灰と幻想に生きる少年   作:いろすけ

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level.18

「おはよう」

 

 開口一番、爽やかな挨拶をする。自分で爽やかとか言うのはどうかと思うが、俺ができる最大限の爽やかさを作っているので許していただきたい。ただ、帰ってくる言葉ないのだが。

 ここ最近の日課になってきてるメリイへの挨拶。簡単な話題をふるより楽だし、確実に話しかけられるから。とはいえ、やっぱり返事がないのは寂しい。

 

「………おはよう」

 

 通り過ぎた後に遅れて聞こえてきた。とても小さい声で聞き間違いかと思ってしまったが、間違いない。今確実に返事をしてくれた。こんな当たり前のことでもすごい嬉しい。

 

「え、今―――」

「なに?」

 

 俺の馬鹿野郎。今のはダメだな。確実に。咄嗟に何でもないと誤魔化した。メリイは照れたのか呆れたのかは分からないが、視線を逸らしてしまった。まあ、照れたはないよな、絶対。ユメとシホルは俺のことジト目で睨んでいるし。俺だって間違ったと思ったよ。

 

「イサくんはちょーっぴりデリカシーないよなぁ」

「…うん」

「うるせえ、自覚してる」

 

 女性陣から盛大なブーイングをもらってしまった。当のメリイは話しなど聞いていないようだが。なんとなくイライラしたので近場のランタを殴っておいた。なんだかうるさい声が聞こえるが関係ない。今日も変わらずダムローだ。

 

 

 

 

 三匹のゴブリンに奇襲をかけた。先制攻撃で一匹に手傷を負わせ、そいつをユメとランタに任せる。俺はシホル、メリイとともにもう一匹。残りをモグゾーとハルヒロが相手にする形に持ちこんだ。

 俺はゴブリン一匹程度なら、周りの状況を見極めながら戦うくらいに余裕はできた。もちろんシホルの援護があってこそだとは思うが。

 一つ気になったことがある。モグゾーだ。モグゾーが相手にしているゴブリンはへこんだ兜と粗末な鎖帷子、傷んだ剣で武装している。確かに簡単な相手ではないが、今のモグゾーの相手ではない気がする。しかし、なかなか攻め込めない。何故か。答えは兜の差だ。当たり前だが頭に一撃もらえば重症、最悪死亡することだってある。だからこそモグゾーは慎重にならざるを得ないのだ。

 モグゾーのことばかり考えてはいられない。今、目の前には敵がいるのだから。意識を切り替える。

 

「シホル、援護お願い」

「わかった」

 

 思いの外、力強い返事が返ってきた。

 

「マリク・エル・パルク」

 

 シホルの放った魔法の光弾(マジックミサイル)がゴブリンめがけて襲い掛かる。しかし、命中はしない。いや、最初からその気はない。魔法は敵の足元に着弾し、砂煙を巻き上げる。視界が覆われる。だが、俺には関係ない。

 

「嗅覚探知(スメル)」

 

 見えなくとも分かる。すぐさま回避を行おうとするが遅い。

 ザシュッ――――。

 耳に残る音と共に血が宙を舞う。急いで後ろに下がろうとしたゴブリンの動きがそこで止まる。ミールだ。相変わらずのナイスタイミングだ。俺はもう一歩踏み出してゴブリンの首を飛ばした。

 

「ハルヒロ、後ろに回ってやれ!」

 

 未だ苦戦していたモグゾーとハルヒロのペアに指示を出す。指揮官の仕事は基本的には最初のフォーメーションの確認くらいだ。あとは基本的にその場の当人同士に任せている。もちろん今回のように助言や手助けの指示などはしているが。

 

「わかった」

 

 指示通り、ハルヒロは敵の後ろをとる。敵は一瞬後ろのハルヒロに気を取られる。それだけで充分だった。前が不注意になった敵にモグゾーの憤怒の一撃(レイジブロー)。通称どうも斬り。名前の由来は―――

 

「どぅもー」

 

 という謎のかけ声が元になっている。

 何はともあれ、うまくいったようだ。

 

「…………」

「どうした?」

 

 何故かメリイに睨まれた。モグゾーたちはたった今終わったし、ランタとユメも優勢だ。ずぐに終わるだろう。だからと言ってのんびりしてるわけにもいかないと思うのだけれど。

 

「いえ、別に…」

 

 まあ、何でもないならいいか。俺はすぐさま全員に呼びかけ、ランタたちのフォローにまわさせる。どれだけ優勢でも決して慢心せず、確実に仕留める。それが俺のやり方だ。だから絶対スタンドプレーはさせない。この優位な状況では特にだ。

 

「助けなんかいらねえよ!ヴァカども!」

「五月蝿いぞランタ。ハルヒロはさっきと同じように後ろに!ユメは右、モグゾーは左」

「おい、聞いてんのか!」

「ランタはそのまま正面でいい。一気にいくぞ!」

「やっぱ聞いてねえな、てめえ!」

 

 ランタは最後まで五月蝿かったがなんとかなった。数が少なかったというのもあるが、安定感が出てきたのも事実だろう。

 

「…」

 

 神官特有の六芒を示す仕草だ。戦闘が終わるとマナトがいつもしていたことだ。意外だ。もしかしたらギルドの決まりなのかもしれないが、メリイはそんな事しそうにないと思っていたのに。今の考えがバレたら睨まれそうだな。

 

「なんなの、さっきから」

「へ?…ああ、いや別になんでも」

「そう」

 

 相変わらずおっかない。無駄に手やら腕やらを振りながら否定する。とりあえず戦利品でも回収しておこう。

 

「なあ、モグゾー。俺少し出すからさ。安物でもいいから買えよ、兜」

 

 戦利品をすでに回収したハルヒロがそんなことを言い出した。正直驚いた。兜がないから消極的なっているとは思ったけど、その考えは浮かばなかったからだ。そして同時に思う。リーダーらしくなってきたな、と。

 

「…え、そんな。悪いよ」

「いいんだって。俺はとりあえずこれだけあればなんとかなるし」

 

 と言って手持ちのダガーを叩いてみせた。

 

「そやったらユメもいくらか寄付するなぁ」

「じゃあ、私も……そんなにたくさんは、できないけど、いくらかは」

「俺は何があろうとも一カパーたりとも出さねえからな!言っとくけど!」

 

 ランタ以外は全員乗り気なようだ。

 

「じゃあ、俺とメリイもいくらか出すよ」

「ちょっと、なんで私が!」

「ケチケチするなよ。ランタって呼ぶぞ」

「………分かったわよ」

「おい、こらイサリ。どういうことだよ!つーか、メリイ!なんでそこで了承すんだよ!嫌なのか!そこまで嫌なのか!」

「あたりまえやんか」

 

 思った以上の効き目だったな。そんなに嫌なのか…。なんかランタが不憫だ。自業自得だけど。

 

「あ、あの、無理に出さなくてもいいよ」

「……出すわよ。出せばいいんでしょ」

「素直じゃない奴」

「なに?」

「なんでもないです」

 

 俺の呟きを逃さず、さらに迷うことなく錫杖を構える。自分でもびっくりするくらいの速度で謝っていた。怖すぎるから仕方ないわ。

 

「ははーん、そういうことか、メリイ」

 

 九割方くだらないことを考えたランタが口を開く。

 

「この俺様と一緒にされるのがそんなに照れ臭いか」

「はあ?」

 

 おそらくメリイは出会って最も冷たい声を出した。それに気づかずランタは得意げに続ける。あ、こいつ死んだかもな。

 

「照れんなって」

「……」

「例えばだ。俺たち四人の中から一人を選ぶとしたら誰だ?完全に俺だろ?そんなに照れなくてもいいんだぜ」

 

 こいつは自分が選ばれる自信でもあるのだろうか。だとしたらその自信はどこから来るのか解明したい。いや、別にしたくはないか。

 

「…そうね、私なら」

 

 と言って少し考えるそぶりを見せるメリイ。え、まさか選ぶの?なんか意外だ。怒って終わりだと思っていたのに。

 

「………いない。そんな人」

「んだよ。つまんねーな」

「どの道、ランタはないだろ」

「うっせーぞ、パルピロ」

「誰だよ。パルピロって…」

 

 いつも通りのくだらないやりとり。だけど、そんなやりとりが久しぶりのように感じる。そしてその中にはメリイがいる。もちろんあまり話していないし、笑顔も見せない。だけど確実にメリイとのコミュニケーションが少しずつ取れてきたように感じた。素直に嬉しく思う。パーティーメンバーの一人として。そうだ。メリイはパーティーメンバーだ。あくまでそれだけ。なのに、なんでメリイが誰も選ばなかったことにこんなにホッとしているんだ?

 俺の中に湧いた小さな疑問は決して消え去ることはなかった。

 

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