「それでは、他の相手を探しますので。」
「くそっ!」
切斑はくるりと坂井に背を向け、立ち去ろうとしていた。自信に溢れた表情で次の標的を探す。強度の差は強さの差だ。どんな相手でも自分が負けるはずはない、そう考えている。
だから、切斑は負ける。
突然、バルーンの割れる音がする。切斑の頭上で、だ。
「えっ!」
「残念だったな。」
「ナイス!川田!」
坂井とは別の相手選手が植え込みの陰から出てくる。切斑はふーっとため息をつきながら川田に尋ねる。
「植え込みに隠れながらどうやってバルーンを?」
「念動力だよ。」
「まさか、念動力使いが二人もいるなんて。」
「いや、俺はちがうぞ」
坂井が先程とは違って勝ち誇った顔をしている。
「俺は無能力者。最初に見せた玉もこいつの能力で動かしてたんだ。」
「作戦だったわけですね。」
切斑が悔しそうに顔を歪ませる。
「こいつを生け贄に念動力使いを倒せれば大金星だろ。」
「見たか、俺の迫真の演技を!成功したのは俺のお陰だな!」
「はいはい。」
坂井と川田は拳を合わせる。
だいたいそんな感じで相手校は能力が格上の常盤台の生徒たちを翻弄し、競技を優勢に進めていた。
「残ったのはもしかしてミサカだけですか、とミサカは相手校の作戦に驚きます。」
相手校の生徒15人に囲まれながらミサカ10032号は呟いた。
学習装置で孫子だとかの兵法を知識として持っているミサカ10032号は慎重に行動していたため最後まで生き残れた。しかし、この競技に役立つ能力を持たない10032号には厳しい闘いだ。今も相手に追われながら校庭の中心に誘導されてしまった。誘導されていることには気がついたがその方向へしか逃げられなかったのだ。
「慌てるな!冷静に距離を縮めるんだ。」
司令塔らしき生徒の指示で包囲が小さくなっていく。
「ならば突貫あるのみです、とミサカは賭けに出ます。」
10032号は包囲を突破しようと突き進む。相手の生徒たちはそれを止めようとするが軍用に作られたミサカ10032号のバルーンに玉を当てるのは容易ではない。
「なんだこいつ!ドッジボールのプロか!?当たらない!」
「.....おい、サッカー部、投げられた玉をオーバーヘッドで蹴り返せるか?」
「よし、どさくさに紛れて抱きつく。」
「おい、味方に当ててどうすんだ!」
「.....せめ、て、バルーンに、当て、ろ、よ。」
「ボールを持っているとは言え、俺のジャブをことごとく避けやがった!」
観客席からの声援が大きくなる。ゲコ太のお面を着けた観客にいたっては大興奮している。
「いけー!おもいっきり楽しみなさい!」
一方通行たちも競技から目を離せない。
「」
《ははっ、もっと鍛えねェと勝てなさそうだなァ。》
「逆転だ!勝てるぞ!」
「うぅ血がたぎるってミサカはミサカは参加したい気持ちが抑えられないことをアピールしてみる!」
「だめよ、しっかり応援してなさい。」
(避けることは難しくありませんが、これでは反撃できません、とミサカはこっそり練習していた技を披露します。)
10032号は体を左右に振る。
「まさか!?」
「これは!?」
「デンプシーロール!?」
10032号の軌跡は八の字を描く。常に動き続けるため、相手は玉を当てにくい。それだけではない。
「うわっ!」
「速い。生半可な練習で身に付く動きではない。」
「はぁっ!?」
「かはっ!」
10032号の反撃が始まる。体を振るリズムにあわせて玉を投げ、握って殴っているのだ。攻撃と防御の両立、それがデンプシーロールだ。
(この調子で続ければ勝てるとミサカは確信します。)
「このままじゃ、逆転されるぞ!」
「くそっ、ここまで来たのに......。」
「やっぱり能力が強くなきゃ勝てないのかよ。」
「いやいや、デンプシーロールできる能力ってなんだよ?」
しかし、その反撃は唐突に終わる。