ひよむーにつれてこられたのは、いかにもな雰囲気の酒場。おそらくこの街の人達と思われる人間がたくさんいた。賑やかで、酒臭い。第一印象はそんな感じ。酒場の奥の部屋に案内された。ひよむーは本当に案内するだけのようで部屋に全員が入るとすぐにどこかへ行ってしまった。その代わり、部屋の奥のカウンターにすでに一人の男がいた。
「ようこそグリムガルへ。ここはオルタナの町よ」
男…には違いないのだが、その人物からはオカマのような雰囲気を感じる。…というかオカマなのだろう。
それにしてもまたグリムガル…。さっきひよむーが言っていた言葉と重なる。
「歓迎するわ。子猫ちゃんたち。あたしはブリトニー。棟オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン事務所の所長兼ホストよ。所長って呼んでもいけど、ブリちゃんでもオッケー。けど、その場合は、親愛の情をた~っぷりこめて言うこと?」
「質問に答えろ。辺境軍だの、義勇兵団ってのはなんだ?俺は何故ここにいる?」
ブリトニーことブリちゃんが言い終わるや否や、銀髪の男が質問というより、もはや命令のような口調で投げかける。
「威勢がいいのね。嫌いじゃないわよ、あんたみたいな子」
「レンジだ。俺はお前みたいな変態野郎は――」
一瞬の出来事だった。言い終わるより速く、レンジの喉元にナイフを突き立てるブリちゃん。直前で止めこそしたが、レンジの次の言葉次第では確実に喉元を引き裂くだろう。
「レンジ、いいこと教えてあげる。あたしを変態呼ばわりして長生きできた奴は一人もいない。試してみる?…あんたもよ?」
俺はブリちゃんの首筋に右手の人差し指を添わせていた。武器こそないので致命傷は与えられないが確実に頸動脈を狙える。
「イサリ」
短く名前だけ言い放つ。
「そう、イサリ…あら?案外かわいい顔してるじゃない?」
確かに俺は身長が低い。けれども別に童顔というわけではないので可愛いは適さないはずだ。どちらかと言えば目つきが悪い方だろう。
「おい、やれるもんならやってみろ。変態所長」
あろうことかレンジは突き立てられたナイフを素手で掴む。当然、手からは鮮血があふれるが、そんなことを気にするレンジではない。
「自己防衛ならともかく挑発はやめとけ、レンジ」
とっさに飛び出してしまったが、どうやらブリちゃんは相当強い。俺とレンジの二人がかりでもおそらく勝てないくらいには。
「無謀なわりに冷静なのね、二人とも」
そう言うとブリちゃんから殺気が消える。もちろん表には臆面も出していないが、なんとなくそう直感した。
「レンジとイサリね。覚えたわ。」
ナイフをしまい、最初にいたカウンターへと戻る。どうやら一難は去ったらしい。
その後ブリちゃんから聞いた話をまとめるとこうだ。
見習い義勇兵というものになれば10シルバーもらえるらしい。その代償としてモンスターを倒さなくてはならない。20シルバーで団章を買えばようやく一人前の義勇兵として認められる、とか。詰まる所、なによりも金が大事ということだ。その他の情報は各自で手に入れろ、だと。この上なく不親切な説明だ。
しかし、こうなったものはしょうがない。戸惑っている人が大半だが、さすがにレンジの切り替えは早かった。先ずレンジがしたのは仲間選びだ。この場にいる使えそうな人を厳選していく。最初に黒メガネの知的そうな男。そして13人の中で一番幼い少女。レンジに次いで強面な丸刈り男。そして―。
「お前も来い」
俺だった。しかし俺は情報が少なすぎるこの状況でむやみに動きたくない、というのが本音だった。レンジの行動力とリーダーシップは尊敬に値する。だが、なんとなくレンジとは合わない気がする。
「…悪い。情報がない今、迂闊に動きたくない」
「そうか」
一悶着あるかと思いきや、あっさりと引いてくれる。最終的に派手な女も加え、計5人が酒場から去って行った。
残された俺たちだってボーっとしているわけにはいかない。一先ずは情報を集めないとな。モンスターと戦うにしても分からないことが多すぎる。俺は銀貨と見習い章を受け取るためブリちゃんのもとへ行った。
「はい、イサリ」
「あぁ」
団章を受け取ると同時に俺はブリちゃんに一つ、質問を投げかけた。
「…面白いか?」
いろいろと説明不足な質問だったが、ブリちゃんは一言だけ答えた。
「あんた次第ね」
その言葉を背に酒場を後にするのだった。