灰と幻想に生きる少年   作:いろすけ

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level.13

 アクス師匠のとこから帰ってすぐ、シェリーの酒場に寄った。俺だけじゃない。ハルヒロ、ランタ、モグゾーの三人とだ。最近知ったことだが、この店は動物を連れ込んでもいいらしい。マイナーギルドとはいえ、さすがに義勇兵のたまり場であるシェリーの酒場では承認されているようだ。ありがたい話だ。

 集まった理由はもちろん突然の神官加入についてである。俺たちは一番隅のテーブル席を陣取っていた。

 

「んで、一応理由を聞いておこうか」

「ええっと、その…」

「…う、うん」

 

 ハルヒロとモグゾーは言いにくそうに視線を泳がしている。ランタはどこか不機嫌そうだ。

 

「別に責めてるわけじゃない。遅かれ早かれだ。いや、問題はそこじゃないんだが…」

「…だよね。何も相談しなかったのは不味かったかな、って」

「ああ、大問題だ」

 

 自分でも厳しい言い方だと思ったが、口に出てしまったものは仕方ない。誤魔化すわけではないがジョッキを勢い良く傾ける。すると、今まで不自然なくらい静かだったランタが口を開く。

 

「何偉そうなこと言ってんだよ。リーダーでもないくせによぉ」

 

 この一言にはさすがに我慢できなかった。こんなこと言いたいわけじゃない…でも、仕方なく…まとまらないから。それに昼間は俺に押し付けたじゃないか。みんなそれに何も言わなかったじゃないか。

 

「俺はパーティーの問題なのに相談せず決めたのが悪いって言ったんだ。何か間違ったこと言ってるか!?」

「独断で狩りをやめたお前が相談とはな、ご高尚なことで」

「何だよその言い方…」

「あぁ?」

 

 ハルヒロとモグゾーが慌てているが関係ない。俺は完全に沸点を超えた。手に持っていた陶製のジョッキをテーブルに叩きつける。ミールが驚いたのか足元で暴れているが構わない。

 

「空気が悪かったからだろ!それが独断だって言うのか!」

「ああ、そうだよ!独断以外何だってんだ!今回だけじゃねえぞ。そもそもあのときだって手傷負ってるくせに残るだなんて言い出すからマナトはついて行くしかなかったんだろ!そのくせやられまくって魔法使わせるしよぉ」

「てめえ!」

 

 反射的に胸倉につかみかかる。ジョッキが倒れ、テーブルに、床に飲み物がこぼれる。

 

「俺の方こそなんか間違ったこと言ったか!?違うのかよぉ!?」

「違っ……違わない…な」

 

 ランタの言うことは何一つ間違っていない。けど、だからと言って俺が間違ってるのか?…違う。間違ってない。俺も。意味わかんねえ…。

 

「ランタ、言い過ぎだぞ!」

「何だよハルヒロ。てめえだって戦闘で大して役にも立ってないじゃねえか」

「やめろ!」

 

 怒声が響いて店内が一瞬、静まり返った。声の発信源はモグゾーだった。信じられない。モグゾーが眉を吊り上げているところなんて初めて見た。

 

「今は仲間割れしてる場合じゃないだろ!頭冷やせ!」

 

 その一言に俺、ハルヒロ、ランタの三人は呆気にとられ、頻りに頷いた。

 

「今は……この先のことを考えるべき、だと思う」

 

 そうなんだ。何を悔いるにしてもモグゾーの言う通り、先のことを考えなければいけない。この場にいる全員が気づいていたことだ。モグゾーの言葉は俺たちに現実を向き合わせるには十分すぎるほど効果的だった。

 

「モグゾーの言う通りだよ」

「…ちっ」

「………」

 

 三者三様の対応だが結局のところ、みんな不安なはずだ。それだけは同じだと言い切れる。

 

「…ユメとシホルにもちゃんと説明してやれ。あいつらにも何も言ってなかったんだろ?」

「だよね。怒ってたよね、二人とも」

「あぁ」

「だ、だね」

「あと、リーダーだが…ハルヒロ、お前がやれ。いや、違うな。やってくれ、頼む」

 

 ハルヒロに向かって頭を下げると、軽いどよめきが起こった。頼まれたハルヒロは当然としても、ランタとモグゾーがうるさい。…特にランタがだが。

 

「な、なんで俺!?」

「俺じゃあ無理だからだ。実際、消極的なところがあるのは否定しないし。独断と言われればその通りだ。俺はリーダーの器じゃない」

 

 ランタが目をぱちくりさせている。何がそこまで信じられないのか、何度も目を擦る始末だ。俺と目が合うと気まずそうに顔を伏せやがった。キャラじゃないことするなよな…。

 

「まずはやってみるだけでいい。向かないと思えば違う奴に任せればいいさ。俺みたいにな」

「で、でも!」

「確かにこれは遊びじゃない。命のやり取りだ。だけどさ、先は長いし、このパーティーはまだまだこれからなんだ。焦る必要はない。ゆっくりでもいいんじゃないか?」

「……イサリがそう言うなら…わかった。やってみる」

 

 どうにか話がまとまりかけて鎮まる。そこでようやく気がついた。酒場がやけに静かだということに。最初は俺たちが怒鳴り合っていたせいだとばかり思っていたが、そうじゃない。理由はすぐにわかった。

 

「おい」

「…レンジ!」

 

 真後ろにいたのは俺たちと同期のレンジだった。だが、装備は天と地ほどの差がある。俺たちの装備は中古品の寄せ集めの軽装。汚く、安っぽい。しかし、レンジと、その後ろに控えている連中の装備は豪華で、とても新人とは思えない。パッと見でもそれぐらいの差がある。当然だが正式な義勇兵らしい。

 

「なんだよ」

 

 こんな派手な銀髪が隣に来るまで気づかないなんて俺たちは本当に周りが見えていなかったらしい。

 レンジは無言で手に握っていたものを放ってよこした。カラカラと音をたて、俺の前に転がってきたそれは一枚の硬貨だった。

 

「き、金貨じゃねえか!?」

「ぬもっ!?」

 

 騒ぎ立てるのも無理はない。だって俺たちは金貨なんて実物を見たのは初めてだったのだから。

 

「…なんのつもりだ、レンジ」

「腐った目だ」

「はぁ!?」

 

 ハルヒロたちが何やら必死に俺を制しているが、関係ない。レンジは相変わらずのハスキーな声を響かせて言う。

 

「俺と決闘しろ」

「…意味が分からないんだが」

「その通りの意味だ。俺と戦え、イサリ」

 

 威圧的にそう言うとテーブルの金貨を指さし、俺を見据える。たったそれだけで大抵のモンスターは逃げ出してしまいそうな迫力を内包している。実際、ミールは俺のローブの中に入って丸まってしまうほどだ。

 

「俺に勝ったらそれをやる」

「…負けたら?」

「一日面貸せ」

 

 レンジにとって利になることなんてあるのだろうか。最初に思ったのはそんなことだった。ちらりとレンジを見る。どうやら冗談やシャレの類ではないらしい。目がマジだ。そもそもレンジが冗談を言うところなんて想像できないが。それよりも問題なのは金額だ。一ゴールド。アクス師匠から情報を買うのに必要な値段。一体どういうことだ?どう考えても都合がよすぎる。罠だ。ふと、そんなことを考えてしまう。

 

「やるのか?やらないのか?」

「お前が勝った時の利点はなんだ?それが明確でない以上は受けられない」

「相変わらず慎重な奴だ。いや、臆病と言うべきか」

「お前みたいな無謀な奴と一緒にするな」

 

 一触即発。周りの奴らは一切口を出さない。違う。出せないんだ。それくらい俺とレンジの間には殺気が充満している。

 

「前に言ったこと、覚えているか?」

「…」

 

 忘れるはずがない。この世界に来て最初の日、俺はレンジに誘われた。今でも俺をパーティーに入れるつもりかとも考えたが、そこまで執着するような奴でもなければ、俺にそこまでの価値もないだろう。ますます、分からない。

 

「来い、臆病な獣」

「使いを忘れるな。無謀な戦士」

 

 売り言葉に買い言葉ってわけでもないが、俺は返してみる。レンジが歩き出したので俺は後に従った。普段の俺なら絶対に買わない喧嘩だろう。無謀すぎる。それでも俺はこの喧嘩を買った。とにかく今はこのイライラを解消したかったのかもしれない。誰でもいいから。そうでもしないとどうにかなってしまいそうな程、追い詰められていたのだと思う。

 

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