私のドスのきいた声を聞いたキリトは両手をブンブンと振り、必死に説得を試みようとしていた。
「いや、街に入ろうとしたら君を見つけて、武器を持っている様だったし戦うのかなって思って観察していたら……
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1分後
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……つまり俺は別に君の泣き顔を見ようと思って見たわけじゃないっていうか、むしろ……」
まだ言い訳をしようとしているキリトを一瞥し一言。
「そんな言い訳をする前に何か言うべき事があるんじゃないの」
「ごめんなさい‼︎」
キリトはそのステータスを極限に生かして頭を下げた。
頭を下げた速度が速かったのか、小さな風が私の前髪を小さく靡かせた。
誠意の伝わる何て綺麗な謝罪だろう。
でも私はそれだけじゃ満足しない。私は知っていたから。謝罪の意味なんて本当は何も無いことを。
過去に私を苛めた奴らは先生にバレると謝罪の言葉を言わされていた。「ごめんなさい、2度としません」なんて言葉を申し訳なさそうに言っていた。しかし、それでイジメが終わった事など一度だってなかった。口で言葉を発するだけなら赤ちゃんでも出来る。そんな事で許せる程私は優しくなかった。
だから私はこんな言葉を座右の銘にしたのだろう。
「謝罪はいらない。言葉で示すより、行動で示せ」
キツめの言葉。しかし、それでもキリトはホッとした顔をした。
「分かった。何か知りたい事や、俺が助けれる事があれば何でもいい。好きに使ってくれ」
キリトの言った事を要約すると……
「一回分の首輪か。悪く無い」
ニヒルと悪い笑みを浮かべる。私から嫌な雰囲気を感じ取ったのか、キリトは少し身構えている。
この首輪を、一体どう使ってやろうか。そんな事を考えていると、ふと、思い出した事があった。それが、一回分の首輪に相当する価値がある物と思った私は口を開いた。
「ソードスキルを教えて欲しい」
それを聞いたキリトも口を開いた。愕然と。
「ソードスキルの使い方は規定のモーションを起こすだけ。後はシステムが勝手に体を動かしてくれるから、それに逆らわず、大人しく身を任せる。ソードスキル使用後には必ず技後硬直があるが、その長さは使うソードスキルによって変わる。一般的には強力なソードスキルになればなるほど技後硬直は長くなると言われている。一部例外があるかもだけど」
キリトはそこまで言い終えると、私の持つ短剣に目を向けた。
「短剣の初期ソードスキルはスラッシュ。単純な切りつけ攻撃で、普通の攻撃と大差は無い。少しだけ威力を上げてくれるが、本当に少しだけだ。あまり強くは無いが、その分使い勝手は良い。技後硬直は0に近くて、その後の行動を邪魔させない点から、対人戦闘……つまりプレヤー同士のバトルとかでよく使われるソードスキルだ。確か構えは……」
そう言ってキリトは構えをとる。それはソードスキルを発動させるのに必要な規定のモーションなのだろう。
私はキリトを真似て構えをとった。武器を持っている手を少し上に上げただけの構えは、規定のモーションの範疇に入っていたのか武器が光った。システムが自動で腕を振り下ろした短剣は、今までに見たことの無い程綺麗な線を描いた。
「これであってる?」
念のためにキリトに確認をする。
キリトはまさか一発目で成功させるとは思っていなかったのか、少し驚きの表情を見せたが、すぐに嬉しそうに笑った。
「それであってるよ」
暫くそのままソードスキルの練習をした。時には何も無いところに、時にはモンスターに。
最初は怖かった狼だが、倒していくに連れ段々と恐怖心は薄れていった。
きっと、私はこの世界で最後まで生きていける。そんな予感がした。
日が暮れる頃、私のレベルは7になっていた。キリトに簡単な自己紹介と共に一緒にパーティを組んで貰ったから狩りの効率はとてもよかった。
レベル5の時に増えた新たなスキルスロットに隠密を入れてその日はキリトと共に宿に戻って寝た。
宿の窓から見える茜色の夕日は、とても電子世界とは思えない程美しかった。
次の日。
キリトと朝から待ち合わせをしていた私は、温いベットから名残惜しそうに出る。時計を見るとまだ約束の時間まであと30分もあった。
「昨日レべリングした時に結構なコルを稼いだから適当に消費アイテムでも買うか」
私は部屋を出て買い物に行こうとした時、隣でガチャッと音がした。見てみるとキリトが部屋から出ようと半開きの扉のドアノブを手にしていた。
目があった。
「ストーカー?」
「違う」
キリトは私の無垢な質問に図星を突かれたのか、やけに反応が早かった。
「買い物だよ。昨日結構なコルが入ったからな。適当に消耗品でも買おうかと。とわ言っても、ポーションぐらいしか買うものはないけど」
そう言ってキリトは苦笑いをした。
「奇遇ね。私もポーションを買おうとしてたの。一緒に行く?」
「おう‼︎」
早速私とキリトは宿を出てポーションを売っているお店を目指した。
「それにしても、昨日はAが短剣のソードスキルを使えないと知った時は驚いたよ。投擲のシングルシュートを使っている所を見てたから、とっくに使えるものだと思ってた」
キリトはそう言った。
昨日私がソードスキルを教えて欲しいと言った時に驚いていたのはそれが理由だったのか。
「シングルシュートはSAOがデスゲームになる前に、使っているプレイヤーを偶々見てね。その人の動きを真似したら簡単に使えたわ」
そう簡単に説明をすると、キリトは納得をしたように頷いた。
「何でシングルシュートなんて序盤じゃ誰も使わないソードスキルを使えていたのか合点がいったよ。ずっと不思議に思ってたんだ」
序盤じゃ誰も使わないって……
このゲームの中で唯一の遠距離攻撃なのに、どうして人気が無いんだろう。
私は思った疑問をそのままキリトとに聞いてみる事にした。
「投擲って、そんなに人気無いの?」
その質問にキリトは優しく答えてくれた。
「あんまり火力が出ないからね。敵を倒すゲームであるSAOではあまり優先度が高くないんだ。特に、ゲーム開始時は2つしかスキルスロットがないからね。1つはメイン武器のスキル。そしてもう1つは、ステータス上昇系のスキルや、索敵などが好まれるんだ」
なるほど。私は素直に感心した。
そうこうしていると、ポーションを売っているお店に到着した。
私はそこでポーションを2つ、キリトは3つ買った。
そのままフィールドに出てレべリングをしようとしたら、すでにチラホラとプレイヤーがいた。
「もう此処は独占出来ないな」
キリトが悔しそうに呟いた。
チラリとキリトが私を見る。その目は嫌な過去を思い出している様だった。
キリトにそんな目をして欲しく無い。そう思うと自然と言葉が出た。
「私が強かったらキリトと一緒に次の街に行けるのにね。もし、キリト一人だけで行けるなら早く行きなよ。私に遠慮はしなくていいから」
私は出来る限り暗い雰囲気を出さずに言った。
「いや、そんな事は……もう誰かを置いて行きたく無いんだ」
もう……か。きっとキリトは既にプレイヤーを始まりの街に置いて来ている。だから、それが負い目となっているのだろう。
私は優しくキリトの手を握った。
「君にはこのゲームを攻略出来るだけの力がある。だから、私なんかに構ってなくて、早くこのゲームをクリアに導いて」
そう言うと、キリトは静かに頷いた。
少し話し合いをした結果、キリトは次の街に、私は暫く此処でレべリングする事にした。
キリトが行く次の街は、この第1層の迷宮が近くにある所らしい。
私はすぐに追いつくと約束をして、キリトとさようならをした。
このゲームが開始してからまだ4日目。
まだこのゲームは始まったばかりだった。
次回は一か月後の話になります。