申し訳ないです。なにかと忙しかったもので……。
今回新しく目次に章を追加してみました。
少しは見やすくなったかと思います。
level.25
「…もう少し塩加えた方がいいぞ」
お椀に汲まれた温かいスープ。白い湯気があがり、それを口に含むと体の芯から温まる。濃厚でほんのりと甘いクリームシチュー。申し分のないできなのだが、少しパンチがなくも感じる。
「あ、本当!?じゃあ、もう少しだけ…」
そう言うとモグゾーは少量の塩を鍋に加える。ぐつぐつと音を立てるその様子は食欲をそそられずにはいられない。それを証明するかのようにミールが嬉しそうに足元を駆けまわっている。
「イサくん、ソマリエみたいですごいなぁ」
「うん。いつも助かるよ」
「まあ、試食専門だけどな。あとユメ、ソムリエな!」
俺自身、料理は全くできない。試食役なのもあくまでスキルの力だ。五感強化の一種、絶対舌感(テイスト)。おかげで料理はできなくとも、味のアドバイスならお手のものだ。薄々感じているだろうがこのスキル、絶対舌感(テイスト)は戦闘では全く役に立たない。アスク師匠は機会があれば一度殴ってやるとするか。
「…おはよう」
のそのそと降りてきたのはハルヒロだ。いつも以上に眠たそうな目を擦りながら一度大きく伸びをした。
「あれ?ランタは?」
「ランタくんなら朝早くから出かけたよ」
「マジで!?ランタが!?」
「いるよね。休日になると朝が早くなる人」
休日。そう、今日は休日にしたのだ。昨日で一先ずの区切りをつけ、また明日から頑張らなくちゃいけない。今日はその息抜きってやつだ。
「みんな今日はどうするの?」
「僕は…防具の手入れしとこうかな。あっ、研ぎに出した防具受け取らないと…」
出来上がったクリームシチューと焼きたてのパンを皿に盛りつけながら返事をするモグゾー。俺はそれをユメとハルヒロに配りながら耳を傾ける。
「ユメはちょっとクライミングしよぉかなーって」
「へえ、クライミングなんてするんだ。すごいな、ユメ」
「そんなことないよぉ」
ユメのクライミングしている姿を想像すると、落っこちないか心配になってくる。
「イサリは?」
「ミールの世話だな。散歩に風呂、あと一定期間じゃれつかせないと親密度が下がる!」
「……なんだよ、それ」
ハルヒロの眠たそうな視線を無視して、焼きたてのパンを頬張る。外はサクサク、中はフカフカ。なんでも途中で火力を変えることで実現可能だとか。すげえな、モグゾー。
「イサくんは本当にミーちゃんが好きなんやなぁー」
「こんな珍獣でも一応相棒だからなぁー」
俺の言い方が不服だったのか、きゅいきゅいと鳴きながら鼻ビンタをしてくる。前にも言った気がするが、全く痛くないので無視しても問題ない。ただ、ちょっと拗ねるのはめんどくさいが。
「親密度はどうしたんだよ?」
「…なかなか痛いところをつくな」
残りのパンとシチューを口いっぱいにかきこみ、飲み干した。仕方ないからレッスン1だ。
「風呂か散歩、どっちがいい?」
言葉が伝わっているかは定かではないがミールは勢いよく走り出した。どうやら散歩らしい。…余談だがミールは風呂が嫌いだ。
結局、嫌がるミールを捕まえて無理やり風呂に入らせた頃にはもう昼すぎだった。石を基調に作られているオルタナの街。大型の水車や石造りの橋、さらには人一人がやっと通れる程度の小道など、歩いてみると知らないことで溢れていた。さっそく散歩に出かけたわけだが今日は結構風が強い。季節的なこともあるだろうけど、かなり寒い。風呂に入らせてから散歩、というのは順番的にどうなのかと思わなくもないが、そこはノリだ。
「…寒っ!?」
やっぱり散歩なんてやめとけばよかったなぁー、と思い始めた時、目の前に知った顔が現れた。結構な距離があったが間違いない。ハルヒロだ。向こうは気がついていないようでそのまま石畳の階段をあがる。小走りでトンネルを抜け、石造りの建物を追い越していく。ところどころに雪が残っているその風景は絵画のように美しいのかもしれない。もう、この世界に来て何日も経った俺からすればただの風景にしか見えないが。
声をかけようとしたところで、気がつく。ハルヒロは誰かに声をかけていた。メリイだ。どうやらここはメリイの宿だったらしい。いつの間にかこんなところにまで来ていたのか、と自覚するより先に疑問が湧いた。
(なんであの二人が……?)
別に偶然会ったって不思議じゃない。オルタナは最初こそ広大な街かと思ったがそこまでの広さはない。実際にこうして遭遇しているくらいだ。でも、なんだかそうは思えない。別にいいことだ。パーティーメンバーなんだし。メリイが馴染んでいる証拠だし。二人の雰囲気がとても暖かい。そう思っていると風の悪戯なのか二人の会話の声がハッキリと聞こえた。
「俺はメリイのことが好きだよ」
「私も……好き…」
告白。誰がどう聞いてもそう解釈するしかない会話。そして、メリイはそれに答えたように思う。別に俺には関係ないことだ。そうだ、パーティーに溝ができない限りは誰と誰が付き合ったって構わないと思う。もちろんハルヒロとメリイも…。
(…………………何考えてんだ、俺)
宿のテラスで談笑に花を咲かせている二人は誰から見たってお似合いだ。もし、そうならお祝いすべきことじゃないか。ハルヒロはいいやつだし、気だって回る。きっとメリイを幸せにできる。なら、それでいいじゃないか。そう思うのに何故だろう。ハルヒロと話しているメリイの顔は俺には決して向けてはくれない笑顔だった。心の胸の奥がチクリと音をたてる。
そして同時に自覚してしまった。あの笑顔を俺に向けて欲しかったんだと。
(俺、メリイのこと…………)
思考を無理やり中断させて立ち止まる。前に進もうとしているのに進めない。まるで見えない壁があるような、そんな感覚。半歩前に踏み出してはすぐに後退る。震える脚に耐え切れず、俺は来た道を引き返していく。
「元気なやつ…」
俺の心の内も知らないで石橋の上に止まっていた鳩を追いかけ回しているミール。もちろん鳩は飛んでしまうので全然追いつけてないのだけれど…。
「イサリくん?」
「ん?シホルか」
たまたまそこにシホルが居合わせたらしい。すぐさま意識を切り替える。
シホルはどうやら鳩に餌をあげていたとこだったのだが、突如現れた珍獣のせいで鳩が逃げてしまったのだ。なんとも申し訳ない。
「こら!大人しくしやがれ!」
シホルに悪いので、はしゃいでいる珍獣の鼻を掴む。するとバタバタと暴れ、少し経ったと思ったら地面に力なく寝そべった。
「…そのくらいに、してあげて」
「そうか?悪いな、二重の意味で」
シホルのお許しが出たので掴んでいた手を放すと、くーんと犬のように鳴いた。
「鳥、好きなの?」
「習慣で、なんとなく、かな…」
「ふーん」
変わった習慣だなぁー、と言ってシホルの方を向いたが、俺と目は合わない。シホルは橋から見える景色を眺めながら腕を後ろで組む。表情は読み取れないので何とも言えないが、どことなく悲しそうな雰囲気を感じた。
もしかしたら触れて欲しくないところだったのかもしれない。例えば、マナトとの思い出……とか。
「あの、イサリくん。…今後ともよろしく」
くるりと振り返り、深く頭を下げるシホル。俺は突然のことにすぐに言葉が出てこなかった。
「………え?なに?」
ようやく出た言葉がそれだ。つくづく面白みのない男だと自覚する。しかし、シホルは俺の予想に反して笑い出した。
「…面白みのある男になれたのか!」
面白みというか、ただ笑われただけな気もするが。鳩の餌だったものを必死になって食していたミールがツッコミをするように鼻で俺を叩いたのは気のせいだと思いたい。
「…ご、ごめん」
「あ、いや」
「ただ、なんとなく」
そう言って笑うシホルに先程の悲しそうな雰囲気は微塵も感じられなかった。何はともあれ、元気ならよかった。俺は軽く笑顔を返し、未だに食事を終えようとしないミールの鼻を再び握った。
本当はただ、気を紛らわせたかっただけかもしれない。
2016/4/24 20:01 (あとがき修正)
タグの「ヒロインはメリイ」を「ヒロインは未定」に変更しました。
ですがメリイがヒロインから外れるわけではありません。
今後の展開を考慮しての、あくまで保険です。
今後ともよろしくお願いします。