まさかこんなに長くなるとは予想外です…。
次回は日常回のつもりです。
この時が来たらなんて声をかけようか、ずっと考えてた。
俺たちは長い時間を過ごしたようで、実はそうでもない。短すぎるくらいだ。俺たちがマナトと過ごした時間はせいぜい一か月。だから分かっているようで、何も知らない。頭が良くて、頼りになって、人当たりもいい。非の打ちどころのない奴だと最初は思ってた。でも、それはマナトが隠していただけなのかもしれないな、今ならそう思う。もっと知りたかった。そしたらきっと、もっと好きなって、少し嫌いになって。そしてまた好きになっただろう。
「…………ふぅ」
一つ、深いため息をつくと風が俺たちの間を駆け抜ける。ビュッという乾いた音が響き渡る。メリイは俺たち六人から少し距離をあけ、目を伏せ、胸に手をあてていた。白い綿毛のような雪がはらはらと舞う。一粒の雪が目の前の墓石に触れ、優しく溶けていった。
「俺たち、義勇兵になったよ」
ハルヒロがそう告げると、風が再びうねりをあげた。
懐から取り出した団章を三日月が刻み込まれた友の墓石に掲げる。一見銀貨にも見えるその団章は義勇兵の証そのもの。正直に言うと今まで買えなかったわけじゃない。
「区切りをつけたくて。それからにしようって、みんなで決めたんだ」
俺は無意識のうちに団章を持っていた手に力が入る。ギュッと、握りしめる。悔いているのか喜んでいるのか、そのどちらも含まれている感情を感じながら。視線を下に落とすと僅かに溶けだした雪が水となり、流れている。
「俺は別にどうでもよかったんだがな。こいつらがうるせぇから」
「馬鹿ランタ」
鼻を鳴らし、肩を竦めてみせるランタの肩をユメが叩く。
「何もこういう時に、憎まれん口たたかなくたっていいやんか。ただでさえ憎まれてるんやから」
「じょ、上等だっつーの。なんたって俺は暗黒騎士だからな。憎まれてナンボだぜ」
こんなときでも変わらず馬鹿な言い合いを続ける二人を見ていると自然と笑みが漏れる。一応、ユメの間違いを訂正しておこうかと思ったがそれは杞憂に終わった。
「…というか、ユメ。憎まれん口じゃなくて、憎まれ口だよ。憎まれん口だと、憎まれてないし…」
「ほぇ?そうなん?ユメ、今まで憎まれん口だと思ってた」
どうにか収拾がついたようで、タイミングを見計らい、ぼんやりと雪を眺めながら俺は短く言葉を紡ぐ。
「そろそろ、あれを」
「あっ………うん」
ゆっくりと前に出たシホルがしゃがみ込んだ。ポケットから自身の分ではない一枚の団章を取り出す。そっと、大切なものを扱っているのが分かるほど優しく、団章を墓石のすぐそばの地面に置いた。
「…これ、マナトくんのぶんです。マナトくんの持っていたお金と、足りないぶんはみんなで出し合いました。メリイさんも、出してくれました。受け取ってください」
多分マナトは、そんなことしなくていい、って言うかもな。金の無駄遣いだから装備の足しにでもして、って笑うかもしれない。まあ、なんて言われようと絶対聞き入れたりしないけどな。
そっちはどうだ?ちゃんとやってるか?お前のことだから心配はいらないだろうけど。…寂しくないか?…辛くはないか?もしかしたら案外楽しんでるかもな。
答えは聞こえない。当たり前だ。分かってる。それでも呼びかけずにはいられないのはどうしてだろうか……?そうだな、ようやく受け入れられたのかもしれないな。
「俺たち、いいパーティーになってきたよ」
ハルヒロは泣き出しそうな、それでいてどこか吹っ切れたような表情をしていた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン……と午後六時を報せる鐘が鳴る。
ランタが最初に。遅れてモグゾーとハルヒロがゆっくりと歩き出す。シホルは泣き崩れてしまい、ユメが付き添ってあげている。
「…」
シホルたちに声をかけようかと思ったがやめた。しんしんと積もる雪道を歩き出した。すぐ横にミールが寄り添う。何度か鳴いていたが次第に静かになった。
「イサ」
真っ白な道に足跡をつけていると声をかけられる。俺は声のした方に体を半分傾ける。
「……」
彼女は黙って俺の後ろまで来ると何も言わずに歩みを進める。少し前までならありえないであろうメリイの行動に若干の苦笑いをこぼすが、決して言わない。今の俺たちにはわざわざ指摘するほどのことでもないからだ。
雪の上を歩く独特の音だけがやけに大きく聞こえる。チラリと首を傾け、メリイの表情を窺うがそこにあったのはいつも通りの無表情だった。それだけ確認するとすぐに前を向く。
「メリイ、怪我は?」
「…大丈夫。魔法で治したから」
「…だよな」
メリイはちょこちょこと速足になっているミールを優しく抱き上げる。振り返らないとメリイの表情は分からないはずなのに、こちらの様子を窺うような視線を感じた。
「あまり嬉しそうじゃないのね」
「…まあな」
正直に言うと嬉しい以上に悲しい気持ちも確かにある。別に今まで忘れていたわけではないが、改めて鮮明に思い出したのだ。マナトのことを。とはいえ嬉しさももちろんある。結局のところ分からないのだ。いや、それが当たり前なのかもしれない。
「そう、よね」
「ああ、そうだな」
単純じゃない気持ちを抱え、それでもなお歩き出す。もう一度息を吐き出すと外気の気温差で空気が白く染まった。そして今、ようやく二つの影が並び合う。
前書きでも告知した通り、次回は日常回です。
章で区切るならこの辺りかな?と思ってます。
一章、二章、みたいな感じで目次も区切った方が見やすいですかね?
その辺のアドバイスを頂けると助かります。