灰と幻想に生きる少年   作:いろすけ

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祝お気に入り100件越え&UA10000件越えです!

まさかここまで大変なことになっているとは…
感謝、感謝です!!!

これからも相変わらずの駄文かと思いますがどうかお付き合い下さい。



level.20

 ハルヒロたちの様子が少しおかしかった。当然だ。メリイの過去を聞いたのだから。どんな顔して会えばいいのか、そう考えているのだろう。俺だって最初はそう思ってた。無理もないことだ。だが、メリイからすればこの異変は耐え難いものがあるだろう。

 

「メリイ、話があるんだ」

 

 ハルヒロが声をかける。それに合わせてメリイは身構えるように自身の体を抱きしめる。メリイが想像していることは分かる。おそらく、別れを告げられる、そう思っているのだと思う。でも違う。こいつらがそんなこと言うわけない。そう言ってあげたかった。今すぐ不安から解放してあげたかった。

 

「早く済ませて」

「メリイ、違――」

 

 俺の言葉は続けなかった。メリイが遮ったからだ。今までで一番、冷たい声で。

 

「抜けて欲しいのなら、それだけ言って」

 

 言葉がでなかった。何故かは分からない。いや、分かってるんだ。パーティーを転々としてきたメリイは何度も味わってきたはずだ。いつも、いつもそうだったのか。そんなの悲しすぎるだろ。

 否定の言葉が届くより先に、異変に気付いた。

 

「きゅきゅっ!」

「ミーちゃん?」

 

 瞬間、スメルを発動する。周囲の景色が霞み、気配のにおいを汲み取る。

 

「後方の岩陰に二匹。前方に二匹。左右に一匹ずつ。囲まれてるぞ!」

 

 全員に緊張が走る。囲まれてる。それ以前に六匹だ。かなりきつい。俺はタイミングの悪さに唇を噛み切りそうなほど歯をきつく閉ざす。そこからの行動は早かった。

 

「メリイとシホルを中心に。モグゾーとランタは前方二体を!ユメは右、ハルヒロは左。俺は後ろを―」

 

 言い終わるより早くゴブリンが姿を現した。動揺が広がり、一瞬、みんなの動きが止まる。その隙は致命的だ。

 

「落ち着きなさい!相手はゴブリン、いつもと同じ要領でいける!」

 

 メリイの声が響く。それだけで落ち着けた。どうやらそれは俺だけはないようで、みんながその言葉を聞き、動き出した。指示通り、それぞれが持ち場に移動する。

 

「シホル、援護頼む!」

「オーム・レル・エクト・クロム・ダーシュ」

 

 落ち着いて唱えられた魔法は真っ直ぐに敵へ向かい、一匹を確実に捕らえた。睡魔の幻影(スリーピーシャドー)。黒いモヤのようなものをゆっくりと飛ばして 対象に吸い込ませることによって眠らせることが出来る。精神が高ぶっている敵に効かなかったり、魔法そのものの速度が遅い、などの短所はあるがそれを差し引いても強力な魔法と言えるだろう。

 

「ギャアアア!」

 

 眠ったゴブリンを無視し、もう一匹と打ち合う。鍔迫り合いになり、膠着状態に入る。動きが止まった瞬間、すかさずミールが援護してくれる。凍てつく血(フリージングブラッド)だ。下半身が凍った敵に容赦なく斬りつける。その直前、叫び声が聞こえた。

 

「きゃああ」

 

 ユメだ。一瞬だった。気を取られた一瞬、動けないゴブリンが滅茶苦茶に振り回した剣が俺を斬りつけた。左肩に生ぬるいドロリとしたものが伝う。

 

「イサ!」

 

 そんな呼ばれ方は初めてだ。でもその声は間違えなくメリイの声だった。

 力が湧いた気がした。ギリギリのところで踏みとどまり、転倒を防ぐ。防ぐどころか逆に前方に倒れ込むほどに踏み出す。一歩、踏み出す!

 

「はあぁぁぁ!」

 

 首を刈り取る確かな感触。しかし、それだけでは止まらない。

 

「ハルヒロ!ユメのフォローに!」

「で、でも!」

「そいつは任せろ!」

 

 ハルヒロが相手にしている敵までざっと五メートル。どうしろというのか。普通ならそう思うだろう。だけどハルヒロは構わずユメのもとへ駆けた。

 

(指示しといてなんだけど、馬鹿だよな、お前………)

 

 長刀を手前に引く。腰を落とし、狙いをつける。刹那、ミールが吠えた。

 

「属性付与!弾丸(ブレット)!」

 

 ゴブリンの心臓が貫かれた。俺から、正確には俺の持つ長刀から真っ直ぐ伸びた氷の剣がゴブリンを貫いたのだ。目測でも六メートルはあろうかという長さだ。ゴブリンを貫いてなお、若干の余裕を残すその剣。明らかに剣として振るうには長すぎる。弾丸(ブレット)。固定し、相手を貫くことを前提とした、その名の通りの圧倒的リーチがそこにあった。

 

「ギヤヤアア!」

 

 突如、真後ろから聞こえた咆哮。油断だった。最初に眠らしたゴブリンが起きたのだ。今の体勢からでは間に合わない。俺は背中にもろに斬撃を喰らう。…はずだった。

 

「強打(スマッシュ)!」

 

 掛け声と同時にゴブリンが吹き飛ばされる。威力はそこまでだが当たり所を工夫したらしい。ゴブリンはそのまま気を失った。

 

「安心しないで!敵はまだいるのよ!」

 

 その一言で我に返り、辺りを見渡す。モグゾーは大丈夫そうだ。ランタにはシホルがフォローに入ったし、ユメにはハルヒロ。よし、いける!

 

「メリイは変わらずシホルの援護を。俺は気絶したゴブリンにとどめを刺し次第ユメたちの援護にまわる。終わったらすぐにフォローに行かせる!」

「分かった」

 

 そう言うと俺はすぐさま気絶しているコブリンを殺した。血が飛ぶ。しかし、そんなことに構ってはいられない。すぐさまハルヒロたちのところへ行こうとしたとこで痛みが走った。一番最初に斬りつけられた傷だ。今頃になって痛み出した。

 

「座って」

 

 短く告げられた一言に驚く。だってメリイはもうフォローに向かったはずじゃ…。

 

「座って!」

 

 二度目の言葉で俺はようやく従う。メリイはそっと傷口に触れる。電流のように走った痛みに堪らず顔をしかめる。

 

「…ごめんなさい」

 

 小声で俺以外にはおそらく聞こえていない。それでも今、メリイは俺に謝った。別にメリイが謝ることじゃない。そんなことを思うより先に、俺は純粋な嬉しさを感じていた。

 

「光よ、ルミアリスの加護のもとに癒し手(キュア)」

 

 その光は優しく温かい。この場で考えるようなことじゃないことは理解しているし、今はいち早く援護に向かうべきだ。なのに、なんでこんなに嬉しいんだろうか。こんなこと今まで一度もなかった。戦闘中なのに、自然と笑みが漏れるなんて。

 

「終わったわ」

「ああ、ありがと」

 

 俺はその笑みをすぐさま消し、みんなのフォローに向かう。命のやり取りの最中、清々しいまでの充実感を覚えながら。

 

「ユメ、交代だ!」

「ユメ、これくらい平気!まだやれる!」

 

 力強い声だったが無理をしているのは目に見えて分かった。

 

「それを判断するのはメリイだ!一旦交代!」

「…わかった」

 

 ハルヒロが敵とバインド状態になった瞬間、入れ替わる。ハルヒロは素早く敵の手首を斬りつける。手打(スラップ)だ。右側から怯んだ敵に突きを繰り出す。一撃、二撃と確かな手ごたえを感じた。するとゴブリンは標的を俺に切り替える。

 ズブッ―――――。

 ハルヒロに背を向けたのが運の尽きだ。背面打突(バックスタブ)はハルヒロが最も得意とするスキルだ。

 鋭く突き刺さったダガーを引き抜き、生死を確かめる。どうやら当たり所がよかったらしく一撃で倒せたようだ。念のため俺も確認を行うが、心配ない様だ。

 

「イサリ、あいつらだ!」

 

 ランタだろうか。とてつもなく慌てた声が聞こえる。声のする方向に自然と顔を向けると、そこには―。

 

「………っ!?」

 

 見間違うはずはない。そこにいたのはあの鎧ボブとホブゴブだった。瞬時に緊張が張り詰める。新手のあいつらを加えてゴブリンの数は四匹。対して俺たちは七人。数の上では勝っている。しかし、連戦による体力の消耗。俺とユメは治療してもらったとはいえ怪我をしている。そして何より、俺たちは以前、七対二という圧倒的有利な状態で挑み。そしてマナトを失った。

 

「てめえ!ここで会ったが百年目だ!」

 

 ランタが勇み、今にも斬りかかろうとしている。だが、俺の判断はそれよりも早かった。

 

「全員引くぞ!」

「何でだよ!!」

 

 声を荒げているランタだけじゃない。他の奴らも動揺しているようだ。そりゃ、俺だってマナトの仇が目の前にいるんだ。今すぐ斬りかかりたいさ。でも、優先すべきは弔いじゃない。生き残ることだ。それには冷静な状況判断がいる。だったら冷静にでもなってやろう。

 

「今の俺たちじゃ、こいつらには勝てない。引くぞ!」

「イサリの言う通りだ。みんな、逃げよう」

 

 ハルヒロが続いてくれる。このリーダーの土壇場での決断は大きかったようだ。みんなも後に続いてくれる。ランタも納得していないようだが下がってくれた。

 

「逃げると言っても簡単にはいかないわよ」

「ああ、分かってる」

 

 言いながら全員が後退している中、俺とシホルが前に出る。

 

「氷結球(アイスグローブ)!最大面積でだ!」

「マリク・エル・パルク」

 

 言うなりミールが一つの氷球を作り出す。すかさずシホルが魔法の光弾(マジックミサイル)で氷球を砕く。砕かれた氷球は粉々になり、ゴブリンたちに襲い掛かった。数秒の間、ゴブリンが怯む。見たところ飛び道具は所持していないようだし、このまま走れば行ける。ここに来てマナトが作ろうと言い出した地図が役に立った。

 足が動かなくなるまで走った。もう歩けないと感じるほど走った。ダムローを抜け、オルタナに帰って来て初めて俺たちは無事を実感できた。

 

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