灰と幻想に生きる少年   作:いろすけ

1 / 29
一章 目が覚めたそこは辺境の地
level.1


「――――――目覚めよ。」

 

 声が聞こえた。俺は声に起こされるようにして目を覚ます。目を開けたにもかかわらず、目の前は真っ暗だ。

 

「…ん?…冷たい?」

 

 自身が横になっていることに気がついたのと、地面の冷たさに何となく違和感を覚えたのはほとんど同時だった。ここはどこだ?ふと、そんなことを考える。

 

(…あれ?)

 

 思い出せない。どうしてここにいるのか。そもそも俺は起きる前は何をしていた?

 かろうじて自分の名前がイサリということを思い出すが、それ以外は遮断されたように思い出すことはできない。

 

「もしかして、誰かいる?」

 

 記憶喪失のような気持ちの悪い感覚に戸惑っていると誰かの声が聞こえた。声質からして男だろう。

 

「あぁ」

「…います」

「何人くらいるんだろう?」

「数えてみる?」

「・・ていうか、ここ、どこ?」

「誰かわかるやついねぇのかよ?」

「どうなってんのー?」

 

 口々に声が聞こえてくる。どうやら結構な数の人がいるらしい。しかしそのどれもが戸惑いや混乱の色を含んでいる。今の状況を把握している人間はいないらしい。

 そんな中、立ち上がる音が聞こえた。

 

「壁伝いに進めば出口に出られるかもしれない」

 

 この状況で動ける行動力は見上げたものだが、俺は軽率だと感じてしまった。

 

「反対側にも行けそうだよ」

 

 最初に動き始めたぶっきら棒な声とは違い、今度の発言者は爽やかな印象だ。…結局のところ印象、でしかないのだが。

 

「好きにしろ」

 

 ぶっきら棒な男はそれだけ言うと前に進み出す。反対側には目もくれずに…。やはり軽率だと思った。

 

「俺も行く」

「わ、私も…」

「じゃあ、俺もー」

 

 こんな薄暗いところに取り残されたくはないのだろう。一人が続けばまた一人、そのようにして全員が後に続く。俺も散々軽率だと思ったが、残っていても仕方ないのでとりあえずついていくことにした。

 

「おっと、悪い」

「こっちこそ、ごめんなぁ」

 

 視界が悪いので仕方ないのだが、人とぶつかってしまった。癖のある話し方だったけど女の子だろう。どことなくイントネーションに違和感を感じながら先へ進む。しばらくすると、突然前方に光が差し込まれた。先頭集団の歓声いわく、どうやら鉄格子が開かれ、外へと出られるようだ。

 

「…ここ、どこ?」

 

 ようやく出られたのも束の間、その場にいた全員が同じことを思っただろう。先ず視界に入ったのは街並み。明らかに現代とは異なる古めかしい建物。さらには古城。まるでゲームのような――。

 

(…ゲーム?…いや、それ以前に俺はどこに住んでたんだ?)

 

「あ、あの、ここ…どこなんでしょうか?」

 

 気弱そうな女の子の慌てたようすに俺は逆に冷静になれた。人数は男9人、女4人の計13人。平均年齢は比較的、若いように感じた。

 

 「ちゃらららーん。らららんっ」

 

 困惑している俺たちを尻目に、場違いなほど高いテンションの女が現れた。ツインテールと呼ばれる髪型に、それに似合ったかわいらしい容姿。今の状況が最悪でなければ良い印象を与えたであろう、と考える。

 

「皆さん、ようこそグリムガルへ。案内役のひよむーだよ」

(案内役?グリム…なんだって?)

 

 突然与えられた情報に混乱する一同だが、ひよむーと名乗る女は構わず続けた。

 

「皆さんお揃いのよーですし、移動しましょー!」

「ちょっ…移動する前に説明しなさいよ!」

 

 派手な格好の女が至極真っ当なことをことを言うが、ひよむーにその気はないらしい。派手な女は当然文句を言いが今のこの状況ではひよむーについて行くほかないだろう。

 

「もういい、早くしろ」

 

 銀髪の男の威圧するような声が響く。決して怒っているわけではないが相手に恐怖を与えるには十分な声だった。ここで俺はこの声が一番初めに動き出した男と同じだと気がついた。

 

「分かってもらえてひよむーうれしーっ!ではでは皆さん、逸れないようについて来てくださいねー!」

 

 とにかく今はひよむーについて行くしかない。どこに行くのか、これからどうなるのか、上げ出したらキリがないほどの不安に駆られながら一同は歩き出した。ふと、空を見上げると、赤い月が怪しく、けれどもどこか美しく輝いていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。