「これで全員?」
澄んだ声。それでいてどこまでも冷たい声。メリイは髪をかき上げて俺を見た。
「ああ、メリイを加えて7人」
「そう」
軽く鼻先で笑った。けれどそれは嘲りでもなければ微笑みでもない。ただ、興味がないだけ。そんな気がする。
「リーダーはあなた?」
「…いや」
返答に困っているとハルヒロが横から口を挟む。
「そう。イサリがリーダーなんだ」
面子的に仕方ないのかもしれないが、何一つ相談せずに押し付けてきたのには少し、いや、かなりイラッとした。しゃがみ込んでミールを撫でながらハルヒロを一睨みする。しかし、メリイはそんなことどうでもいいと話を続ける。
「どこに行くの。ダムロー?」
「……」
「聞いてる?行かないのなら帰らせてもらうけど」
「…そう。ダムロー。ゴブリン狙い」
「そう。なら行けば。私はついて行くだけだから」
俺もガキだな。なんとなく面白くなくてつい口調が荒っぽくなってしまった。まあ、メリイは一切気に留めていないようだが。対してユメとシホルは怯えてしまったのか、顔を背けてしまった。…とにかく最悪のスタートだったのは間違いない。
ダムローまでの一時間、会話は絶無だった。メリイは当然の如く何も話さないし、俺自身の機嫌も悪い。ユメとシホルは怯えているというより怒っている。それは俺も同じだった。マナトが死んでいきなり新しい神官を入れたのだ、正直神経が信じられない。いや、違う。判断としては正しい。俺達みたいな弱小パーティーに入ってくれる神官なんてそうはいないだろう。だから、間違いじゃない。頭では分かっているのだが…。
「いた。三匹」
先頭のハルヒロが小声で知らせる。そこで一旦思考を振り払う。そうでもしないと戦闘なんてできるわけない。
「ど、どうしよう、イサリ」
(こいつは、本当に…)
はっきり言うと腹が立ったがここで怒っても仕方ない。それに成り行きとはいえ一応リーダーだしな。などと言い訳を考えると少しだけ楽になった。…現実逃避だって自覚はあるよ。
「まず基本は俺とモグゾー、それからランタの三人で手分けして相手する。ハルヒロはランタ、ユメはモグゾーのフォロー。シホルとメリイは俺のフォローを頼む」
「待って」
さっそく異議を唱えたのはメリイだった。やたらと切れ味が鋭い。
「どうして私がゴブリンと戦うのとになってるわけ?」
「…え」
ハルヒロだけでなくみんなポカンとした様子だ。だが俺にとってはそこまで予想外の答えじゃない。
「フォローと言っても前線に出る必要はない。近接スキルのないシホルの護衛だと思ってくれ」
「…そう」
「だ、だったらイサリくんがきつくない?」
「そやなぁ」
「ああ、大丈夫。一対一なら別に問題ないから」
俺としてはなんてことのない一言だったのだが、どうもシホルは違ったらしい。
「…私、下手くそで…役に立たないかもだけど……頑張りたい」
小さな声で、今にも埋もれてしまいそうな声で必死に告げたシホルは俯いていた顔をさらに下に向けてしまった。俺にそんなつもりはなかったが、シホルからすれば関係ない。自身の存在価値を否定されたようなものだろう。
「悪い。そんなつもりじゃなかった」
「…うん、大丈夫」
明らかに大丈夫じゃない。シホルだけじゃない。このパーティーの雰囲気そのものがよくない。今の状態で本当に戦闘なんてできるのか?良くない空気は良くない結果を招く。不意にマナトの顔がフラッシュバックした。
「イサリ?」
「…今日はやめにしないか?」
「はぁ!?どういうことだよ!?」
「雰囲気も最悪だし、このまま戦闘になったら良くないことが起こる気がする」
「たかだかゴブリンにビビってんじゃねえぞ!」
「そのたかだかゴブリンにもなぁ、負けたら殺されんだよ!これは命のやり取りなんだぞ!」
俺が怒鳴ると誰一人言い返してくる者はいなかった。ただ一人、メリイだけは俺を睨んでいたように思う。
結局その日はそのまま帰ることになった。帰り道も誰一人、口を開かなかった。
ダムローからの帰り、俺は猛獣使いのギルドへ来ていた。目的はスキルの習得ではない。アクス師匠に会うためだ。俺の方から会いたいと思うなんてこれが初めてかもしれない。
「やあ、イサリ」
相変わらず不気味だ。何を考えているのかさっぱり分からない。
「何か聞きたいことがあるのだろう」
「………」
そしてこの洞察力。ハッキリ言って師匠でなければお近づきになりたくない類の人間だ。
「メリイって神官のこと知ってるか?」
「ああ、君のパーティーに新しく入った子だろう」
あまりに早い情報のため、全力で入手経路を問いただしたい衝動に駆られるが、なんとか抑える。ハルヒロたちがいつ決断したのかは分からないが普通に考えれば昨日思い切って入れたのだろう。それの情報をすでに知っているとなると…。やはりこの人は相当な情報通だ。期待できる。
「メリイについて聞きたい」
「…珍しいな。一目惚れか?」
「茶化すな」
「まぁ、いいさ。しかし、こちらもタダというわけにはいかないな」
「いくらだ?」
そういいながら手持ちの金を探る。最初からそのつもりでいたため多少は出せる。そう思っていたが次のアクス師匠の言葉で吹き飛ばされる。
「一ゴールドだ」
「はぁ!?」
一ゴールド。つまりは一〇〇シルバー。もっと言えば一万カパー。当然全財産をかき集めても足りないどころか半分さえ届かない。ぼったくりにも程がある。
「当然だろう。人様の過去を聞くわけなのだから」
くっ、甘かった。この人の情報は正確だし、信用できる。その代わり、金のない話は恐ろしく口が堅く、情報の値を変えることも絶対にない。つまり、一ゴールドを用意しない以上は何も語らない。
「そういうことは自身の力で何とかせねばな」
「…あんたにだけは言われたくなかったよ」
「そう言うな。私は絶対に値は変えんよ」
「…そうか」
ならこれ以上ここにいる理由はない。
「存外にあっさりしているんだな」
「やることはいっぱいあるんだよ。メリイ以外にもな」
それだけ言うと俺はギルドを後にした。そうだ、俺にはやるべきことが山ほどあるんだ。メリイのことだけじゃない。いや、それより先に優先するべきことだってあったはずだ。まずは先に…まずは……。
俺はどうしたらいい?なぁ、マナト……。