灰と幻想に生きる少年   作:いろすけ

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level.7

 この日、俺たちは森ではなく、旧市街のダムローという場所に来ていた。なんでもマナトが昨日酒場で初心者でも大丈夫そうな狩場を聞いてきたんだとか。マナトは情報収集の能力に長けていて貴重な情報を俺たちに教えてくれる。モグゾーに引き続き、マナトにも頭が上がりそうにない。

 

「一匹だけ…かな?」

「…クンクン…きゅい」

「らしいな。寝てるし」

 

 主にはハルヒロと俺が基本的には偵察役だ。ハルヒロは盗賊だし、ミールは鼻が利く。とは言え俺は一般人だし、ハルヒロも忍び歩き(スニーキング)を身につけているわけではない。詰まるところ、情けないことにミールが頼りだ。

 

「とりあえず皆のところに戻るか」

「…そうだな」

 

 ダムローは森よりもゴブリンとの遭遇率が高いように感じた。その分、集団に出くわす危険性は高い。だからこそ俺やハルヒロの存在価値も上がるのだ。

 

「ゴブ一匹。寝てるっぽい」

 

 みんなが待機している場所へ急いで戻り、先の状況を伝える。マナトが短く「よし、やろう」と言って表情を引き締めた。

 

「モグゾーの鎧は音が出るから後ろに下がった方がいい」

「わ、わかった」

「そうだね。まずは俺とランタ、ハルヒロの三人で近づく。イサリは万が一に備えて周囲の警戒を。ユメとシホルは俺たちがゴブリンを起こしちゃったら遠くから援護して。モグゾーは急いで前に」

 

 マナトは瞬時に作戦を立てると俺たちに指示を出す。マナトを先頭にランタとハルヒロが続く。この頭の回転の良さとリーダーシップは素直にすごいと感じる。

 

「二人は比較的高いところから見守った方がいい。その方が狙いやすいだろ?」

「そ、そやね」

「…うん」

 

 二人は壁とは呼べない、もはや瓦礫に近い岩々によじ登る。それを確認すると俺は今一度気合を入れ直した。

 

「ぎゃあぁ」

 

 ゴブリンの叫び声が響く。俺が向き直ったときにはゴブリンはランタに飛びかかっていた。マナトがショートスタッフで攻撃を繰り出すが怯まない。ダメージこそ負ったが必死に包囲網を抜け出そうとしている。ユメは弓の準備でまだもたついているし、シホルは呪文を唱えなくてはいけない。モグゾーは当たり前だが間に合わない。

 

「ミール!凍てつく血(フリージングブラッド)」

「きゅい」

 

 咄嗟だった。ミールにそう告げると俺は駆け出した。

 

「ぐわっ!」

「ハルヒロ!?」

 

 ゴブリンがハルヒロを飛び越え、今まさに逃走を完了させたとき、足元が…いや、足元ごと、ゴブリンの下半身が凍る。こうなれば隙も糞もない。俺はローブの袖から短剣を取り出し、手首を切りつけた。当たり所がよかったのか、悪かったのか、ゴブリンの手首はそのまま斬り落とされた。

 

「…………くっ…!?」

 

 首に突き立てた短剣が止まる。いや、止まったのは一瞬だった。一瞬、ゴブリンと目を合わせる。それだけで次の瞬間には首筋を斬りつけていた。血が、想像していたより多くの血が溢れ出す。今、俺は確実にこいつを殺した。間違い様もなく、俺が。

 

「イサリ、大丈夫!?」

 

 マナトは俯いていた俺を心配して声をかけたようだが、存外に俺は落ち着いていた。もっと動揺して、取り乱すんじゃないか。そう思っていた。けど、違った。俺はどうやら俺が思っていたよりもいい人間ではなかったらしい。

 

「ああ、大丈夫。それよりハルヒロは?」

「え、ああ、大丈夫」

「おい、こら、イサリ!俺の悪徳(ヴァイス)を!」

 

 ランタの小言を無視していると遅れてやってきたミールが俺の足元をグルグル回り出す。他のみんなもようやく追いついてきた。マナトはいつも通り、目をつぶって六芒を示す仕草をしている。

 

「早く持ち物確認しようぜ」

「そうやなぁ」

 

 マナトが丁寧な手つきで肩にかけてあったゴブリン袋を外した。

 

「…銀貨だ!」

 

 ハルヒロが驚いた声を出した。ランタもユメも同じように驚いている。シホルは目をしばしばさせているし、モグゾーは口をつぐんでいる。結果は銀貨が四枚。それから硝子みたいに透き通った石が一つ。あとは骨。何の生き物かはわからないが、指かどこかの細い骨だ。石の値段にもよるだろうが、うまくいけば5シルバーはいくかもしれない。

 

「まだだ。これを継続させないと。次の獲物を探そう」

「硬いこと言うなよ。せっかく大勝利したんだから。俺様のおかげさまで!」

「こういうときに喜ぶってのは賛成。ランタと同意見なのはすごい癪だけど…」

「なんだと、イサリ!俺がデーモンを呼び出せるようになったら真っ先に呪ってやる!」

「…あんまり怖くない」

「役に立たなそうだしな」

「な、ハルヒロ、シホルまで!」

 

 マナトは一瞬目を細めたがすぐに笑顔をつくった。

 

「そうだね。喜ぶのは悪くないと思うよ」

 

 みんな少し明るくなった気がする。結局のところ、収入がないことが不安だったんだ。俺も含めて。

 会話にキリがつくとマナトに向き直った。

 

「じゃあ、次行くか」

「そうだね」

 

 俺はきっと何かが吹っ切れたんだと思う。その日は合計四匹のゴブリンを仕留めた。その内、俺は三匹のゴブリンを殺した。それでも落ち着いていた俺はやっぱりいい人間ではないらしい。そう思ったが、それは口には出さなかった。

 

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