改めてスローペースな独特の世界観を実感しつつ、自分の駄文に泣きたくなってくる今日この頃です。
「うおおおぉぉぉぉーーーー!!」
初戦の出来ははっきり言って最悪だった。
「大声出したら奇襲の意味ないだろ!」
「ハルヒロ、お前もな」
森の中、わざわざ単独で行動しているゴブリンを探し出して奇襲をかけたわけだが…。上記の通り、ランタが大声を出して突進するもんで奇襲の意味がなくなってしまった。しかも当の本人は何と戦っているのか、その場でひたすら剣を振り回している始末だ。…大丈夫か、暗黒騎士。
「ユメ、ゴブリンの進路をふさいで!」
「りょ、了解」
マナトの指示通り、逃げ出したゴブリンの退路を断つようにユメが弓矢を放つ。
「正面は引き受けるからハルヒロは後ろから頼む」
「わ、わかった」
鎧は音がするからという理由でモグゾーは離れたところにいるので到着までもう少し時間がかかるだろう。俺はハルヒロの姿を確認するとローブの袖から短剣をのぞかせる。通常ならエレメントは金属を嫌うので身につけないのが鉄則だがそれに猛獣使いは含まれない。なぜならエレメントの庇護を受けているのは本人ではなく、あくまでパートナーだからだ。
「はあぁ!」
ガキィィーーーン…………。
響き渡る刃と刃が交わる音。鍔迫り合いの衝撃だけで腰が抜ける程の緊張感が漂う。
「…くっ、ミール!」
「きゅい」
ミールの有するエレメント、それは氷結魔法(カノンマジック)。ミールが鳴いた瞬間、冷気が漂い、ゴブリンの足元を瞬間的に凍らせる。突然のことにゴブリンは対応できずに体勢を崩す。その絶望的な隙をついて俺はゴブリンの手首を斬りつける。若干、浅いものの確実にダメージが入った。
「ハルヒロ!」
後ろに下がったゴブリンをハルヒロが追撃する。しかしゴブリンもそう易々とやられはしない。ハルヒロの追撃を振り払い、逃走を開始する。ハルヒロも負けじと後を追うが―。
「マリク・エル・パルク」
「あぶねえ!」
「えっ?」
ハルヒロにタックルをかますことでなんとかシホルの魔法の直撃を回避させる。
「ご、ごめんなさい」
今のは正直どっちも悪い。周りが見えていないハルヒロも、直線上に味方がいる時に魔法を使ったシホルも。当たり前だがゴブリンは待ってはくれない。今もマナトとランタ、それにモグゾーの三人を相手に互角以上の勝負をしている。
「ハルヒロ、立てるな?」
「ああ、悪い…」
「ミール、行くぞ!」
いつも間にか足元に来ていたミールを一度撫でると周りに氷のつぶてが出現する。俺はそれを確認するとゴブリンに向かって駆け出した。
「はあぁ!」
剣先が触れる一瞬前、ゴブリンがこちらに気づき回避を行う。しかし、回避した先はミールの射程圏。ゴブリンはつぶてをもろに受けた。致命傷には程遠いがその隙をついてマナトとランタが攻撃を繰り出す。最後はモグゾーが放った一振りでケリがついた。
「…はあ、はあ」
みんな息が荒い。実際かなり疲れたし。仕方ないだろう。
「ハ、ハルヒロくん…ごめんなさい…」
「いや、大丈夫」
「そうだ。あれは周りが見えてなかったハルヒロにも少なからず責任がある」
「そうだぞ、ハルヒロ」
「ハルくんもランタにだけは言われたないと思うけどなぁ」
「まあ、みんな無事ならよかったよ」
「そ、そうだね」
俺たちはなんとか勝利を収めたようだ。内容はとても褒められたものじゃないが、とりあえずよかった。なんて気を抜いたのがいけなかった。いや、この状況で気を抜かないことなんてできないだろう。だからきっと、ちゃんとゴブリンが死んだのか確認しておけばよかったのだと思う。ゴブリンは最後の力を振り絞り、俺に向かって飛びかかって来た。
「ギャアアァァァァ!!」
ゴブリンの雄叫び。死にたくない。殺されたくない。やられる前にやってやる。言葉は分からないがそう言っているような気がした。ゴブリンの悪意、殺意、そう言った醜い感情がやけにリアルに流れ込む。俺はこの時、不覚にも怖いと思ってしまった。そして、その一瞬が致命的な隙となることも恐ろしく冷静に理解していた。
ズブッ――――。
ゴブリンの短剣が右肩に刺さり、鮮血が溢れる。俺はすぐさま反撃しようとゴブリンの喉元に剣先を向ける。
「………っ!!」
この剣を突き立てればこいつは死ぬ。そう思うと俺は動くことが出来なかった。今、この瞬間、自身の命が危険に晒されているというのに。
「イサリ!?」
マナトの叫び声で我に返るが、すでに遅い。ゴブリンは俺の喉をつぶそうと―。
「憎悪斬(ヘイトレッド)!!」
割り込んだのはランタだった。そして今の一撃で今度こそ確実にゴブリンは死んだ。その事実が痛い。右肩の傷なんかよりはるかに痛かった。
「イサくん!大丈夫!?」
「ああ」
ユメは右肩に刺さったままの剣をゆっくり抜いてくれた。
「光よ、ルミアリスの加護のもとに癒し手(キュア)」
マナトの光魔法のおかげで傷は瞬く間に治っていった。外傷は治ったはずなのに俺は痛みを感じずにはいられなかった。俺たちはしばらく呆然と立ち尽くしていた。ただマナトだけが神官特有の祈りのようなものを捧げていた。
次回は日常回のつもりです。