SAO 少女が見たクリアまでの道   作:自家製イチゴ牛乳

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第10話 クォーターボス 2

あれから2分もしない内にボスのHPは3割程にまで量を減らした。

理由は単純明快。このボスは攻撃力上昇に伴い、防御力が低下していたのだ。

おまけに浮き出た血管が弱点で、他の弱点(首筋、眼球)とは違い攻撃しやすい位置にも多数血管が浮き出ている。これによりタンク隊でも効率よくダメージを稼げていた。

ソードスキルの後の技後硬直を狙った遊撃部隊の一斉攻撃も、弱点の増加によって一回あたりのダメージ量を多く増やしていた。

このまま討伐出来れば文句は無かったのだが、このゲームはそう簡単にクリアさせてくれる程、甘く無かった。

ボスが見たことの無い構えを取る。

完全初見のソードスキルはタンク隊が守るのがセオリーだが、この敵に限ってそんな危ない事は出来ない。

私は念のため隠密を発動し、いつでも弱点に投擲を行えれるように準備をした。

「さぁ、いつ来る?」

瞬きすらせず、目に力を入れる。一瞬だって目を離さないと思いを込めて。

しかし、次の瞬間、私は自分が1少女である事を思い知らされる。現実が嘲笑うかのように、最悪の現実を突きつけた。

突如、視界からボスが消えた。

慌てて顔を動かすと、ボスは直ぐに見つかった。それも、異様な光景で。

タンク隊の後ろに隠れていた軽装のプレイヤーが宙を舞う。先ほどまでそのプレイヤーが居たと思わしき場所の目の前にはボスが、ハンマーを持っていない方の手を前に突き出す形で固まっていた。

無手の攻撃。それも固まっている事からソードスキルと仮定すると……

「体術⁉︎」

それは、このゲーム初めて敵が体術スキルを使用した瞬間だった。

体術とは、初動のモーションが最小限に、一気に拳や蹴りで攻撃を行うスキの少ないスキルの一つだ。その火力は完全ステータス依存になる為、低レベルの人が使用しても大したダメージにならない。でも、武器を落とした時や、破壊された時の緊急攻撃手段として取得する人が多い。

そんな体術だが、使用する相手が悪すぎた。

先ほど説明した通り、このスキルは完全ステータス依存だ。つまり、プレイヤーが使う体術と、フロアボスが使う体術には、圧倒的な威力の差が生まれる。

未だ技後硬直で動けないボス。その長さから使用したソードスキルの強力さが分かる。

視界の隅で何かがポリゴンになった。

手に力が入る。持っていた投擲アイテムも半分に折れてポリゴンになる。

「許さない」

溢れる呟き。瞳に映るのは、今まで見続けた人型の敵の共通弱点である首筋と……

ボスがこちら側を向いた。隠密で隠れている為、目が合う事は決して無い。

私は新しく手に取った現在見つかっている中で最高峰の火力を持つ投擲アイテムを容赦なく叩きつけるように眼球に投げつけた。

ボスの巨体が大きく仰け反る。

隙だらけのボスに、一瞬で接近し、足にある浮き上がった血管を斬りつける。

一回、二回、三回、四回……

私が血管をを斬りつけて6回目の頃、ボスが怯みから復活した。

ボスが私を蹴り飛ばそうと足で攻撃を行う。

「危ない‼︎」

悲鳴のようなキリトの声。

戦闘中に喋れる程余裕が無い私は、キリトに向かって小さく微笑んだ。

ボスの足が私に当たる刹那。私は隠密と軽業を瞬時に使ってその攻撃を回避。

通常ならありえない動きを、当たり前のように使いこなす。

手応えの無い事に違和感を感じているボスに、私に蹴りをしていない方の軸足にある血管を軽くなぞる。

片足を上げた無理な体勢からの怯み。

それは、その巨体を転ばすには十分過ぎた。

無様に転けるボスを私は口を三日月のように湾曲させた笑みで見下ろす。

「……殺す」

その言葉と同時に眼球に短剣を突き刺す。

ボスの悲鳴がフロア全体に鳴り響く。本来ならこうなる筈のない存在として作られたボスに、私はもう一度短剣を突き刺した。

ゴリゴリと削れるHP。

ボスが動きそうになると隠密を発動し、弱点を攻撃する。怯みによって、いつまでも寝そべったままのボス。

そんなボスは立ち上がれたのは、そのHPが1割を切り赤く染まった時だった。

 

 

ボスのHPが赤くなった瞬間、ボスはスーパーアーマー(無敵)状態になり、その太い喉から、フロア全体に響き渡る咆哮をした。

赤かった体には血管が更に浮き上がり、一部流血している場所もあった。

瞳は、瞳孔までもを紅に染め上げ、腕に持っていたハンマーには持っている部分を中心に幾つか罅が入っている。

ボスが私を見下ろす。

その目には、殺してやる、と言わんばかりの殺意。

私が隠密を発動し、その視線を切った瞬間に再び戦いは始まった。

ボスは突然走りながらフロア全体を攻撃し始めた。プレイヤーがいる場所も、そうでない場所も同じように武器を振るう。

それは私に対する対策。このボスはそうする事で見えない私に攻撃を与えようとしている。しかし、それは下策だ。

所詮はAI。見えない敵に対する手段が余りに雑過ぎる。もしかしたら、バーサーカー状態では思考回路が麻痺し、考える事が出来ないだけかもしれないが、どっちにしても下策は下策。

私は被害が出る前に勝負を賭けた。

「こっちに来い‼︎デカ物‼︎」

盛大にあげる声。それにより隠密スキルが解除された。

ボスは私の姿を見るなり、一直線に走ってくる。

余りの迫力に目を閉じたくなるが、それを我慢し、時を見計らう。

あと10m、あと7m、

ボスの口端が吊りあがり、今にも殺してやると言わんばかりの獰猛な笑みが視界に入る。

あと3m……

ボスが乱暴に武器を持ちあげる。

あと2m……

持ち上げた武器が、力任せに振るわれた。

「今‼︎」

ボスとの距離があと1.5m、振るわれた武器が当たる瞬間、私は足を蹴って全身した。姿勢を低くし武器の下を潜り抜け、足の間を通り過ぎる。後方でなる衝撃音を無視して、軽業を使って高くバク転。

そのバク転の着地地点は、武器を振るった時に前屈みなったボスの背中。

後ろを振り向き、未だ前屈みになっているボスのガラ空きの首筋に、私は全力を込めて短剣でその首を刈った。

耳にきこえるのは大きな爆発音。それと同時に視界を埋め尽くす無数のポリゴン。

私は自由落下による浮遊感を感じた。

目の前に表示されるホログラムには『you get a last attack』の文字が。

そしてその下には「憤怒の化身」と書かれたアイテム名が表示されていた。

新たに入手したアイテムについて考察したい気持ちを抑え、空に浮いている体を一度捻り、綺麗に着地を決めた。

そして私は、私を取り巻く周囲の反応が変な事に気が付いた。

それもそうだ。隠密なんてスキルを使ってボスを圧倒するなんて、そんな話は一つしか存在しない。

「あの戦い方って……」

一部の人が大きく驚いている表情をしている。

それ以外の人は、頭に「?」を浮かべて、その人達から事情説明を求めるように話しかける。

キリトが近づいてきた。

「君が、第一層。ボスのラストアタックだけでなく、経験値やコル。その戦闘で得られる全てを奪った犯人だったんだね」

その声に連鎖するように沢山の話し声が上がった。

ザワザワと、勝利を祝うムードではない状況。

私はキリトの言葉を頷く事で肯定を表現した。

すると、遠くから人が青い髪をした人がやってきた。

「……ディアベルさん」

私が第一層で助けた張本人。

この人までもが私を酷く言うのだろうか。そう思うと、体が震えた。

ディアベルさんが静かに口を開いて……

「あの時はありがとう‼︎おかげで助かった‼︎」

綺麗なお辞儀をした。

突然の事に、静まる攻略組の面々。

ディアベルさんは、第一層からずっとボス攻略をしている事で有名だ。

だから、誰もがディアベルが私を責める状況を予測していたのだ。

しかし、現実は全くの逆。寧ろ感謝の言葉を述べている現状に頭がついていかないらしい。

キリトを見る。その表情は、やっぱりねと、キリトの内心を雄弁に語っていた。

 

 

 

暫くして、第一層でした私の行為は悪くない事が証明された。

以外と第一層攻略メンバーが多くいた事が幸いし、キリトやディアベルさん。エギルさんやアスナさんまでもがその状況を説明してくれたので、以外と簡単に受け入れられた。

最後にディアベルさんから「これからもボス戦に参加して欲しい」と言われて、第25層は、第一回攻略時に二人、そして今回の攻略で一人、合わせて3人の犠牲者を出して、今、クリアをした。

 

 





ラストアタックボーナス
憤怒の化身(投擲用アイテム、短剣)
二つの特性を兼ね備えた武器。投擲用アイテムでもありながら短剣でもある特殊武器。
投擲スキルでこの武器を使用すると、投擲の熟練度によってダメージに補正がかかる。
このゲーム最強の投擲アイテムである。
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