(ン?体が痛ェ。)
目が覚めて頭を掻こうとしたが手が動かない。そして腕が痛い。久しぶりの感覚だった。
(台所!?どォして料理をしている⁉)
キャベツを1枚フライパンで焼いていた。そのフライパンを掴んでいるのは当然自分の手なのだが、自分の意思とは無関係に動く。昨日はベッドで寝たはずだ。少なくとも台所で寝たりはしない。
(精神系か!?いや操られてンのは体か。)
反射とは物体の運動の向きを真逆にする超能力の使い方の1つだ。これがあればダンプカーだろうと隕石だろうと跳ね返すことができる。たとえ精神を操る能力でも反射で阻止されるはずだ。
(......反射が機能してねェ!)
これはこの少年にとって死活問題だった。
(何が起きてる⁉)
「さっきからうるせェなァ。」
口が開く。
(誰だ!?)
「まァまァ、落ち着いて今やってる実験を思い出せェ。」
一週間前。
「二重人格だァ?」
「二重人格の形成によって多重能力を得られる可能性があるそうだ。今日からその研究を行う。」
白い髪、赤い目。さらに、細い手足。まさにもやしのような少年と白衣を着た研究者と話している。
「おい、多重能力は脳への負担がでかすぎるンじゃなかったかァ?」
本来1人に1つの能力を無理やり2つ持たせてしまえば、脳がパンクする、というのが研究者たちの常識だったはずだ。
「そのための二重人格だ。」
「どうして二重人格なら問題ないンだ?」
「知らん。ツリーダイアグラムにそういう予想が出たらしい。」
少年は呆れてため息を吐く。この研究者は上の指示にしたがっているだけなのだろう。携帯型ゲーム機をポケットから取り出す。あと少しでジンオウガを仕留められそうなのだ。
「そして、多重能力者になれば絶対能力者への近道となる、らしい。」
この言葉に興味を持ったらしい。少年はゲーム機をポケットにしまった。
「......詳しく教えろ。」
(俺の二重人格かァ?)
「そォだ。おめでとォ。実験成功だ。」
(そンで能力は?)
「問題はそこだ。ねェ。」
(は?)
「色々試したが、俺に能力はねェよ。無能力者だなァ。」
(ふざけんな!意味ねェじゃねェか!)
「落ち着けェ。確率は六割無能力者だろォが。安心しろォ、絶対能力者にはほど遠いが、メリットはある。」
(なンだ?)
「生活習慣は良くなるぞォ。俺はお前と違って健康志向だからなァ。ちなみに昨日の夜筋トレした。」
(だから痛ェのか。迷惑なだけじゃねェか。もういい、消えろ。)
「いや、無理。」
(あ?)
「人格がそう簡単に消えるわけねェだろォが。これから死ぬまでよろしくな相棒。」
こうしてもう一人の一方通行は無事誕生した。
「あと、人格の交代はできるがァ、主導権を握ってンのは俺だ。」
()
一方通行たちはスーパーへ向かっていた。
(飯なんざコンビニだろうがレストランだろうが変わらねェだろ。)
(どンだけ堕落してンだ。忙しいときは仕方ねェよそりゃァ。お前暇だろォ?自分で作れ。)
(チッ、面倒くせェ。)
家を出るときも駄々をこねていた一方通行だが、裸で躍り念仏すンぞ、と脅されると舌打ちしながらも従った。
「やめてください!」
声のした方を見ると男二人に中学生ぐらいの女の子がナンパされている。
「あの、友達が、待ってるんです。」
(断り方の王道だな。)
「大丈夫。友達ならわかってくれるって!」
「それなら友達も、連れて遊ぶ?俺たちは構わねえよ。」
このまま放っておくといつまでも粘着し続けるだろう。
(相棒、出番ですぜェ。)
(何で俺が。)
(だと思った。じゃァ、俺のターンだ。)
(能力もねェのにか?)
(平和的解決って手段があンだろォが。)
とりあえず体を交代したものの、能力はない。体力もない。二人が一人でもまともな喧嘩では勝てないだろう。
「やァ、ハニー。待ったかい?」
知り合いの振りをして柔らかく助ける作戦を敢行する。しかし人格が別でも知識は同じだ。一方通行の塵のような男女知識ではこれが精一杯だった。
「え、え!?」
(なンか女の子に引かれてる⁉)
女の子からすれば、背中を反らして額に手を当てている知らない人に声をかけられたのだ。さぞ、驚いたことだろう。
「誰だテメエ?」
「佐藤です。」
(誰だァ!)
「この娘は今から俺らと遊ぶんだよ。」
男の一人がそう言うと、佐藤は手をズボンのポケットに突っ込み、笑みを浮かべる。
「そうかァ。フハハハハハ。後悔するが良い。変身、正義の味方、一方通行!」
(後は頼む。)
「平和的解決はどォしたァ......。せめて、自分でやれよ。」
(無理。お前が鍛えてねェのが悪ィ。)
「俺は、中略、ぐわっ!」
一人の男は水流操作系らしく水の球をぶつけるが一方通行はそれを反射する。男はその水の球を顔面にくらい、後ろに倒れる。気を失っている。
「何をしやがった!?」
「さァて問題です。この俺は何をしたでしょォかァ?虫ケラどもには一生わかンねェかァ。」
一方通行が先程のふざけた笑みとは異なる凶悪な笑顔を見せると男はなにかに気がついて震える。
「能力をそのまま跳ね返すって、そんな、まさか、第」
「風紀委員ですの!」
中学生くらいの女の子が二人、いきなり空中に現れる。
「おとなしく捕まりなさい!」
「捕まりますから助けてください!」
「へ?何があったのよ?」
男が風紀委員の後ろに隠れる。髪の短い方の女子中学生が不思議そうに一方通行と男を交互に見る。
「風紀委員ですの!」
一方通行にも手錠をかける。
「あ?」
どうやら一方通行も気絶している男の仲間だと思われているらしい。
「あの、違うんです白井さん。その人はたぶんわたしを助けようとしてくれたんだと思います。ですよね?」
(安心しろ相棒。ちゃンと証言してくれるみてェだぞ。)
(かなりギリギリみてェだがな。)
一方通行は面倒くさそうにしながらも、誤解を解こうとする。
「まァそうだ。」
「そうでしたの。申し訳ありません。」
「構わねェよ。」
一方通行はすぐに立ち去ろうとするが、白井が呼び止める。
「正当防衛かもしれませんが、この男性は気絶していますし、あなたには一度風紀委員の支部に来ていただきますの。」
(手加減しろよォ......。)
(テメェが原因だろォが!)
白井はアンチスキルに電話を掛けている。事件の報告をしているようだ。
(ナンパで補導されるのは不名誉だなァ。馬鹿なやつらだが少しかわいそうになってきた。っていうか、この娘たちかわいいなァ。)
(こいつらより馬鹿なやつがなに言ってやがる。)
(お互いが考えていることは全部筒抜けだからなァ?)
「この方たちをアンチスキルに引き渡しますので、あら?」
「どうしたの黒子?」
「あの男性が、逃げましたの!」
一方通行は隙をついて逃げ出した!
一方通行をもっと凶悪にしたいけど、上手くできない。