数日後、俺はアドバイザーと言う事で自衛隊での顔合わせをし、車に揺られて門の向こう、通称特地に来ていた。
で、今俺は何をしているかと言うと・・・・・・。
書類仕事をしていた。
と、言うのも俺がリードランゲージを使える事を伝え、敵が持っている文書を片っ端から翻訳にかけ、時には臨時の留置所で身振り手振りで話を聞いた。そのせいもあって、俺の語学力はガンダールヴのルーンによりすごい事になっている。今では通訳として時折呼び出されるくらいだ。
一方でアドバイザーの仕事も忘れてはいない。使い道の無いドラゴンやワイヴァーンの加工法、竜肉はまだ審査が通っていないから食えないとして、どうせ使い道が無いからと言って鱗と爪、牙を箱単位で貰っている。毎日夜なべして竜牙兵として使えるよう加工する日々だよ。
後は連日この門に軍隊が仕掛けてくるので、一応武装して高みの見物だ。武装と言っても持たされているのは護身用のハンドガンくらい。後から申請したらナイフももらえたんだが、口径9mmだとどうしても不安が残る。まあ、ガンダールヴの正確な射撃によって的確に急所に当てることが出来るんだけどね。
積み重なる死体をバリケードにし、捕虜、と言うか法律的に逮捕者から尋問して情報を集めている。そうして単語帳などを作って自衛隊に配布しているわけだ。おかげで大分早期から意思の疎通が可能になったらしい。
ああ、HQがプレハブから鉄筋コンクリートになる時にこないだ会った伊丹さん達が来たよ。なんでも深部情報偵察隊とか言っていたけど、ようやく敵兵の突撃が落ち着いてきて、近隣の村とかを探索しようと言う話が持ち上がった。
で、アドバイザーとして村との交渉役に抜擢された。うん、俺が一番現地語上手いからね。万が一は伊丹さんの第三部隊が守ってくれるらしいんだが、まあ個の強さを重視している俺よりも、群としての強さなら多分あっちの方が上だろう。俺が魔法や魔術の準備をしている間に銃火器が撃ったほうが早いって話だし。大物相手だったら俺も役に立つんだけどね。
「空が蒼いねぇ。流石異世界」
「こんな光景北海道にもありましたよ。異世界って言うからもっとこう、ファンタジーな妖精とか想像してたのに、これじゃヨーロッパの片田舎と変わりませんよ」
伊丹さんののんきな言葉に倉田さんが答える。
「異世界って言ってもこんなものですよ。居ないとは断言しませんが、人族が勢力を広めているところなんて獣人は蛮族扱いで狩られる対象になっちゃうケースもあるとかなんとか」
「はいはい、そういうのは実際会ってからでいいでしょ。それより平賀君、手・合・わ・せ! そろそろお願いしたいんだけどなぁ」
「あー最初にそんなこと言ってましたね。では、次の村に着いたとき15分1本勝負でどうです?」
「さっすがぁ! 話が分かるぅ!」
この一見バトルジャンキーっぽい発言をしている人は栗林さん。今の俺は鉄パイプも素手で曲げられるくらいに筋肉が発達しているからね。どうにも脳筋な人で、拳で語り合いたいらしい。
「こら栗、平賀君は一応事務職なんだぞ。それにお前はそうやって気になった男をボコボコにする癖をなんとかしようよ」
「まあいいんですけどね。俺婚約者いますよ?」
『えっ!?』
うん、まあまだ高校生だしね。
「一度こっちとは別の異世界に行った時にあっちが貴族制で、一応恋愛要素もあったんですが、政治的な配慮ってこともあって五号さんまで婚約者が確定してます」
「リアルハーレムとか・・・・・・」
「羨ましいっす」
「平賀君・・・・・・」
「なんでしょう?」
「さっき15分1本勝負って話だったけど、無制限1本勝負で」
「いや、村の交渉とかあるんですが・・・・・・」
「んなもん単語帳配ってあるんだから他に任せりゃいいのよ! だから無制限!」
「まあいいんですけど、そうなると加減は出来ませんよ?」
「うん、一瞬羨ましいと思ったけど今の内に言っとくわ。ご愁傷さん」
一体栗林さんに対する何が逆鱗に触れたんだろうか? 男を作りたいんだったらボコボコにしなきゃいいのに。理不尽だ。
そんな感じに談笑しながら高機動車を進めていると、なにやら地平線の向こうから黒煙が立ち上っているのが見えた。
「なんか燃えてます」
「ん、何々?」
下車し、みんなで様子を見て見る。
「なんだありゃ?」
「なんかありました?」
「一本首のキングギドラが飛んでる。火をつけたのは多分あいつだ。火吹いてるし」
おやっさんと呼ばれている桑原さんが双眼鏡を手にそう言った。
「おやっさん、キングギドラじゃなくてエンシェントドラゴンって言うんですよ」
ドラゴン、暴れまわる理由・・・・・・。
「何か竜に対する敵対生物が居る可能性が高いですね」
「森ん中に集落があるとか聞いてたっけ?」
「それです。多分エルフとか居るんじゃないんですか?」
「ああっ! 貴重なエルフが!」
「どうしますか? 二尉」
「今の装備じゃやりあうには心許ないし、あれが居なくなったら生存者を探しに行こう」
あれで生存者が居るとも思えんがね。まあいいか。
「これで生存者が居たら奇跡っすよ」
集落はあるにはあったが、すでに集落跡と化していた。
「まだ地面が温かい・・・・・・」
辺りには炭と化した物体がいくつも転がっている。
「二尉・・・・・・これって」
「言うなよ」
うん、仏さんだね。エルフだけど。
「うへ、吐きそう・・・・・・」
分担して生存者を探しているが、規模の割に仏さんの数が少ない。食われたにしてもだ。
「二尉」
黒川さんが伊丹さんに報告をしている。
「建物は三十二軒。確認できた遺体は二十七。おそらく大部分が建物に潰されたと思われます」
「建物一件で大体家族が三人だとして、それでも百人規模だろ? それが全滅?」
エルフは生殖能力が低いって定評があるからね。
「酷いものです」
「ドラゴンに人を襲う習性があるって報告上げとかないとな」
「「門」で遭遇した比較的小型の竜でも12.7mm撤甲弾でようやく貫通だったと言う話です」
「ちょっとした装甲車並みか」
今の話を踏まえると、ハルケギニアの竜より硬いことになるな。やはり竜の鱗に魔術的強化を行って武具を作るのは有効か。
「ドラゴンの巣と出没範囲も調べないと」
そう言って伊丹さんは井戸に桶を投げ入れた。
数瞬後、コーンと言う甲高い音。
覗いてみたらエルフの女の子が一人、多分今の桶が直撃したんだろうな。気絶して井戸に浮かんでいた。
「おい、大丈夫か!」
「氷みたいに冷たい。栗林、ポンチョとなにか温めるものを持って来い! 仁科、
これは危ない兆候だ。今はせめて焚き火でも焚くか。
後は看護師の資格を持っているらしい黒川さんに任せて、生存者の捜索を再開したがあいにくこの子しか発見できなかった。
焚き火を焚いたらさっさと離れた俺と違って、見物していた野郎どもが怒鳴られている。エルフが珍しいのは分かるんだけどさぁ。
しばらく容態を確認していた黒川さんが伊丹さんになにやら報告している。まああの表情から言って大事無いだろう。うん、良かった。と、思ったらなにやら伊丹さんが大汗をかいている。なにやら不味いことでもあったんだろうか?
エルフ娘を収容したら、コダ村に戻るらしい。現状この子を保護するよりかは現地人の方が勝手が分かるだろうし、それが叶うなら預けなきゃならん。
「なんと、全滅してしまったのか!」
「ええ、軍が保有しているものよりも大型の竜が森で暴れまわっていて、生存者は一名のみでした」
お仕事の時間だ。村の村長と思わしき人に現状を説明している。事態が事態なので栗林さんは伊丹さんがなだめている。
「こんな感じの奴でした」
「これは古代龍! 炎龍じゃよ!」
伊丹さんに貸して貰ったメモ帳のイラストを見せると、村長らしい人は目を剥いて言った。
「伊丹さん、これかなりヤバイ奴らしいです」
「マジで? どのくらい?」
「なんでも古代龍だとか、種別は炎龍。まあオーソドックスな奴の強い版って所です」
「了解」
「知らせてくれて感謝する。儂らは荷物をまとめなきゃならなくなったのでな」
そう言って村長らしい人は周りの人に知らせに行った。
「ふっふっふっふっ」
振り返るとそこには仁王立ちした栗林さんが。身長高くないからこっちが見下ろすんだけど。
「さあ平賀君、お話も済んだみたいだし勝負よ!」
「ごめん平賀君、この阿呆は止まらなかったよ」
後ろで桑原曹長もやれやれと首を振っている。まあどうせ村人が荷物まとめている間暇なんだけどね。
「それじゃ栗林さん、武器なし一本勝負で」
「ボコボコにしちゃったらごめんね」
語尾にはぁととか付いていそうな口調だが、不穏な空気が隠せていない。10代でリアルハーレムを作った俺への嫉妬とか、とりあえず気になった男と勝負するらしい栗林さんのこの世への理不尽さとか、そんなのがない交ぜになった雰囲気だ。
「では伊丹さん、合図よろしくお願いします」
「んー、分かった。はい、見合ってー。始め!」
開始の瞬間、栗林さんが牽制のジャブを放ってきた。この人は軍人だし、掴みも硬いブーツを用いた蹴りも想定しておかないとかな。
まずはパリィングで流す。この際回し受けの要素を加えることで、体勢を崩させる意図もある。
「やるわね!」
口ではそんなことを言っているが、多分そこまでは思っていないだろう。
ジャブ、ジャブ、ロー。パリィ、パリィ、靴底で受ける。現代の軍式格闘では何が出てくるか分からない。相手が焦れて大振りになるのを待つ。
ジャブ、フック、身体をかがめた。アッパーか?
アッパーでした。ここはミドルで腹を狙うのが定石なんだけど、足を掴まれたら困る。相手の右側、こちらから見て左側から鋭いローを放つ。
死角になっているのが幸いして、栗林さんにローがヒット。まずは足を殺す。片足だけでいい。後出来ればモモも狙えれば尚良い。とにかく足が上がらなくなるまで執拗に狙う。
この考えが察知されたのか、ダメージが抜け切る前に栗林さんがタックルの姿勢になった。焦れたな。
一気にマウントを取って形勢を逆転したかったのだろう。だが見えてる。栗林さんの首の根元を片手で押さえるようにして、顎に膝蹴りを放つ。
クリーンヒット。脳が揺れたかも。だが栗林さんは止まらない。多分平衡感覚がめちゃくちゃだろう。それでもとにかく目の前の相手だけ倒すと言う意気込みが伝わってくる。俺は反対側の空いている左手で栗林さんの右肩を掴み、膝蹴りで片足が上がった姿勢のままくるりと半身を回転させ、上下になろうとしている栗林さんと俺の身体を無理やり入れ替える。
上半身が泳いでいる栗林さんを地面に押し倒し、即座にマウント、肩を押さえて殴る姿勢を取る。
「そこまで! 勝負あり!」
伊丹さんの制止の声。こんなもんかな。
「ありがとうございました。立てますか?」
「ん~、ちょっと無理」
「はい、では失礼しますよ」
「何?」
俺は栗林さんの頭の上に手を置いて、詠唱する。
「イル・ウォータル・デル」
淡い光が栗林さんの頭を包む。
「はい、OKです。気分はどうですか?」
「なんかすっきりしているわ。何? それが魔法? すごいわね」
ふむ、軽く脳が揺れただけか。秘薬を使わないでも大丈夫だろう。
「一応脳出血でも治せますから、万が一何かあったら言ってください」
「うん、ありがと。ってあんたあたしが焦れるのを待ってたでしょ?」
「はい、あんまり派手なのは使いたくなかったんで」
「悔しい・・・・・・悔しいけど合格」
「はい?」
何が合格なんだろう。
「合格、合格なんだけど・・・・・・もう居るのよねぇ。はぁ、世の中ままならないわ」
そっとしておこう。
「はい、そこまで。目を覚まされましたよ」
黒川さんが高機動車から顔を出して、こちらに注意を促してくる。
「うん、黒川ちゃんありがとう。平賀君、一緒に来てくれ。通訳頼む」
「はい」
エルフだからエルフ語とかじゃないよな? もしくは文字を持たない文化とかだったら詰むぞ。まあなるようになれだ。
とりあえず栗林さんの気が済んだと思うので、エルフの娘の話を聞くことにした。
前より長くなったけどまだ3000くらい。ペースに慣れてくるともうちょっといけるとおもうんだけどな。
追記
物足りなかったんで加筆しました。1800くらい。次からは一度休憩挟んでから続き書こう。