灰と幻想に生きる少年   作:いろすけ

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お久しぶりです、いろすけです。

ここ最近忙しくて投稿できませんでした。
次回からはできる限り頑張りますが、遅れることがあるかもしれません。
ご了承ください。




level.29

 酒場を出てすぐ、ハルヒロを見つけた。どうやらメリイを見失っているようだ。かっこよく出て行ったくせに締まらないやつだ。俺のことを見つけたようで駆け寄って来る。その顔は焦りと不安で埋め尽くされていた。

 

「どうしよう!?イサリ!?」

 

 駆け寄って来るなりこれである。とても冷静とは言いがたい。それだけこいつはメリイのことを思っているのかと思えば嬉しい反面、切なくも感じる。でも、今すべきことは感傷に浸ることじゃなく、メリイを見つけることだ。そう判断すると途端に頭が冴えてきた気がした。

 

「落ち着けハルヒロ。そんな顔してたら余計不安にさせるだけだぞ」

「で、でも見失ったし…」

「だから落ち着けって。ミール、頼む」

 

 一言だけ声を掛けると返事があった。ハルヒロよりミールの方がよっぽど冷静らしい。そう思うと少し笑みが漏れた。

 

「きゅいきゅい!」

 

 ミールの後を追う。目的地はそんなに遠くはなかった。走って追いかけたからか、焦っていたからか、とにかくすぐに着いた気がする。

 そこにはメリイがいた。弱々しく膝を抱えているわけではない。ちゃんとその場に自分の力で立っている。けれどやはり、その後ろ姿からは暗い雰囲気を感じる。

 

「メリイ!」

 

 最初に声を掛けたのはハルヒロだった。こちらに気がついたようで、視線を向ける。少し驚いたような目をしたが、それも一瞬。すぐにいつもの表情に戻り、何もなかったかのような口調で返事をした。

 

「どうしたの、二人とも」

 

 気丈に振る舞う、にしては愛想に欠けている声。だが、今の状況を文字で表すとしたらそれが一番適切だろう。

 

「メリイ、サイリン鉱山に行きたい理由って…仲間のため、なのか?」

「……」

「不死の王の呪いを解くため…なんだな?」

「ええ」

 

 この暗がりでは俯いているメリイの表情は汲み取れない。メリイは基本感情を表に出さない。声や仕草、もちろん表情にだって。でも、全く出さないわけじゃない。メリイと接してよく分かった。分かりにくいだけでこの子はいつも何かしらのサインを送っていた。誰かに助けてほしいから、なんて理由ではない。これも結局のところ推測でしかないが、理解してほしかったんじゃないのか。今になってそう思う。

 

「もちろんそれは正しい。そう思えるメリイは強い。でも、でもさ、俺は無理して乗り越えなくてもいいんじゃないかと思う。こんなこと俺に言う権利はないけどさ、メリイは充分戦った。苦しんだよ。だから、もういいんじゃないか?」

「…」

 

 息を飲む音が聞こえた。メリイが今何を考えているのか。どう思っているのか。分からない。だからとりあえず、俺の意見を言うことにする。

 

「もちろんメリイが行きたいって言うのなら止めない。手助けだってする。でも、もし使命だとか責任だとか思ってるんなら前にも言った通り、それは思い上がり………いい加減、自分を許してやってもいいんじゃないかと思う」

「違うの…」

 

 短い言葉。けれど明確な彼女の意見がそこにある。その続きを話すことに躊躇っているように感じた。その様子を察したのかハルヒロがすかさずフォローに入ってくれる。

 

「無理に話さなくてもいいよ。その、聞きたいのはメリイが行きたいかどうかだけだから…」

「話す。あなたたちには話さないといけないから」

 

 くるりと俺たちに背を向けるメリイ。面と向かってではやはり話しにくいのだろう。メリイはそのまま星を見るかのように顔を上げた。

 

「私はあの日からずっとサイリン鉱山に行きたかったの。そのための魔法も覚えた。でも、いざそこに行こうとなると足が竦む。行きたいと思ってるのに変よね…」

 

 言葉と一緒に漏れた乾いた笑いは自嘲しているようにも聞こえる。

 

「それでも、いつか乗り越えないといけない。それはきっと責任でも仲間のためでもない。たぶん、私のため。でも、私ひとりじゃ乗り越えられない。絶対に。誰かの力を借りるのなら……あなたたちがいい。私のことを仲間だと言ってくれたから。迷惑かも…しれないけど」

 

 迷いはすでになかった。メリイの中にあった不安はこれなんだ。乗り越えるために力を貸してほしい。こんなことで悩むなんて馬鹿だよな。言われなくても力になるって言うのにさ。

 

「……メリイ」

「ハルヒロくん!?」

 

 驚いたのも無理はない。だってハルヒロが涙ぐんでいたのだから。気持ちは分からなくもないが、メリイより先に泣くなよ。そう思わなくもない。本当にお人好しなやつだ。

 

「……なんでかな、嬉しかったからかな。かっこ悪いな、俺」

「ハルヒロくんはそれでいいんじゃない?」

 

 最終的はどっちが慰められているのか分からない状況になってしまった。まあ、それがハルヒロの良さだと俺も思うけどな。そんなことを考えている俺はきっと笑っているのだろう。

 そこで俺は一つの違和感に気がついた。呼び方だ。メリイがハルヒロを君呼びしたのが気になったのだ。

 

「あ、あのさ」

「なに?」

「いや、その…ハルヒロとメリイって付き合ってるんだよね?」

「…えっ!?」

「………」

 

 当然の如く、ハルヒロ、メリイの順番である。

 

「イサリ、何言ってるんだよ!?」

「え?違うの……?」

「あ、当たり前だろ」

 

 ハルヒロに続くようにメリイも頷いて答えを示す。

 じゃあ、あのとき一緒にいたのは偶然?でもいい雰囲気だったし、告白だって…。

 

「テラスは…テラスにいたときは?」

「き、聞いてたの!?」

 

 突然声を上げたメリイの顔は真っ赤になっていた。普段表情の乏しい彼女にしては珍しい、いや、初めて見たと言っていい。と、考えたが訂正する。俺は一度見ている。酒場で抱き付かれた時だ。

 

「…誤解、だったの?」

「そ、そうだよ!」

「そうよ」

 

 とにかく誤解だったらしい。そうと分かると自然と肩の力が抜けた気がした。

 

「…これからそういう関係になる、とかは?」

「「ない!」」

 

 念のため可能性も質問してみるが見事なシンクロで否定されてしまった。

 

「はぁ、なんかイサリのせいで疲れた…」

「悪かったって」

「唐突すぎて驚いたわ」

 

 今だ若干頬が赤いところを見るとメリイはこの手の話は不得手なのかもしれない。そういう俺も大して人のことは言えないのだが。

 なんだかんだ夜も遅いので解散することになった。メリイに「送っていくか?」と聞いたところ「大丈夫」とだけ返って来たのでそこで別れることになった。本当は強引にでも送っていくべきなんだろうけど、正直気まずさが勝ってしまったらしい。

 

「ハルヒロ、トイレ行ってくるから先行ってて」

「ん?なら待ってるよ」

「いや、いい。その代わりミールを任せたわ」

「分かった」

 

 存外にすんなり折れたのは俺に対しても少し気まずさがあったのだろう。そりゃ、勘違いとはいえやはり恥ずかしい。いや、恥ずかしいのは主に俺だけど。

 

「………」

 

 トイレはただの建前だったのでハルヒロとミールがいなくなって少し突っ立っていた。一人になったせいか余計に寒く感じる。気分の問題だが、腕で体を抱えてみた。当然そんなことでは寒さは和らがない。

 建前とはいえ何もしないのもどうかと思ったのでとりあえず店に入ろうとする。もちろん長居するつもりはない。そこで俺は声を掛けられた。

 

「イサ」

「メリイ、どうして?」

「あなたなら気まずくて一人になるんじゃないかと思って」

 

 完璧なまでに行動を先読みされていて驚く。もしかしたら俺の行動がワンパターンなのかもしれない。その可能性は大いにあるような気がする。

 

「イサに一つ聞き忘れたことがあって」

「ああ、俺もなんだけどいいか?」

「ええ」

 

 店の外で話というのも変だなと思うが、店に入るほどガッツリ話し込むわけではない。たぶんそれはメリイも一緒。肌を刺すような寒さの中、最初に口を開いたのは俺だった。

 

「イサって呼び方なんだけど…」

「ごめん…なさい。嫌だった?」

 

 慌てたように謝るメリイがなんだか微笑ましい。こんなこと本人に言ったらまず間違いなく怒られそうだが、少し子供っぽくて可愛かった。

 

「いや、全然いいんだけどさ。ただ、メリイがそんな呼び方してくれるってなんか意外だった」

「嫌なら――」

「嫌じゃない。というより嬉しい、かな」

「そう、ならいいけど…」

 

 そう言ったきり、黙り込んでしまう。俺もてっきりメリイの質問がくると思っていたので無言だった。しばらく沈黙が続いたと思ったら、ようやくメリイが話し出した。

 

「私とハルヒロくんが付き合っていると思っていたとき、悲しそうな顔をしていたのはどうして?」

「えっ!?」

 

 メリイの瞳は真っ直ぐに俺を射抜く。射抜かれた俺は視線を逸らすことも許されない。しかし、その問いに答えることは難しい。俺自身、無自覚の行動だったからだ。そして今、メリイに指摘されるまで気がつかなかったことでもある。

 

「…分かんねえ」

「そう」

「でも、なんかムカついた。だから悲しそうな顔になったんだと思う」

「……」

「なんとなく、そう思った」

「…変なの」

 

 立ち去ろうとするメリイの後姿に声を掛けていた。

 

「ごめん、最後に一個だけいい?」

「なに?」

 

 メリイは律儀に振り返り、首をかしげてみせた。これが満面の笑みだったら言うことないんだけどな。と、またしてもバレたら怒られそうなことを心の中で呟く。

 

「テラスで何話してたの?」

「………」

 

 少し考えた後、メリイは俺の目を見て言った。

 

「言わない」

「なんだよ、それ…」

 

 悪態をつきながらも、どこかホッとしている俺がいた。

 

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