アルゴから攻略会議に関するメールを貰ってから2日がたった。
アルゴは私がボス攻略に積極的じゃ無い理由を知っている。それ故に「ボス攻略に参加して欲しい」なんて言うメールを送られてきて驚いた。
いや、きっと現在進行で私は驚いている。
ずっと悪評を恐れていた。SAO最初にして最大の悪評は、私のボスの横取りだ。あれから時間が経った今でさえも時々プレイヤー同士の会話の話題に上がる程に私の悪評は根が深い。
幸い顔も名前も知られていない私は隠れる事でその悪評から発生する被害を避ける事が出来ていた。
しかし、攻略組の一部の人。第一層の攻略に参加した人達は違う。私の戦い方を知っている。独特過ぎる私の戦い方は、一目目にしただけで直ぐに思い出せる程個性的なのだ。
もし仮にボス攻略に参加して顔も名前も知られたら、私は隠れる場所を失い、暴言の嵐に巻き込まれるだろう。
それが何より怖かった。
でも、いつまでもそんな事に怯えていないで、自分自身の悪評と対峙していかないといけないと、私は成長できない。
レベルばっかり上がっても、心は子供のままで。自分のこの精神にこのステータスはあまりに不釣り合いだった。
だから、私はそろそろ一歩を踏み出さないといけない。
自分自身に胸を張れるように。
そんな気持ちが自然と私を大神殿まで運ばせた。
私が大神殿に入ると、ザワザワと小さな騒ぎが起きる。
私を値踏みするような目で誰もが私を見た。
あまり慣れない視線に緊張しながらも声出す。
「私の名前はA。情報屋アルゴからお話を受けて此処に来た」
そうして第25層、攻略会議が始まった。
第25層を実際に体験した攻略組達を中心に会議は進められていった。
前回の反省点などを上げる時に涙を流す者もいたが、皆が歯を食いしばって真剣に会議していった。
そんな調子で進んでいった攻略会議が最大の難点にぶち当たるのは割とすぐだった。
「タンクが少ない」
そう呟いたディアベルさん。
前回の攻略で真っ先に犠牲となったのはタンクの人達だったらしい。
今回の敵は強力な攻撃を繰り出すパワー系のボスで、通常のボスよりタンクを増やしたい欲しいところなのだが、増やすどころか前回の攻略で減ってしまっている。
アルゴの紹介という事で戦力視されているが、私はアタッカーなので、どう頑張ってもタンクの代わりにはなれない。
そんな行き詰まった状況下で、大神殿の扉が開いた。
「遅れてすまない。私は血盟騎士団団長のヒースクリフという者だ。タンクが足りないなら、うちのギルドから出させよう」
突然現れた男にその場にいた人全員が戸惑いの声を上げた。
その声の中で最も多かったのは、戦力になるかどうかの話だ。
私はアルゴの紹介だから問題なかったが、突然現れた名前も聞いた事ないようなギルドの名前も聞いた事ないプレイヤー。
不安になるのも当然だ。
しかし、そんな次の瞬間。大神殿の中にいたプレイヤーの中の1人が声を上げた。
「団長遅いです」
その声に周囲にいた人たちが驚く。きっと攻略組の中でも有数のプレイヤーだったのだろう。そんなプレイヤーが団長と呼んだ人は、間違う事なくヒースクリフと名乗った男であり、その行為自体がヒースクリフが戦力になる事を指していた。
「いや、すまないね、アスナくん。思いのほか準備に手間取ってね」
こうして、攻略会議の流れは大きく変わり始めた。
ヒースクリフを交えた攻略会議はスムーズに進行していった。足りない人員はヒースクリフ率いる血盟騎士団のメンバーが引き受けてくれるからだ。
次の攻略に参加する血盟騎士団のメンバー達のステータスを最低限確認させてもらうと、その全員が十分な程のステータスを持っていた。
会議が終わる頃、私の存在価値は完全に無くなっていた。
会議が終わり、私は宿へ帰った。
明日は朝9時に街の門前集合らしいので、私は今から装備を整えて始める。
「投擲用アイテム(麻痺)よし、投擲用アイテム(貫通)よし、投擲用アイテム(攻撃)よし。投擲用武器(麻痺)よし、投擲用武器(貫通槍)よし、投擲用武器(高火力剣)よし、投擲……」
合計20種を超える投擲用アイテム類を1つずつ確認にしていく。
気がつけば投擲用アイテム類をしか目にしていないようだが、私は紙装甲なのでダメージを食らう事自体が御法度。つまりダメージを食らう事を前提としたポーションの類を持ち歩く必要性がない。
だから、同じ消耗品である投擲用アイテムばかりに目がいってしまう。
最後に自らが身につけている装備類だが、どれも異常なしのオールグリーン。
自らに出来る最大の準備をして、私はベットに転がった。
「明日、犠牲者がいないといいな」
そんな風に柄でもない言葉を呟き瞼を閉じた。
翌日9時、待ち合わせ場所
予定時間ぴったりに私は待ち合わせ場所に着いた。
既に私以外の人は集まっていたらしく、私の登場を確認すると「もっと早く来いよ」「おせーよ」「なんでこんな奴が攻略組なんだよ」などと言いたい放題の模様。
私は同じ遊撃部隊のptメンバーでもあるキリトを探し、その方へと足を進めた。
近づいて行く足音に気がついたのか、キリトが私の方を見た。
「おはよう。遅かったじゃないか」
そう言って笑うキリト。
私はそれに対して、少し不貞腐れ気味に言葉を返した。
「キリトも皆と同じ事を言うんだね」
「俺が皆と同じ事って何?」
私の返した言葉の意味が分からなかったのか、首を傾げるキリト。
「遅いって、時間通りじゃないか。私は1秒だって遅れてないぞ」
そこで初めて意味が分かったのか、キリトは苦笑いを浮かべて説明をしてくれた。
「此処にいる人はだいたい10分前には集合をしている。遅くても5分前には間に合うようにしているんだ。だから、時間通りに来たんじゃ遅く感じてしまう。それに、相対性理論って言うのかな。極度に緊張をしている中、誰も口を開かずただ5分待つのは想像以上に長く感じてしまうんだ」
そう説明されると成る程と思える自分がいたが、それでも私の不満は解消されない。
「でも、だからと言って私悪い事何にもしてないのに……」
そう言った直後、この攻略の指揮をとるディアベルが大きな声を上げた。
「約束の時間になったから、これからボスの部屋まで行こうと思う。全員揃っているのを先程確認したが、もう一度だけ確認してみてくれ。他にもアイテムの忘れ物があったら直ぐに取りに行って欲しい。まだ時間に余裕はあるから、行くなら今のうちだぞ」
そう言い終えるとディアベルは私達全員を見渡して、問題ないと判断したディアベルは「それでは移動を始める」と言って前進をし始めた。
私達は、ディアベルの後を静かに追った。
一歩、また一歩と足を進める度に、緊張が増していく。
これから倒しに行くのは、初の犠牲者を出した強敵。
果たして、私達に倒せるのだろうか。そんな不安を感じていていながらも今更引き返せない現状に、私はただ焦りを感じるばかりだった。