9時頃、予定通り迷宮の入り口にてレべリングをしていた。
次から次へと湧くコボルトを瞬殺して行く。
しかし、貰える経験値の少なさから、第1層でのレベルアップは既に諦めている。
ドロップするアイテムも既に大量に持っている物ばかりで、レアドロップでさえも幾つかストックがあるのが現状だ。
それでも、アイテムは売ればコルになる。経験値だって0じゃないから、ずっとやり続けたらレベルが上がる。
そう言い聞かせて、私はひたすらにコボルトを狩っていく。
暫くそんな事をしていると、近くに大量の索敵反応が現れた。
明らかに量がおかしいそれは、モンスターではなくプレイヤーだろう。
「40人を超えるプレイヤー御一行って事は、ついに来たね」
私はアイテムボックスから鼠色のフード付きマントを取り出し隠密を発動した。
この鼠色のフード付きマントは、レアドロップで手に入れたものだ。レアドロップと言っても、特別レアって訳でもない普通のアイテムだが、このマントには特殊な効果が追加されている。
隠密+10。その名の通り隠密の熟練度に+10をしてくれる。
たかが+10、されど+10。この差は意外とデカイものだったりする。
しかもこのマントは装飾品扱いで、下に防具を着ていても装備できる優れ物なのだ。
そんな便利なマントを羽織り、フードを目深に被り、プレイヤー御一行が通り過ぎるのを待つ。勿論、通り過ぎた後はこっそりと後をつける予定だ。
ガヤガヤと、ここが迷宮区とは思えない程の賑やかさで私の前を通り過ぎるプレイヤー達。その中にキリトがいた事が少し驚きだが、当初の予定通り後をついて行った。
結構歩いた先には大きな扉があった。
近づいていくに連れ皆の緊張が増していくのが分かる。
その緊張に圧倒された者たちの声は段々と小さくなっていき、扉の目の前に着く頃にはとうとう誰も喋らなくなった。
そんな中、先頭の男、ディアベルが青い髪を靡かせながら声を上げた。
「俺から言うことはたった1つだ。勝とうぜ」
その声に周囲にいた人は「オーー‼︎」と歓声を上げる。士気は上々。これなら一人も死なずに勝てる‼︎その場にいたプレイヤーはそう思った。
視点、キリト
ディアベルが指揮を取るボス戦は意外と順調に進んでいった。事前情報があったのが大きかったのか、ボスが使う技に対して的確に動けている。
そんな中、ボスのHPが赤く染まった時、初めて想定外の事が起きた。
事前情報では曲刀タルワールと言われていた武器が、曲刀とは違う、刀に変わっていたのだ。
そんな事は知らないと言わんばかりにディアベルは指揮をとる。いや、指揮と呼べるかどうか分からない、そんな命令を出した。
「俺が前に出る‼︎お前らは下がれ‼︎」
武器の違いに気が付いている人は誰一人いない。
必死に声を上げる。
しかし、俺の声を無視してディアベルはボスの前に出た。もしかしたら聞こえてないだけかもしれないが、ディアベルと目が合った事を考えるとその線は薄いだろう。
何故?と思うより先にボスの刀が光り、ソードスキルが発動した。
俺以外に見たことのないソードスキルが、事前情報になかった新たな技に対応出来ずにディアベルは真正面からその攻撃を食らう。
ディアベルのHPが一気に減った。この調子だとあと一撃も耐えれない。
再びボスの刀が光る。その光は、まるでディアベルに引き寄せられるように動いていく。
誰もがディアベルの死を予感した時、一線の光が通り過ぎた。
その光はボスの弱点、喉に的中し、ノックバックを発生させた。
その光に追随する様に小さな影が通り過ぎる。
鼠色のマントの所為でよく見えないが、明らかに手練れなそのプレイヤーは、フロアボスの弱点を的確に短剣で攻撃する。
ノックバックが切れて、ボスが攻撃しようと武器を構えると、突然そのプレイヤーの姿が消えた。
そして何処からともなく一線の光がボスの喉に的中。
そして、再び姿を現したそのプレイヤーは先ほどのと同じ様にボスのHPを削る。
そんな光景が一体何分続いただろうか。一瞬にも思えたその蹂躙は、すぐに幕を下ろした。
ボスの討伐によって
視点、A
先頭のディアベルが扉を開け中に入る。それに続いて他のプレイヤー達も中に入っていく。
私もその波に混じりボス部屋へ足を踏み入れた。
ボス部屋に入ったからといって、別に戦う訳でもなく、扉のすぐ横にもたれかかって観戦をする事にした。
ボスの動きを念入りに観察する。攻撃範囲から攻撃速度、使うソードスキルの全てを把握した頃、ボスのHPが赤く染まった。
途端、ボスが今までに持っていた武器を捨て、刀と思わしき武器を手にする。
武器が変わったところで、再度観察をしようと目を凝らしていると、先頭にいた青い髪の男ディアベルがボスの前に一人で躍り出た。
それを見たキリトが何やら叫んでいる。きっと、想定外の事が起きたのだろう。
「後ろへ飛べ、ディアベル‼︎」
ボスの武器が光り、ソードスキルが発動した。
そのソードスキルはディアベルさんに直撃。しかも、さらに続け様に再度ソードスキルを使おうとしている。
「流石にそれはまずいって‼︎」
私はすぐさまアニール・ブレードをオブジェクト化し、シュートを放つ。
それと同時に私も駆け出した。
私の放ったそれは寸分違わず弱点である喉に命中。その際に発生したノックバックを利用して今度は手に持った武器で斬りつける。
弱点に命中していく攻撃達は、目に見えてボスのHPを削っていく。
あとは、普段コボルトを狩っている時の様に隠密を発動して、アニール・ブレードが手元にないから、腰に付けた投擲用アイテム(贅沢して買った少し高いやつ)をシングルシュートを手にとって投げる。
雑魚戦と対して変わらない光景。そんな光景は、やはり雑魚戦と対して変わらないほどの時間で幕を下ろした。
バン‼︎と言う音ともに幻想的なホログラムが視界を埋め尽くす。コボルトを倒した時とは比になら無いほどの量に圧倒され、思わず声が漏れた。
「キレイ……」
その光景に呆気を取られていると、レベルアップのファンファーレが鳴った。その回数は一回や二回なんてものじゃなく、合計して5回にも及んだ。
本来レイド(48人)全員に均等に配っても十分な量を貰えるはずの経験を独り占めしているのだ。それぐらいの量になって当然だ。
他にも確認したい事があったが、今はこの状況をなんとかする以外に選択肢は無かった。
目線を上げ、周囲を見渡すと私を憎悪の目で見てくるプレイヤーが大量にいた。
そりゃそうだ、自分たちの獲物を横取りされたんだ。呪殺したくなるのも頷ける。
幸いフードを被っているので顔バレまではしていないだろう。
チラリとキリトとディアベルを見た。
2人とも驚いた顔をしているが、他の者達と違って感謝をしている様な目で私を見ている。
そんな瞳で私を見てくれている人が1人でもいたのなら、私はきっと良い事をしたのだろう。
私は隠密を発動させ、その場を退避した。