そんなことより戦闘シーン書くの難しいです
まさかゲーム開始から1日目で次の街に辿り着いた猛者がいるとは予想外だった。パッと見た感じだと私と同じ中学生だろうか。少し女々しい感じがする黒髪の男は、やはり、予想外だったと言わんばかりの表情をしていた。
「……」
「……」
時間にすれば僅か3秒ばかりの静寂。
その静寂を打ち破ったのは女々しい感じの黒髪だった。
「俺はキリト。こんなに早く次の街に辿り着いたって事は、君もβテスターか?」
"君も"その単語が表しているのは、目の前にいるキリトと名乗る黒髪がβテスターだという事。
つまり、私の知らない知識を使って、有利にこのゲームを進める事が出来る1000人の内の一人。
このSAOがデスゲームになる前だと特に羨ましいとか思持っていなかったし、むしろディアベルさんに武器屋を教えて貰った時など軽く利用しよう程度に思っていた。
しかし、今は事情が違う。ミスをすれば死ぬ可能性が一気に高まるこの状況で、少しでも多くの情報を持っている事は生存率に大きな影響を与える。そう思うと、羨ましいどころか、恨めしいとさえ感じてしまう自分がいた。
「残念ながら私はこのサービスが始まってから参加した初心者(ニュービー)よ」
それは、やはり恨みからだろうか。どこか投げ捨てる様に、適当に言った。
すると、キリトの予想外だった言わんばかりの表情が、今度は驚きで埋め尽くされた表情に変わった。
「初心者(ニュービー)がこんなにも早くホルンカに辿り着いたのか。それは凄い」
純粋な賞賛。普通の人ならまだ始まりの街にいるだろう。βテスターだって、こんなにも早く行動を移そうと思う人も少ない。そんな状況で、女子中学生である私がここに辿り着いた。それも一人で。自分で言うのも何だが、凄くない訳がない。
そんな凄い私にキリトは興味津々な感じで一つの提案をしてきた。
「君、見たところ一人みたいだけど、宿の外にpt(パーティ)の人がいるのかい?もし良けれな俺とptを組まないかい?君に興味が湧いた」
ptのお誘い。きっとニュービーなのに、1日目にしてこの街ホルンカに辿り着いた私の戦闘力を知りたいのだろう。私としても、このキルトと名乗るβテスターとptを組めるのは非常に得だ。命に関わる情報から、役に立つ情報まで様々な事を教えて貰える機会が
「ptは組んでいないが、今日は一睡もしてなくてね。流石に眠い。今日はゆっくりと宿で寝る予定なんだ。明日でも間に合うなら、また誘ってください」
そう言い残して、その場をあとにした。
NPCから貰った鍵を使って部屋を開ける。
ギシギシと音が鳴る床の上には、簡素なベットと丸いテーブル、椅子の三つがところ狭しと置かれていた。決して良いとは言えないその部屋だが、寝る分には十分だ。
私は、簡素なベットの上に横になってそっと目を閉じた。
「おやすみなさい」
目が覚めた。時間は……
「5時……か」
寝ぼけ眼を擦りながらベットから出る。
昨日までとは違い、どこかスッキリとした朝。今いる場所がデスゲームの中とは思えない程、その心は穏やかだった。
今日はやる事が多い。まずは純粋なレベル上げ。流石に2日目となると、思い切ってフィールドに出るプレイヤーもチラホラといるだろう。この街の周辺の狩場を独占出来るのはきっと今日が最後だろう。だから今日は本気で頑張らないといけない。
早速宿を出て、アイテムを買うついでに街を散策。今後使いそうになる施設の場所を覚える。
今あるコル(ゲーム内通貨)はそう多くない。一番安いポーションを2つ買って、フィールドへ。
キリトと名乗る黒髪の女顔がフィールドに出ている可能性を考慮して、街の入り口から見える場所で狩りを始めた。
取り敢えず、近場にいた狼型のモンスターに目標を定める。
近場の石を拾い、投擲スキルのシングルシュートを発動。
「ハッ‼︎」
手に持っていた石は、狼へ一直線に飛んでいきhit。HPを数ドット削り、戦闘は始まった。
狼は此方を向くと同時に走り出し、嚙みつこうと口を開ける。私はその攻撃を大きく回避してやり過ごす。
猪とは違い、明らかに高い攻撃力を秘めたそれは、大きく回避したにも関わらず恐怖を感じさせた。すれ違いざまに見たその狼の瞳には私を殺す殺意に満ちていた。ただのデータであるはずなのに、どこか既視感を感じる瞳。
私をイジメる時の同級生と同じ瞳。
嫌な記憶がフラッシュバックした。
朝学校に行くと、クスクスと私を笑う声が聞こえた。給食は、いつも最後なって「お前が置けよ」「やだよ、あいつきもいし」などと言って中々配られなかった。休み時間なのに、休まらない心。
足が震える。もしあの攻撃を食らったどれだけ死に近くのだろうか。そう考えると、今度は短剣を持った右手まで震え始めた。
私が恐怖を感じている中そんな事は関係ないと言わんばりに、狼は再度嚙みつき攻撃を行ってくる。
恐怖で足が竦みそうになるが、なんとか奮い立たせて回避。無様にも転んでしまったが、その感触が少しだけ冷静さを取り戻させてくれた。そして、覚悟を決めてくれた。
「私は生きる。絶対に、生きて帰るの‼︎だから……」
だから……逃げる訳にはいかない。あの時のように自分を殺させない。
そう言い聞かせ、狼と相対する。
狼は私の気持ちの変化を感じ取ったのか、少し警戒気味に私を見る。
私はただ動かず、相手が攻撃してくるのを待つ。
動かない私に、痺れを切らした狼は駆け出した。先程見た2回の走りよりも早く嚙みつこうとしてくる。
ギリギリまで耐える。動きたい衝動を寸前まで我慢する。
一歩、一歩と駆ける狼が今まさに攻撃をしようと飛び跳ねた瞬間、少し体を斜め前に動かし、手に持っていた短剣を振るった。
元々HPの少ない敵だったのだろうか、その体力は4割5分ほどしか残っていなかった。
投擲のダメージはほぼ皆無だったから単純計算で5割5分も削った事になる。
このまま攻撃をするとあと一撃で倒せる計算だ。
私は狼の方に向いた。狼は小さく唸り声をあげていたが、次こそ当てると言わんばかりの瞳でもう一度駆け出した。
さっきと同じ方法をとって再び切りつける。0になると思ってた体力は数ドット残していた。
適当に落ちていた石を使ってシングルシュートを発動する。狼のHPはピタリと0になって止まった。
脳内にレベルアップのファンファーレが鳴り響く。それと同時に大量の脱力感が私の体を襲った。それに逆らう事は出来ず、思わず地べたに座る。
一粒の涙が頬を伝った。
「怖い」
そんな呟きが口から溢れた。
次同じ敵と遭遇した時私は立ち向かえるだろうか。そんな事を思ってしまう。
昨日はホルンカにくる道中で何度か戦闘を行ったが、こんな事はなかった。それは火事場の馬鹿力というやつだったのだろう。脳が極度に興奮状態になる事で、冷静さを無くし、脳に異常な状態を齎すそれは、本来なら感じるはずの恐怖を感じさせなくしていた。だからきっと戦えた。戦えていた。
しかし、一度眠ってしまう事でそれはリセットされ、平常運転に変わった。昨日まで感じなかった恐怖を、私は感じた理由は恐らくそんなところ。
だから、戦闘中に冷静になれたのは奇跡だった。
奇跡は何度も起こらないから奇跡と言う。ご都合主義で起きるのはきっと今回が最後だろう。
そんな風に思考をしていると、後ろから聞いた事のある声が聞こえた。
「ナイスファイト。君、戦闘センスあるね」
振り向くと、黒髪の女顔が。
「いつから見てたの……」
……キリト……
ドスのきいた低い声で問いかけた。