張ったね」
『頑張ったね』。
それは詩帆を理解する悠だからこそ、掛けられた言葉。
詩帆はアセロフとの再戦に、少なからぬ恐怖心を抱いていた。
入軍当初の同期全滅と、前回の鏡界入りでのトラウマ。
その二つによる恐怖を抑え込んで、詩帆は戦っていたのだ。
戦闘中、崩れそうになる想いを必死に堪えて。
愛しそうに、優しく抱き締めれれる暖かさに身を委ねながら詩帆は、
「うん……」
そうか細く答えて、静かに頬を濡らした。
ーーそして現在。
戦闘を終えた秋透、朱羽、詩帆、悠が目視出来ない位置で、秀静は強敵《グリムリッパー》使いのキャスター・クエルと火花を散らしていた。
「恐ろしい男だな、貴様は。《神器》を持った俺をここまで追い詰めるとは……。本当に人間か?」
余裕そうにそう言っているクエルだが、実際はかなりギリギリな状況にある。
「コネクター舐めんなっ!!」
片や秀静も全身を斬り裂かれ、満身創痍も良い所だ。
だが隙を見せず、斬り掛かる度にスピードを増していく。
「終わりだ、クエル!!」
「くっ……!!」
地面を蹴って跳び上がると、体勢を崩したクエルに秀静は斬り掛かった。
……のだが。
「はぁ? お前が死ねよ」
次の瞬間、秀静は目を見開いた。
目の前に突き付けられた、一本の槍に、思わず刀身を引いた。
この一撃を食らったら、間違いなく即死だ。
だから秀静は避けようとする。
しかし、避け切れない。
「ぐあ……っ!!」
右胸部を貫かれて、大量の血が吹き出す。
そのまま遠くへと飛ばされ、秀静は倒れ込んだ。
「秀静様!!」
絶叫し、朱羽は動かない秀静の下へと走った。
しかしその途中で、止められてしまう。
秀静に致命傷を与えた、謎の槍使いのキャスターによって。
朱羽は《鉄風》を使って全力で走った。
なのに、あっさり止められた。
つまり、このキャスターが異常なまでに速く、強い事の証明。
「この……っ!!」
朱羽は離れようと攻撃を繰り出そうとするが、
「遅ぇよ」
その一言と共に、胴体の中心を貫かれてしまう。
「そん…な……」
小さく呻くと、朱羽の手足が脱力する。
キャスターは朱羽をその場に投げ捨てると、すぐに地面を蹴り、悠の下へと向かった。
《離遠》の二刀とキャスターの槍がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響く。
「へぇ、何だよ。居んじゃんか。マトモに殺り合える奴もよぉ」
そう言うと何故か、キャスターは力を緩め、
「んじゃ、お前は後回しだ」
告げると同時に、詩帆に攻撃を仕掛けた。
そしてその一撃目は詩帆も防ぎ、しかし二撃目で体勢を崩す。
先ほど倒したアセロフとは比べ物にならない強さに、詩帆は目を見開く。
「お前はこれで終いだ」
「……っ!」
「死ね」
キュッ、と目を瞑りながら倒れ行く詩帆に、槍は無情にも突き進んでいく。
今度こそ本当の死を覚悟した詩帆。
しかし槍は、詩帆には届かなかった。
鈍い音と、生暖かい液体だけが詩帆に届く。
そして暖かく、キツく、誰かに抱き締められている感覚に、目を開ける。
するとそこにあった光景に、詩帆は目を見開いて、言葉を失う。
「ハ、ル…ちゃん……」
「ゲホ……ッ。怪我、ない……?」
傷口から流れ出る血と吐き出された血が地面を赤く染め上げる。
悠は苦痛に表情を歪めながらも、詩帆に微笑み掛ける。
「どうしてっ、ハルちゃ……っ」
詩帆は泣き崩れた。
「あーあー、んだよ。折角楽しめそうだったのによぉ」
溜め息混じりの、しかし失笑を含んだキャスターのその声に、詩帆の中で何かが切れた。
キャスターに向かって鎌を投げ付け、悠を抱えて地面を蹴る。
鎌を弾かれ槍を向けられると、すぐさま袖口から《呪符》を滑らせ、それをそのままキャスターに向かって放つ。
「起爆」
詩帆が小さく呟くと、《呪符》から炎が吹き出し、キャスターを包み込む。
その勢いを利用して、詩帆は悠を遠くへと運んだ。
「ごめんなさい、ハルちゃん……っ。また、貴方を……っ」
悠の傷口を押さえて止血しながら、詩帆は何度も涙を零す。
そしてその涙を、悠が拭った。
ゆっくりを腕を上げて、頬に触れる。
「ハ…ル……」
「今度は…守れた……。良かっ、た……」
「……っ」
こんな状況なのに、悠は笑った。
穏やかに、柔らかに、優しく微笑んだ。
愛しそうに詩帆を見詰めている瞳には、うっすら涙が溜まっている。
そして詩帆は、微かに綻ぶ唇に自身の唇を重ねた。
「詩…帆……?」
閉じ掛ける瞳を少し見開いて、悠は小さく声を漏らした。
そんなは悠に薄く微笑み掛けると、詩帆は悠を地面に横たえて、立ち上がった。
「待っててください、ハルちゃん」
背を向けて、そう言う。
「あのキャスターは、私が殺します」
低く呻くように言って、詩帆は《閃麗》を現した。
数歩進むと、隣に秋透が立つ。
「……ありがとう、秋透」
「別に。俺も腹立ってるし」
《護鬼》を現し、構える。
呼吸を整え、殺気を鎮めた。
視線を一点に集中させ、キャスターの隙を伺う。
「んあ? 何だよ、お前」
「あ?」
機を伺う秋透に、キャスターが不意に口を開いた。
何処か楽しそうに、不適に笑う。
「さっきの奴より戦れそうじゃん?」
さっきの、と言うのは悠の事だろう。
キャスターの物言いに、詩帆が下唇を噛む。
「鏡界内序列第四位。《ゲイボルグ》使い、シウン。よおく覚えておけよ、コネクター?」
妖しく光る、鋭い眼光。
狂気が見え隠れする程の、殺意。
しかし、今にも飛び掛かって来そうだったシウンを呼び止めたのは、驚く事に満身創痍なクエルだった。
「待て、シウン。何をしに来た」
「はぁ? 見りゃ分かんだろ。戦りに来たんだよ。文句あっか?」
「当然だ。貴様の持ち場はここではない筈だ」
「もう終わってんよ。人間共は全滅した。もう良いだろ?」
『全滅』。
その一言に、秋透と詩帆は目を見開いた。
それはつまり、仲間の大量殉職を意味するから。
「だからと言って勝手に動くな、馬鹿が。まあ良いだろう。俺が指示を出すから貴様は……」
「っせぇなぁ。ウゼェよ、お前。消えろ」
シウンは言うと、その手に持つ槍をクエルに突き立てた。
血が吹き出す。
クエルは目を見開き、言う。
「貴…様……っ。序列第二位のこの俺に対して……っ!!」
「知らねぇよ、んなもん。実力とは関係ねぇだろ、雑魚が」
槍を引き抜くと、シウンはクエルを蹴り飛ばした。
「クエル様!! シウン様、何をなさるのですかっ!?」
すぐさま駆け寄ったフレーウェル。
かなり動揺している。
当然だろう。
実力とは関係ないと言っても、鏡界内での影響力を示す序列なのだ。実力は大きく関わっている。
そしてシウンは第四位。片やフレーウェルは第六位だ。
到底敵う筈もない。
「お前も煩ぇよ。弱い奴に興味はねぇ。失せろ」
吐き捨てると、槍で貫く。
フレーウェルも覚悟は出来ていたようで、何も言わず、ただ苦悶の表情を浮かべて倒れ込む。
「そもそもお前はこっち側じゃねぇだろ。人間が俺に指図すんなよ、フレーウェル」
『人間』。
有り得ない事を、言った。
「人間が…どうして、鏡界に……?」
目を見開きそう呟く詩帆。
しかしシウンは答えず、フレーウェルは血を吐いて倒れている。
答えてくれる相手は居なかった。
「こいつの事なんざどうでも良いだろ。ほれ、さっさと掛かって来いよ。来ねぇなら、こっちから行くぞ?」
目を細めて、極限まで殺気を抑えたシウンが地面を蹴った。
地面が捲れて、土埃が立ち込める。
「……っ!?」
凄まじい速さと勢いでシウンが攻めてくる。
異常な強さだ。
どうにか一撃目を防ぐも、秋透はそのまま刀身を弾かれて体勢を崩す。
「くっそ……っ!?」
「秋透!!」
低く呻くと、詩帆が鎌の刃先をシウンに向けて振るう。
「あん?」
シウンは気だるそうに振り返り見遣ると、詩帆の鎌を掴み、進行方向に投げた。
同時に、秋透の腹部を蹴り飛ばす。
「きゃっ!?」
「ぐぅ……っ!!」
揃って吹き飛ばされ、岩壁に全身を打ち付けられた。
「おいおい、本気出せよ。殺る気あんのか?」
「カハッ、ゲホッ、ゴホッ」
「……っ」
武器も使わない、投げと蹴りだけでも相当なダメージを食らう。
他のキャスターとは、明らかに別格だ。
「このまま死なれてもつまんねぇだろうが。もっと抗えよ」
槍をクルクルと回し、宙に投げると地面に突き立てる。
二人が立ち上がるのを待っているのだ。
「キッツいなぁ」
「けど、殺るしかありませんっ」
詩帆は鎌を持ち直すと、再び距離を縮めた。
鎌で斬り掛かり、防がれるとすぐさま《呪符》を滑らせ起爆。
一旦距離を取ると、爆煙が消える前に二撃目を繰り出す。
対キャスター戦の基本となる、極東軍創設時から受け継がれてきた戦法だ。
同時に、【天野宮】が重視する戦い方でもある。
かなりのハイスピードである為、状況を見極めつつ、秋透も加勢していた。
のだが、不意にシウンが言う。
「んあ? この戦り方……。お前、天野宮季覇(あまのみやきは)の血縁者か?」
瞬間。
詩帆は呼吸をも忘れて、目を見開いた。
『天野宮季覇』。
その名前を、どうしてこの男が知っているのか、と。
「どうして貴方が…兄様の名を……」
同様で唇が震えた。
天野宮季覇とは、紛れもなく詩帆の亡き実兄の名だから。
「あー、お前の兄貴だったか。あいつは今まで戦った中で一番面白かったよ。よぉく覚えてるぜ? 死ぬ瞬間までなぁ」
「……っ!?」
『死ぬ瞬間まで』。
つまりこいつが、
「貴様ぁ!!」
詩帆の最愛の兄、季覇を殺したのだ。
詩帆は地面を強く蹴ると、凄まじい速さで接近し、斬り掛かる。
甲高い金属音が鳴り響き、大気を揺らす。
「貴様が、兄様をっ!!」
「おーおー、ちとはやるようになったじゃねぇか」
激昂する詩帆。
それでもやはりシウンは余裕の表情で全ての攻撃を防ぐ。
そして詩帆は更に怒り、通常なら有り得ない枚数の《呪符》を同時に、一瞬にして展開させた。
「むっ」
流石のシウンもそれら全てに瞬時に対応する事は出来ず、数枚分の攻撃を受けた。
「あーあー、痛ぇ」
爆煙から抜けると、次は詩帆本人が待ち構えている。
鎌を振り下ろし、避けられると振り上げ、《呪符》を展開させる。
そして……。
ーーヒュッ。
と言う風を切る音と共に、シウンの目が、初めて見開かれた。
何故なら鎌の刃先が、シウンの喉元目掛けて突き進んだから。
「お前等兄妹、サイコーだわ」
ニヤリ、と不敵に笑うシウン。
死を目の前に、どうして笑えるのか。
「けど、まだ惜しいな」
その一言とほぼ同時。
「詩帆!!」
シウンの槍が、詩帆の身体を貫いた。
絶叫する秋透。
詩帆は鎌を握り締めたまま、俯いている。
「あと百年修練すりゃ、ガチで殺り合えるかもなぁ?」
楽しげに笑う。
気味の悪い、不適な笑み。
しかし、その笑みはすぐに消えた。
「じゃあお望み通り、百年生きた”私”と戦ってみる?」
そう言った、『詩帆』の一言によって。
詩帆は薄く、意味深な笑みを浮かべると、槍を片手で掴み、鎌を振るった。
その軌道はシウンの片腕を捉え、右腕を切断する。
槍から解放され地面に着地すると、詩帆は秋透を見遣り、笑った。
その笑顔は何処か、幼い子供のような無邪気さを感じさせる。
「波木秋透、まだ動ける?」
「へ? え、ああ、そりゃ……」
詩帆らしからぬ、口調。
「じゃ、ちょっと手伝ってよ」
「お、おう」
言うと詩帆はニッ、と笑い、瞳を伏せた。
両手で鎌を持つと、何故か《波動》を刃に集め始める。
青白い炎が刀身を包み、そして次第に、刃の反対側に集まっていく。
刀身が逆側に出現し、全体的に巨大化した鎌。
その鎌を軽々と振り回すと、詩帆は地面を蹴った。
変幻自在な鎌の斬り回しと、奇怪な足捌き。
一定のリズム感があった詩帆の攻撃パターンとは真逆と言っても良い。
ーーどうなってるんだよ……。
内心で困惑しながらも、秋透も隙を見ては斬りかかっていく。
「あれぇ、どうしました? 大分苦しそうに見えますが?」
「フッ。二重人格かよ、おっかねぇ奴」
詩帆の言う通り、シウンはかなり圧倒されていた。
また、二重人格であるかのように、詩帆は変化した。
口調も、表情も、雰囲気も。
そして、戦い方までもが、変わっていた。
「あはっ」
ダンッ、と一際強く踏み込むと、詩帆は鎌を水平に振る。
その速さは、遅い。当然シウンは避ける。
が、それを狙っていたかのように、詩帆は身体を捻って蹴りを放つ。
先程の斬撃よりも、格段に上がった速さで。
「ぐあっ!!」
呻き声を上げ、苦悶の表情で体勢を崩すシウン。
そして詩帆は更に、シウンの上に蹴りを落とす。
「ガ……ッ」
地面に叩き付けられ、倒れ込む。
シウンはそのまま、動けなかった。
一方的な戦闘。
もはや秋透には、目で追うのがやっとだった。
「まったく不甲斐ないなぁ。これじゃ準備運動にもなりませんよ?」
余裕が有り余っている様子の詩帆。
そこに立っているのは、秋透が知る詩帆とは掛け離れていた。
「カハッ。……良いぜ、そうこなくっちゃなぁ。ようやく目ぇ覚めてきたわ」
底光りする、妖しげに輝く槍を手に、シウンは不敵に笑う。
対して詩帆は冷めた瞳で彼を見下ろしていた。
「……っ!?」
突如、シウンの顔付きが変わった。
そして、凄まじい速さで槍が追ってきた。
「ふぅ……」
間一髪で避けたものの、詩帆の首筋からは赤い雫が滴り落ちた。
「これからが本番だろ? 楽しもうぜ?」
赤黒くなっていくシウンの槍、《ゲイボルグ》。
使用者に破壊衝動を植え付けると云われている、魔槍だ。
詩帆が鎌を持ち直し、体勢を低くすると、再び攻防は始まった。
右斜め下から詩帆が斬り上げると、シウンがそれを叩き落とし、突き上げる。
三連突きをかわすと、詩帆は《呪符》を取り出し、展開と起爆をほぼ同時に行う。
しかしそれも避けられ、シウンは五連突きを繰り出す。
どうにか身体を逸らすが、至る所に傷が出来、血が吹き出した。
「……っ」
形勢逆転。
詩帆の劣性は明らかだ。
「嫌な奴……。段々と速くなってる?」
渋い表情で詩帆がそう言った。
確かに、シウンの速さは上がり続けている。
しかし、それだけではない。
「お前は遅くなってんじゃねぇの?」
嫌味のような、シウンの言葉。
だが、図星だった。
『マズイな……』
「! アキト!?」
不意にアキトの声が響いた。
何処か焦っているような、低い声音。
『今、詩帆の人格は中のキャスターと入れ替わってる。けど、入れ替わったばっかりじゃ、肉体に慣れていない筈だ。そんな状態での戦闘はかなりの負担が掛かる。だからもう、限界だ……』
人格の入れ替わり。
それは《憑依型》のコネクターである詩帆や秋透のみに起こる、非常に稀な現象。
コネクター本人の意識が瀕死の状態に陥った時、中に宿るキャスターの意識が全面に押し出されると言うもの。
つまり、今詩帆の肉体を動かしているのは『詩帆』ではなく、《シホ》なのだ。
『入れ替わりって言うのは、本来そうそう起こらないし、起こるべきではないものなんだ。何故なら……その後、元の人格に戻れる保証がないから……』
「……っ!?」
元の人格、つまり『詩帆』に、戻れないかもしれない。
その言葉に、秋透は息を飲んだ。
『長時間の酷使は宿主の人格そのものを壊しかねない。だから、秋透……』
何かを決意するように、一拍の間を空けてから、
『俺を完全に取り込め』
そう、言った。
アキトの唐突な言葉に、秋透は理解が追い付かずに呆然とした。
「完全に…取り込むって……。一体、何を……」
『言った筈だ。《憑依》は《捕食》に比べても不完全だと。だから俺を完全に取り込めば、君はあのキャスターとも対等に渡り合える』
断言するアキト。
その確固たる意思と自信は、一体何処から来るのか。
「……それをしたら、お前はどうなるんだよ……?」
『分からない。けど、もう他に方法がない。……決めろよ、秋透。仲間を本当に守りたいなら、覚悟を見せろ』
「…………」
不安。
恐怖。
そう言った弱い感情が押し寄せてくる。
それでも、
「《力》を寄越せよ、アキト」
もう逃げないと、決めたのだ。
『フッ。本当、優しいなぁ、君は』
仲間を守りたい。けどアキトは残したい。
そんな秋透の意思が《心想世界》に表れたのだろう。
苦笑を漏らすと、アキトは再び黙った。
《力》が流れてくる。
アキトから、送り込まれてくる。
その《力》と共に、伝えられた。
高みを目指す、方法。
ーーパキンッ。
高らかと音を立てて、秋透は《護鬼》の刀身を折った。
するとその断面から、真っ赤な炎が吹き出す。
《波動》が刃を包み込み、そして形作る。
折れた刃の、その先を。
『……ああ、この刀は……』
刀身の長い、鈴付きの日本刀。
薄れ行く意識の中、アキトはとある人物を思い出した。
この刀と酷似した刀を持っていた、亡き秋透の父を。
この瞬間、軍の歴史は更新された。
不完全と云われていた《憑依》の、完全型。
《結合型》が、初めて確認されたのだ。
ご無沙汰してしまいましたが、ようやく書き終えました〈第十一章〉!
いかがでしたか?
私事の合間に投稿させていただいておりましたので長くお待たせしてしまう事も度々ありましたが、ついに!
次章完結(予定)!!
是非最後までお付き合いください!!